魔鉱
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私はモーガンと名乗った男を見る。
身の丈は2メートルの半ばで、先程のボボよりも大きい。
彼も単眼のサイクロプスで、両腕は太く、全身は均整が取れており相応の鍛え方をしているのが見て取れる。
そして右手の手首から先は金属の義手が付いていた。
彼は私に近付くと、工房の奥に入る様に促した。
「取り敢えず詳しい話は奥で聞く。坊主が街に来るなんて、よっぽどの事だろうからな……」
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「成る程なぁ……。いや、言い方は悪いが良かった。俺ァてっきりナナシの野郎が死んじまったのかと思ったからよ。……にしても、あのアペティを倒して、その上スグリーヴァとカチ合うつもりとはな……」
そう言ってため息を吐くモーガン。
あの後、私は自警団長に書いて貰った手紙を彼に渡し、内容を私が補足する形で事情を説明した。
所々モーガンが驚愕して話が中断したりしたが、概ねの事情は説明出来た。
にしても──
「モーガン殿は“黒南風”や“賢猿”の事をご存知なのですか?流石にここまで距離があるとご存知無いかと思ったのですが」
そう、彼等は確かに強力な力を持つ“二つ名持ちユニーク”達だが、流石に森から出て100キロも離れた都市でその名が知られているとは思えない。
「ああ、俺ァ何度か森に行った事があるし、森の主要勢力にはフィウーメのお偉方も関心があるからな。後、それとは別にアペティの方はフィウーメでも結構有名だ。一度手勢を引き連れてこの街に来た事があってな。その時たまたま来てたS級冒険者と五分にやり合った事で名が知られてる。……まぁ、この街に来たのが、“ドレスに使う生地を買いに来た”ってだけだったのも、名前が知られる理由の一つだが……」
「成る程……」
「……そう言えばアイツ、フィウーメに来た事がある風に言ってたな……」
そう言ったのはアッシュだ。恐らく、黒南風に支配を受ける直前の話だろう。
……にしても“S級冒険者”……か。
正直イメージが浮かばないが、アペティと五分にやり合えるとは相当な強者なのだろう。
どのくらいの数S級冒険者が居るのか分からないが、無為な敵対は避けた方が良さそうだ。
「……それで本題の方ですが、ご覧頂いた目録の品を用意して頂く事は出来るでしょうか?」
私は自警団長の手紙と同時に、この先必要となる物資の目録を渡していた。
そして、自警団長からその中でも幾つかの物はモーガンに依頼する様に言付かっていたのだ。
しかしそれを聞いたモーガンは顔を顰める。
「……あぁ。まぁ、大半の物は手に入るな。食料品関係ならこのくらいの量を取り扱う商人は山程いる。だが、この武器は少し難しい」
「資金的な問題ですか?それならどうとでもなると思っているのですが……」
「どんな当てがあるんだか……。まぁ、資金的な問題もそうだが、最大の問題点は“法律”だ。この量の買い付けだと、明らかに軍備目的だろう?連邦法では個人レベルの武器所有は認められているが、軍隊レベルになるとかなり面倒な手続きと証明が必要になる」
「……そんなものがあるのですか……?」
「逆に無い訳無いだろ。この規模だと一般的な都市国家の常駐戦力と並ぶくらいの軍隊の筈だ。なんの保証も無しにそんな連中に武器を売る馬鹿が居るのか?」
……ごもっともだ。
しかし参った。それでは予定が狂ってしまう。
「……まぁ、100本くらいまでなら同時に買っても怪しまれたりはしないが……。だが、どの道この内容だと別注になるし時間がかかるぞ?既存のものを使い回せるから特注程はかからないだろうが、本当にこんなサイズが必要なのか?」
「必要です。逆に作り自体は粗雑でも構いません。兎に角サイズが優先で、次が耐久性です」
「……職人としては嫌な仕事だが、商人としては美味い仕事だな。装飾とかも必要無いのか?」
「全く必要有りません。最悪、棒の先に金属片が付いてるだけでも構いません。……外れなければ」
私がそう言うとモーガンは苦笑しながら頭を掻いた。まぁ、確かに職人としては本当に嫌な仕事だろう。
しかし必要なのは質より量なのだ。
「……分かった。他ならぬナナシの紹介だ。金さえ用意出来るならどうにかしよう」
「ありがとうございます。ですが法律は大丈夫なのですか?」
「なぁに。ちいとばかし発注ミスが起きるだけだ。年のせいで耄碌しちまう事もある。……詳しくは話せないがな?」
そう言ってイタズラをした子供の様に笑うモーガン。詳しくは分からないが、なんらかの抜け道があるのだろう。
「……で、素材はどうするんだ?ここには“使えそうな素材がある”と書いてあるが……」
「はい。これです」
私はそう言って、袋から金属片を取り出した。
黒く重厚な金属片で、雑多な形ではあるが刃を形成している。
「……ダークメタルか……」
モーガンは私が出した金属片をまじまじと見る。
そう、この金属片は、私が竜の息吹で吐き出した金属片なのだ。
黒南風との一戦でも使った様に、私の竜の息吹はある程度金属片の形状と量を変える事が出来る。
ゴブリンとオークの生産職に聞いたところ武器として使用出来る見込みはあるらしく、こうして持って来ていたのだ。
「どうですか?使えそうですか?」
「……そうだな……。まぁ、雑な作りでも良いなら十分に使えるだろう。……でも良いのか?ダークメタルは“魔鉱”の一種だぞ?こんな使い方は勿体ないと思うが」
……魔鉱?
初めて聞く単語に疑問符が浮かぶ。しかし私が質問する前にアッシュが口を開いた。
「なぁ、おっちゃん。“魔鉱”ってなんだ?聞いた事無いけど」
「なんだお前そんな事も知らないのか。“魔鉱”ってのは通常の金属と違ってそれ自体にステータス補正やスキル効果が付与されてる金属の事だ。要は物理的な防御力にステータスやスキルが加算される物で、普通の金属よりも質の良い武器が作れるんだ」
「へぇ〜ッ!」
成る程。ナイス、アッシュ。
モーガンは再び視線を金属片に向けて続ける。
「……だが、このまま使い回すならステータス補正は余り期待出来ないぞ?一度精錬して鍛え直した方が良い。出来れば魔力伝導率の高いミスリルの銀糸でも付けたい所だが……」
「……そのまま使って頂いて構いません。時間の方を優先して下さい」
「……そうか。……いや、余計な事を言った」
「いえ、色々と無理を言ってすいません」
私はそう言って頭を下げる。
「なぁに、久々の大口のお客様だ。融通は利かせるさ。……ところで、一つ聞きたいんだが……」
「はい。構いませんが……」
「お前さん、どっかの貴族か?」
「ブフッ!?」
それを聞いた途端、アッシュが口に含んでいたお茶を私の顔に吹き出した。
……汚い。本来なら半殺しにしたいところだが、今は人前だ。
私はアッシュを六分の五程殺してから顔を拭く。
「違いますが、何故そう思われたのですか?」
「……今のアッシュの扱いで若干自分の考えに自信が無くなったが……」
そう言ってジト目で私を見つめるモーガンだったが、改めてこう言った。
「……お前さんの立ち振る舞いは、礼節を知ってる奴特有の立ち振る舞いなんだ。敬語にしてもそうだが、上座下座なんかも意識してる。最初は商人かと思ったが、それなら利に疎過ぎる。だから貴族かと思ったんだ」
「ユニークネームドなら、そう言った知識を持つ者も多いのでは?」
「“知識”はな。だが、それを実践するか否かは環境で決まる。お前さんは黒竜の森に居たんだろ?なのにお前さんはそれが当たり前の様に立ち振る舞った。あの環境でそんな所作が身に付くとは思えない。それにさっき“金に関しては当てがある”って言ってただろ?ダークメタルだってそうだ。確かに魔鉱の中では安価ではあるが、それでも鉄よりは高い。それを雑とは言え加工済みで大量に保有している。……客観的に考えても、そう思うだけの要素は有ると思わないか?」
……成る程。確かにそう言われるとそうだ。
立ち振る舞いに関しては前世での経験に起因してるし、私の種族を知らない彼からすればダークメタルを大量に保有する財力がある様に見えるかも知れない。
──だがまぁ、事実は変わらない。
「違います」
「そうだぜ?そんな事はねぇよ、モーガンのおっちゃん。俺は師匠が進化する前から知ってる。間違いなく野生の魔物だぜ?確かに妙に頭が良い所はあるけど、それは保証する」
アッシュがそう言って私の発言を肯定する。
私も黙ってそれに頷いた。
モーガンはその様子を見ると、ため息を一つ吐いた。
「……そうか。すまねぇな。貴族にゃあ、ちいとばかし嫌な思い出があってついつい警戒しちまうんだ。悪かった」
そう言って頭を下げるモーガン。
とは言え私には何の実害も無い。
「別に構いませんよ。初対面で山出しと見くびられるよりは、“何処ぞの貴族様”って言われた方が余程気分が良いですから」
「へへ、言うじゃねぇか。……まぁ、堅苦しい話はこのくらいにして飯でも食うか!妻が腕によりを掛けて料理を作ってくれてる。うちの飯は美味いぞ?」
「いえ、流石にそこまでご迷惑は……」
「堅苦しい事は言うんじゃねぇよ。それに酒も有るぜ?」
……なんだと!?
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