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嘘とハッタリとトカゲの妹。

ーーーーーー




「グギャァアッッ!?」


 悲鳴と共に雷光がオーク達を飲み込む。


 次々と配下達が命を落としていく中で、黒南風がとった行動は、至極単純明快なものだった。


「陛下!?」


 ステラが黒南風に呼び掛けるが、既に彼は迫り来る雷光の前へと躍り出ていた。


「“剛腕干渉アームドインテベンション”!!」


 スキルを発動させた黒南風は、その剛腕で()()()()()()()


 “剛腕干渉アームドインテベンション”。


 これは、自身の物理ステータスを魔法ステータスとして置き換え、本来なら触れる事の出来ない筈の魔法やゴースト系の魔物等に、肉体で干渉することが可能となるスキルだ。


 ただし、干渉の際に反映されるステータス値は、本来の物理ステータスの()とされる為、実際のMAT値(魔法干渉力)での干渉に比べて格段に性能が落ちる。


 しかし発動までの時間は無いに等しく、また黒南風自身の物理ステータスが並外れている為、こうした魔法での強襲を受けた時は積極的に使用していたスキルだった。


「ハァァッッッ!!」


 黒南風は雷光を掴んだその腕の力を更に込める。やがて雷光は勢いを無くし、そして遂には消失していった。


「……化け物かテメェ……」


 そう言って驚愕の表情を浮かべる白銀。


 しかし黒南風自身もまた、白銀に対して驚愕していた。

 

(……直撃してたらどうなってたか分からないわね……)


 彼が視線を移したその先には、ダメージが残る両手があった。


 黒南風の物理ステータスと魔法ステータスには、倍以上の開きがある。だからこそ剛腕干渉アームドインテベンションで転換して防御する事を好んでいたが、その防御を上回り、これだけのダメージ量が残ってしまうのは完全に想定外だと言えた。


 恐らく、この奇襲の為に魔法強化(マジックブースト)等の強化魔法で補正を加えていたのだろうが、それを加味しても尋常ならざる威力だった。


「陛下!!ご無事ですか!?」


「ええ……。()()()()()()けどね」


 駆け寄ってきたステラにそう答える黒南風。


 確かに大した威力だった。だが、これだけの威力の魔法、奴の魔力も残り僅かだろう。

 後は魔力を失った白銀を殺し、黒鉄を燻り出せば良い。


 そう思った黒南風だったが、次の瞬間、更なる驚愕が彼を襲った。


「“万雷千槌ノーザンナインティーン”」


「!?」

 

 白銀の声と共に、再び雷光がほとばしったのだ。

 まさかあれ程の魔法を連発出来るとは思えない。しかし、可能性を否定する要素も無い。

 黒南風は即座に行動に移す。


「……行くわ!」


「陛下!いけません!お待ちを……!」


 制止するステラを置き去りにし、黒南風はノートの村の入り口へと走る。


 白銀に先程の魔法を再び撃たせるつもりは無い。


 確かに、この策には驚かされた。

 あらかじめ確率分離結界を解除し得る限界の位置を割り出し、そこで開門する様に少年に吹き込んだのだろう。


 支配ドミネイトは命令に対して絶対服従と言う極めて強力なユニークスキルだ。

 例え自殺を指示されても、一切の反抗も出来ない。

 だが、裏を返せば、命令に()()()()()()それで良いスキルでもある。

 そこを利用しての不意打ちだったのだ。


 確かに見事な罠。しかし、()()()()()


 黒南風は、一つの魔法を使う。


 「“速度強化アジリティブースト”ッッッ!!」


 “速度強化アジリティブースト


 自身のSPD値を一時的に上昇させる魔法だ。

 強化度合いはそれ程でも無いが、黒南風が居た位置からノートの村の入り口までは然程(それほど)距離も無く、一足飛びで辿り着く事が出来た。


 白銀は慌てた様に後ろに跳ぶが、しかし黒南風には白銀の攻撃よりも早く拳を振りぬく自信があった。


 その豪腕の狙いを白銀に定め、拳を振り上げる。


 だが──


「“閃光フラッシュ”」


「ぐあっ!?」


 突然、黒南風の視界を光が埋め尽くす。その光量は凄まじく、目を開けておく事が出来ない。


(いつの間に!?いや、違う……!()()()()()()()()()()()()()()!!)


 そう、先程の詠唱はブラフであり、白銀は最初から閃光の準備を進めていたのだ。

 それが理解出来た黒南風は、直ぐ様次の攻撃に備えて構える。

 歴戦の猛者である黒南風は、今までに幾度もこうした視覚を封じられた状態での戦闘を経験していた。彼の“視線察知”はこうした視覚を失った状態でも作用し、それを利用した戦闘術を確立していたのだ。


 自分を囲む複数の視線に対して万全の備えをした黒南風。

 しかし、彼を捉えていたその視線達は逸れて、彼の後ろへと走り抜けて行く。


「何ッ!?」


 咄嗟に振り返った黒南風だったが、次の瞬間──


「“閉門”」


 背後から聞こえたその声と共に、再び視界が暗転した。



ーーーーーー



「……おのれ……小賢しい真似を……!!」


 ステラは滲み出る様な声で悪態を吐く。

 突如として閃光を放ったノートの村の入り口は、彼女がその視界を取り戻した時には既に閉じていた。

 そして、入れ替わる様に現れたのは、白銀と6人のゴブリン達。そして、白銀の肩に乗った純白のトカゲだった。


 恐らく、こうして陛下と分断を図るまでが奴等の筋書きだったのだろう。

 そこまで理解したステラは、配下達へと指示を飛ばす。


「奴等を包囲しろ!!我々に刃向かう事の愚かさを教えてやれ!!」


 オーク達は各々の武器を手に、円を描く様に展開する。

 確かに先程の攻撃で相応の被害は出た。しかし、戦線が崩壊する程では無い。

 後は奴等を殺して再び入り口を開ければ良い。

 そう思い、ステラは笑みを浮かべた。


 しかし、トカゲはそんなステラを一瞥すると、周囲のゴブリン達を見回した。


 そして──


『“剥離ピーリング”』


 純白のトカゲが一鳴きすると、ゴブリン達が淡く光った。

 

「「!?」」


 白銀とゴブリン達に驚愕の顔が浮かぶ。

 しかし、ステラにはトカゲの言葉は理解出来ない為状況を読み取る事が出来ず、困惑してしまう。


(……何をしている?あの反応、白銀達にとっても予想外の行動だったのか?)


 様子を伺っていると、白銀と純白のトカゲが揉め出した。


『キュックク。クク』


「はぁ!?何言ってんだクク!?マジでやる気か!?」


 そう言った白銀を他所に、純白のトカゲが再び一鳴きした。


『“氷弾蜂ヘイルホーネット”』


「!?」


 次の瞬間、トカゲの眼前が淡く光ると、無数の氷のつぶてが浮かび上がり、ステラの方へと迫り来る。


「甘いッッッ!!」


 ステラは咄嗟に魔法防御系のスキルである“シールド”を発動させる。


 “シールド”は自身の前面へと魔法障壁を展開するスキルで、その防御力はMDF値(魔法防御力)に依存している。

 黒南風のスキルの様に力任せで魔法を消したりは出来ないが、それでもあの程度の魔法を防御するのには十分なスキルだった。


 投石が壁に打ち付けられる様な音と共に、氷塊が次々に砕け散って行く。

 連中が何をしたかったのかは分からないが、この魔法が終わったら即座に切り刻んで殺してやる。


 そう思ったステラだったが、彼女の背後から悲鳴が聞こえた。


「ギャァァァッッッ!?」


「!?」


 振り向いた彼女の目に映ったのは、配下達の誰でも無い。足を撃たれて悶える()()()()()()()()()()


 誤射かと思い視線をトカゲへと戻したステラだったが、その表情を見た時、それが誤解だと理解出来た。


「……貴様等!!何を考えているッッッ!!」


 思わずステラはそう叫んだ。


 純白のトカゲは何一つ表情を変えず、まるで地面に落ちた羽虫を見る様な目で少年を見つめていた。

 そう、純白のトカゲはステラでは無く、()()()ゴブリンの少年を狙っていたのだ。


『キュックク。クク。クク』


「〜〜ッッッ!!あぁ!!もう分かったよクソったれ!!流石トカゲの妹だ!!」


 そう言いながら頭を掻き毟る白銀。そして、ステラに向かってこう告げた。


「いいか!!良く聞けオークの姫君!!最初にこのトカゲが使ったのは、“剥離ピーリング”と言うコイツのユニークスキルだ!!その効果は、“自身が知っているあらゆる事象の表層を削る”っつー効果で、さっきはゴブリン達の記憶から“開門の呪文”の一部を削り取った!!」


「なんだって!?」


「どう言う事だ!!」


「まさか、小僧に魔法が当たったのは事故じゃないのか!?」


 白銀が困惑しながらそう言うと、ゴブリン達が次々と声を上げて詰め寄る。あの反応から察するに、ゴブリンと白銀はその事を知っていなかった様だ。

 が、しかしステラには意図が全く分からない。


 何が言いたい?何をしている?何で少年を狙っている?


 ますます混乱したステラだったが、彼等はそれを無視して言葉を続ける。


『クク。クークク』


「“剥離ピーリング”はただ剥がして捨てるだけで、回収したり取り込んだり出来る便利なスキルじゃあ無い!!そして!黒鉄は既に他の村人全員と群の仲間を連れて移動を終えている!」


(移動を終えている!?やはり小僧は陽動だったのか!?だが、それならどうして小僧を狙った!?何が言いたい!?何のつもりだ!?……いや、まさか……!?)

 

 ステラが()()()()()に気付いた時、再び純白のトカゲが口を開く。


『“氷弾槍ヘイルランス”』


 発光の次に現れた氷塊は、1mを優に超えるサイズであり、もし仮になんの補正も掛けずに直撃すれば致命傷に至るだけの鋭利さもあった。

 そして、その矛先は未だ踠いている少年に向いていた。


「馬鹿ッッッ!!止めろ!!」


「何を考えてるんだ!!」


「ジャスティスさん!!あんたも知ってたんだな!?」


「知らねぇよ!!俺も始めて知ったところだ!!コイツがこんなクレイジージャーニーだなんてよぉぉぉっっ!!」


 純白のトカゲの魔法に混乱する白銀とゴブリン達。


 それを見たステラは全力で叫ぶ。


()()()()!!奴は()()()()()()()()()()!!」


 必死で檄を飛ばしたステラは気付けない。それを聞いた純白のトカゲが、薄く広角を上げた事に──



ーーーーーー



「これ全部貴方の仕込み?なかなか見事なものね。これだけ綺麗に嵌められたのは久しぶりだわ」


 そう言って彼はこちらを一瞥もせずに私に話し掛ける。

 まだ視界は回復していない筈だが、こうして私の接近を正確に把握出来た以上、なんらかのスキルによる補助があるのだろう。

 正直言ってジャスティスの極星雷光砲でもっとダメージを入れている筈だったのだが、しかし彼は素手で魔法を掴み、締め潰すと言うアグレッシブな方法でそれを回避していた。


 とは言え、“予想外の結果でした”なんて正直に話すのも癪だ。ここはとりあえずこう言っておこう。


「勿論ですよ。……“黒南風”マダム・アペティ殿」



ーーーーーー

 


 

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