ククの考え。
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“最初からゴブリンを殺してしまえば楽なのに”
ククはそう考えていた。
あの時は兄の手前、正直にそう言う事は出来なかったが、それは彼女の偽らざる本心だった。
彼女の兄であるトカゲは優しく聡明で、強さと強かさを兼ね備えた理想的な雄だ。
自分と妹の生涯の伴侶に相応しいと思っている。
しかし、欠点が無い訳では無い。
兄は甘過ぎるのだ。
ヤスデ姉さんの時は互いにメリットがあり、仲間に加える事に抵抗は無かった。
あのノミ達への怒りは相当なもので、それを一掃して貰った時は感動を覚えた程だ。
ジャスティスもそうだ。彼は優秀であり、仲間に加える事には抵抗は無かった。
まぁ、正直眷族であるネズミやビーバー達は要らないと思っていたが、こうして成長した今は有用性を認めている。
だが、ゴブリン達は違う。
彼等は別の群れの魔物であり、利用し、される関係でしか無い。
そんな彼等の為に自分達の群れがリスクを負う必要など無い。
少年ゴブリンを殺し、黒南風を集団で仕留め、オーク達を支配する。
それが理想だった。
なのに──
『……ジャスティス。左後ろから弓兵が狙っている。範囲攻撃をお願い』
「了解だ!!」
ジャスティスはククの指示通りに雷撃を放つ。
『……はぁ……』
ククは思わずため息を吐いた。
なのにクク達は今、ゴブリンの少年を守るために戦っている。
ありもしないスキルでハッタリをかまし、少年しか開門出来ないかの様に誤認させ、オーク達に少年を守らせる。
敵の主力である雌のオークは、少年への攻撃を警戒して迂闊に動けず、並みのオークでは、村人達から能力を継承されたゴブリンの狩人達には敵わない。
後は適度に少年を狙って魔法を放てばオーク達の指揮は混乱し、そこを突けば数を減らすのはそう難しい事では無い。
そして──
『“姫様、敵兵力の確認と伏兵の処理が終わりました。現在、ノートの村の侵攻に当たっている兵力は、そこに居るオーク達だけです”』
『良くやったわ。別命があるまでそのまま隠密を維持して包囲してて』
『“ハッ!”』
オーク達の伏兵の処理を終えたゴリ達から遠距離会話での連絡が入った。彼等は予め遠距離に待機させており、視覚共有でジャスティスから情報を受け取っていたのだ。
そして、察知能力に長けた黒南風を分断出来たら、情報を収集しつつ接近して伏兵を処理する様に指示しており、こうしてそれも終えることが出来た。
順調に事は推移している。
このまま行けば、遠からずオーク達を殲滅出来るだろう。
しかし──
「……」
ククは黙って此方を見つめる雌のオークへと視線を向ける。
彼女とて馬鹿では無い。このまま行けばオーク達が不利な事は理解出来る筈だ。
しかし、彼女の様子からはそういった焦燥は伺えず、強い自負の様な物を感じる。
“我々の勝利は揺るがない”
そう確信しているかの様に。
『……はぁ……』
ククは再びため息を吐く。
この先の戦いが、決して油断出来るものでは無いと予感して──
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