“誰を助けるのか”
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「はぁ……はぁ……ちょ……ちょっと……待って欲しいんだが……?ら、ライラちゃんが危ないって言われて……と、飛び出したけど……こ、こ、こんなに走らされるとは思って無かったんだが……じ、じ、獣車を頼みたいんだが……?」
「こんな時に獣車なんぞ出る訳ねぇだろ!!それにテメェが付いてきたいって言ったんじゃねぇのか!?最後まで走れッッ!!」
アッシュはそう言ってナーロを怒鳴り付けた。
アッシュ達はあの後、すぐ様ラズベリルと一緒に街に出た。
途中、ラズベリルは避難の誘導に戻ると言って別れ、アッシュ達はそのままライラの元へと向かっている。
初めナーロは街の情勢を理由に屋敷から出る事を拒んでおり、アッシュ達はトカゲの配下に留守を任せて出ようとした。
しかしラズベリルからライラが拐われた事を聞かされると、態度を一変させて飛び出して来たのだ。
正直言って連れて行く事で足手纏いになる事は分かっていたが、屋敷に残して置くにも戦力的なリスクは有るし、何より本人の情熱に押されて一緒に行く事を決めた。
しかし走り出して暫くすると徐々にその足取りは遅くなり、最終的にはこの様である。
普段ならそこまで怒る事の無いアッシュだったが、ライラの身に危険が及んでいる事。
そして、もう一つの事実が彼から余裕を奪っていた。
「アッシュ……」
「ああ!?」
「落ち着きなさい。貴方のせいじゃないわ」
「……ッ!!」
その言葉に強い怒りを覚えたアッシュはレナを睨み付ける。
しかしレナはそれを意に返さず、ナーロへと駆け寄って行った。
「……走れる?キツいなら背負うわよ?」
「……“置いて行ってくれ”と言いたい所だが……それも迷惑をかけるんだが……。頼んでも良いんだが?」
「ええ。良いわよ」
レナはそう言うとナーロを担ぎ上げ、そして再び走り出す。
アッシュもそれに従う様に走り出した。
「……どういう意味だよ」
「そのままの意味よ。悪いのはアーケオスと黒豹戦士団であって、貴方に責任は無い。それ以外に責任を求めるならアバゴーラと次点でギリギリトカゲかしら?まぁ、トカゲの責任も無いと私は思うけど。ナーロはどう思う?」
「商人として考えれば全員に責任を追求するところだが……今回の場合は概ね同意なんだが。誰が悪いって、そりゃあ拐った奴が悪いに決まってるんだが?」
そう言ってナーロはアッシュに向かって手をひらひらと振った。
二人の言葉は自分を気遣って出たものだとアッシュにも分かる。しかし……いや、だからこそアッシュはどうしても許せなかった。
アッシュは再び声を出そうとしたが、それより先にレナが声を上げた。
「……あれは……!?」
「「!?」」
アッシュはレナの視線を追う様に前を見る。
そこには、顔見知りの蜥蜴人……ライラの父親であるバドーが、血塗れで倒れていた。
「バドーのおっちゃん!?」
慌てて駆け寄る三人。
バドーの両手足は折られ、気を失っているが呼吸はしっかりしている。
「おいおっちゃん!!大丈夫か!?」
「うぐ……ぐっ…………あ、アッシュ……か……?」
「おっちゃん!!」
バドーはアッシュの呼び掛けに目を覚ます。
そして自分の手足を見た後にアッシュに尋ねた。
「……アッシュ……ポーションを……持ってないか……?ぐっ……!!……俺の……手持ちは使い切っちまったんだ……」
「ああ!!ちょっと待っててくれ!一個だけだけど持ってるから──」
「待ちなさい」
「「!?」」
ポーションを取り出そうとしたアッシュをレナが止める。
そしてレナはバドーを見て続けた。
「……貴方の怪我……やったのはバルドゥークね?」
「グフッ……!!……あ、ああ。……それが……どうした?」
「治してあげたとして、どうするつもり?」
「……決まってんだろ……!バルドゥークの奴をブチ殺して……ライラを助けるんだよ……!!」
「その様で?」
「……ッッ!!」
レナの言葉に怒りを露わにするバドー。しかしレナはそれを意に返さず静かに告げる。
「……気持ちは分かるけど、貴方の実力じゃあ無理よ。死体が一つ増えるだけだわ。アッシュ、ポーションは使わないで。この人を自由にさせたら相当邪魔になるわ。ナーロと違って身の程を弁えて無い」
「死んだらなんだってんだよッッ!!」
「!」
そう言ってバドーはレナを睨み付ける。そしてその両目からは涙が溢れた。
「俺は……俺はあの子の……父親だッ!!あの子が卵から孵った時“死んでもこの子を守る”って決めたんだよッッ!!死体になろうがミンチになろうが!!俺は絶対にライラを助ける!!絶対にだ!!」
「……つまり、大人しくしてるつもりは無い訳ね?」
「当たり前だッッ!!テメェらをぶちのめしてからでもライラを助けに──ぐぶッッ!?」
話を遮る様にレナの拳がバドーにめり込み、バドーはそのまま気を失う。
「……だったら暫く寝てなさい。……アッシュ、貴方はこの人を担いで」
「……」
「……アッシュ。私だって好きでこんな事した訳じゃないわ。こうでもしなきゃこの人は止められなかったでしょう?」
「……分かってる。……でも……」
──ゴォォォォッッ……──
「「!?」」
突如響く轟音。
アッシュ達の位置からは何も見えないが、その音は何処かで大規模な崩落が起きた事を示していた。
「余り悠長な事言ってられそうに無いわね。アッシュ。その人を担いで。だけどポーションは使わないでね」
「……ああ」
アッシュはバドーを抱えて走り出す。
レナの判断は合理的なものだとアッシュも思う。
バドーは優秀な冒険者だが、ライラの事になると我を忘れる所がある。もし仮にライラが生きたまま酷い目に遭わされていた場合、バドーが自由に動けるのは最悪の状況を作り兼ねない。
それにアッシュの目から見ても、バドーは弱かった。
以前師匠であるトカゲとバドーが戦っているのを見たが、あれだけ油断して手加減していたトカゲにすら勝てないのではバルドゥークの相手など務まる訳が無い。仮に同じ条件で戦えば、アッシュなら容易く勝利出来ていた。
しかし、それを口にする資格はアッシュには無い。
そもそもこの状況を作ってしまったのは、アッシュの責任なのだから。
「……クソッ……」
アッシュは自分への苛立ちを言葉に出すと、気持ちを切り替えた。
これ以上迷惑をかける訳には行かない。今は兎に角ライラの無事を祈り、ひたすらに走るしか無い。
──だが、状況はそれすら許さなかった。
「アッシュ、止まれ!」
「!?」
突如響いたフェレットの声。
其方を見ると、先程まで一緒に居たフェレットが此方に駆け寄って来ていた。
「お前、ラズベリルを送ってから誘導を手伝うって言ってたじゃねぇか……」
そう言ったアッシュに対してフェレットは首を振る。
「……送る事は送ったがそれどころじゃなくなった。すいやせん!姉さん!!少し来ていただけますか!」
そう呼び止められ、近寄るレナ。フェレットはトカゲからの伝言が有ると前置きして続けた。
『さっきの轟音は聞いたか?』
「ええ。ヤバそうな音だったわね」
『その通りだ。城壁の一部が崩れ、スロヴェーン兵が住民達に迫っている。避難路を完全に押さえられれば被害はかなり拡大してしまう。今直ぐに其方に向かって欲しい』
「今すぐは難しいわね。まだライラちゃんを助けれて無いもの」
『……レナ、今直ぐに向かって欲しい』
「……意味、分かってて言ってる?」
トカゲは数秒の沈黙の後、重たい声で答えを告げる。
『……ああ』
「……分かったわ」
レナはそう言うとナーロを下ろして進行方向を変える。
アッシュはそれを制す様に声を掛けた。
「ちょ、ちょっと待てよレナ!!師匠!!じゃあライラはどうするんだよ!?そりゃ街の住民達も大事だけど、ライラだって友達じゃねぇか!!」
『見捨てるとは言っていない。優先順位が違うだけだ。恐らくレナの仕事は直ぐに終わるものでは無いから、私が作業を終えてから向かう』
「それじゃあ遅いかも知れねぇだろ!?死ななくてもライラが無事だとは限らねぇ!!そんな事師匠が一番分かっている筈だろ!?」
『……分かっている。だが、このまま放置すれば冒険者達が誘導している住民達はライラよりも先に死ぬ事になる。無論、それに加わったラズベリルも一緒にな。……ライラにはナーロの持っていた“宝石喰らいの尾冠”を持たせている。間に合う公算が無い訳じゃない』
「何だよそれ……!!“絶対に助ける”って言えよッ!!俺は……俺は絶対にそんな事認めねぇッ!!」
「……止めるんだが?」
「!?」
そう言うとナーロはアッシュ達に近付いて来る。
そしてレナに振り返って言った。
「ラズベリルちゃん達を頼むんだが。死ぬ程嫌われてる自覚は有るんだが、ライラちゃんの友達を死なせる訳にはいかないんだが。……間に合わなくなる前にさっさと行くんだが」
「……分かった。さようなら、ナーロ。貴方は思ったよりはずっと良い男だったわよ?」
そう言い残すとレナは二人を置いて一気に駆け出した。
「ま、待てよレナ!!まだ話は終わって──」
「終わってるんだが?アッシュ……お前が納得いってないだけで、話は終わったんだが」
「……テメェッ!!それでもライラの事が好きなのかよ!?本気で惚れてたんじゃねぇのかよ!!」
アッシュはそう言ってナーロの胸倉を掴むが、ナーロはそれを一瞥するとフェレット越しにトカゲ話かけた。
「あとどれくらいかかりそうなんだが?」
『……恐らく、一時間程だ。スロヴェーンの本隊も接近しているし、城壁結界の再構築は最優先事項だ。もし仮に私がアバゴーラから離れればザグレフはアバゴーラを必ず殺しに来る。現状の戦力で私の代理が務まる者も居ない』
「ライラちゃんが殺されるまで誤差30分と言った所なんだが……。分かった。僕が時間を稼ぐんだが」
「……何言ってんだよ!!お前でバルドゥークの相手が出来るとでも思ってんのか!?」
「誰が“戦う”と言ったんだが?僕は“時間を稼ぐ”と言ったんだが」
「同じ事だろ!?」
「……違う。バルドゥークに僕を嬲り殺させるんだが」
「!?」
ナーロの言葉に目を見開くアッシュ。ナーロはアッシュの顔を真っ直ぐに見て続ける。
「“宝石喰らいの尾冠”の効果時間は、もうそれほど残っていないんだが。グラフォンの時に僕が使ってしまったし、拐われてからの時間も考えればもう余裕は無い。だが、効果の詳細を知らないバルドゥークは相当苛立っている筈なんだが。折角攫ったライラちゃんに手が出せないんだから。……そこで僕が現れれば、奴は僕を交渉材料にしてライラちゃんを結界から引き摺り出そうとする筈なんだが。時間をかけて、僕を嬲りながら」
「何考えてんだよ!?そんな事したらお前が──」
「死ぬ。言った筈なんだが?“僕を嬲り殺させる”、と。僕は死ぬけど、確実に時間は稼げるんだが。……トカゲ、悪いんだが足の速い部下に僕を運ばせて欲しいんだが。僕の足じゃ間に合わないかも知れない」
『……“やめてくれ”と言ったら聞いてくれるか?』
「多少揺らぐけど、聞けないんだが。……僕の気が変わる前に頼むんだが?」
『……分かった。ならそのまま走っててくれ。なるべく早く合流させる』
「助かるんだが。でも、また走るんだが。苦手なんだが……」
ナーロはそう言って走り出す。
「ちょっと待てよナーロ!!おいッッ!!」
アッシュは何度も呼び止めるが、ナーロはそれを無視して走り続ける。
アッシュはフェレットへと詰め寄った。
「何で……何で止めてくれないんだよ師匠!!師匠だったら止められただろう!?」
『現状でライラを救うにはナーロが言った手が一番確率が高いからだ。フェレット達は直接戦闘には不向きだし、私が状況を把握する為には彼等の目と手を失う事は看過出来ん。そしてグリフォンとオルカルード達は本隊の撹乱で手が空かない』
「なんでだよ!ナーロは死なせられない筈だろ!?」
『……そうだな。それも折り込み済みでナーロも動いた筈だ。自分が動く事でライラ救出の優先順位を少しでも上げて、私が助けに行くのを早めようとしたんだろう。……私も奴なら同じ事をした』
「どうして……!!」
アッシュの頬に涙が伝う。そして、これまでどうにか口にせずにいた想いが溢れ出した。
「どうして誰も俺の事を責めないんだよッッ!!俺がバルドゥークにトドメを刺すのを止めたからこんな事になってるんじゃねぇかッッ!!それなのに、師匠もナーロもレナも!!誰一人俺の事を責めやしねぇ!!全部……全部俺のせいなのに……!」
それはアッシュの偽ざる本心だった。
アッシュはトカゲがバルドゥークを殺そうとした時、強い劣等感からそれを止めた。
“お前には何も出来ない”
そう言われている気がしたからだ。
確かにアッシュは強くなった。それこそ以前の彼とは比べ物にならない程に。
しかしそれでもアッシュは自分の事を認める事が出来ない。
スーヤの事を守れなかった事も。オーク達に良い様にされた事も。バルドゥーク相手に何も出来なかった事も。
その全てが自分に力が足りなかったからだと思っているからだ。
だからアッシュは必死だった。早く実力を示し、認めてやりたかったのだ。他ならぬ自分自身を。
──その結果がこの様だ。
自分の我がままの為に二人の友人の命を危険に晒し、そして糞を付けて良いくらいに甘い師匠にそんな冷酷な判断をさせている。
しかし、それを聞いたトカゲは首を振った。
『……お前の責任では無い』
「なんでだよ!?どう考えたって俺のせいじゃねぇかッッ!!」
『お前がした事が事態に影響を及ぼしているのは事実だ。だが、それを考慮しても現状には繋がらない。ザグレフの姦計とアーケオスの裏切りこそがこの事態を招いているんだ。その責任の一面だけ取ってお前に押し付ける様な馬鹿は居ない。だから誰もお前を責めないんだ』
「そんなの納得出来るかよッ!!頼む師匠!!俺に行かせてくれ!!」
『駄目だ。お前ではバルドゥークを倒すのは難しい。ナーロが向かったが、それでも間に合わない可能性の方が高い。私が着いた時に見る死体は二つで十分だ』
「何でだよ!?俺よりもナーロの方がずっとずっと価値が高いだろう!?そんな事俺にだって分かる!!」
『……違う』
「どこが──」
『私には、お前の方がずっと大切だからだ』
「……ッ!!」
トカゲの言葉にアッシュは思わず口籠る。
『……確かにナーロもライラも良い奴だし、死なせるには惜しい人材でもある。だが、忘れるな。私達はあくまでも“黒竜の森に住む魔物”なんだ。私達が考えるべき最優先は“私達の利益”で、二人の事は二の次だ。二人の為にお前が死ぬなんて本末転倒も良い所だ』
「で、でもナーロを生かしておく事は俺達にとっても重要な事だろう!?」
『確かにその方が良いが、それでも修正は効く範囲だ。住民達の避難も崩落した城壁周辺を除けば順調だし、結界の再構築も順調だ。アバゴーラも手に入ったし、アテライードの回収の目処も付いている。全体の計画で言えば間違いなく順調だ。この状況でお前に無理をさせる必要は無い。……ライラやナーロ、そして死んだ住民達は気の毒だったが、ここは魔界だ。弱肉強食こそが真理だ。弱かった自分を呪うしかない』
「……!!」
トカゲの言葉はアッシュに深く突き刺さる。
正に今、アッシュは自分の弱さを呪っているのだから。
『……お前がバルドゥークを見逃させた時、正直に言えばこうなる事はある程度予測出来た。少なくとも、ライラが危険に晒される事はな。だから私はナーロから宝石喰らいの尾冠を預かり、ライラに渡しておいたんだ。……まぁ、手遅れになるとは思っていなかったがな……。……アッシュ。気に病むなとは言わない。だが、失敗から学べ。お前はまだまだ成長出来る』
「……でも、俺の失敗で死ぬのは俺じゃなくてライラとナーロだ」
『……そうだ。だからこそ学ぶべき価値がある。……アッシュ、私にとってお前と過ごした数ヶ月は思いの外悪く無かった。お前は教えた事は言われなくとも反復し、出来ない事があっても必ず出来る様になるまで努力して来た。ジャスティスの様な天才では無いが、そのひたむきさはそれとは違う価値を持つ物だ。……アッシュ、面と向かって言った事は無かったが私はお前の事を誰よりも認めている。例え、お前自身が自分の事を認めていなくともな』
「……ッ!」
『……もう一度言う。私にとってお前は掛け替えの無い大切な弟子だ。だから今は動くな。……分かったな?』
そう言ってトカゲはアッシュを気遣う様に言葉を閉めた。
──嬉しかった。
アッシュは今までトカゲは自分の事を認めてくれていないと思っていた。
トカゲの群れには自分よりも強くて優秀な魔物が沢山居るのだから。
ヤスデ姉さんだって本気で戦えば滅茶苦茶に強いし、ステラやオルカルードもアッシュより強い。フェレットやネズミ達もアッシュには出来ない様な仕事をしている。
だからアッシュはひたむきに頑張った。少しでも実力が身につく様に。
師匠はそれをちゃんと見ていてくれた。少なくとも、そこだけは認めていてくれたのだ。
アッシュはそれが堪らなく嬉しかった。
──そして、だからこそ覚悟を決めた。
「……師匠」
『どうした?』
「俺にバルドゥークを任せてくれ」
『……』
アッシュの言葉に暫く考えるトカゲ。そして徐に言葉を出す。
『……これまでの話を全て理解した上での発言なんだな?』
「ああ。先ず、ナーロを死なせる訳にはいかない。師匠は修正は効くとか言ってたけど、相当無理しなきゃいけないんだろ?ナーロは有力な評議員の息子だし」
『……そうだな』
「だけど時間が必要なのも事実だ。少なくとも師匠は直ぐには動けない。だから俺がナーロの後を追って、アイツが死ぬ直前までバルドゥークにボコられてから乱入する。俺は一つだけだけどスーヤのポーションを持ってるから、死んで無い限りは助けられる。そうすれば時間はもっと稼げる筈だ」
『……理には叶っている。だがバルドゥークがお前の監視に気が付かないと思うか?』
「気付く。だけどアイツは放置するか挑発するかのどちらかの行動を取る筈だ。アイツは俺の事を散々痛め付けたし、かなり舐めてる。しかもムカつく師匠の弟子だからな。俺の事もぼこりたい筈だ。だからナーロ一人で行かせるよりもずっと時間稼ぎが出来ると思う」
『……!』
驚いた様子を見せるトカゲ。そして再び口を開く。
『確かにそうだが……それでも、お前が死ぬリスクは高い。私が間に合わない可能性だってある。行かせる訳にはいかない』
しかし、それを聞いたアッシュは首を振って続けた。
「……俺だって死にたくねぇよ。だから戦いたいんだ」
『……矛盾してる様に聞こえるが』
「……俺さ、師匠やナーロ達に“お前のせいじゃない”って言われた時、なんつーか、ホッとしちまったんだ。最低だけど、“俺は悪くないんだ”って一瞬思っちまった」
『それが普通だ』
「かもな。……だけど、師匠ならそんな事思わないだろ?」
『……』
「……師匠は単純な強さだけじゃなくて、なんつーかこう……芯の強さみたいなのがすげぇと思う。最後まで自分に出来る事を考えて、とんでもねぇ事を成し遂げる。そんな師匠の弟子なのに、俺は自分可愛さでそんな事を考えた。……最悪な気分だった。自分で自分が許せねぇくらいに……」
アッシュはそこで区切ると、真剣な目でトカゲの方を見た。
「……だから俺はこのままライラ達を放って置いたら自分の事を許せなくなると思う。そんでダラダラ腐って、ずっと言い訳だけして生きてくんだ。“俺は悪くない”、“誰かのせいだ”、“俺を認めない奴が悪い”ってな。そんなゴミみてぇな生き方、死んでんのと変わんねぇだろ?……だから師匠、頼む。俺にやらせてくれ。ライラやナーロを助ける為じゃなく、俺を死なせない為に」
『……』
暫くの間何かを考えるトカゲ。
そしてゆっくりと口を開いた。
『……二人の為にお前が死ぬのは本末転倒だ。……行ってこいアッシュ。腐る前に自分を助けてこい』
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宝石喰らいの尾冠は152話の“保険”の回でトカゲがラズベリルに言付けていた物です。
連載を追われてる方だと忘れてるかもと思い、一応補足して置きます。




