転生トカゲは異世界だろうと出世したい。
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「よし、もう行っていいぞ」
『え……?』
私の言葉に、ポカンとした表情を浮かべたオーク。
ふむ、どうやらきちんと聞こえなかったらしい。
「もう用は無いと言っているんだ。我々も上に確認を取らなければならないし、どうせ口を割ら無いのなら、これ以上拘束しても意味は無い」
『……!!』
オークの顔が驚愕に染まる。
まぁ、生きて帰れるとは思ってなかっただろうからな。
あれから私はこのオークから全ての能力値を限界まで継承した。
今まで進化前との体感の違いが強かったこの体だが、もうそれは感じられない。
恐らくは、あの頃も今と同様に上限に違い能力値を持っていたのだろう。
そして今回このオークで実験し、新たに分かった事がある。
それが、“能力値の種族上限”と“能力値の種族下限”だ。
前者は、オークのHPとSTR値を継承した時に、後者はMAT値を継承した時に、天の声から告げられた。
これは恐らく、各種族毎に能力値の下限と上限が設定されており、それ以上にも以下にもならない仕様なのだと思う。
私としては上限に関してはある程度予想していたのだが、下限に関しては予想外だった。
前者に関して私が予想出来ていた理由は、単純にどんな種族でも上限無しで強くなれるなら、この世界に“進化”と言う概念を組み込む必要性が無い為だ。
後者が予想出来なかったのは、恥ずかしながら携帯小説の影響である。
私の持つ“継承”の様な強奪系スキルは、大体対象者の全てを奪い去るのがベターだった為、この世界もそれが適応されると思い込んでいたのだ。
まぁ、考えてみれば神々の箱庭であるこのチェスボードで、そんなしょうもないバランス崩壊をさせていては、見ている神々も面白くないのだろう。
しかし、こうして能力値に限度が存在する事が発覚した以上、これから先の進化がどうなるのかはかなり重要になってくると思う。
恐らく、種族概要に書かれていた、“最強種”と言う肩書きは、こうした最大能力値の上下限で決まるものなのだろう。
個々人の資質を考慮せずに“最強”なんて枕言葉が付いていた時は、“やっぱり神々も厨二病要素好きなんだなぁ”と思っていたが、種族毎に能力値の限度が設定されているのなら、それも納得が出来る話だ。
『グワッガ……』
私はそう一鳴きする。
“継承”はまごう事無きチートスキルだ。
スキルを奪い、能力を奪い、上手く使えばこうして最大能力値まで容易く到達出来る。
しかし、スキルにも能力値にも上限が存在しているこの世界に於いては“無敵”の能力と言う訳では無い。
私よりも強い種族と戦えば、負ける可能性はいつまでも付き纏う事になる。
このオークにしてもそうだ。勝つ事は出来たが、余裕ある勝利とは決して言えなかった。
数十分第三者と戦わせ、不意打ちを入れ、覚醒解放を使い、毒を吐きかけ、遠距離から何度も何度も魔法を当てて、二人掛かりで脅す。
それでなんとか手に入れた勝利なのだ。
……私は妹達を愛している。
この身が擦り切れ、息絶えるとしても彼女達を守り続ける覚悟がある。
……まぁ、ついでだがジャスティスや配下達も。
しかし、その為には今のままでは駄目だ。
知識を蓄え、戦い続け、強くなり続ける必要がある。
生まれ変わって、捨てたつもりだったが、どうやら本質と言う物は変わらないらしい。
──私は、異世界だろうと出世したい。
『……後悔するぞ』
私がそんな事を考えていると、目の前のオークがそう言って立ち上がった。
どうやら逃げる事を決めた様だ。
思わずこのタイミングで、“やっぱりデストロイ!!”とか言ってしまいたくなるが、奴にはこのまま逃げ帰って貰わなければならない。
オークが少し離れた時、ジャスティスが小声で話し掛けて来た。
「追跡は指示しといたぞ。ネズミとビーバーの二人一組を2組。お前から貰った隠密を、スキル共有枠に変えさせてな。無理はしない様に、複数体のオークと合流したらその時点で撤収する様にも伝えといた」
『グワッガ!?』
私は思わずジャスティスの顔を見る。
どうやらコイツは私の意図を理解していた様だ。
そう、あのオークの口から情報が出なくても、奴が上位者へ接触を図るのは間違いない。
それが分かっているからこそ、わざと逃して配下達に追跡させるつもりだったのだ。
ジャスティスは、私を見てドヤ顔をしている。
『グワッガ……』
……正解だけど、つまんない。
ここはいつも通り、“オーク、ニガサナイ。オーク、コロス。オマエ、マチガテル”と言って欲しかった。
私がドヤ顔で“後を着けさせるんだ”って言いたかったのに……。
私がジャスティスとそんなやり取りをしていると、背後から声が聞こえた。
「……あ、あの……。助けて下さって、ありがとうございます」
そう言って深く頭を下げたゴブリン。
気を取り直し、コイツから情報を仕入れるとしよう。
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