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ジャスティスを怒らせると怖い。

ーーーーーー




 私は目の前の蜥蜴人リザードマンを見る。


 身の丈は私よりも少し大きく、約2.2メートル程ある。体のあちこちに傷があるが、その盛り上がった筋肉と合わさり、痛々しさよりも凶暴さを漂わせていた。彼もまた歴戦の冒険者なのだろう。


 ……だが、当然ながら黒南風に比べたら大した事は無い。


「……その依頼書は私が取ろうとしていたものだ。返して貰えるか?」


 私はそう言って再び手を伸ばす。しかし彼はまたもその手を弾いた。


「聞こえなかったのか?()()()()()。お前らみたいなカスには無理な依頼だと言ったんだ。その綺麗なツラをぐちゃぐちゃにされたく無いならさっさと失せろ」


「……ほう?」


 成る程……。これはまた随分とテンプレ的な展開だ。


 先程の殺気の持ち主は彼だった。タイミングから考えて彼は受付嬢に気があり、そしてその受付嬢から好意を持たれた私にやっかみを入れて来ていると考えられる。


 アッシュは黙ってこちらの様子を見ているが、さり気なく腰に付けた手斧の柄を握っていた。

 

 私個人としては別に引いても構わないのだが、昨日の夜にモーガンから“冒険者は舐められたらダメだ”と聞かされている。


 ……アッシュに斬りかからせる訳にも行かないし、仕方ない。軽く遊んでやるか。


 そう思った私は奴に言い放った。


「……()。ダメじゃないか、イタズラなんかして。お母さんは何処だい?」


「なっ……!?」


 私がそう言った瞬間、周囲からドッと笑いが起きる。

 アッシュとバーに居る連中の幾人かは腹を抱えて大笑いし、受付嬢達も肩を震わせている。


 大柄な蜥蜴人リザードマンは怒りを露わにし、私に殺気を向けて来た。


「……テメェ。死にてぇのか……」


「なんだ。随分と幼稚な真似をするから子供かと思ったのだが、違ったか。しかし何を言っている?()()()()()()()()()()()()?」


「……流石に笑えねぇな……!」


 そう言って私に手を伸ばそうとする蜥蜴人リザードマン。しかしそれを遮る様に、我に返った蜥蜴人リザードマンの受付嬢が声を出した。


「騒ぎを起こされては困ります!とっ……バドーさん!彼は新人なんですよ!?Aランクの冒険者である貴方が大人気ない!“免許”を凍結しますよ!?」


「うっ……!?」


 そう言われた蜥蜴人リザードマン……バドーと言ったか。バドーはたじろぐと、さっと手を下げた。


「べ、別にライラの仕事を邪魔するつもりはねぇよ。ギルド内での荒事のペナルティだって受けたかねぇしな」


 そう言って愛想笑いを受付嬢に送るバドー。


 嘘をつけ。あのまま行ってたらやり合うつもりだっただろうに。


 奴は再び私に向き直ると口を開く。


「……ただ、これは先輩から後輩への忠告だ。あまり調子に乗った真似はしない方が良い。冒険者なんてのはいつ死ぬか分からないんだからな。特に粋がった若い奴ほど、な」


「どのやり取りを見て“調子に乗った真似”と言っているのか分からないが、その割には長生きしてるな?お前の言った条件なら真っ先にお前の方が死にそうだが」


「……!」


 再び殺気を私に向けるバドー。しかしやはり何とも思わない。これならジャスティスの事を“ハムスター☆・オブ・ザ・ジャスティス”と呼んだ時の方が遥かに恐ろしかった。


 ……あの時は死ぬかと思った……。


 私が素知らぬ顔でバドーを見ていると、奴は軽く舌打ちした。


「チッ!……キモだけは座ってるみたいだな。オイ!ライラ!この依頼はこの俺が引き受けるぞッッ!!」


「待って下さい!その依頼はDランクへの依頼ですし、先にトカゲさんが引き受けようとしていた依頼です!それにバドーさん達“スケイルノイズ”のパーティは今休養中でしょう!?」


 そう言って受付嬢が嗜めるが、しかしバドーは口角を上げて続けた。


「だから言っただろ?“この俺が引き受ける”ってな。確かにこの依頼はDランクの依頼だが、“恒常依頼”だ。パーティメンバーが居ない俺がソロで受けるなら問題無い筈だ」


「……!」


 そう言われて悔しそうに顔をしかめる受付嬢。聞いた事の無い単語もあるが、この様子だとバドーの言い分は正しいのだろう。


「……それに、どちらが先に依頼書を取ったかはお前も見ていただろう?こういう時はどちらが優先された?」


「……先に依頼書を手にした者です……」


 彼女はそれっきり黙ってしまう。当事者である筈の私はすっかり蚊帳の外だった。


 バドーは再び私へと向き直り、鼻を鳴らす。“自分の勝ちだ”とでも言いたいのだろう。


「良いか若造。そのキモの座り具合だけは認めてやるが、冒険者は“頭”と“腕っ節”も要るんだよ!分かったら大人しくしてるんだな!ライラ!手続きを頼むぞ!二、三日で終わらせてやる!」


 そう言うと、バドーは笑いながらギルドから出て行った。


「……すいません、トカゲさん。先程の方はバドーと言って、凄腕の冒険者です。見ての通り相応に頭も切れ、頼りになる方なのですが気が荒い所もあって……」


 そう言って頭を下げる受付嬢……ライラだったか。

 しかし彼女に頭を下げられる理由は無い。悪いのは騒ぎを起こした私とバドーだし、むしろ彼女には真摯に対処して貰えたと思う。それに結果的には大した実害も無かったのだ。


「いえ、貴女が頭を下げる事はありませんよ。お陰で助かりました。ありがとうございます」


 そう言って私も頭を下げる。


「あ、頭を上げて下さい!幾ら冒険者同士の揉め事とは言え、ギルド内は私達の管轄下です。責任の所在はこちらなのですから!」


 必死に首と手を振り私に頭を上げる様に言うライラ。

 ふむ。なんと言うか、人間かトカゲの見た目だったら結構可愛い仕草に見えたかも知れない。


 そんな私達の様子に、何人かの冒険者達が再び興味を持ったのか視線を送って来た。


「……にしてもトカゲさんは凄いですね……。あのバドーさんの威圧に身動みじろぎ一つしないなんて、熟練の冒険者でも中々出来ませんよ」


「まぁ、冒険者としては新人ですが、元々この手の荒事は初めてと言う訳ではありませんからね。……それに、可愛らしい御嬢さんの前では格好悪い所は見せられませんし」


「か、かかかかか可愛いだなんて!!あの、その!?」


 ……リップサービスがかなり効いてる。ここまで来ると逆に自分がどれだけの容姿なのか気になるな。


 まぁ取り敢えずそれは置いておいて、私は彼女に向かってこう尋ねた。


「……あそこに並ぶ依頼の中で幾つか気になった物が有ります。質問しても宜しいでしょうか?」






ーーーーーー



 

 

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