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ジャスティスが守ったもの。



 “ストレスフリー展開”



 賢明なる諸氏はこの言葉を知っているだろうか。

 

 分かりやすく言えば、主人公が極端に強かったり、賢かったり、仲間が強かったりして、なんの苦境も無く物語が進む展開の事だ。


 私も比較的携帯小説に造詣が深い方だったが、個人的にはこの展開は苦手だった。

 物語として読むには、些か緩急が足りなく感じてしまうのだ。

 無論、どの様な物語であれ賛否は伴い、それを面白いと思う人々が居るからこそ成立しているのは理解出来るのだが、兎に角私には合わない物だと思っていた。


 しかし、それは過去の話。


 こうして転生の当事者となった私は、今。このストレスフリー展開の素晴らしさを身を以て体感していた。


『グワッガ!』


「シャーッ!!」


 私とジャスティスは、ゴブリン対オークの戦いを間近で見ている。


 どうやら向こうは戦闘に夢中らしく、我々の事等塵芥程(ちりあくたほど)も気にしていなかった。

 これは良い意味で予想外だった。


 そして我々はお零れ狙いの魔物らしく、ポジション争いのフリをして対峙している。


「シャーッ!!」


『グワッガッッッ!!』


 睨み合う二匹。しかし、その視線はゴブリン対オークの戦いへと注がれている。


 ハッキリ言おう。


 超、楽しい☆


 なにせ争い合う両者は、共に害獣なのだから。


 ゴブリンはどうやら巣の近くまで来てたらしく、ヤスデ姉さんの毒を持っていた。

 ヤスデ姉さんはスキル習熟度の向上の為に、定期的に毒液を撒き散らしながら散歩しているのだが、恐らくそれを回収したのだろう。

 いずれ生活圏が被る事を危惧してはいたが、既に被っていた様だ。死んで欲しい。


 デカいオークは一匹しかいない様だが、かなり強い。しかも肉食っぽいし、いつ仲間が襲われるかも分からない。死んで欲しい。


 つまり、この場では死んで欲しい存在同士が殺し合いをしてくれているのだ。

 私にとってどちらが死んでもメリットしか無い。

 正に新世代のストレスフリー展開と言って良いだろう。


 ビバ!ストレスフリー展開である。


 確かにゴブリン達の戦力は知りたい所だが、それはあくまでも基本方針であり、必達目標では無い。

 今の状況で加勢しても負ける可能性はあり、そんなリスクを負うくらいなら、このまま傍観してゴブリンだけでもオークに全滅させて貰った方が得と言うものだ。


 このデカいオークはかなり強い。正直、無傷の状態なら我々でも勝てるかどうか分からない。

 ヤスデ姉さんの毒で弱ってはいるものの、ゴブリン達との力量差は明らかだ。

 奴が本気で殺しにかかれば直ぐに決着が付くだろう。


 しかし、ゴブリン達にも勝機が無い訳では無い。

 一つは先程も言ったが、毒で弱っている事。

 姉さんは“毒技適正”のスキルを持っており、その毒に補正がかかっている。

 その為、通常の毒よりもダメージ量が多く、オークの動き自体も悪くなっている。


 そして、もう一つはこのオークが()()()()()()()()()()()()()だ。


 理由は分からないが、このオークはゴブリン達を殺さないでいる。

 側から見ていても、何度か確実に殺せるであろうタイミングはあった。

 しかしこのオークはそれをわざと見逃し、彼等の立ち回りを確認しているのだ。


 正直、何故そんな真似をしているのか分からないが、その隙を上手くつければゴブリン達にも勝ち筋はあるだろう。


『グワッガ!!』


「シャーッ!!」


 我々は威嚇を続けた。



ーーーーーーーー



『……グワ』


「シャー……」


 どのくらい時間が経過しただろうか。

 体感だと、20分程だとは思うが。


 あの後も彼等はずっと膠着状態を続けている。


 ゴブリンはオークの周りをグルグルグルグル。

 オークはそれに合わせて両手をブンブンブンブン。

 同じ光景が続いている。


 正直、つまらん。飽きた。


 無論、彼等が生死を賭けた戦いを繰り広げているのはわかってるいるが、それでもずっと同じ状況を続けられても、見ている側が面白い訳が無い。これが小説なら大幅にカットされる所だ。具体的には1028文字くらい。


 ゴブリン達は時折切りかかったりしているが、オークが両腕を振れば、結局振り出しに戻り、またオークの周りをグルグルグルグルする。


 つまんない。


 ジャスティスも飽きて来た様で、さっきから欠伸とかしている。


『グワ……?』


 なんだ?


 そんな時、私は目を見張る。

 何故か分からないが、ジャスティスが急に両腕を振りだしたのだ。

 我々は“威嚇のふり”の為に立ち上がって体を大きく見せているのだが、奴はそのまま肩をいすくめ、円を描く様に両腕を振り始めたのだ。

 

 何がしたい?なんの真似だ?これが奴の種族の威嚇なのか?


 様々な疑問が湧くが、ジャスティスは何も言わずにブンブンし続ける。


 悪ふざけのつもりなのか?

 ……やはり下等な齧歯類は知能まで下等な様だ。何が面白い……


『グワ……!?』


 私は()()に気付き、思わず口を両手で押さえてしまう。

 ジャスティスはその様子を見て不敵に笑みを浮かべた。


 あの野郎……!!あの野郎は……!!



 ()()()()()()()()()()()()!!



「ふんふんふ〜ん♪」


『ブフッ……!グワッガ……!』


 私は全力で笑うのを堪える。確かにあの動作は、ゴブリン達を振り払うオークの動きと酷似していたのだ。

 思わず吹き出して爆笑してしまいそうだが、それをすれば彼等に気取られるかも知れない。

 

 あの野郎……鼻歌まで歌ってやがる。

 いくら彼等が戦いに集中していると言っても、万が一の可能性は捨て切れない。バレる前に奴を止める必要がある。


『……グワッガ!グワッガァッ……!』


 私は一旦目を閉じて集中する。この、“絶対に笑ってはいけない”と言う状況であんな動きをされてしまえば、いかに冷静沈着な私と言えど笑いを堪えるのは難しい。

 少しだけ落ち着いた私は、ジャスティスを窘める為に再び目を開けた。



 ──なん……だと……?──



 私は目の前の光景に目を疑った。ジャスティスは──



 顔 真 似 も 入 れ て 来 た の だ 。



『ング……!?』


 無理だッッッ!!限界だッッッ!!やめろ……!!やめてくれぇ……!!


 私の忍耐は既に限界だった。肩をいすくめ、受け口をしているジャスティスの姿は、正に私のツボ。


 “そんなに似てない。だけど分かる”


 奴はそんな絶妙なバランスで私の腹筋を攻撃してくる。

 恐ろしい男だジャスティス……。下等な齧歯類と侮った過去の自分を殴りたくなる。



『ウホッ!』



 言 わ ね ぇ だ ろ ッ ッ !!



 何故それをチョイスした!ウホなんてオークは一度も言って無いぞ!?

 私は必死に口を抑える。しかし、奴の度重なる猛攻に、もはや限界は来ていた。


 もう無理だ。私は……私は──


 私が正に絶対絶命の危機を迎えた時、突如として空を揺るがす咆哮が響いた。


『グワァァッッッ!?』


 オークだ。オークが目を抑えて蹲ったのだ。


「動いたな……」


 ジャスティスが私にだけ聞こえる様そう呟く。


 正直殴り飛ばしたい。この気持ち。


 しかしそんな場合ではない。

 私は魔眼を発動させる為にオークへと向き直る。

 残念ながら経緯は見落としたが、魔眼を使用する対象は最初からオークに決まっている。

 この場で一番強い外敵は、奴を置いて他に無いのだから。


「“重破斬マハスラッシュ”ッッッ!!」


 デカいゴブリンが、蹲ったオークへとスキルを放つ。もしかしたらこのまま攻撃が通るかも知れないが、保険は欲しい。私は直ぐさまオークへと魔眼を使った。


『グワッガ(コカトリスの魔眼)』


 瞬間、オークの動作が遅くなり、ゴブリンの斬撃が奴へと迫る。

 余談だが、魔眼の発動はほんの一瞬だけに限定している。理由は追い追い詳しく説明するが、魔眼の効果中に攻撃が入ってもダメージ量がかなり減ってしまう為だ。


「ウアァァァッッッ!!!」


『ググアァァッッッ!!』


 響き渡る咆哮と悲鳴。


 デカいゴブリンが放った斬撃は、見事にオークを切り裂いた。

 

 あの様子だと致命的とまでは言えないだろうが、これで勝負は分からなくなって来た。


「さて、どうなる事やら……」


 ジャスティスがそう呟いた直後、オークが両腕を大きく上げた。


 ──何をして──


『“怒りの鉄槌(アングリーフィスト)”ォォォォッッッ!!』


 次の瞬間、叩き付けられた剛腕から凄まじい衝撃波が巻き起こり、周囲のゴブリン達全員が弾き飛ばされた。


 思わず息を飲む。驚異的な破壊力だ。あんなもん直撃したらひとたまりも無い。


『……あのスキルが何か分かるか?』


 私はジャスティスにそう尋ねる。

 奴の持つ“雷神の恩寵”と呼ばれるユニークスキルは、知能と知識に対して凄まじい補正がかかる。

 何でも、一度でもスキルを見たら、まるで昔から知っていた事の様に知識が引き出されるらしい。


 まぁ、森羅万象の全てという訳では無く、“本人のレベルに応じた範囲内で”と、いう事らしいのだが。


「詳しくは分からないが、迎撃型カウンタータイプのスキルだな。一度先手を許す事で、後攻から強力なカウンターを打ち込むタイプのスキルだ」


『この場合はデカゴブリンの斬撃がその“先手”って事か?』


「だろうな。ダメージ量と、それを受けてからの時間なんかも関係しているかも知れない。確証は無いが」


 そう言って頷くジャスティス。やつも状況を理解しているのだろう。


 ゴブリンが全滅したら次は我々の番だ。ダメージを受けたあのオークを、我々は見逃すつもりは無い。確かにゴブリンの巣が調査出来ないのは残念だが、あんな技を見た後に助けに入る程の理由でもない。

 我々があのオークと戦うまでに、彼等には少しでもオークの体力を削って貰いたい。


 さて、準備するか。


『ジャスティス。手を貸せ』


「?」


 私はジャスティスの手に尻尾を乗せる。


 オークは此方を見向きもせず、一匹だけ残ったゴブリンへと近付いて行く。

 どうやら私達は本格的にスルーされている様だ。


『グワッガ(継承)』


【継承発動成功。対象、ジャスティス・ビーバーに何のスキルを継承させますか?】


『私の持つ“隠密”を継承させる。分割せずに、全てな』


【了解。隠密のスキルを100%継承させます】


「はあ!?」


 思わずジャスティスが声を出す。いきなり増えた自分のスキルに驚いた様だ。


()()()()。私の“継承”は、同意さえあれば何度だろうと使用出来る。後で返して貰う』


 そう、継承のスキルで継承する。もしくはさせる事が出来るのは、“一度に一つの対象だけ”だ。

 しかし、それ以降、同じ対象でも条件さえ満たしてしまえば、何度だろうと継承は使用する事が出来る。


 つまり、実質的には無制限に近い。


 まぁ、スキルに関しては残念ながらこの世界には保有上限が存在している為、無限にスキルを増やしたりは出来ないのだが。


『私と隠密の相性は悪いが、お前との相性は良かっただろう?お前のノーマルスキルの共有枠は既に埋まっているから、隠密を使わせる為にはこうするしかない』


「ありがとう。大事にするよ」


『返してよ?』


「……」


『……後で話そう。とりあえず、お前はあのオークの近くに隠密を使用して近付き、隙を突いて攻撃してくれ。可能な限り強力な奴をな。ただし万雷千槌ノーザンナインティーンは使うな。あれは使えば確実にバレるし、一度看破されてしまえば隠密は使用出来ないからな』


「了解」


 そんなこんな話をしていると、ゴブリンを足蹴あしげにしたオークが凄い事を言い出した。


ーーーーーー


『ならば()()()()


「え……?」


()()()()()()()()()()()()()


ーーーーーー


 は?


 な、何言ってんの?オークが……ゴブリンに……?


 余りの話に、私は驚愕してしまった。

 横を見ればジャスティスも凄い顔をしている。どうやら気持ちは一緒らしい。


 ゴブリンとオーク。この両者共に言える事だが、ハッキリ言って醜悪な外見をしている。


 ゴブリンは全身緑の禿げ頭に、鷲の様に伸びた鼻。体系も餓鬼の様にお腹だけが出ていて、気味が悪い。


 オークもオークで、豚の様な顔と不自然に長い両腕を持ち、これもやはり気味が悪い。


 今はまだ服を着ているから見るに耐えれるが、そんな二匹が全裸になって交尾をするなんて、いくら私でも耐えられない。


『ウプッ……』


 ヤバい。想像してしまった。


「ど、どうするよ。オークが皆殺しにしてくれるのを待つ予定だったけど……」


 ジャスティスがそう言って私を見つめる。

 言いたい事は分かる。


『……悩むな……。ゴブリン達に恩を売って置くのも悪くは無いが……』


 私が思案を続けていると、更に事態が動いた。


 ゴブリンが服を脱ぎ出したのだ。


ーーーーーー


「……やめろスーヤ……!!止めてくれぇぇッッッ!!」


「ふふ、大丈夫よ。私ブスなんだから、きっと嫁の貰い手だって無いだろうし、それで貴方が助かるならラッキーじゃない?」


「馬鹿やろオォォォォォォオォォッッッ!!」


ーーーーーー


『馬鹿やろおおおおおっっ!!ジャスティス!!行けえぇぇぇぇッッッ!!』


 ジャスティスは隠密を使い、素早くオークへと向かう。


「稲妻ァァァァァッッッ!!!発電蹴りィィィィ!!」


『グガァァァア!?』


 こうして、ジャスティスは我々の精神を守ってくれたのだった。


ーーーーーー

 遅ればせながら、二件目のレビューを頂きました!


 和食のさとさん。メッセージでも言わせて頂きましたが、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] つまり進化前に隠密を継承させて進化してから 再継承すればスキルレベルを下げずに済むということですか?
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