12 闇に包まれた町
楓たちが町を見下ろす場所まで戻ってきたのは、真夜中になろうかという頃だった。
遠くから見ると、町は静かで、何事もなかったかのように夜の闇に包まれていた。所々明るいのは、警備の篝火のように見える。炎に包まれ燃えているのでもなければ、完全に闇に包まれているのでもない。夜の静寂を破る物音や悲鳴も聞こえない。
鬼は、橘一族の巫女に倒されたのではないか。
楓はわずかな期待を胸に、祈るような気持ちで町へ急いだ。
しかし、壊れた西門を見て、楓は血の気が引いた。さらに西門をくぐると、町の様子がおかしいことに気づいた。
大通りに面した屋敷は、多かれ少なかれ破壊されていた。警備の篝火に見えたのは、燃え落ちた屋敷でくすぶっている残り火だった。そんな状況だというのに、火消しを行う者も、警備に当たる者もいない。
楓はこみ上げてくる不安を必死でこらえ、橘一族の屋敷を目指した。
途中、誰にも会うこともなく、楓は姉の屋敷に着いた。楓は屋敷に着くなり千早から飛び降りた。千早はそこで力尽き倒れたが、楓は振り返ることなく姉の屋敷に飛び込んだ。
「お姉様!」
姉の屋敷はもぬけの殻だった。楓は屋敷中を走り回って姉を探したが、姉の姿はどこにも見あたらなかった。
楓は姉の屋敷を飛び出し、領主の館に向かった。開かれたままの館の入口をくぐると、楓は一直線に領主の部屋へ向かった。
「おばあ様! お姉様!」
楓は叫ぶように家族を呼びながら、領主の部屋へ飛び込んだ。
そして、凍りついた。
部屋の一番奥で領主が、そして部屋の中央で姉と日野が倒れていた。
領主は血まみれで、姉と日野は裸だった。
一瞬、それがどういう光景なのかわからなかった楓だが、足元からじわじわと恐怖がせり上がり、ついに絶叫となって飛び出した。
「い……いやぁーっ!」
楓の悲鳴を聞いて、ポポと水蓮が飛び込んできた。二人は、半乱狂になって椿の体に取りすがっている楓を見て、すべての事情を悟った。
「お姉様! お姉様!」
「楓、落ち着いて!」
「離して! お姉様、起きて! お願い、起きて!」
「ちくしょう……間に合わなかった……」
ポポがつぶいた言葉を、楓は聞き逃さなかった。顔を上げて鋭い視線をポポに送ると、全身から怒気を立ち上らせて叫んだ。
「なんでよ……なんで間に合わなかったのよ! 間に合うって言ったじゃない! 一晩ぐらい休んでも大丈夫だって、ポポが言ったじゃない!」
「いや……その……」
「私、言ったじゃない! すぐに行こうって言ったじゃない! なのにポポが……」
楓は、ポポにつかみかからんばかりの勢いで立ち上がった。
「ポポのせいよ! 自分の村が鬼に滅ぼされたからって、私の町まで滅ぼさなくてもいいじゃない!」
パンッ!
楓の頬が高らかに鳴った。水蓮が、楓に平手打ちをくらわせたのだ。
ジンとした痛みに、楓の意識は一瞬途切れた。
「落ち着きなさい」
楓は痛む頬に手を当てた。
その目に、みるみる涙がたまっていく。水蓮は、そんな楓を抱き寄せると、しっかりと抱きしめた。
「ごめんね。大丈夫、て言ったのにね。本当にごめんね」
「やだ……」
楓の目から大粒の涙があふれた。あふれた涙は頬を伝い、水蓮の胸元に染み込んだ。
「こんなの……やだあ……」




