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暗殺者

ーーーーーー



「見ての通りだ!このトカゲは愚かにも我等が王の慈悲を無碍にした!!皆の者、殺せッッッ!!」


 そう叫ぶオーク。

 それに呼応して、周囲を囲んでいた奴の部下達が一斉に動き出した。

 奴の口振りから察するに、奴等の王とやらは()()()私達を仲間に引き込みたかったらしい。

 しかし、まぁ、このオークはそれを望んでいなかった様だが。


 私は素早く振り返り、姉さんに声をかけた。


『姉さんッッッ!!』


『ええ!“毒霧(ポイズンミスト)”!!』


 瞬間、周囲は紫煙の毒に包まれる。

 奴との会話の間にインターバル時間が終わっていたのだ。


 直ぐ様部下達を下げさせるオークだが、一定の距離を保ち、包囲を解く事は無い。毒霧が引いた頃に再び切り込み、姉さんを仕止めるつもりなのだろう。


 だが、()()()()()()


『“異次元胃袋”』


 私は煙に包まれたまま、姉さんとネズミを胃袋へと収容する。

 そう、この毒霧は姉さん達を回収する為の目眩しに過ぎないのだ。


 そして、私が奴等に対する()()()を終わらせて直ぐ、キューから遠距離会話で連絡が入った。


『にぃに!キュー達はどうしたら良い!?』


 姉さんが放った毒霧で此方の様子が分からなくなり、困惑したのだろう。


 私は落ち着かせる為に、なるべく穏やかな声を掛ける。

 

『……そのまま逃げてくれ。オーク達は私が片付けるから、なるべく遠くに逃げるんだ。後で迎えに行く』


『クク達も、戦いたい……でも、足手まといなのね……?』


『……』


 そう言われて、私は思わず黙ってしまう。

 ククの言う事は正にその通りなのだが、それを肯定する言葉を出す事に抵抗があったのだ。


『……帰ったら、沢山グルーミングしてね?』


『……ああ、嫌がっても辞めないからな?』


『早く迎えに来てね!』


 それを最後に連絡が切れる。恐らく500m以上離れたのだろう。

 やがて毒霧が霧散し、視界が戻ってくると、オーク達の困惑の声が聞こえた。


「将軍!奴等が居ません!」


「恐らく隠密だ!!探知系のスキルを使えッ!!」


 将軍と呼ばれたあのオークの指示に従い、部下達がスキルを発動させる。

 しかし残念ながら、それは()()だ。


『“レイジングテイル”!!』


 私は素早くスキルを発動させ、近くに居たオークの首を打ち据える。

 グシャリと何かがひしゃげる様な音と共に、オークは地面へと倒れた。


「……なんだと!?」


 将軍の顔に驚愕が浮かぶ。


 その視界の先には、()()()()()()尻尾を打ち据えた、私の姿があった。


 強化された能力値を持ち、そしてトカゲである私にとって、ここは全方位に床が在るに等しい。

 私は姉さん達を回収して直ぐに天井へと飛び跳ね、爪を立てて機会を伺っていたのだ。

 

 慌ててすぐ横に居たオークが、私を目掛けて拳を振り上げるが、私はそれを回避して奴等の攻撃が届かない高さまで移動する。


「チッッッ!!投擲武器を使えッ!一斉にではなく、半数に別れて交互にだッ!!」


 再び指示を出す将軍。

 中々的確な指示だ。確かに交互に間断無く攻撃されれば、天井に張り付いたトカゲなど、マトにしかならないだろう。


 だが、それはあくまでも“私が天井に張り付いたままだったら”の話でしかない。


 私は目を閉じ、()を使用する。


『“閃光フラッシュ”』


「グガァァァッッッ!?」


 眩い光に、目を押さえて転げるオーク達。

 

 “閃光フラッシュ”は、文字通り閃光を放つ雷撃魔法だ。

 確かに私は魔法に対する適性は低いが、あのオークから継承したMAT(魔法干渉力)が有れば、充分に牽制には使える。


 私はそのまま飛び降り、強化魔法を使用して悶え続ける5匹のオーク達に続け様に尻尾を打ち込む。

 慌てて駆け寄るオーク達だが、しかし彼等の仲間はもう動く事は無いだろう。


 私は彼等と距離を置き、再び向き直った。


「つ、強い……!」


「何で雷撃魔法が使える!?奴はリザード系の魔物じゃないのか!?」


 口々に困惑の声を上げるオーク達。その目には恐怖も浮かんでいた。


 ……残りは後7匹か。思ったよりも数が少ないのは、恐らく姉さんのおかげだろう。


「……お前達、下がれ。どうやらお前達の手には終えない相手らしい」


 そう言って部下達を下げさせると、将軍が再び私の前に立った。


「……貴様に無能と言った事は取り消そう。どうだ?正々堂々、俺と貴様とで一対一の決闘と行かないか?」


 そう言って私をじっと見つめる将軍。

 確かにこれ以上乱戦を続けても、私は無駄に消耗するだけだろうし、奴にとってもイタズラに配下を死なせる結果になるだろう。


 私は奴に向き直り、ゆっくりと尻尾を構える。


「フフフ、同意と受け取って良いのだな?では、行くぞ!!」


 そう言って奴は私に向かい、手斧を構える。

 スーヤ達を襲ったオーク程では無いが、その威圧感は十二分に脅威を感じさせた。


「“重強化マハブースト”!!」


『“多重強化デュアルマハブースト”!!』


 私達は互いに強化魔法を使用し、距離を詰める。


『“レイジングテイル”!!』


「“斬撃スラッシュ”!!」


 互いに繰り出した攻撃スキルは、互いの攻撃を打ち消して収束する。

 しかし、今の様子から察するに、奴の方が地力は上の様だ。


「フハハ!どうやら俺の方がステータスが高そうだな!貴様は強いが、位階の壁を越えるには些か足りぬ様だ!!」


 そう言って笑う将軍。

 私は再び距離を詰め、その顔を目掛けて尻尾を振り抜く。

 が、奴は上体を逸らしてそれを躱すと、掬い上げる様に手斧を振るった。


『“金剛皮ダイヤモンドスキン”!!』


 硬質な音と共に、私は後方へと弾き飛ばされる。

 ダメージは無いが、中々の衝撃だった。

 追撃の為に距離を詰める将軍だが、私は壁へと駆け上がり態勢を立て直す。


「……チッ!随分と小賢しい奴だな。正々堂々と言わなかったか?」


 軽く首を振り、悪態を吐く将軍。

 好きに言え。自分の手札を使って何が悪い。


 私は距離を空けて地面へと降りると、再び強化魔法を使用して駆け出す。


『“多重強化デュアルマハブースト”!!』


「チッ!“重強化マハブースト”!!」


 舌打ちしつつも、自身も強化魔法を使用して迎撃の構えを見せる将軍。


 その両目はしっかりと()()()、私の動きを追っていた。


 ()()()()


『“閃光フラッシュ”!!』


「グガァァァッ!?」


 両目を抑えて悶える将軍。迎撃の為に私を注視していたその目に、閃光が叩き込まれたのだ。


 いける!!


 私はそのまま距離を詰め、奴の首を目掛けスキルを発動させた。


『“レイジングテイル”!!』


 加速して将軍へと迫る一撃。これで決着と行くかは分からないが、間違いなく勝負の天秤は私へと傾くだろう。


 ──しかし、私の尻尾が奴に届く事は無かった。


『グハッ……!!』


 私は、口から血を吐き出す。


 余りの痛みに視界が揺らいだ。

 何が起きたか分からない。何故私がこれ程のダメージを受けた?

 困惑する私だったが、その答えはゆっくりと姿を見せた。


「……“暗殺者の一撃(アサシンズエッジ)”」


 そう言って現れたのは、黒衣に身を包んだ一匹のオーク。

 その手には、()()()()()()()、一筋の刃が握られていた。



ーーーーーー

 


 

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