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騙し合い



「ハァッッッ!!」


 自警団長が渾身の力で手斧を振るう。

 武器を持たないマーカスオークは、しかし()()()を斧へと振り抜いた。


 ──ギィン!!──


「なっ……!?」


 その光景を見た少年は思わず声を上げる。


 ただの拳でしかない筈のマーカスオークの右手が、父の斧を弾いたのだ。


「“鋼鉄の腕(アイアンフィスト)”か……」


『ほう?良く知っていたな』


 自警団長の言葉に感心した様に答えるマーカスオーク。“鋼鉄の腕(アイアンフィスト)”は、文字通り両腕の強度を鋼鉄並みに高めるスキルだ。

 使用者の両腕のSTR値(物理干渉力)と、DF値(物理防御力)を高め、素手対武器の戦闘を可能とする。

 効果時間は長く、かつインターバルが短い事で優秀なスキルとして知られている。


「俺は元は戦奴隷だったからな。“鋼鉄の腕(アイアンフィスト)”ぐらい見た事はあるさ。それより、油断してもいいのか?」


『?』


 そう言われ、マーカスオークが視線を動かした瞬間、


 ──ガガガガッッッ!!──


 マーカスオークの体へと、再び矢が放たれる。

 背後へと回った狩人達が射かけたのだ。


 しかし、驚愕したのはそれを放った筈の射手達だった。


「な……!?」


「い、一本も刺さっていないだと……!?」


 そう、確かに命中した筈の矢は、マーカスオークの皮膚に弾かれ地面へと転がったのだ。


 狩人達の様子を見たマーカスオークは、薄く笑みを浮かべる。


『フッ……月並みなセリフを言わせて貰おうか……。“これは、油断では無く余裕と言うものだ”』


「“堅牢肌ハードスキン”だ!!弓矢はもう効かない!!みんな!弓以外の武器を持て!!」


 自警団長は声を上げる。

 “堅牢肌ハードスキン”は、“刺突”、“打撃”、“斬撃”の各種物理攻撃への耐性を選択して高める“物理耐性スキル”。

 マーカスオークは、その耐性選択で刺突を選び、弓矢への耐性を手にしていたのだ。


 狩人達は手早く武器を持ち替え、マーカスオークへと切り掛かる。


 しかし、


『ブルァァッッッ!!』


「!?」


 マーカスオークがその右腕を振り抜く。


 咄嗟に後退りする狩人達。まだ深くまで踏み込んでいなかった為に躱す事は出来たが、その威力は脅威の一言。

 直撃していれば、間違いなく命を落とすところだった。


 しかし、その時マーカスオークに生まれた隙を、彼は見落とさなかった。


「“斬撃スラッシュ”ッッッ!!』


 自警団長だ。


 “斬撃スラッシュ”は文字通り斬撃のSTR値を高める技で、彼が最も得意とする技でもある。

 彼はマーカスオークが村人達に拳を振り抜いた隙に、その死角から斬撃スラッシュを放ったのだ。


『ぬぅ!?』


 脇腹を打つ衝撃に顔を歪めるマーカスオーク。

 しかし、斬撃スラッシュを放った自警団長の表情も明るくはない。

 予想よりも遥かにマーカスオークの皮膚が硬く、浅く切る事しか出来なかったからだ。


『ふふ、思ったよりはやるな貴様等。今、軍門に下るならば、肉にするのは控えてやろう。どうする?』


「ふざけるな!!村を蹂躙する事に違いは無いのだろう!!」


『グフフ、違いないなッッッ!!』


 彼等は再び武器を構えた。



ーーーーーー



「はぁ……はぁ……」


『フッ……フッ……』


 どのくらい時間が過ぎただろうか。


 能力差から攻めあぐねるゴブリン達と、ゴブリン達の連携に決め手を欠くマーカスオーク。


 両者は膠着状態を続けている。


 はたから見れば一見して対等な戦いに写るかもしれない。しかし、自警団長はこの膠着状態に強い危機感を抱いていた。

 

(……このままでは負けてしまう……!)


 そう、この膠着状態を維持する為に、狩人達はかなりの負担を強いられているのだ。


 “連携しながらオークに切り掛かる”


 口にすれば単純な言葉だが、一撃でも貰えば即、死に繋がる極限の状況下でそれを行うのは凄まじい精神的摩耗が伴う。

 更に常に移動しながら隙を伺い続けるのは、単純な体力も必要な作業だった。


 彼等は限界が近い。


 対してマーカスオークは消耗こそしているものの、疲弊した狩人達の攻撃ではその堅牢な皮膚を上手く傷付ける事が出来ず、そしてこのまま毒への耐性を手に入れられれば体力も回復してしまう。

 そうなれば、両者の天秤は大きくマーカスオークに傾く事になるだろう。


 “勝負を仕掛ける必要がある”

 

 そう確信している自警団長だったが、しかし彼は攻め込む事が出来ないでいた。


『フハハ……どうしたゴブリン供。随分と大人しくなって来たな?肉になる準備が整ったのか?』


 鷹揚にそう言って手を広げるマーカスオーク。

 

 このマーカスオークはかなりの戦巧者だ。

 単純な能力差もあるが、その立ち回りは戦奴隷として数々の戦いを経験した自警団長から見ても見事な物だった。


 狩人達が間合いに踏み込めない様に定期的に手を振り払い、それでいて自警団長から注意を逸らさない。


 確かに狩人達の動向はおざなりになってしまっているが、有効打の無い彼等にはそれでも充分と言えた。

 そして、唯一自分の体に直接傷を入れる事が出来た彼に対しては、いつどう動いても対処出来る様に立ち回っている。


 確かに彼は有効打を持つが、格上が油断無く自分への警戒を怠らない今の状況ではそれを打つ事も出来ない。


 最早、勝機は無いのかもしれない。


 そう思った彼だったが、事態は思わぬ形で急変した。


「ウワァァァッッッ!!」


「!?」


 彼の背後に居た息子。その彼が、マーカスオーク目掛けて手斧を投げ付けたのだ。


「馬鹿野郎!!お前何をして……!」


 思わずそう怒鳴り付けた自警団長だったが、彼の言葉を遮る様な絶叫が響いた。


『グワァァッッッ!?』


 マーカスオークだ。手斧が頭部へと当たったマーカスオークが、目を抑え蹲ったのだ。


(何故!?まさか偶然にも目に当たったのか!?)


 疑問は様々に浮かぶ。しかし今はそれを考える時では無い。

 今こそが千載一遇のチャンスであり、これを逃すつもりは彼には無かった。


「“重破斬マハスラッシュ”ッッッ!!」


 “重破斬マハスラッシュ”。


 発動中、斬撃の重さ、STR値、SPD値(敏捷性)を跳ね上げるスキルだ。

 単一スキル技の一つであり、これ一つでスキル枠を一つ消費する事になるが、その威力は脅威的。

 インターバル時間も長く、多用は出来ないが、格上にも十二分に通用する彼の必殺の一撃だった。


 しかし──


(!?)


 彼の目に入ったのは、此方に対して迎撃の構えをしているマーカスオークの姿だった。


(しまった!!()()()()!!)


 そう、マーカスオークには、少年の手斧など効いてはいなかったのだ。

 全ては自警団長の必殺の一撃を誘う為。この膠着状態を良く思っていないのは、彼も同じだったのだ。


 振り上げられるマーカスオークの剛腕。このままでは間違いなく自警団長の胴体を貫くだろう。

 しかし、それが分かっていても最早振り抜く他に無い。最早スキルは発動しているのだから。


 徐々に近づく拳。間違いなく必殺の一撃。

 この刹那の瞬間、自警団長は死を覚悟していた。


(!?)


 ──しかし、拳は急速に速度を落とす。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()に。


「ウアァァァッッッ!!!」


 振り抜かれた彼の斧は、マーカスオークの胴体を大きく切り裂き、そのまま地面へと叩き付けられた。



ーーーーーー

なんと!ツイッターのshinoobi.comさんの“期待の小説週間ランキング”にて2月1日と2月2日の一位をいただきました。


 算定基準は今一分からないのですが、ブログにて紹介頂けた事が影響している模様。


 関係者様、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔眼は初見のここぞ!という所で使うと強力ですね!
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