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作戦会議

ーーーーーー



「んで、どうやってオーク達を倒すんだ?」


 ジャスティスはそう言って私の方を見る。

 周囲に居る面々も、私の言葉を待っている様だ。


 昨晩の話し合いが終わってから丸一日経過したが、ゴブリン達の間で意見が纏まらず揉めており、中には我々の群れを差し出して降伏しようと主張している者まで現れた様だ。

 まぁ、それでも逃亡を図る連中が出て来ないのは、ここに居る村長と自警団長の人徳と言う事だろう。


 そして我々は今、昨晩の面々とは違い村長と自警団長の二匹と、仲間全員を集めて再び話し合いを行っていた。


「……取り敢えず敵の戦力確認からだ。ゴリ」


「はい!」


 私の呼び掛けに応えると、ゴリは私の肩に駈け上がる。

 体の小さなゴリでは視線を集め難い為、あらかじめここに登る様に指示していたのだ。


「皆さん!先程ご紹介頂きました、参謀のゴリです。以後、お見知り置きの程よろしくお願いします!……と、言っても初対面の方は居ませんが」


 そう言うと、ゴリは照れた様に自分の後頭部を撫でる。

 新たに与えた、“参謀”という肩書きにまだ慣れていないのだろう。


「では、敵の戦力の説明を始めさせて頂きます。これまでの調査から推測するに、現在の敵の数は約2300程。無論、その全てを兵士として運用出来る訳では有りませんが、それでもその数は圧倒的です。そして更に厄介なのが、オーク達の上位種の存在。“王”である黒南風もそうですが、奴等の本営地を守護している雌のオークも、恐らく王様と親分を上回る位階の魔物だと思います」


「……ゴリ殿はそんな事まで分かるのですか?」


「はい。それが僕のユニークスキル、“観察(オブザベイション)”の力ですから」


 村長の質問にそう答え、胸を張るゴリ。


 “観察(オブザベイション)”。


 ゴリが進化した時に獲得したユニークスキルで、発動中に観察した対象の情報を獲得出来るスキルだ。

 このスキルは観察した時間に応じて情報の確度と量が高まるスキルで、彼はチューナーラット達の“視覚共有”と併用して、オーク達の群れの情報をかなり正確に把握していた。


 一度、特別継承で借りてみた事があるが、余りの情報量に頭のネジが飛ぶかと思った程で、私には扱いきれない。

 どうもこのスキルはゴリの種族に依存している様だ。


「それ以外にも、彼等の群れには6匹程高い位階のオークが居ます。連中は恐らく自警団長殿と同等の位階であり、並のゴブリンでは歯が立ちません。我々の群れにしても、一対一で勝てるのは王様と親分とヤスデ姉さんくらいなものです。それに並のオークにしても村人たちの能力よりも高いです」


「つまり……」


「はい。勝てません」


 それを聞いた二匹のゴブリンは項垂れる。しかし我々の群れの面々は何一つ表情を変えない。そんな事は分かりきっていたからだ。


 “その上でどうするのか?”


 それが今日の話し合いの目的なのだから。


「まぁ、分かってた事だな。それを前提として、俺らに有利な点は無いのか?」


「はい親分。まず、先程も言いましたが、“例え2300匹オークが居ても、その全てを兵士として運用出来ない”という点です。あれだけの規模の群れになれば、食料確保を始めとする様々な雑務に多くの人員を割く必要があります。恐らく、“軍”として動かせる人数は、最大でも十分の一程度。200匹前後だと思われます」


「200匹の根拠は?」


「これまでの情報収集からの推測であり、根拠と呼べるものは有りません。しかし、彼等は何故かは分かりませんが、ココの村の警備に主力を置いています。余程重要な物でも在るのでしょうが、ココの村の警備網の維持の為には200匹以上の人員は割けないと考えました」


「……200匹相手なら勝ち目もあるのでは?」


 そう言った自警団長に対して、ゴリは首を振る。


「確かに200匹のオークなら、勝ち目もあるかも知れません。しかし、実際のところ200匹のオークを殺したところで、ココの村周辺に居る2000匹以上のオーク達が消える訳ではありません。それに、奴等が本腰を入れて村を落としに来る時は、間違いなく黒南風やあの雌のオークが軍を率いて来る事でしょう。そうすれば、質・量共に劣る我々では勝ち目はありません」


「……黒南風を暗殺するか?」


「不可能です。奴の察知能力は並みじゃありません。最大の能力値を持つスニーキングフェレットで観察したところ、即座に気付かれましたからね。まぁ、こちらもそれを前提としていたので逃げ切れましたが、暗殺するのは不可能だと思います」


 ゴリがそう言うと、ジャスティスも黙る。確かに現状の手札では勝負にならない。


 もし仮に黒南風を暗殺出来ても、雌のオークに率いられた2000の敵が残る。

 雌のオークも殺せても結局オーク達は残る事になり、奴等を全滅させるまでの間、好き勝手に荒らされた森の環境は最悪の状態になるだろう。


「手詰まりか……」


 私がそう呟くと、全員の視線が私に集まる。


「……なんだ?」


「“なんだ?”じゃねぇよ。お前の意見を聞きてぇんだよ。なんかあるんだろ?」


 そう言ったジャスティスに、周囲の連中も同意して頷く。


「……まぁ……無くはない。だが、不確定要素が多過ぎるし、成功させる為には犠牲が伴う内容だ。失敗すれば全滅も有り得る」


「取り敢えず聞かせろよ。どの道やり合うって決めた以上、リスクなんて回避出来ないだろう?それに無理な内容なら、全員で修正すりゃ良いじゃねぇか」


 ジャスティスの言葉に頷く一同。……個人的にはイマイチな策なのだが、確かにジャスティスの言う事には一理ある。

 私はため息を吐いて続ける。


「……結論から言うが、()()()()()()()()()


「はぁ?それはさっきゴリが不可能だって言ってただろ。奴に不意打ちは通用しねぇ。それに、奴だけ殺したってオークどもが残ったままだ」


 そう言って不満の声を上げるジャスティス。ゴリもそれに頷いている。


「……確かに我々の能力では不意打ちを仕掛けても失敗するだけだろう。しかし、“切り札”を切れば不意打ちが可能になる」


「切り札?」


「“確率分離結界”だ。開門と同時に攻撃すれば、例え察知能力に長けた黒南風だろうと不意打ち出来る筈だ」


 そう、確率分離結界は開門されるまで“そこに存在する可能性”を分断する結界だ。

 いかに黒南風と言えども、“存在しない気配”まで察知出来るとは思えない。


「成る程!……でもよ、仮に全力の一撃を撃ち込んでも、倒せる保証なんて無いんじゃねぇか?」


()()


「……へ?」


 私の言葉に困惑するジャスティス。周囲の連中もみな一様に惚けている。

 私は彼等を横目に続ける。


「……そのままの意味だ。少なくとも、即死させられるのは困る。不意打ちの目的は奴にダメージを与える事と、オークの数を減らす事。そして、奴を結界の中に誘導する事だ。ジャスティス。俺たちが初めてオークとやり合った時の事を覚えているか?」


「ああ。スーヤ達の事を襲っていた野郎だろ?そういやアイツの話が出なかったな……」


「まぁ、そこは別に良い。奴の能力もスキルもほぼ全て回収してるし、まともな戦力にはならないだろうからな。重要なのはそこじゃない。奴は言ってただろう?“支配ドミネイトの影響下にある”ってな」


「……言ってたな」


「そして、その後に戦った“将軍”も、同じ様に支配ドミネイトの影響下にあった。恐らく、黒南風はオーク達の統治に、自身の能力だけでなくスキルの効果も併用させている。だからこそあれだけ統率のとれた支配を可能としているんだ。とは言え、全てのオーク対して使っている訳では無く、上位の種族だけみたいだがな。……だが、もし仮にだが、()()()()()()()スキルを奪う事が出来たら、オーク達はどうなると思う?」


「まさか……」


「そうだ。私の“継承“で、奴の“支配ドミネイト”を奪う。そうすれば奴等の群れの中枢を私が掌握する事になり、奴等の群れは即座に屈する」


 そう、私の継承は、“スキル”だけで無く、“スキルの効果を発動した対象”も引き継ぐ事が出来る。そのお陰で蛇に飲まれたネズミ達を助ける事が出来たのだが、奴の“支配ドミネイト”にも同じ様に作用する筈だ。


「何だよ、良い作戦があんじゃねぇか!それならやれるぜ!」


 そう言って喜ぶジャスティスだが、村長は顔をしかめている。彼は問題点に気付いたのだろう。


「……トカゲ殿。確かに()()()()()上策と言えます。しかし、不確定要素が多過ぎるのでは?投入される戦力は推測でしかありませんし、そもそもこの村の侵攻に()()()()()()来る保証はありません」


「……」


 村長の言う通りだった。


 確かにこれまでの経緯から、黒南風か奴の副官である雌のオークが侵攻して来る可能性はかなり高い。少なくとも、将軍以下の戦力では返り討ちに合うのは黒南風も分かっているはずだからだ。

 しかし、それでも副官である雌のオークが来る可能性も高く、そして複数体の将軍に指揮を任せる可能性も捨てきれない。


 そして、問題点はそれだけでは無い。


「……それにトカゲ殿のユニークスキルは、“対象のスキルを一定以上理解している事”が条件の一つなのでしょう?スキルが使える程、“支配ドミネイト”の事を理解出来てはいないのでは?」


 そう、もう一つのネックはそこだ。そもそも、現状の知識では“支配ドミネイト”を奪う事が出来ないのだ。

 まぁ、()()()を使えば恐らく特別継承発動ラインまで持って来れる。それに、黒南風を誘き寄せる事もだ。

 だが、その為の犠牲になるのは我々では無く、()()()()()()


 ……だからこそイマイチな策なのだ。好き好んで死人を出すのは趣味じゃない。


 私がそう思い押し黙っていると、その空気を裂く様に彼女が口を開いた。


『……にぃに。ゴブリン達にも手伝って貰った方が良い。()()()()()ゴブリンが一匹居れば解決する問題。にぃにも分かっているでしょ?』


 ククだ。


 話し合いが始まってからずっと黙っていた彼女が口を開いたのだ。

 キューは疲れたのか、ククの横で眠っているが、ククは最初から最後まで話を聞き、皆に聞こえる様にそう言って来た。

 この調子なら、ククも気づいていたのだろう。


 ジャスティスにククの言葉を意訳された村長と自警団長が此方に視線を向けて来る。


 私はため息を吐いて続けた。


「……何も知らないゴブリンをオーク達の下に送る。そして、黒南風との謁見を申し出させるんだ。内容は何でも良いが、“我々(トカゲたち)を売り渡す”という内容で良いだろう。だが勿論、黒南風がゴブリンの事を信用する訳が無い。だからこそ奴は間違い無く“支配ドミネイト”をゴブリンに対して使う筈だ。それを“視覚共有”で見れば“支配ドミネイト”の使用条件が判るし、“支配ドミネイト”の術者である黒南風が侵攻を指揮する可能性は格段に上がる筈だ」


「……成る程!」


 そう言って頷く面々。確かにここまでは私も悪くはないと思っている。だが、続きがある。


「……“支配ドミネイト”は、恐らく術者に対して絶対服従となるスキルだ。だが、それはあくまでも“命令を遵守する”という物でしか無い。事実私と戦った将軍は、私に黒南風の配下になる様に言って来たが、その前に延々と侮辱を繰り返し、私が“はい”と答える訳が無い状況を作っていた。黒南風としては配下に欲しかったにもかかわらずな。つまり、“命令に従いさえすれば、経緯は自由”なスキルなんだ。だから、開門を指示されるであろうそのゴブリンに、入り口を背にして開門可能な限界の位置で開門させれば、背後から強力な一撃を撃ち込める。その威力が高く、黒南風が直接対処しなければならない程ならば、黒南風を誘導する事も出来るだろう。後はそのゴブリンの()()()()、黒南風が結界内部まで来た所で閉門する。そして、中に待機していた我々全員で黒南風を倒せば安全に勝つ事が出来る」


「……すいません、“口を封じる”って……」


「そうだ。殺す。何も知らないゴブリンを、罪も無いゴブリンを、な」


 私の答えを聞き、此方を睨み付ける自警団長。

 しかし激昂したりはしない。彼も理解出来たのだ。

 もし仮に黒南風を閉じ込める事が出来ても、外から開けられれば意味がない。

 この作戦は、黒南風を分断する事に意味があるのだから。


「……村の開閉には、“呪文の詠唱”と、“住民のゴブリンである事”が必要だ。どちらか片方が欠けても機能しない。作戦が上手くいけば奴等は手出しも出来ずに終わる。……まぁ、言ってはみたが、この作戦をやるつもりは無い。後味の悪い作戦だからな」


 そう言うと、二匹のゴブリンの表情が緩む。私がゴブリンの犠牲を良しとしない事は理解出来たのだろう。


 しかし、再び彼女が口を開いた。


『……にぃに、待って。ククに考えがある……』




ーーーーーー


 


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