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ドキのムネムネ



『ググアァァッッッ!!』


 マーカスオークの絶叫が響く。

 左の肩から入った自警団長の手斧は、大きくその体を切り裂いていた。


 致命では無い。しかし、会心の一撃(クリティカル)


(いける!!)


 そう判断した自警団長は、素早く切り返し、追撃に出ようとした。しかし、それを察したマーカスオークは大きく足を蹴り上げる。


「ぐあっ!?」


 腰の入らない浅い蹴りだったが、その力は凄まじく、彼は後方へと吹き飛ばされる。


「親父!!」


 そう言って父に駆け寄る少年だったが、次の瞬間、視界には大きく両腕を上げるマーカスオークの姿が映った。


『“怒りの鉄槌(アングリーフィスト)”ォォォォッッッ!!』


 怒声と共に地面に叩き付けられるマーカスオークの両腕。

 その瞬間、強大な衝撃波が巻き起こり、その場に居る全員が吹き飛ばされた。


「グアァ!?」


「みんなッッッ!!」


 離れた位置に居て唯一その影響を受けなかったスーヤは叫ぶ。しかし、それに答えられる人は一人として居なかった。


 “怒りの鉄槌(アングリーフィスト)


 “迎撃型カウンタータイプ”にして単一スキル技の一つだ。


 一定以上のダメージを受けた際、一定の時間内のみ発動出来ると言う極めて使い勝手の悪いスキルだが、その破壊力は徒手空拳を用いるスキルの中でも指折りと言える。

 無論、使い手によって威力は異なるが、このマーカスオーク程の使い手ともなればその威力は凄まじい。


「ひっ……」


 スーヤは目の前の光景に息を飲む。

 マーカスオークを中心とし、その周囲3メートルに渡って地面が抉られていたのだ。


 幸いにして自警団長達全員が直撃を避ける事が出来ていたが、その抉られた地面が飛礫つぶてとなって彼等を襲っていた。

 大小様々な破片を受けた彼等は、身動き一つ出来ずに呻いている。


『許さん……!!許さんぞ虫ケラ共めがァァァァァッッッ!!』


 憤怒の声を上げるマーカスオーク。

 その全身には血管が浮き上がっている。流れ出た血と相まって、その様相は見るものの恐怖を誘っていた。


『甘くしておれば図に乗りおってッッッ!!貴様等の様なゴミが我に勝てる訳が無いと理解すら出来ぬか!!』


 そう言って怒るマーカスオークだが、それに応える者は居ない。


『我が君のめいで無くば、貴様等のいのち等数俊も持ってはおらぬわ!!それを……それをよくも我の体を傷付けてくれたなァァァァァッッッ!!』


 ──()()


 どういう事か分からない。おじさまはこのマーカスオークを“支配種”だと言っていた。

 なら、このマーカスオークに命令が下せる存在がー


 そこまで考えた時、スーヤの思考は止まってしまう。

 マーカスオークが彼女の方を向いたのだ。


「ヒッ……!!」


 思わず後ずさるスーヤ。


 “逃げてしまいたい”


 そんな風に思った彼女だが、しかし村の同胞達の惨状が彼女の足を止めていた。


 マーカスオークがゆっくりと近づく。その顔には、先程までとは違う表情が写っていた。

 余りにも下卑た、そして色を含んだ醜悪な笑み。

 その下には、隠しきれ無い程の獣慾が見えていた。



 余りの恐怖に身がすくむ。

 喉は張り付き、汗が滝のように流れ出る。


 思い出されるのは、母の最後。

 

 ──ワタシモ、カアサンミタイニ──


「ウオォォォォッッッ!!」


『!?』


 マーカスオークの前に躍り出る人影。

 その手には斧を持ち、全力で振り上げる。


 幼馴染だ。


 咄嗟に父に庇われた彼は、まだ傷が浅く、どうにか動く事が出来たのだ。


「“斬撃スラッシュ”!!」


 少年はスキルを使い、斧を振り下ろす。

 しかし、マーカスオークはそれを容易く躱し、彼の両腕を掴んでそのまま持ち上げた。


「は、離せ化け物!!」


 そう言って必死に暴れるが、その力の差は大人と子供以上。

 マーカスオークは少年を侮辱する様に薄く笑った。


『フン。愚かなガキだな。何故わざわざ死にに出て来る。大人しくしておれば生き残れたやも知れぬのに』


「そんな事するか!!俺は戦士なんだ!!スーヤの前でそんなダセぇ真似出来る訳ねぇだろ!!」


 そう言って睨みつける少年。


 それを聞いたマーカスオークの顔が更に醜悪に歪んだ。


『グハハハッッッ!!貴様!この小娘に惚れておるな!?』


「なっ!?んな訳あるか!!誰がこんなブスの事!!」

 

 マーカスオークの言葉に、顔を真っ赤にして叫ぶ少年。


 いくら私がブスだからって、そんな言い方──


 彼女がそう思った時、幼馴染の悲鳴が聞こえた。


「グガァァァアッッッ!?」


「!?」


 スーヤは思わず目を瞑ってしまう。マーカスオークが彼の両足をへし折ったのだ。


「やめてェェ!!」


「アァァァァァッッッ!!……あ、足があああっ!?」


『フハハ!!戦士が聞いて呆れるな!!』


 そう言って彼を足下に捨てるマーカスオーク。そして、そのまま彼を踏み付けると、スーヤへと向き直る。


『小娘、このガキを助けたくはないか?』


「……え?」


 スーヤは耳を疑う。マーカスオークの言った言葉が上手く頭に入って来なかった。


『この小僧の命が惜しくは無いかと聞いたのだ』


「……!」


 スーヤの疑念を感じ取ったのか、マーカスオークは念を押す様に再度告げた。


『スーヤ……逃げろ……!!』


 少年は涙を流しながらそう言ってスーヤを逃がそうとする。しかし、マーカスオークはそんな少年を踏み躙る。


「グギャァアッッ!!」


『駄目ではないか。人の話を遮っては』


「止めてくださいッッッ!!お願いします!なんでもしますから!」


 スーヤは思わず声を張り上げる。それを聞いたマーカスオークは、下卑た笑みで彼女に伝えた。


『ならば()()()()


「え……?」


()()()()()()()()()()()()()


「──ッ!!」


 スーヤは首を振った。頭で理解は出来ても、心が納得が出来なかったのだ。スーヤは子供の様にただただ首を振った。


 その様子を見たマーカスオークは、再び少年を踏み躙る。


「グギャァアッッ!!」


「ッッッ!!」


『……ならば構わんぞ?我としては無理矢理にでも犯せば済むだけの話だ。それをわざわざこのガキの命と引き換えにしてやったのだ。この慈悲が理解出来ぬのならば仕方の無い事』


(こんなの……こんなのあんまりよ!!)


 父と母を失い、大切な村の仲間達は蹂躙される。

 自分達がどんな悪い事をしたと言うのか。人並みに恋だってしてみたかった。弟達の成長を見守りたかった。

 しかし、それは叶わない。

 征服者は、それを許さないのだから。


 マーカスオークは再び少年を踏み躙る。


「グギャァアッッ!?グアァ!?グァ!!」


 その足が動くたび、少年は悲鳴を上げる。しかし、少年はスーヤに助けは求めなかった。


「スーヤァァァァァ!!グアァ!?に、逃げろォォ!!逃げてぐれ……グアァ!?」


 マーカスオークは踏み躙る。何度も。何度も。

 そのたびにスーヤの心は抉られ、彼女の目からは涙が溢れ落ちた。


「止めてくださいッッッ!!分かりましたから!!」


「!?」


 スーヤはそう叫ぶ。懸命に自分を救おうとしてくれる彼の事を。

 一緒に育って来た大切な同胞を。

 どうしたって見捨てる事なんて出来る筈なかったのだ。


『グフフ……!!良いだろう。どうすれば良いのか分かっているな?』


「……はい」


 スーヤはそう言うと、ゆっくりと自分の服に手を掛ける。

 そして、一枚、また一枚と服を脱ぎ始めた。


「……やめろスーヤ……!!止めてくれぇぇッッッ!!」


「ふふ、大丈夫よ。私ブスなんだから、きっと嫁の貰い手だって無いだろうし、それで貴方が助かるならラッキーじゃない?」


「馬鹿やろオォォォォォォオォォッッッ!!」


 そしてスーヤが、その身を隠す最後の一枚に手を伸ばした時──


「稲妻ァァァァァッッッ!!!発電蹴りィィィィ!!」


『グガァァァア!?』


 スーヤは目を疑った。


 突如として現れた白い雷獣が、マーカスオークを蹴り飛ばしたのだ。

 その体躯からは信じられない程の力で、マーカスオークは遥か後方へと弾き飛ばされる。


 ──なんで!?どうして!?この魔物はいったい──


 スーヤが事態の急変に戸惑っていると、白き雷獣は彼女に向かい話し掛けて来た。


「お嬢ちゃん、そういうのは惚れた相手にだけ見せてやんな」


 ──ドキン!──


 スーヤの胸は、そんな獣の横顔を見て大きく高鳴った。



ーーーーーー

 

 

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