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“覚悟と決断”

ーーーーーーー





「フハハハハハッ!!まさかこの軍勢に単騎で乗り込もうとはな!!確かに手練れ!確かに強者!!しかし、それもこれまでだ!!我はスロヴェーン王国南方方面軍──」


「うるせぇぇぇッッ!!」


「ぐベボッッッ!?」


 私は何人目か分からない名乗りを上げそうなモブをぶち殺す。


 ただでさえ状況がゴチャ付いてるのにこれ以上名前の付いたキャラクターなんぞ増やしてたまるか!!


「まだ終わらないのか!?」


「煩いのう。もう少しじゃ…………終わった」


「良し!!じゃあライラを助けに──」


「これで()()()じゃな」


「はぁ!?」


 私はアバゴーラの言葉に思わず苛立つ。


 私とアバゴーラはフィウーメに入ってから、ずっとこうして結界の調整を行なっている。


 何でもアバゴーラの用いる城壁結界はダンジョンコアにフィウーメの外壁がダンジョンの一部だと誤認させる事でその空間形成能力とステータス補正を利用しているらしく、城壁の複数カ所にはダンジョン由来の核の様な物が存在している。

 ザグレフはそれに細工をし、空間形成とステータス補正の位置情報を狂わせて結界を実質的に無効化しているそうだ。


 中枢で制御しているザグレフと違い、遠隔での制御が出来ない私達は直接現物を修正して行く必要が有る。


 当然ながら目下侵攻中の区域もあり、妨害も相当キツい。

 かと言って本来の姿に戻れば通れなくなる道も多く、私は不本意ながらこの姿のままで駆けずり回っているのだ。


 私はアバゴーラを尻尾で担ぐと、再び全力で走り出す。


「お前は何でこんな小細工を見落とした!?普通は分かるもんじゃないのか!?」


「……難しいのぅ。ザグレフはオルドーフの覚醒解放でいつでも好きに動けたじゃろうし、この結界の状態は言わば仕様の範囲じゃ。異常を知らせる機構も有るが、これでは機能せん」


「クソがッッ!!そこまでフィウーメを潰したかったのかアーケオスの野郎!!」


「……()()


「あぁ!?」


「……見れば分かる。本当にフィウーメを完全に潰すつもりなら、もっと手遅れにする方法は幾らでもあった。じゃが、この方法なら多少の調整は必要でも致命的な欠損には成り得ん。……恐らく……」


「……アーケオスが結界を復旧させる事を前提としていたと言う事か」


 アバゴーラは無言で頷く。


「……それでも、許せる様な事じゃない」


「……分かっておる。言い訳では無く愚痴のたぐいじゃわい」


「なら良い。次は?」


「第二十七ブロック、第十四ブロック辺りが近いかのう」


「それなら壁を超えた方が早いな。登るぞ」


 私はそう言うと城壁を掴んで登り出す。この移動方法も何度目かになり、アバゴーラは何も言わない。


 私は城壁の上に立つとアバゴーラに尋ねた。


「それで具体的な場所は?」


「壁面に沿って進んだ場所に橋脚が見えるじゃろ。その根本じゃな」


「チッ!またスロヴェーン兵が居るな」


「妨害を狙ってザグレフが調整しておるのかも知れんな。まぁどの道フィウーメ内のスロヴェーン兵は生かしてはおけん。同じ事じゃろう?」


「……違う。時間が無い。このままではライラが危ない」


 ラズベリルの言葉通りなら、ライラは後四十分程でバルドゥークに殺される。

 しかし、バルドゥークがそれまでライラを何もせずに見ているとは思えない。()()()()()()()()()()()は幾らでもあるのだ。


 万が一の時の為にアレを渡しておいたが、しかしそれでも楽観は出来ない。


 すると、私の様子を見ていたアバゴーラが問い掛けて来た。


「ライラ……ギルドの受付嬢じゃったか。……貴様の女か?」


「……いや。だが友人だ。素晴らしい女性だとも思う」


 私がそう言うと、アバゴーラは顎を撫でて続ける。


「……別に構わんが、()()()を間違えるなよ?」


「……取捨選択?」


「そうじゃ。貴様は基本的には冷静じゃし、頭も悪くはない。じゃが情に厚すぎる。そのライラとか言う小娘が拐われたと聞いてから、明らかに感情的になっておる。優先順位はフィウーメか?それともその小娘一人か?」


()()。私は強欲でな。自分の欲望には妥協しない様にしている」


「フム……。魔物としては模範回答じゃの。じゃが、そう上手くはいかんだろうな」


「何を言って──」



 ──ゴォォォォッッ……──



「!?」


 私達が話をしていると、フィウーメの城壁の一部が完全に崩壊した。


 最悪な事にそこはスロヴェーン軍と面した位置に有り、そして住民達の避難路の近くでもある。


 私が愕然と見ていると、アバゴーラは冷めた口調で続けた。


()()()()。ザグレフならやると思ったわい」


「どう言う事だ!!城壁結界の仕様にあんな機能が有るのか!?」


「……いや、そうではない。裏技の様なものじゃな。あの崩れた部分は物理的には存在出来ず、ステータス補正を前提とした設計で作られた部分じゃった。地下には都市機能の為の空洞が有り、それを支える為の土台にステータス補正をかけておったのじゃ。奴は仕様の範囲内でその補正値を別に移し、城壁を自重で崩したんじゃよ。スロヴェーン兵と住民達の位置が近いのもやはり偶然では無いじゃろうな」


「それが分かってて何故放置させた!?」


「他の優先度が高かったからじゃ。崩壊した箇所は多少の不便は出ても都市機能の維持には支障は無い。逆に儂等が回った場所は致命傷になり得た。……それに、悪い話ばかりでも無い。奴が崩した場所には魔力導線レイラインのターミナルの一部も含まれておる。これまでの様に好き勝手に遠隔から城壁結界を制御するのは不可能になったじゃろう。後はザグレフを殺してコアを再調整していけばフィウーメは復旧する」


「ふざけるなッッ!!それはつまり私達がザグレフを殺しても復旧は遠隔地からは出来ないと言う事だろうがッッ!!この状況でそれの何処が都合が良い!!」


()()()()()()


「……ッ!!」


「……だから言ったじゃろう?“取捨選択を間違えるな”とな。確かに住民達は危険に晒されているが、崩落カ所の範囲自体はそこまで広くは無い。お主や、それに並ぶ戦力ならば容易にスロヴェーン兵を抑えれるじゃろう。その間に結界を復旧させ、フィウーメ内の残党を叩く。筋道は出来ておるじゃろう?」


「……必要なのは“覚悟”と“決断”……か……」


 私の言葉を聞いたアバゴーラは、静かに頷いた。





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