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話し合い

ーーーーーー



「遅れて申し訳ない。村長殿」


 私はそう言って村長に頭を下げる。

 明確な時間を指定して約束していた訳では無いが、遅れて来た以上詫びる必要があるだろう。


 その様子を見た村長は、軽く両手を上げると、私に頭を上げる様に促した。


「いえいえ、トカゲ殿。時間の約束も出来ておりませんでした故、頭を下げられる必要は有りません。どうぞお顔を上げて下され」


 私はそう言われ、顔を上げる。


 ここはノートの村の畑に接した農具小屋で、我々の群に充てがわれた借宿だ。

 今現在、我々には巣が無い為、こうして間借りさせて貰っているのだ。


 この場にはオーク達への対策の為、我々の群の代表的なメンバーと、ノートの村の代表達が集まっていた。


 そしてもう一人、今回の話し合いの発端となった人物が居る。


 私は、村長の奥に座る、その人物へと目を向ける。


「……村長殿、其方の御仁が()()()()()と言う……」


「ええ、“ココの村”の代表の者ですじゃ。こちらはこの度協力を受諾して下さった魔物達の王で、トカゲ殿。ささ、ご挨拶をなさりなさい」


 そう村長に促され、こちらに向き直るゴブリン。

 村長よりも随分と若く、身体つきは自警団長と同じくらいに屈強だが、その顔からは隠し切れないほどの疲労が伺えた。


「……お初にお目にかかります。トカゲ殿。私はココの村の代表で、ノクトと申します。……と、言っても生き残っているのは、私も含めて9人だけですが……」


 そう言って疲れた様に笑うノクト。


 彼等は、このノートの村から南西に25キロ程行った場所にある、ココの村から来たと言う。


 ココの村も、ノートの村と同じく“確率分離結界”に守られた村だったが、狩りの為に入り口を開けた途端、オーク達に奇襲されて村を奪われたそうだ。


「……我々9人は、さきんじて狩りの為に村を出ており、難を逃れる事が出来ました。そして、遠目から見たのです。……あの……化け物が村へと入って行くのを……!!」


 そう言うと、ノクトはカタカタと震え出した。

 村長は、彼をなだめると、続きを話す様に促す。


「……その、化け物とは?」


「……“黒南風(くろはえ)のマダム・アペティ”。黒竜の森に住まう、“二つ名持ち(ダブルネームド)ユニーク”の一人です」


「……!!」


 ゴブリン達全員の顔が歪む。ゴリ達から聞いた事前情報で予想が付いてはいたのだが、これで確定したと言えるだろう。


 “二つ名持ち(ダブルネームド)ユニーク”。


 それは、黒竜の森全域に名を轟かせる6人の強者達。

 彼等はその力と影響力から、森に住まう魔物達から広く周知されており、“二つ名”で呼ばれる様になった魔物達だ。


 神に与えられた“名前ネーム”。そして、魔物達が認めた“二つ名”。


 その二つの名前を持って、“二つ名持ち(ダブルネームド)ユニーク”と呼ばれているのだ。


「……そして、必死になってここまで逃げて来たのです。村長殿、受け入れて下さって本当にありがとうございます」


 そう言って深く頭を下げるノクト。村長はそれに応え、顔を上げる様に伝えていた。しかし、その表情は明るく無い。


「……これで確定ですな。やはり敵は黒南風でしたか……」


 そう言って項垂れる村長。その様子を見てジャスティスが声を出した。


「なぁ、“黒南風”ってそんなにヤバい奴なのか?」


 ……そういえば、ネズミ達が村長に報告した時、ジャスティスはその場に居なかったな……。


 すっかり失念していた事を思い出した私だったが、疑問符を浮かべたままのジャスティスに、自警団長が答えた。


「……“黒南風のマダム・アペティ”。4mを優に超える巨躯と、豊富な知識。そして破城槌と揶揄される程の剛腕を持つ、()()()のオークキングです。黒竜の森に住むオーク達の中でも最強とされており、従えるオーク達も3000に届くと言われています」


「……オカマ……だと……!?」


 ジャスティスが凄い顔をしている。いや、そこに食い付くな。3000の方に食い付け。


「奴は“魔王降誕”にすら手が届くと言われている強者です。そんな奴が、まさかこんな魔力濃度の低い村を狙うとは思ってもみませんでした……」


「……“魔王降誕”とは?」


 そう口にしたのは私だ。そのワードは初めて聞いた。


「“魔王”と言う、特殊なクラスを手にする為の儀式です。“黒竜の塔”と呼ばれる、森の中心にあるダンジョンで、試練を乗り越えた者だけが手に出来ると言われる非常に強力なクラスなのだとか。ただ、現在は六人の“二つ名持ち(ダブルネームド)ユニーク”達が互いに牽制し合っている為、黒竜の塔には近付く事も容易ではないと言われています」


 ……随分と中二病な設定である。


「んで、その魔王降誕と、この村を狙っている理由が合致しないのは何故だ?別に魔王降誕を目指してても、村を狙わない理由にはならないんじゃねぇか?」


「それは単純な効率の問題です。魔物は強くなれば強く成る程、成長や進化の為に必要な魔力量が増えて行きます。“二つ名持ち(ダブルネームド)ユニーク”程の強者達なら、こんな浅い場所よりも深層で狩りをした方が圧倒的に効率が良い筈です。それに今回の場合に於いては、黒南風本人まで出張って来ています。他の五人の牽制を放棄してまでこんな小さな村を狙うのは、明らかにデメリットの方が目立つかと……」


「……成る程、よく分かった」


 そう言って頷くジャスティス。

 確かに、その条件なら黒南風にノートの村を狙う事にメリットは無い様に思える。


 しかし、()()()()()()としたら、その限りでは無いだろう。


「……つまり、黒南風がこの村を狙うのは、“他の五人を牽制する必要が無くなった”のか……」


「“()()()()()()”か、だな」


 私達がそう言うと、その場に居た全員が静まりかえった。

 どちらの理由にせよ、戦いを回避する事は出来無いのだから。


 私は話を切り替える為、再び口を開いた。


「……この話はここまでにしましょう。結論の出る話ではありませんしね……。さて、ノクト殿に質問したい事があるのですが、よろしいですか?」


「……ええ、何なりと」


 そう言って力なく頷くノクト。私は、()()()()()()()を質問した。


「貴方は“ユニークネームド”ですか?」


「……い、いえ。この名は村の代表が便宜的に名乗っている名前です。村の創始者がノクトというユニークネームドだった事に由来するとか……」


「ありがとうございます。では、次の質問なのですが、ノクト殿を始めとした生き残りの方々は、“遠視”、もしくは、“隠密”に特化したスキル構成ですか?」


「い、いえ……。隠密が使える者は何人か居ますが、特化したとまでは言えません。それに、遠視のスキルに関しては誰も持ってはいません……」


 私の質問に、戸惑いながら答えるノクト。他のゴブリン達も、困惑しながら様子を伺っている。


「……実は先頃、私達の眷族も、“黒南風”を遠巻きながら確認した事があったのです。その時は隠密を使用していたのですが、()()()()()()()()()()。……遠視も隠密も無く、ユニークネームドとしての能力も無いのなら、どうして貴方達は見つからなかったのですか?」


「「!?」」


 ゴブリン達の顔に驚愕が浮かぶ。


 そう、私が気になっていた事は、彼等が()()()()()()()()()()()()()()

 少なくとも、目視出来る範囲に居たのなら、黒南風に気付かれていてもおかしくは無い。

 まぁ、勿論偶然気付かれていなかった可能性も有れば、些細な事として目溢しされた可能性もあるのだが。


 杞憂ならそれで良いと思ったが、次の瞬間ー


「う、うオォォォォォォオォォッッッ!!」


 ノクトが声を張り上げ、私に向かい飛び掛かって来た。


 しかし、私へと辿り着く前に、ジャスティスに取り抑えられる。


「は、離せ!!離してくれッッ!!俺はコイツを殺さなければならないんだッッ!!そうしなければ、村のみんなが……!」


 そう言って必死に暴れるノクト。


「……どうする?殺すか?」


「……いや、必要無い」


 私はノクトを尻尾で気絶させると、そのまま異次元胃袋に収容した。


「も、申し訳ありません、トカゲ殿。ま、まさかノクトがこの様な真似をするとは……!」

 

 そう言って村長が頭を下げるが、私は直ぐに顔を上げる様に告げた。


「……気になさらないでください村長殿。恐らく、彼は支配(ドミネイト)と呼ばれるスキルの影響下にあります。具体的な効果や条件は分かりませんが、対象の言動や行動を制御するタイプのスキルです。そして、彼の口振りから察するに、村の住民を人質に取られているのでしょう。彼の立場から言えば、先程の行動も無理からぬ事です」


「……トカゲ殿……」


 そう言って顔を上げる村長。

 

 私もノクトと同じ立場なら、間違いなく同じ行動をしていた。だから彼に恨みは無いし、責めるつもりもない。

 ……だが、残念ながら彼の“人質”が生きている可能性は極めて低いだろう……。


「……しかし、ココの村の生き残りの方々には、先程と同じ対処をさせて頂きます。ここから先は、我々の群れと、ノートの村の面々で進めて行きましょう」


 そう言うと、騒めきながらも頷くゴブリン達。

 しかしそんな中、一人の壮年のゴブリンが、おずおずと手を上げた。


「どうしたんじゃ?何かあるのか?」


「お、オーク達に降伏した方が良いんじゃないか……?」


 それを聞いたゴブリン達の表情が変わる。

 しかし、その表情は一様と言う訳では無く、此方の様子を怯えながら伺う者も居れば、壮年のゴブリンを睨みつける者も居る。


 先程の彼の言葉に、みな思う所があるのだろう。


「何をふざけた事を言っておる!!この村の為に協力を申し出て下さったトカゲ殿達に対してどれだけ無礼な物言いか分からんのかッッ!!」


 そう言って激昂したのは村長だ。

 今にも飛び掛からんとするその勢いに、壮年のゴブリンは慌てふためく。


「ひっ!で、でも村長!ワシらじゃ逆立ちしたって3000匹も居るオーク達に勝てる筈が無い!無残に殺されるだけじゃ!そ、それに、そいつらだって信用出来るもんか!!オーク達との戦いが終わったら、用済みになったワシらを殺すかも知れんじゃろ!!」


「なんだとテメェ!どうやら死にたいみてぇだな!!」


「ひっ!ヒィィぃぃぃ!?」


「よせ!ジャスティスッッ!!」


 私の言葉に動きを止めるジャスティス。壮年のゴブリンは激しく嗚咽を漏らしながら、飛び出す様に農具小屋から出て行った。


「……度重なる無礼、本当に申し訳ありません。トカゲ殿。あの者にはキツく申し付けます故、どうかご容赦を……」

 

 そう言って深く頭を下げる村長。ゴブリン達も、何とも言えない顔で此方を見ている。


「……安心して下さい。先程の事で彼を殺したりはしませんよ。……まぁ、あの様子だと、()()()()()()()()叱り付けた事は、理解出来ていないでしょうがね……」


 私がそう言うと、村長はばつが悪そうな顔を浮かべた。

 

「……どうやら皆さんの中にも迷いがある御様子。今日はここまでにしましょう」


 私はそう言って、この場を解散する事にした。




ーーーーーー

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