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幸せ



『クキュー!』『クックク!』


 私が部屋に戻ると、二匹の妹達が駆け寄って来た。


『クキュー……』『クゥクク……』


 彼女達は甘える様に私に体を擦り付ける。

 

 ……たまらんッッッ!!


 私も返す様に妹達に体を擦り付けると、口に咥えていた肉団子を差し出す。


『クキューッ!!』『ククッ!!』


 彼女達は一心不乱に肉団子を食べ始める。


“そんなに慌てなくても幾らでも作ってあげる”。


 そう伝えたいのだが、まだ彼女たちに会話が可能な程の知能は無い。

 ……まぁ、そんな物無くても世界一可愛いが。


 私は、口の中に残った肉団子の破片を食べる。我ながら美味い。

 

 前世の記憶がある私にとって、このトカゲとしての生活は苦痛が伴うものだと思っていたのだが、その実、全く抵抗も不自由も感じていなかった。

 こうして妹達の世話をする事も、虫を食べる事も嫌では無い。寧ろ当たり前の様に感じる。


 恐らくこれは、転生した存在が環境への不適合で死ぬ事を避ける為、何らかの機能が働いているのだと思う。

 

 天使が言った、“この世界で遊んでいる”という発言を考えれば納得が行く。折角作ったオモチャが簡単に壊れてしまっては勿体ないのだから。


『……クワァ……』『クク……』


 お腹が膨れた彼女達は、どうやら眠気に勝てないらしい。やがて、ゆっくりと寝息を立て始める。


 その様子を見ながら、私は幸せを噛み締めていた。


 思えば前世は本当に不幸だった。

 天涯孤独だった事もそうだし、努力が報われなかった事もそうだ。

 しかし、本当に不幸だったのは彼女達が居なかった事だ。


 前世で私に寄って来た女達はクズばかりだった。

 初めて出来た彼女は、私からのプレゼントを質屋に入れてホストに貢いでいた。

 二人目の彼女は、私の出張中に男を連れ込み、私の部屋で浮気していた。

 三人目の彼女は、私の貯金を全て自分の親に流していた。


 無論、全員に相応の償いはさせたが、それでも心の傷は癒えず、私は女性不信丸出しの男になってしまった。


 しかし、今は違う。

 一心に私を慕い、私に純粋な目を向けてくれる妹達に、凍てついた私の心は溶かされたのだ。


 彼女達の為ならなんだってしよう。

 浮気以外なら、なんだって許そう。

 私の全てを捧げたって構わない。私は、彼女達を愛しているのだから。


『グワッ……』


 心が穏やかになるのを感じる。出世に取り憑かれていた事が馬鹿馬鹿しく思える。


 “この幸せが続くなら、トカゲのまま死んだって構わない。”


 この時私は本心からそう思っていた。


 ──しかし、その幸せも長くは続かなかった。




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