ジャスティスの奇妙な冒険
「……さっさと服を着な。目に毒だぜ……」
「えっ……?」
そう言ってゴブリンに服を投げるジャスティス。
言ってるセリフは正に主人公のそれだが、此方に向いた彼の顔は苦渋に満ちている。
全く同意見だ。本当に毒だから早く服を着て欲しい。
そんな話をしていると、オークが立ち上がってジャスティスを睨み付けた。
『グブッッッ……ガハッ……!!き、貴様……!!何者だ!?何故この様な真似を……!!』
「俺様はジャスティス・ビーバー。“ケットシー・ビーバー”のジャスティスだ。何故かって?テメェの下衆な行いにゃあ吐き気がするからだよッッッ!!」
「……!」
カッコいいぞジャスティス!!
正にその通り。本気で吐き気がする。
しかし、決死の覚悟で服を脱いでいたゴブリンは、怒りのあまり顔を真っ赤にして俯いている。
まあ、仮にも雌な訳だから、吐き気なんて酷い言われ方したらそれも無理は無い事だが。
『殺してやるッッッ!!“怒りの……』
「“静電気”」
『!?』
激昂したオークが先程の一撃を発動させようとした時、ジャスティスの指先から生まれた小さな雷撃が奴を貫いた。
全くダメージは見受けられなかったが、何故かオークの技は発動しなくなっていた。
『ぬ……!?』
「ハッ!やっぱりな。テメェのそのスキル、直近に受けた攻撃のダメージ量も発動条件に入ってるだろ?だから俺様の静電気を受けたせいで不発になったんだ。ダメージと言えるダメージが無い技で、攻撃が上書きされる訳だからな」
『……!!』
なるほど、それを確認する為にあんな小技をわざわざ使ったのか。
……今一認めなく無いが、ジャスティスの野郎、賢いな。
ジャスティスの推察を聞き、たじろぐオーク。図星を突かれて困惑しているのだろう。
そんなオークを挑発する様に、ジャスティスは鷹揚に両腕を広げてこう言った。
「どうした?やらねぇのか?自分より弱い相手には随分と偉そうだったのに、負け筋がある相手とは戦え無いか?まぁ、仕方ねぇか。所詮はブタだもんな」
『言わせておけばァァァァァッッッ!!“多重強化”ッッッ!!』
激昂したオークが“多重強化”を使いジャスティスへと迫る。
“多重強化”
重強化の上位に位置する強化魔法だ。効果時間は重強化より短いが、その効果は折り紙付き。
筋肉の塊みたいなあのオークが使えば、その威力は桁外れとなるだろう。
しかしジャスティスも呆然と眺めてはいない。
そう、もう見つかっている以上、遠慮はいらないのだ。
「気高き雷獣よ!!
偉大なる汝の咆哮を我が身に宿せ!!
大地を穿ちし雷槌の力ッッッ!!
“万雷千槌ッッッ!!”」
瞬間、天空より放たれた雷光がジャスティスを包み、凄まじい力の奔流が生まれる。
その様子を見たオークは驚愕し、立ち止まって叫んだ。
『か、“覚醒解放”だと!?貴様!まさかユニークネームドか!?』
あの反応から察するに、どうやらユニークネームドとはやはり相当レアらしい。まぁ、確かに私もジャスティス以外には見た事が無い。
驚愕するオークに向かい、ジャスティスは指でちょいちょいと招く様な素振りをすると、挑発する様にこう言った。
「早く来いよ?テメェの魔法の効果が切れるだろ?格の違いを教えてやるよ」
『ッッッ!!死ねぇぇぇぇッッッ!!“豪炎の拳撃”ォォォォッッッ!!』
オークの拳に炎が灯る。恐らくはレイジングテイルと同じく瞬間的な威力強化スキルだろう。
しかし、その拳がジャスティスに届くよりも早く、ジャスティスの蹴りがオークの顔を貫いた。
『ぐがっ!?ぐ……!だが、この程度の威力なら……』
「誰がこれで終わりって言った?」
『!?』
ジャスティスはそのまま何度も何度も蹴りをオークに決めて行く。
オークは何とかそれを防ごうとするが、ジャスティスの蹴りはドンドンと加速して行き、上手く防ぐ事も出来ない。
『ぐっ!?ぐがっ!?ぐがが!?』
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
何度も何度も何度も繰り出される蹴り。それは軈て閃光の様な眩い光を放ち、濁流となってオークを飲み込んで行く。
オークはもがく様に必死に手を振るが、その拳さえも濁流は飲み込む。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァッッッ!!」
最早オークの姿は見えない。映るのは一匹のビーバーと、眩い光の濁流のみ。
「“雷神ッッッ!閃光脚ゥゥゥッッ!!”」
『グペヤァァァッッッ!?』
ジャスティスが最後に技名を告げると、オークは悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。
ドサリと言う落下音を背に、ジャスティスは一言呟く。
「“アリーヴェデルチ(※イタリア語のさよならの意)!”」
……主人公あいつだっけ?
ーーーーーー