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ステラと顎髭

ーーーーーー





「……」


 ステラは何も言わず、群れの様子を見ていた。

 トカゲがフィウーメへと旅立ってからまだ一ヶ月程しか過ぎてはいないが、既に群れは落ち着きを取り戻しつつある。


 ゴブリン達もオーク達も互いに思う所はある筈だが、それを表に出す事は決して無い。


 黒南風が倒れてから今迄と言う短い時間で、どれほど巧みにトカゲが群れを掌握したのか、これだけでも十分に見てとれた。


 だが、そうでない者達も居る。


「……」


 ステラの視界に、見知った顔が入る。


 ステラの丁度対角線上に立ち、ステラと同じく群れの様子を伺う一匹の将軍級のオーク。

 黒南風とステラがノートの村へ進軍する際に本営地の守備を任された、()()()()()ステラ以上に黒南風からの信頼厚い配下。


 トカゲが“撒き餌”と呼んだ顎髭のオークである。


 ステラは彼に近付き話しかけた。


「……爺。息災か?」


「……姫様。はい。()()()です」


「……そうか」


 それきり二人は沈黙してしまう。


 元々黒南風の群れであった時、二人の仲は極めて良好だった。


 父親の配下であった筈の黒南風を王と認めたステラを、そして自らの下から離れた黒南風を王と認めた顎髭のオークを。

 彼等は互いに尊敬し合い、そして認めていたのだ。


 ──しかし、()()()


 トカゲによる支配ドミネイトを受け、彼が支配ドミネイトを持っている事を口外出来ないステラは、戦士達を守る為に必死で彼等を嗜めて来た。

 戦士達の反抗の意思を可能な限り抑える為に、トカゲのやり方への理解を求め続けていた。

 そうしなければ、彼等は間違いなく殺されてしまうからだ。


 しかしオーク達がトカゲから支配ドミネイトを受けている事を知らない戦士達から言わせれば、それはトカゲの軍門に降ったに等しい行いだった。


 ステラ自身、人望には恵まれている為に表立った非難は受けていないが、それでも戦士達との距離が開いているのを感じている。


 “或いは、それこそがトカゲの狙いであったのかも知れない”。


 ステラはそんな風に考える様になっていた。


「……爺はこの群れをどう思う?」


 ステラにそう言われた顎髭のオークは、再び群れを見渡すと、そのまま口を開いた。


「……良い群れだと思います。皆が皆、役割を与えられ、そしてそれに応じた報酬を得られる。不当に扱われる事は無く、笑顔が増えた。……身分と言う垣根を無くしたのは正解だったのでしょう。()()()()()()()()


「……そうだな」


 ステラはそう言って泣きそうになってしまう。


 長い付き合いだからこそ分かる。


 ──顎髭のオークは死ぬつもりなのだ。


 トカゲを嫌い、その統治を一切受け入れずに頭から否定しているならまだ救いがあった。

 しかし彼は黒南風が死に、群れをトカゲが支配する様になってからの変化を正しく理解出来ていた。


 その上で言っているのだ。


 “自分には受け入れられない”と──


 そして、彼我の戦力差が分からない様な愚者でも無い。


 そう、彼は死を受け入れていたのだ。


 ステラが何も言えずにいると、顎髭のオークはステラに頭を下げた。


「……姫様。私には勤めがある故、これにて失礼させて頂きます」


 そう言ってその場を後にしようとする彼を、ステラは引き止めた。


「ま、待って!」


「……なんでしょうか?」


「……ッッ!」


 言いたい事は山程ある。

 しかしステラはそれを口にする事が出来ない。ステラに刻まれた支配ドミネイトがそれを許さず、そしてステラも自分の気持ちを上手く言葉にする事が出来無かったのだ。


「……何も無い様なので、今度こそこれで失礼させて頂きます。では」


 再びその場を離れようとする顎髭のオークだったが、ステラは漸く口を開く事が出来た。


「……一つだけ教えて。貴方は“戦士”なの?」


「……無論です。私は誇り高き“黒南風”の戦士です」


 それだけ言うと、顎髭のオークは今度こそその場を離れた。




ーーーーーー


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