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臨場感



 森の北西に向かい、私は懸命に走る。確かに移動速度自体はかなり早くなったのだが、小さかった頃と比べると、やはりそのスピード感はかなり劣る。


 まぁ、あの頃が異常だったと考えるのが普通で、今にしても2mのトカゲの速度とは思えない程の速さではあるのだが。


『グワッガ』


 やがて私の視界にジャスティスが入って来る。私は隠密を使用し彼に近づいた。


 無論、彼の頭を尻尾で殴る為だ。

 因みに殴る事に意味は無い。ただの愉快犯だ。


 ゆっくりと彼の背後に近寄る私。しかし、奴は此方を一瞥もせずに気付き、そして話し掛けて来た。


「遅かったな。デカくなってトロくなったんじゃねぇか?」


『うぐっ……!?』

 

 “この野郎……!気付かれたら殴っても楽しく無いじゃないか!!”


 私は思わずそう言ってジャスティスを怒鳴り付けたくなる。しかしそれを感情のままに押し出すのは只の異常者でしかない。ジャスティスは何も悪い事をしていないのだから。

 ここは冷静になるべきだ。


 私は冷静に彼に話し掛ける。



『気付くなよ。殴っても楽しくないだろう』


「サイコパスかな?」



 私は自分の冷静さに感嘆した。


『で、どう言う状況なんだ?詳しくは来てから話すとか言ってたが』


 そう、私は何故ここに呼び出されたのか知らない。ジャスティスは遠距離会話では詳細を伝えて来なかったのだ。確かに何匹かの眷属を経由する以上、情報量が多い詳細なやり取りは齟齬を避ける為になるべく控えるべきなのだが、今回のジャスティスはどちらかと言えば、サプライズを用意した子供の様に見えた。


 ジャスティスは此方を一瞥すると、口角を上げながら前方を指差す。


『なっ……!?』


 私はそこに広がった光景に驚愕する。


 なんと、そこでは八匹のゴブリンと、一匹のオークが戦いを繰り広げていたのだ。


「どうだ?面白れぇだろ」


 そう言ってニヤけるジャスティス。悔しいが、それは同意だ。初めて見る亜人系モンスター同士が、これまた初めて見る白兵戦を繰り広げているのだ。これが楽しく無い訳が無い。


『……チッ!悔しいが認めよう。これは正直見ものだ』


 私は素直に負けを認める。奴と口論して、こんな面白いイベントを見落とすのは勿体ない。

 それにジャスティスはこの戦いを最初から見ていたのだ。ここまでの経緯を聞きたい。


『で、何故こんな面白い状況になっているんだ?ゴブリンの群れがオークの子供をさらったとかか?』


「いや、そこはわからねぇな。三匹のゴブリンの前にオークが現れて、その後に追い掛けっこが始まったんだ。んで、ほら、あそこに一匹やたらデカいゴブリンが居るだろ?アイツが笛を吹いたら、茂みや木の上からゴブリン達が一斉に矢を射かけたんだ。だがまぁ、それじゃああのオークを殺しきれず、そこからはガチバトルって感じだな」


 成る程、伏兵を使ったがケリを付けれなかった訳か。イメージと違ってゴブリンも馬鹿では無い様だ。

 デカいオークと賢いゴブリンの戦い。()()()()()()()()()


『もう少し臨場感を感じたい。ジャスティス、移動しないか?』


 しかしジャスティスは私の事を嗜める。


「いや、やめといた方が良いだろう。お前、体のサイズがデカくなったせいで隠密のレベルがかなり下がったじゃねぇか。強化探知使わなくても近付くのが分かったんだぞ?まぁ、それを確認したくてやったんだろうがな」


『……チッ』


 気付いてたか。

 そう、私は進化してからかなり隠密のレベルが下がってしまった。

 私は継承で様々なスキルを引き継ぐ事が出来るが、各スキルには恐らく種族毎の適性の様な物が存在している。

 分かりやすい例えで言えば、尻尾の無い種族に尻尾切りは使えないと言った具合か。


 それと同じように、私の種族と隠密は相性が今一良くないようだ。

 まぁ、こんだけデカくてテカテカしたトカゲなんだから、もありなんと言えるが。


『で、どちらが優勢だ?』


「オークだな。奴は遊んでやがるが、ゴブリン達は必死だ。それにあのデカいゴブリンの後ろに居る二匹は役に立って無い。むしろ、足を引っ張ってるな。多分だが、ガキなんじゃねえかな。みんな緑で正直よく分からないが」


 そう、ゴブリンは本当にみんな同じに見える。近くで見たら匂いで判別出来るとは思うが、雄か雌かもわからない。

 まぁ、あんな緑禿げなんて性別が有った所で靴の裏程の興味も湧かないが。


『で、我々はどうするべきだと思う?』


 私はジャスティスにそう尋ねる。

 此処は森の外周部とはいえ、我々の縄張りに程近い。

 あのオークにせよ、ゴブリン達にせよ、これから活動範囲が広がればいずれ生活圏が被る事になる。

 何らかの対処は必要となるだろう。

 可能ならば()()()()()したい所だが、それが可能か否かは、途中から見始めた私よりも最初から見ていたジャスティスの方が正確な判断が出来る筈だ。

 ジャスティスは少し考えてから口を開く。


「……非接触(ノータッチ)がベターだな」


 思ったよりも大人しい返事が返って来た。ジャスティスなら、直ぐさま皆殺しとか言いそうなのに。

 私がそんな視線を向けていると、ジャスティスが続ける。


「正直、オークよりもあのゴブリン達の方が厄介だと思う。もし仮に奴等がオークを仕留めた後に奇襲を仕掛けたとしても、何匹かは取り逃がす事になるだろうからな。こっちは二匹で向こうは八匹なんだから。そして、仮に一匹でも取り逃がしてしまえば、その後はゴブリン達は俺達の群れと敵対する事になる。戦力も分からない状態でそれは避けたい。次にオークだが、奴は単騎で攻めて来ていて、周囲には仲間は居ない。俺達みたいに遠距離から監視してる可能性もあるが、この状況で俺達が奴を襲えば、ゴブリンの伏兵としか思わないだろう。つまり、襲って殺しても俺達では無くゴブリンにヘイトが向かう筈だ」


 そこでジャスティスは一旦区切る。こちらの反応を伺っている様だが、私は黙ってジャスティスを見つめる。


「……だが、俺達とあのオークには単純な地力の差がある。多分だが、あれはこないだ倒したボアファングよりも強い。あれは獣だったが、あのオークには知性がある。そんな奴となんのアドバンテージも無い状況で戦うのは避けるべきだ」


『ジャスティス。私も同意見だ』


「ケッ!!テメェで結論出せるなら聞いてんじゃねぇよ!!」


 そう言うと、怒った様に顔を背けるジャスティス。どうやら機嫌を損ねてしまった様だ。まぁ、確かに今のは私が悪い。少し言葉が足りなかった。


『すまない。途中から監視を始めた私と、最初から監視をしていたお前の意見に齟齬そごがあるか確認したかったのだ。私一人の判断より、二人の判断を統合して考えたかった』


「……ケッ!」


 そう言うと此方に向き直るジャスティス。どうやら分かって貰えたらしい。


「……んで、じゃあ俺達はここから連中の戦いを見届けてから帰るって事で良いのか?」


『いや。ここは敢えて奴等に接近する。堂々と、隠密は使用せずにな。そして可能ならばあのオークを殺す。ゴブリン供は巣と戦力を確認してから判断したいから、取り敢えずは味方のフリをするとしよう』


「はぁ!?何言ってんだテメェ!?今までの話聞いてたのか!?隠密使わずに近付いたら即座に発見されんだろうが!!」


 怒声を上げるジャスティス。しかしそれでも問題ないのだ。


『分かってる。しかし、私の今の“隠密”は使用したところで直ぐに看破されてしまうだろう?()()()使わずに堂々と接近するんだ』


「テメェ!!だから何を言って……」


 そこまで言ってジャスティスは黙る。私が何を考えているのか理解した様だ。


「……腐肉漁り(スカベンジャー)か……」


()()()()()()ジャスティス。スキルも使わず、アホ丸出しで接近する。可能な限り野性的にな。そうすれば連中は我々をお零れ狙いの野良魔物としか思わず、警戒せずに接近を許す筈だ。その後は機会を伺い行動する。何も状況が変わらなければそのままアホ丸出しで撤退だな』


 ジャスティスは私の顔を見ると、頭を軽く掻き、呆れた様に聞いてきた。


「……テメェ……いつからその事思い付いてやがった?」


『言っただろ?()()()()()()()()()()()()()()()()



ーーーーーー




明日から3日程、仕事の関係で更新出来ません。楽しみにされている方、すいません。

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