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“失敗”

ーーーーーーー





「フハハハハハッ!!まさかこの軍勢に単騎で乗り込もうとはな!!確かに手練れ!確かに強者!!しかし、それもこれまでだ!!我はスロヴェーン王国南方方面軍──」


「それ流行ってんのかァァァァァァッッ!!」


「ぐベボッッッ!?」


 私は何人目か分からない名乗りを上げそうなモブをぶち殺す。


 これ以上名前の付いたキャラクターなんぞ増やさないと言ってるだろうが!!


「まだ終わらないのか!?」


「煩いのう。もう少しじゃ…………終わった」


「良し!!じゃあアッシュを助けに──」


「これで()()()じゃな」


「〜〜〜ッッ!!そうだったクソがッッ!!」


 私はアバゴーラの言葉に苛立ち、思わず尻尾で地面を打ち付ける。


「……あらかじめ言っておいたじゃろうが。先程迄の冷静さは何処へ行った?ゴブリンには細かく指示しておった様じゃし、魔剣まで持たせたんじゃろう?それ以上に出来る事は有るまいて」


「そんな事は分かっている!!無駄口を叩く暇が有るなら手を動かせ!!」


「此処は終わったと言ったじゃろうが」


「そうだったなコンチクショー!!次は何処だ!!何処に行けば良い!?」


「十一ブロックの城壁じゃ。正確な場所は説明出来んから、取り敢えず儂を抱えてそこまで向かってくれ」


「分かった!」


 私はアバゴーラは尻尾で拾い上げると、再び全力で走り出す。


「……随分と焦っておるな」


「当たり前だ!アッシュが死ぬかも知れないんだぞ!?」


「やも知れんな。……だが、それもそのゴブリンが決めた事じゃろう?」


「……!」


「過保護が過ぎるぞ。馬車馬の如く扱えとは言わんが、誰かを成長させたいなら見守る事も重要じゃ。それが分からんお主では有るまい?」


「分かっているッッ!!()()()ッッ!!」


「……そう返されれば言える事はもう無いわい……」


 アバゴーラはそう言って口籠った。


「……アッシュ……()()()()……」


 私はそう一人言ひとりごちると、再び眼前に迫った城壁を駆け登った。





ーーーーーーー





「“フレイムエンチャント”ッッ!!」


 アッシュはそう言って魔剣に左手の炎を纏わせた。


 “フレイムエンチャント”は炎状の魔法を装備品に付与するもので、通常のSTR補正の他、MAT(魔法攻撃力)での補正も加わる。


 MATでのダメージ計算は、80%がMAT値とMDF(魔法防御力)値との差で行われる為、DF(物理防御力)値が高くともその影響は少ない。


 今のアッシュにとって、エンチャントは最もダメージを期待出来る攻撃手段だった。


「“ハイスラッシュ”!!」


 アッシュはそのままスキルを使用し、バルドゥークに斬りかかる。


「……チッ」


 バルドゥークは舌打ちをすると、鉄槌を振り上げてそれを弾く。


 アッシュは大剣ごと後方に弾かれるが、今度は反動を上手く利用してバク転し、すぐ様斬りかかる。

 しかしバルドゥークはそれを見越しており、鉄槌の柄で大剣をいなすとそのまま肩からアッシュにぶつかり、アッシュを弾き飛ばした。


 だがアッシュにはダメージは無く、そのまま飛び起きて斬りかかる。そして幾度か似たような攻防を繰り返した後、アッシュは再びギガフレイムを放ち距離を取った。


「どうした!?攻めが随分と甘くなったなッッ!!」


「……」


 そう言ってバルドゥークを挑発するアッシュだが、内心は真逆だった。




 “ヤべェ……この段階で魔法を使わされるなんて……”




 そう、アッシュはかなり焦っているのだ。



 アッシュは確かにトカゲにMATとMPを上げて貰い、スキルを継承する事で魔法による攻撃手段を獲得している。


 これはトカゲの様に物理に特化した種族と違い、均一なステータスを持つアッシュでは、相手とのステータスの差によっては有効な攻撃手段が無くなる可能性が有った為だ。


 しかしだからと言ってアッシュは別に魔法に特化した構成をしている訳では無い。


 父親から手ほどきを受けていたのも武器を使った直接戦闘だし、師匠であるトカゲも魔法が得意な訳では無い。それに何より覚醒解放の発動時に最大魔力量の半分を消費するアッシュにとって、魔法攻撃はメインに出来る様なものでは無かった。

 にも関わらず、()()ステータスで魔法を使わされている。これは、アッシュにとって想定外の事態だったのだ。


 とは言え、悪い事ばかりでも無い。


 バルドゥークの攻勢は明らかに弱くなっていた。


 これはアッシュが魔法を切り札の様に使って見せた為、バルドゥークがアッシュの魔法に対して必要以上に慎重になっている事。


 そして──




「……テメェの“覚醒解放”……。……どんな効果だ……?」




 ──そう、覚醒解放への警戒だった。




 これまでバルドゥークは自分が圧倒的な優位に立っていると理解していた為に、そこまでアッシュの覚醒解放を警戒していなかった。


 ザグレフやオルドーフの覚醒解放は確かに厄介だが、もし仮に同様の効果を持つ覚醒解放をアッシュが使用しても、これだけのステータス差をひっくり返す事は出来ないと判断していたのだ。


 だが、アッシュが魔法を使った事で彼我の戦力差が不明瞭となってしまった。

 その為、いつまで経っても効果を見せないアッシュの覚醒解放を警戒し始めたのだった。


「……ッ」

 

 アッシュはバルドゥークに問われて思わず効果を説明しかけたが、何とかその衝動を抑え込む。

 師匠であるトカゲから“絶対に相手に教えるな”と口酸っぱく言われていたからだ。


 “遅参英雄エルレガーデン”は乱戦ならともかく、一対一たいまんで知られれば圧倒的な不利を取る覚醒解放。その効果がプラスに働くまで後五分を切ったが、それまで何とか時間を稼がなければ元々薄かった勝ち目がゼロになる。


 そう考えて何とか会話を引き伸ばそうと必死に頭を動かすアッシュだが、師匠と違って上手い話は浮かばない。


 仕方なく再び挑発を入れる事にしたアッシュだったが、それが悪手だった。


「そいつは教えてやれねぇな!!それとも何か?テメェは覚醒解放が何か分からなけりゃ戦えない()()かよッッ!!」


 アッシュの言葉を聞いたバルドゥークは一瞬止まる。



 そして──






「……()?」






「──ッ!」


 アッシュはバルドゥークの一言に大きく飛び退く。


 背筋からは冷や汗が流れ、鼓動は早まる。


 明らかにバルドゥークを包む空気が変わったのだ。


 此処に来てアッシュは自分の失敗ドジを知る。


 森で暮らして来たアッシュにとって、“臆病者”とはさしたる意味も無い安い挑発だった。


 しかし冒険を旨とする冒険者にとって。……いや、()()()()()()()()()()、それは絶対に許せない侮辱だったのだ。


「今まで……何匹か……俺にテメェと同じ事を言った奴が居た……」


 バルドゥークはそう言うと、鉄槌の()()を両手で握る。

 そしてそのままゴルフのスイング前の様な姿勢で鉄槌を構えた。


「……だが……今は一匹も……そんな事を言う奴は……居ねぇ……。……何故か分かるか?」


「……さぁな。デブった体型の方が印象に残るからか?」


 可能な限り冷静なフリをして軽口を返すアッシュ。


 しかしそれを聞いたバルドゥークは口角を上げ、こう言い放った。



「誰も……()()()()()()()()()ッッッッ!!」


「!?」



 バルドゥークはそのまま鉄槌をハンマー投げの様に振り回し始めた。


 バルドゥークの膂力と鉄槌の重量が合わさり、凄まじいプレッシャーを受ける。


 しかし意味が分からなかった。


 高速で鉄槌を振り回すバルドゥークには確かに近寄れないが、アッシュには魔法による遠距離攻撃も有る。


 それにこの状態ではバルドゥーク自身何も出来ない筈。


 バルドゥークだってそれは分かって──



「“投擲鎚スローイングハンマーッッッ!!”」


「!?」



 次の瞬間、バルドゥークの手から強烈な威力のスキルが放たれる。


 投擲鎚スローイングハンマーは投げた鉄槌にSTR補正を加算するスキルだ。


 シンプルでそこまで強いスキルでは無いが、遠心力とバルドゥークの膂力が合わさればその速度と威力は凄まじい。


 ここでようやくバルドゥークの意図を理解したアッシュ。


 しかし距離を取っていた事が幸いし、飛来する鉄槌を余裕を持って躱す事が出来た。


「どこ狙ってんだよッッ!!」


 アッシュはそう言って身をかがめ、バルドゥークに向かって走り出す。


 確かに先程の一撃は直撃すれば相当なダメージを受けていただろう。

 だが、鉄槌を手放したのは明らかな失敗だ。いくらバルドゥークでも素手で自分に勝てる訳が無い。


 そう思ったアッシュだったが、バルドゥークの方を見て困惑する。


「!?」


 バルドゥークが此方に向かって接近していたのだ。自分の不利を理解している筈のバルドゥークがだ。


 バルドゥークはそのまま大きく振り被る。


 当然手元に鉄槌は無いのだが、さながら大上段からの振り下ろしの様に、弓形に構えていた。


 理由は分からないが、このままなら簡単に奴の胴体に大剣を振り抜ける。


 そう思ったアッシュだったが──




 ──ゾクッ……──




 全身に寒気が走る。


 先程感じたプレッシャーの比では無い。


 まるで踏み潰される直前の蟻になった様に、自分の全てが心許こころもとない。


 アッシュは直感に従って下がろうとしたが、この好機を逃す事に一瞬躊躇してしまう。




 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





「──“呼出コーリング”。竜骨砕き」





 ──は?──




 ──鉄槌?──




 ──投げたのに?──




 ──なんで?──





 目の前の光景に一瞬我を忘れるアッシュ。


 そこには、()()()()()()()()()()()バルドゥークの姿が有った。


「……ッ!!」


 我に返ったアッシュは、即座に後方に飛び跳ね、大楯ビッグシールドを使用して衝撃に備える。


 そう、バルドゥークはスキルを使用し、投擲した鉄槌を手元に呼び寄せたのだ。


 投擲されたままのスピードを維持したそれは、初速から最大速度で打ち出され、そこから更にバルドゥークの膂力を加えられ地面へと向かう。




「“戦神の鉄槌(トールハンマー)”ッッッ!!」




 放たれる轟音と衝撃波。


 アッシュはそのまま吹き飛ばされ、意識を失った。






ーーーーーーー

あ、これで負けて終わりとかじゃなくて続きます。

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