ジャスティスの半分くらい
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「はぁ……はぁ……」
「どうした?アッシュ。“もう親父じゃハンデ有りでも訓練にならない”とか言ってなかったか?」
「……うるせぇぇぇッ!!」
アッシュは咆哮をあげると、父親に向かって駆け出す。
ステータス差は歴然だ。
アッシュは進化し、そしてその上で師匠であるトカゲにステータスを上限まで振って貰っている。ステータスの総和なら黒竜の森でも上から数えた方が早いだろう。
父親も同じくステータスを振って貰ってはいるが、それでも位階の差は大きくアッシュには及ばない。
なのに──
「うぉりゃぁぁッッッ!!」
手斧を横薙ぎに振るうアッシュ。
しかし父親はそれ躱し、手にした魔剣を振り下ろそうとする。
だが、アッシュそれを想定していた。
「“大楯”ッッッ!!」
大楯は装備した盾の防御範囲とDF値を強化するスキルだ。
本来なら防御を目的としたスキルだが、今回のアッシュは別の使い方をした。
「!?」
アッシュの父親は驚く。
拡大された防御範囲に、振り下ろそうとした手首が引っかかって止まったのだ。
そして、それがアッシュの狙いだった。
「ガラ空きだぁぁッッッ!!」
両手が塞がり、ガラ空きになった腹部に目掛けて頭突きを放とうとするアッシュ。
しかし、アッシュの父親は口角を上げて言葉を放つ。
「“劈け”デカログス」
──キュイイィィンッッッ!!──
「!?」
アッシュの父親の言葉と共に、耳を劈く様な高音が魔剣から放たれる。
至近距離からその音を聞いたアッシュは一瞬硬直し、気付けば目の前に父親の膝が迫っていた。
──ゴスッ!!──
「うぐっ!?」
腹部を目掛けて頭突きを仕掛けていた事が災いし、顔面を強く蹴り抜かれたアッシュ。
転がり、直ぐに立ち上がろうとしたが、その前にアッシュの父親の魔剣が首元に突き付けられた。
「“断ち切れ”デカログス。……どうだアッシュ。まだやるか?」
「……ッックソ!!やらねぇよ!!馬鹿親父!!テメェ、“デカログス”の事知ってやがったな!?」
アッシュの言葉に、父親は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
──あの会議から三週間が過ぎた。
アッシュの師匠であるトカゲは、結局不動の縄張りを侵略することを先送りにした。
“状況によっては協力関係を築く可能性も有り、安直に攻勢に出る訳にはいかない”
それが理由として説明された。
それに対して反対意見も多かったのだが、トカゲがフィウーメから持ち帰った食料や物資を見てオーク達も一旦は鎮まった。
これまでは何もせずに森から逃げた奴だと思われていたらしいのだが、目の前にハッキリとした成果を出された事でトカゲに対する評価が大きく変わった様だ。
それでもステラやギュスターブと言った武闘派のオーク達には不満が有る様で、同じく不満の有るジャスティスと良く行動を共にしている。
トカゲはトカゲでゴリや直属部隊と何やら忙しく動いており、アッシュは完全に蚊帳の外。
一度何か手伝おうか尋ねたのだが、
「……お前の頭がせめてジャスティスの半分くらい有ればなぁ……」
としみじみと言われて以来あまり会っていない。
結局ノートの村周辺の警備をしつつ、普段通り特訓を続ける日々になったのだが、一人で特訓をしているアッシュに父親が特訓を手伝うと言って来たのだ。
最初はステータス差があるからと断ったアッシュ。しかし父親は、“ハンデとしてその強そうな魔剣を貸してくれ”と言い出し、面倒になったアッシュはイヤイヤながらそれを了承して模擬戦を始めた。
最初はアッシュが圧倒していた。
ステータス差は歴然だし、魔剣も使い方を知らなければただの強い剣でしかない。
だからアッシュはハンデが有っても余裕だと父親を挑発したのだった。
しかし、そこから父親の猛攻が始まった。
急に攻撃が重くなり、そして反応速度も跳ね上がった。
更に教えてもいない魔剣デカログスの使い方を駆使し、最後にはアッシュの首に魔剣を突き付けたのだった。
攻撃が重くなったり反応速度が上がった理由はアッシュにも想像が付く。
単純な理屈で、父親がそれまで手を抜いていただけだ。
しかしデカログスの方は分からない。使い方を知っていたのは間違い無いが、どうやってそれを知ったかが分からなかった。
父親を睨み付けるアッシュ。
父親はアッシュの視線に笑みを強め、そしてこう言った。
「そりゃあ知ってるさ。この“魔剣デカログス”は元々俺の為に打たれた魔剣だからな」
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