“クラス”とは。
ーーーーーー
〜3日後〜
ーーーーーー
『“ハウンド1”より“指令官”へ。敵、オーク小隊目標地点に到達』
「了解、ハウンド1。ハウンド3、攻撃を許可するゴリ」
『“了解”』
その掛け声と共に、4つの黒い影が、5匹のオーク達に飛び出す。
「敵襲だッッ!!捻り潰せ!!」
応戦を試みるオーク達だが、その素早い動きに翻弄され、隊列を乱していた。
……そろそろ頃合いだな。
「!?」
オーク達の顔が恐怖に歪む。
轟音と共に、彼等の背後に巨大な魔物が現れたのだ。
体高約2m70㎝。全身は黒く光沢のある金属で覆われており、その鋭利な外見は狩猟者の風格を漂わす。
──そう、この私だ。
「こ、“黒鉄”だ!!撤退!!撤退しろッッ!!」
そう言って逃げ出そうとするオーク達だが、それは叶わない。
逃げ出そうとする彼等の足首を、先程の黒い影達が切り裂いたのだ。
「グギャァアッッ!?」
悲鳴を上げるオーク達。
私はゆっくりと彼等に近づくと、“質問”を開始する。
「……さあ、私の質問に、“はい”とだけ答えろ……」
ーーーーーー
「良くやった。大分様になって来たな」
「「ハッ!!」」
そう言って敬礼をする先程の黒い影達。
体長は約1.5m程で、全身を黒く艶の無い体毛が覆っている。
“スニーキングフェレット”。
彼等は隠密系統と、奇襲攻撃に特化したスキルを持った種族。そう、ハウンドビーバー達が進化した姿なのだ。
サイコパスの暮石を作った明くる朝、目覚めてみると、妹達を除く群の全員が再び進化していたのだ。
この進化のタイミングが今一分からないのだが、恐らくは一定の経験値と、個々の意思が関係している様に思える。まぁ、根拠は無いのだが。
そして、群の中には特殊な進化を遂げた個体も居た。
「王様の御指導あっての事です!!いっそうの忠誠を誓います!ゴリ!」
そう言って私に頭を下げるネズミ。体長はこれまでと変わらないが、何故か軍服に身を包んでいる。この軍服が何処から出たのかは、本人にも分からないらしい。
“コマンダーマウス”
指揮能力に特化した種族だ。
口調から分かる様に、進化したのはあの時私を運んだネズミ……新たに名を与えた“ゴリ”だ。因みに私が彼の語尾に突っ込みを入れる事はこの先も無いだろう。
ゴリの他のネズミ達は、全員が“チューナーラット”と呼ばれる種族に進化していた。
チューナーラットは情報の相互伝達に特化したスキル構成をしており、“視覚共有”を初めとする極めて利便性の高いスキルを持っている。
ゴリは彼等が集めた情報を処理し、スニーキングフェレット達に的確な指示を出す事で、類い稀な指揮官となっていた。
はっきり言って、その指揮能力は私等歯牙にもかけない程だろう。
そうして群としての力が高まった私達は、こうしてオーク達を狩り始めた。
初めの頃は慣れておらず、手間取る事も多かったが、経験を積むにつれてその練度は高まって行き、今では“熟練”と枕言葉を付けても良い程の力量だ。
そして、狩りが成功する度にオーク達から能力値を継承させており、現在の群の戦闘能力は、極めて高いと言える。
私は自分の能力も確認すべく、久々にステータスを開いた。
ーーーーーーーーーーーー
ステータス
種族:“ダークメタル・レイザーテイルドタガーラプター”
種族概要:強靭な脚部と、伸縮性に富んだ尻尾。更に堅牢な金属の外殻を兼ね備えた、ラプトル系最強種の一角。
ラプトル系の中で最高の物理ステータスを持ち、その脅威度と希少性は極めて高い。
また、個体の特性として魔眼と竜の因子を兼ね備え、同個体は同種族の中でも最強の個体である。
スキル:ユニークスキル:“継承LV8”
:オリジンスキル:“真実の絆LV15”
:EXスキル:“コカトリスの魔眼LV11”、“異次元胃袋LV12”、“王の器LV18”、“鋼龍の因子LV3”
:ノーマルスキル:“暗視LV25”、“しっぽ切りSPLV10”、“強化嗅覚LV15”、“金剛硬皮LV28”、“猛毒耐性LV35”、“中位再生能力LV18”、“強化魔法適正LV8”、“雷撃魔法耐性LV26”、“雷撃魔法適正LV12”、“尾技適正SP LV18”、“脚技適正SP LV11”
ーーーーーーーーーーーー
……随分と強くなった気がする。蜘蛛から逃げ回った頃とは次元が違う強さだろう。
今回新たに追加されたスキルには、スキルの末尾に“SP”と付く物が多かった。
このSP系のスキルは、そのまま同スキルの上位版であり、検証の必要はあるが、説明の必要は無さそうだ。
そして、今回の進化で最も気になるスキルは間違いなくこれ。
“鋼龍の因子”だ。
このスキルは、各種ステータスへの補正能力と、“竜の息吹”を代表とした攻撃スキルとの複合スキルだ。
“鋼龍”と名のつくスキルらしく、物理方面の強化に特化しており、竜の息吹も金属片を飛ばすという物理的な攻撃能力だった。
……ここまで進化すると、おおよそ進化の道筋に予想が付く。恐らく私はこのまま物理方面に特化した種族となるのだろう。
ジャスティスの種族である“サン・ビーバー”は、物理と魔法の両方に長じたバランスタイプの種族だ。
物理面では確かに私の方が強いが、近距離からも遠距離からも戦闘が可能なその凡庸性能は極めて高水準で、有利不利の発生が殆ど無い。
多様性が求められる野生の世界では、私よりも優れた能力と言えるだろう。
そしてもう一人。忘れてはならない人も進化していた。
「こんな所に居たのね、坊や達。村に帰るわよ?村長達が待ってるわ」
そう言って現れたのは、体長15m、体高1.2mの巨大なヤスデ。
そう、ヤスデ姉さんこと、“メガデスミラピード”へと進化した、ヤスデ姉さんだ。
メガデスミラピードは、かなりピーキーな種族だ。
全体的なステータスは、HPや、STR(物理干渉力)、DF(物理防御力)がかなり高いのだが、スキル関係は毒や麻痺、ステータス降下などのデバフに特化しており、変則的な戦い方が求められる。
そして、そんなヤスデ姉さんを更にピーキーにしている点がもう一つある。
姉さんが獲得した、“守護者”と言うクラスだ。
“クラス”とは、種族とは別にスキルやステータス補正等が獲得出来る、謂わば外付けのスキルツリーだ。
このクラスが持つスキルは、種族に依存せず独立性の高いものになっている。
姉さんが獲得した守護者と言うクラスも、メガデスミラピードと言う種族からはかけ離れたスキル構成になっており、“ガードウォール”や、“ディフェンス”等の広域防御スキル。
そして、“DF強化”等の防御強化系のスキルを多く持っており、結果、姉さんは相手の能力値を下げ、自軍の防御と強化を行えると言う、かなりピーキーな存在になっていた。
まぁ、なんというか、ピーキーではあるが、ある種のコンセプトデザインは完成しているとも言えるのだが。
「……何してるの?早く行くわよ?」
「ああ、了解だ姉さん。でも、わざわざ呼びに来なくても、遠距離会話で呼んでくれたら良かったのに」
「ふふ。貴方に言われた通り、あのスキルの練習をしてたのよ。呼びに来たのは“ついで”だわ」
そう言って笑う姉さん。私達は、彼女に付き従い、その場を離れた。
ーーーーーーーーー