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閑話

ーーーーーー



「で、どう言う事だよ村長。俺を当て馬に使ったって」


 そう言うと少年は村長へと詰め寄る。自分の意図しない所で、粗雑に扱われていた事に怒りを感じていたのだ。


 それを聞いた村長は、自分の額を押さえると、軽く首を振った。


「……煩いのぅ。そんな何度も言わなくても聞こえとるわい。そのままの意味じゃ。あのトカゲの言う通り、先程の交渉を上手く進めたかったんじゃ」


 そう言って少年を嗜めようとする村長だったが、しかし少年の言葉に賛同する声が上がる。


「……私も聞いておりませんでしたよ。村長。それに、交渉を有利に進めるどころか、交渉の席に着いて貰う事すら危うくなる所だったでは有りませんか。きちんと説明して下さい」


「むぅ……」


 自警団長は村長を睨み付ける。

 あの時、村長のとった対応は、あのトカゲの言う通り、決して好意的に取れる内容では無い。

 当て馬に使うにしても、あれでは只イタズラにトカゲ達の不興を買うだけで、決して交渉が有利になるとは思えなかったのだ。

 

 スーヤはそんな彼等の様子を見て、村長を庇う様に声を出す。


「ご、ごめんなさい!!私がみんなに言えなかったから……。私は村長から指示を受けていたのに……」


「お、お前は悪くねぇよ!!言える様なタイミングは無かったし、村長が命令してたんだから!」


 トカゲ達が帰った後、狩人達を治療したスーヤ達は、再び集まりこうして話をしていた。

 今後の方針と対策を話し合うべく集まった彼等だったが、やはり最初に上がって来るのは、交渉を怪しくした村長への批難だった。


 村長は口髭に手を伸ばすと、深い溜め息を吐いて続けた。


「……すまんかった。あの者があそこまでのきれ者だとは想像出来んかったのじゃ。本来なら、若いユニークネームドとは知識が有っても経験は少ないものなのじゃ。じゃからこそ、小僧が彼奴を叱責した時。儂が小僧を抑えて場を収め、オーク達の危険性を彼奴等に諭すつもりだったんじゃよ。そうすれば、少なくとも話は聞いて貰える。上手く行けば此方が優位に立てると、そう踏んだんじゃ」


 それを聞いた自警団長の表情は少しだけ緩む。少なくとも、無為に村長が悪手を打った訳では無いと理解出来た為だ。


「礼に関して口にせんかったのもその為じゃ。若く、そして能力の高いユニークネームドは相応に気位も高くなりがちなんじゃ。そんな相手に迂闊に下手に出れば、逆に無理な要求をされるかも知れんかった。……しかしまぁ、結果はあの様じゃ。此方の意図は全て読まれて、打つ手も無くなってしもうたわ……。小僧にも悪い事をした。すまなんだな」


 そう言って頭を下げる村長。その様子を見た少年は、何かを言おうとしたがそのまま飲み込んだ。

 年嵩で傲慢だと思っていた村長が、自分に頭を下げるとは思いもしなかったのだ。


 村長はゆっくり頭を戻すと、再び口髭に手を伸ばす。


「……全く何者じゃ?あのトカゲは。まるで生き馬の目を抜く商人を相手にしとる様じゃった。あの位階からは考えられん程に頭が切れよる。並みのユニークネームドとは思えん」


 それを聞いたスーヤが、おずおずと村長へと疑問をぶつける。


「あの、村長。念話でも伝えましたが、トカゲ様はユニークネームドでは無く、普通の魔物だとお聞きしたのですが……」


 それを聞いた自警団長と少年は目を見開く。


 “念話”のスキルは、“真実の絆”の副次効果である“遠距離会話”とほぼ同性質のスキルだ。

 同一スキル所持者間で、かつ一定の範囲内でしかやりとりは出来ず、少年と自警団長がこの事を聞いたのはこれが初めてだった。


 しかし、スーヤの言葉を聞いた村長は、軽く鼻を鳴らす。


「ふん、そんな訳なかろう。我々の様な“亜人型デミヒューマンタイプ”の魔物や、あのビーバーの様な“人獣型ワイルドハーフタイプ”の魔物ならまだ可能性はあるが、あれは完全な“獣型ビーストタイプ”の魔物じゃ。あの位階ではあれ程の知能を持つ事は出来ん。おおかた、自分の情報を少しでも隠したかったんじゃろう」


 獣型ビーストタイプの魔物は、他の魔物と違い知性への恩恵が少ないとされる。確かに最上位である竜族や、星狼族、賢馬族等は高い知性を持っているが、あのトカゲの様なリザード族がそんな知性を持つ等考えられない。


 しかし、それを聞いたスーヤは内診納得がいっていなかった。

 ジャスティスがスーヤに、トカゲがユニークネームドでは無いと伝えた時、トカゲはかなり困惑していた。

 あれは、バラされたくない自分の秘密をバラされた様な、そんな戸惑いを感じる仕草だったのだ。

 スーヤにはあれが演技とはとても思えなかった。

 

 しかし、そんな事を伝えても村長は納得しない事を彼女は知っている。

 小さく、そうですか。と伝えて口を閉ざす事にした。

 

「にしても、ユニークネームドって、本当にそんな化け物みたいに強いのかよ?あのトカゲ達が戦ってる所は見たけど、親父と比べてもそこまで差がある様には見えなかったぞ?」


 少年はそう言って村長に問い掛ける。


 彼が見たトカゲ達の戦闘は、二度の大技でも仕留め切れず、遠距離から魔法で畳み掛けると言う消極的な戦法だった。

 その様子は、自らの父と比べても差異があるとは思えなかったのだ。


「強い。間違いなくな。まだ位階が低いからそこまでの強さは無いのだろうが、同位階なら間違いなく自警団長に勝ち目はない。神々が名を与えるとは、それだけの事なのじゃ」


 それを聞いた少年は少しだけムッとした顔をした。

 少年にとって、父親は知り得る限り最強の狩人で、彼の誇りだった。そんな父をして、“勝ち目が無い”と言われるのは些か気に触る内容だった。


「でも、スーヤは全然強く無いぞ?同じ“ユニークネームド”なのに」


「そりゃそうじゃ。スーヤは調薬神マイママイマ様より恩寵を与えられた生粋の“生産系”。戦闘系のあの二匹とは全く違う」


 ふーん、と、少年はそう言って話をやめた。村長の話は理解したが、納得はしていない。そんな様子だ。


「……しかし、あのオークを従える存在とは一体どのような存在なのでしょうか?あれの身のこなしは、力だけに頼る様な愚か者とは違いました。並大抵の猛者とは思えません」


「ふむ……」


 自警団長の言葉に、再び口髭に手を伸ばす村長。

 そして、考えがまとまったのか、ゆっくりと口を開く。


「心当たりがない訳では無いが……。いや、奴とはとても思えん。そのオークのブラフと言う線も捨てがたいな」


「ブラフですか?」


「うむ。“オークキング”のむれでは、“マーカス”は“キング”へと進化出来ん。進化する為には、マーカス自らキングを倒さねばならんのじゃ。じゃが、稀にキングに敵わないと理解して群から離れるマーカスも居る。そういったマーカスは、新たな群を欲して彷徨う事が有るのじゃが、そういった個体がこの村を狙っていると考えれば、配下が居らんかった理由も説明出来る」


「なるほど……」


 そう言って自警団長は頷く。村長の説明した理由は、確かに納得がいくものだった。


「じゃあ、“心当たり”ってのは何なんだ?」


 少年が身を乗り出す。村長が言い澱んだ存在が気になったのだ。


「いや、所詮は心当たり程度じゃ。頭によぎりはしたが、あれ程の者がこんな外周部に出て来る訳が無い。まぁ、そのマーカスが奴のむれからはぐれたと言うのならば、それは納得出来る」


「奴?」


「うむ。この黒竜の森に於いて、最大の眷属を従えるオークキング。“黒南風”マダム・アペティじゃ。まぁ、言っては見たが、黒南風は“魔王降誕”にすら手が届く程の強者。わざわざ位階の低い魔物しかいないこんな田舎には来んわい」


 そう言って村長は、再び口髭を撫でた。



ーーーーーー

 

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