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“メガラニカ・インゴグニカ”



 私は、目の前のゴブリンを改めて見てみる。


 緑の肌、両サイドに申し訳程度に生えた髪、鷲の様な尖った鼻に、ヤギの瞳の様に横向きに伸びた瞳孔。

 着ている服は、チェックの入った民族衣装で、よく見たらスカートを履いている……。


『オエッ……』


 いかん。思い出してしまった。


「大丈夫ですか?お加減がよろしく無い様ですが」


 礼儀は正しいようだ。

 君の裸を想像して吐き気を催したとは流石に言えない。


「私はノートの村の娘で、スーヤ・スーヤと言います。危ない所を助けていただき、ありがとうございました」


 そう言って再び頭を下げるゴブリン。いや、名前が分かった以上、スーヤと呼ぶべきか。

 しかし、“村の娘”と言う以上、この周辺に村があるという事だと思うのだが、そんな物は見た事が無い。

 満遍なく調べた訳では無いが、一応この周辺も回っていた筈なのだが……。


「いや、別にいいさ。俺たちとしても年頃のお嬢ちゃんが酷い目に合う所なんて見たく無いしな」


「あ……はい……」


 そう言ったスーヤは顔を赤らめ、下を見る。やはりゴブリンとは言え、裸を見られたりするのは嫌な様だ。


 スーヤは再び顔を起こし、私とジャスティスに交互に視線をやると意を決したように続ける。


「不躾なお願いだとは思うのですが、私達と一緒に村に来て頂けないでしょうか?先程のオークとの戦いで、怪我人が多く出てしまっています。私一人では、とてもではありませんが怪我人を連れてこの森から出る事は叶いません。それに、一刻も早く治療しないと命に関わる場合もあるかも知れません。どうかお願いします」


 スーヤはそう言って頭を下げる。

 うーむ。難しい問題だな……。


 正直に言えば、彼等の村には興味がある。着ている服や武器を見ればそれなりの規模の村がある事は見て取れるし、情報も欲しい。


 しかし、逆に言えばそんな全く情報の無い村に自ら飛び込む訳である。

 無いとは思うが、彼女が我々を騙していた場合、上手く逃げ切れるか判断出来ない。


 私がそんな風に考えていると、ジャスティスが前に出てスーヤの手を取った。


「おっけー!行く行く!!じゃあ、さっさと怪我人拾って行こうぜ!」


『!?』


「あ、あ、あの!!手、手が……!!」


「ああ、悪い。嫌だったか?ついつい掴んじまった」


「べ、別にその、嫌では……」


『グワッガ!!』


 私は思わずジャスティスを怒鳴りつけた。


『何を考えている!?奴等の罠だったらどうする!!もう少し慎重に判断しろ!!』


 しかし、怒鳴られた筈のジャスティスは何処吹く風で、私だけに聞こえる様に話し掛けて来た。


「いいじゃねぇか。どうせコイツらの巣は確認する必要がある。それに、基本方針は味方をする方向で決まってただろう?あのオークが言ってた“我が君”って奴の事も気になるし、行かない手は無いじゃねぇか。慎重なのも良いけど、慎重過ぎて機会を逃すのも馬鹿らしいだろ?」


『グワッガ……』


 正論ではある。私も結局はそう結論を出していただろうとは思う。


 ……が、奴の狙いは違う。


『お前……“村”が見てみたいんだろ。森の中で生まれて、知識でしか知らないから』


「……さぁ、さっさと行こうぜ!!行かないなら置いてくぞ」


「あ、あの、また手が……!!」


 この野郎……!



ーーーーーーー



「そうなんですか!じゃあ、トカゲ様はユニークネームドでは無いのですね!?」


「そうそう。俺様も最初聞いた時はビビったぜ。こんだけ頭良いのにユニークネームドじゃねぇとは思わなかったからな」


『グワッガ……』


 この野郎……いらない事をベラベラと……。

 

 怪我人を回収した私達は、あれから森の中を歩いている。

 その間ずっとスーヤとジャスティスは喋りながら歩いており、大分打ち解けて来ていた。


 因みに怪我人は全員、異次元胃袋に収めている。

 あそこに入れておけば持ち運びは楽だし、容体の悪化も防げる。


 初めは胃袋を使用する様子を見て、“一体何をするんですか!?みんなは何処に!?”と怒っていたスーヤだが、一度リバースして見せたら納得をしてくれた。


 ……まぁ、これで()()()()()()()()()()()()()が確保出来た訳だ。疑う所までは良かったが、まだまだ甘い。


 しかし、そんなスーヤもただただ人を信じる愚か者では無い様だ。

 ジャスティスは気付いていないが、巧妙に村の位置を誤魔化している。

 徐々に角度を変えて移動する事で、村への行き方を分からなくしているのだ。


 まぁ、生憎と私は太陽の位置を確認しており、意味は無いのだが、信用出来ないのは向こうも同じなのだろう。


 しかし、そんな腹の内を除けば今回の接触はジャスティスの言う通りメリットが大きかった。

 こうして雑談しているだけでも、今まで知らなかった事がかなり分かって来た。


 先ず、我々の住んでいる森が、“黒竜の森”と呼ばれる森林地帯で、複数個のダンジョンを内包した“魔窟”と呼ばれる存在だと言う事。

 会話の途中で出て来た話の為、詳しくは聞けていないが、魔窟とは文字通り魔物の大量生息地の事らしく、黒竜の森はこの大陸では最大の魔窟らしい。


 次にこの大陸に住んでいる住人の大半が、人間では無いと言う事。


 この大陸は、“メガラニカ・インゴグニカ”と呼ばれており、“住人”と呼べる文化圏を形成している知性体の殆どが、魔窟から巣立った魔物達か、その子孫なのだそうだ。


 ただ、巣立った魔物達の中には、その強大な力で別大陸へ進出し、暴れ回っている者も少なくは無く、他の大陸からは“暗黒大陸”だの、“魔界”だのと呼ばれているらしい。


 まぁ、別大陸からも資源目当ての侵略等があるらしく、そこはお互い様なのだとスーヤは言っていた。


「ここです。ここが村の入り口です」


 スーヤがそう言って立ち止まったのは、森から少し外れた草原だった。

 直ぐ近くには川が流れているが、それ以外は何の変哲も無い草原にしか見えない。


「……ここが?ただの草原じゃねぇか」


 ジャスティスがそう言う。

 さっきまで一度も見た事が無い“村”に行けると思い、ハイテンションになっていたジャスティスだったが、露骨に不機嫌になっている。


「すいません。この村は高度な結界が張ってあって普通の方法だと認識出来ないんです。少し待って下さい」


 そう言うとスーヤは我々に背を向け、何か聞き取れない言葉を呟き始める。

 是非とも聞きたい所ではあるが、ここで不自然な動きは避けるべきだろう。


 スーヤが再び此方に向き直ると、最後に私達にも聞き取れる声で言葉を紡いだ。


「“我、この村の住人なり”」


「『!?』」


 次の瞬間、視界が暗転し、再び映った景色に私達は息を飲んだ。


「な……!?これが……!!」


 ジャスティスがそう言って言葉に詰まる。まぁ無理も無い。私もビックリしている。

 スーヤはそんな私達の様子を満足気に見たあと、ゆっくりとこう言った。


「ようこそ御二方。ここが“ノートの村”です」



ーーーーーー

気が付けば総合評価が500ポイントを超えておりました。

人間まだ出ない、主人公変態、相棒ビーバーのこんな小説ですが、これからもよろしくお願いします。

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