ヤバい。
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あの死闘から開けて二日目。私の目の前には体長80㎝程のビーバー達と、体長15㎝程の綺麗なネズミ達が並んでいる。その数ビーバー20匹とネズミ34匹の合計54匹。みな一様に私へと視線を向けるが、その目には怒りや恐怖は無く、尊敬の念が強く込められているのを感じる。
やがてネズミの一匹が私の前に出て、彼等に向き直り宣言する。
「皆の者!!王への賛辞を捧げるゴリよ!!」
『王様カッコいい!!』『王様素敵!!』『王様最高!!』『王様爬虫類!!』『王様レプタイル!!』『王様正義!!』『王様ジャスティィィィィッッッス!!』「それ複雑な気持ちになるから止めろ」『親分!王様褒めないと駄目ですぜ!?』
『……』
口々に私を褒め称えるビーバーとネズミ達。
私はそれを見下ろしながら、ある感情を抱いていた。
──正直言って……悪くない♪
いやはや、生まれ変わってからは、“人の上に立つなんて柄じゃない”とか思ってたけど、いざ実際にこういう立場になるとやっぱり心踊るというか、野心が満たされるというか、なんかそんな感じなのだ。
悪くない……!悪くないぞ!!
この調子で色んな種族達を支配して、その頂点に立つのも良いかも知れないなぁ♪
私がそんな風に考えていると、彼等の中でも一際大きく、尾が二本も有るビーバーが話し掛けて来た。
ジャスティスだ。
「ニヤついてる所悪ぃんだけどよ。実際どうするつもりなんだ?」
『いやぁ、思った以上に心地良いからさ。他の種族なんかも支配下に置きたいよね!やっぱり誰かの上に立つってのは気持ち良い♪』
私が自分の率直な気持ちをジャスティスに告げると、彼は頭を振りながらため息を吐いた。
「はぁ……そうじゃねぇだろ。どうすんだよ。この状況をよ」
そう言ってジャスティスは周囲を見渡す。私もそれに習い見渡すが、そこには54匹も魔物達が並んでいる。
『……どうしよ』
「……わからん」
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あの後、私はネズミ達と付属品のビーバーを連れて自分の巣へと帰って来た。
自分でも無防備過ぎる気はしたが、彼等が裏切る様な真似はしないと確信していたのだ。
巣に着いて直ぐ、異次元胃袋に収容していたヘビの死体をリバースし、皆に振る舞った。
あのヘビは結構なサイズだったのだが、流石に私と妹達含めて57匹も魔物達が居れば、あっという間になくなってしまった。ヤスデ姉さんは肉食では無いのでカウントしない。
それでもそれなりに腹は膨れ、皆で眠りについたのだが、明くる朝に目が覚めると視界は一変。
妹二人を除く、群れの全員が進化していたのだ。
恐らくは真実の絆と、ヘビとの戦闘の影響だろう。
暫く呆然としていたのだが、妹達が寝ている岩の奥から助けを求める声がして、そこを覗いて見ると、なんとヤスデ姉さんが身動き取れなくなってもがいていた。
進化した事によって体が大きくなり、洞窟に引っかかってしまったのだ。
何とか1日掛かりで救出し、ようやく落ち着きを取り戻して今に至る。
至るのだが──
『どうする?』
「いや、お前が王なんだろ?お前がどうするのか決めろよ。こんなに進化しちまって、餌の確保と巣の確保。問題は山積みだぜ?」
『……』
そう、ジャスティスの言う通り問題は山積みだ。
進化してヒエラルキーが上がるのは無論喜ばしい事なのだが、それに付随して起きる問題は、群れの個体数が多い我々にとってかなりの重圧となっている。
『王様変わる?』
「イヤどす……お断りしまぁすッ!!」
良い顔で断るジャスティス。なんとか押し付けたい気持ちも有るが、それも出来ないだろう。
……しかしながら実際問題かなりヤバい。
落ち着け私。とりあえず、冷静に今の状況を整理しよう。
餌……ヤバい。
巣……狭い。頭当たりそう。
『……決まったな』
「お!どうすんだ?」
『王を引退する』
「決まってねぇだろ!!任期短過ぎだ!!」
五月蝿い奴だ……まぁ仕方ない。所詮は齧歯類なのだ。頭悪いのはわかってる。
私は再び顔を上げ、その場にいる全員に宣言する。
『引っ越すぞテメェらッッッ!!』
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