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ヤスデなんだよなぁ……。

ーーーーーー




「……見つからないわね……」


 黒南風は再び一人言(ひとりご)ちた。


 黒南風はあれから暫く結界内に居る筈の伏兵を探し続けていた。しかし視線察知には反応もなく、何処に居るのか見当も付かない。


 隠密系スキルの厄介さは、その特性によるものが大きい。

 もし仮に、迷彩柄になったり、透明になったりすると言った直接的な作用ならばまだ探しようもあるのだが、“痕跡も含めて認識から外す”という、世界のシステム的な作用で姿をくらます隠密系統スキルは、基本的にそれを上回る探知系のスキルか、インターバル時間を狙う以外に対抗する手が無い為だ。


 黒南風の持つ“視線察知”は、確かに探知系に属しており、スキルレベルも極めて高いが、あくまでも“ノーマル”にカテゴライズされるスキル。


 システム上、上位に設定されてる“EX”や、“ユニーク”に属するスキルを破るには、些か頼りないものだった。


「……仕方ないわね。好みじゃないんだけど……」


 黒南風はそう言うと、()()()()()()()()。すなわち、意識を失って倒れ伏した自警団長へと近付いた。


 そして、ゆっくりとその足を彼の腕に乗せて──


 ──ボギッ──


「グギャァアッッ!?」


 自警団長が痛みに意識を取り戻して叫ぶ。

 黒南風が彼の腕を踏み折ったのだ。


「聞きなさい!黒鉄の配下達よ!!もし投降しないなら、このゴブリンを殺す!!大人しく出て来なさい!!」


 そう結界内に響き渡る声で叫んだ黒南風。しかし加害者である筈の彼のその顔は、まるで苦虫を噛み潰したように歪んでいる。


 黒南風も、ココの村で確率分離結界に関しては検証していた。


 結界内から見た時、結界外部の情報の入手経路は、村と重なる範囲以外での目視のみ。

 逆に外から見た時の結界内部の情報は、スキルも含めて一切手に入らない。

 これは結界を作る時に、最低限結界外部に対して優位性を持たせる為に意図されたものだろう。


 そうして結界外部の情報を手にしていた黒南風は、ステラの敗北とおおよその状況を把握していた。


 今現在、白銀率いる魔物たちとオークの群れは停戦状態にある。

 おそらく黒鉄の指示により少年を見捨てる事が出来ない白銀が、ステラの安全と引き換えに停戦を申し出たのだろう。


 “白銀”は強い。


 ステラを倒した事で進化した白銀は、単騎でも自分の命に届き得る力を持っている。

 無論、それでも優位に立っているとは思うが、彼等オークの現状は極めて厳しいと言えた。


「……これが最後の警告よ!出て来なけれこのゴブリンを殺すッッ!!」


 黒南風の表情は歪んだままだ。


(ホント、好みのやり方じゃないわ……。でも、()()()()()()()()()


 そう、彼はただの脅しではなく、本当に自警団長を殺すつもりなのだ。


 ステラが負ける前までなら、こんな下卑た真似をする必要は無かった。

 自警団長を脅して開門させ、白銀を力づくで捩じ伏せれば良かっただけなのだから。


 しかし、ステラが負けて虜囚となった今、そうは言って居られなくなっていた。


 外部に居る白銀達は停戦状態にあるが、こちらに動きが無ければ、いずれは開門して状況確認を図るだろう。


 開門されても、ステラを捕虜とされている以上黒南風は即座に攻撃に出る訳には行かず、そして結界の構造を理解している白銀も、その事を把握している。

 要は、開門して黒南風とオーク達が合流しても、停戦状態が変動する状況では無くなっており、短期的に見れば白銀達にとって開門する事でのデメリットがほぼ無くなっているのだ。


 そうして結界から出て以降、停戦からの交渉と行けば良いが、黒鉄が死んだ事を知った白銀が少年を見捨てて敵対を決めた場合、ステラがどう使われるかは全くの未知数。


 黒南風にとって、ステラは命よりも大切な子供達の一人。彼はこの状況を打破する為に是が非でもこの伏兵の能力が欲しかった。それが不可能なら、最悪でも白銀との合流を防ぐ為に殺しておきたい。


 しかし──


「……駄目みたいね……」


 伏兵は自警団長を見捨てた。

 開門されるのを待ち、白銀と合流する事を選んだのだ。

 

 ならば仕方ない。この自警団長を殺し、内側からの開門の芽を摘む。

 白銀が黒鉄からどんな指示を受けていたかは分からないが、それで少なくとも白銀が動くまでは時間が稼げる。


「……残念ね。死になさいッッ!!」


 そう言って拳を振り上げた黒南風だったが、その瞬間彼の視線察知に反応が現れた。


「!?」


 結界内に入った時と同数の視線。その視線の全てが、彼に注がれていた。

 どこに居るのかは分からない。しかし視線が向けられる方向は分かる。


 黒南風は、振り上げた拳を振り抜いた。


 ──()()()()()()()()()()()



 ──ガキィンッッ!!──

 


 黒南風の拳に硬質な感触と、重たい衝撃が伝わる。


 拳を握ったまま笑みを浮かべる黒南風。


 そこには黒南風の背面を打ち付けようと、下半身を周し込んだ巨大なヤスデが立っていた。


「“メガデスミラピード”……!!そう、貴女が伏兵の正体だったのね。おかしいと思ってたのよ。()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()


 黒南風の視線察知は、文字通り向けられた視線を察知するスキルだ。

 そして、メガデスミラピードの目の数は()()()()()


 その為、視線の数で敵の個体数を判断する黒南風は、伏兵の数を誤認していたのだ。


「……本当だったら視線だって察知されない筈なんだけどね……。どうも私とこのスキルの相性は今一みたい。あーあ、結構練習したんだけどなぁ……」


 そう言って溜め息を吐く巨大ヤスデ。何処から息が出ているか分からないが、隠密系スキルは、破られた場合のインターバル時間が長く設定されている。


 少なくとも、もう隠れている事は出来ない。


 黒南風は彼女に聞く。


「……単刀直入に言うけど、私の配下にならない?」


 暫く考え込む巨大ヤスデ。


「うーん……そうねぇ……」


 彼女は視線を黒南風に戻すと、嬉しそうにこう言った。


「じゃあ、“レイジングテイル”!」


「!?」


 迫り来るヤスデの下半身。黒南風は両腕を盾にして防いだが、しかしその威力は凄まじく、数メートル先まで飛ばされた。


 黒南風は内心舌打ちをする。


(ッッなんって破壊力なのよッッ!!単純なSTR値は私以上だわ!!)


 魔物には、獣型(ビーストタイプ)人型ヒューマンタイプ等に代表される、大きなカテゴリーが存在している。


 全ての魔物はそのいずれかに分類されるのだが、獣型ビーストタイプの魔物は基礎パラメーターが最も高く設定されており、亜人型デミヒューマンタイプの黒南風よりも、獣型ビーストタイプの巨大ヤスデの方がステータス的には優遇されていたのだ。


 無論、各々のカテゴリーには其々(それぞれ)長所が存在しているのだが、黒南風が巨大ヤスデと正面から殴り合うには、少々不利が過ぎた。


「搦め手を使わせて貰うわよ!!“剛腕干渉アームドインテベンション”!!」


「なっ!?」


 巨大ヤスデが驚愕する。


 黒南風は掴んだ空気を地面に叩きつけると、その風圧で飛び上がったのだ。


 地面に居る筈の黒南風が飛んだ事で、再び下半身を打ち付けようとしていた巨大ヤスデは、大きく態勢を崩した。


「貰ったわッッ!!」


 そのまま巨大ヤスデの頭部を目掛けて拳を振り上げる黒南風だったが、その時再び予想外の出来事が起きる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(この反応は……まさか!?)


「〜〜ッッッ!!“魔眼殺し(ゲイズペイン)”!!」


 即座に対抗スキルを発動させ、防御姿勢をとる黒南風。

 打ち据えられた尻尾は痛かったが、防御は間に合っており、大きなダメージにはならなかった。


 そのまま地面に降り立つ黒南風。そして凄まじい形相で()睨み付ける。


「顔色が良くないな?気分でも悪いのか?」


「……そりゃあ良くないわよ。ここまで気分が悪いのは、人生で四番目だわ」


「……過去三回が結構気になるな。今より悪いのか……」


 そう言って軽口を叩くのは、金属の外殻を持つ、漆黒の爬虫類(レプタイル)


 彼の宿敵である、“黒鉄のトカゲ”だった。




ーーーーーー

四件目のレビューを頂けました!


まだまだ拙い当作ですが、こうして応援して下さる方もいらっしゃって嬉しい限りです。


メッセージでも言わせて頂きましたが、ふじさん。本当にありがとうございます。

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