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“ライラとラズベリル”

ーーーーーーー





「皆さん落ち着いて誘導に従って下さい!!スロヴェーン軍は常備軍が抑えています!!私達ギルドのメンバーも、冒険者の皆さんも付いています!安心して下さい!!」


「……ライラちゃん……儂はもう良いんじゃ……。カミさんには先立たれ、生きとる意味も無い……。儂ぁもう死ぬ……」


「本当ですか!?助かります!今すぐ武器を持って常備軍に加わって下さい!そうすれば死体になる迄に他の皆さんの為に時間が稼げます!」


「い、いや、その、そうじゃなくてのぅ?」


「だったらさっさと立って歩いて下さい。じゃないと私だけじゃなくて、亡くなった奥様にも愛想を尽かされますよ?」


「……!」


 ライラの言葉に、蜥蜴人リザードマンの老人は再び立ち上がって歩き始める。


「ライラ!迷子だ!!」


「あー!はいはい!!ほら、泣かないで!男の子なのに泣いてばかりだとそのうち女の子になっちゃうよ?皆さん!!この子の親御さんか、若しくはこの子を知ってる方は居ませんか!?」


「わ、私知ってます!!」


「良かった!すぐ見つかって!見つからなかったら六人目の子供が出来る所でした!まぁ、子供なんて何人居ても良いですけどね!」


 そう言ってライラは後ろに並ぶ子供達を振り返る。

 そこには五人の子供達が居るが、当然ライラの子供と言う訳では無く、全員親と逸れた迷子達だ。


 しかしその素振りはまるで“肝っ玉かあちゃん”そのもので、それを見ていた住民達も思わず笑みを溢す。


 ラズベリルはその様子を見て素直にこう思った。


 本当に凄い女性ひとだと。


 ライラとラズベリルは同時期にギルドに入った言わば同期の様な関係だ。


 これと言ってやりたい仕事も無く、自分の容姿に自信が有ったラズベリルは、結婚までの腰掛けのつもりでギルドの受付嬢になった。


 実際、ラズベリルの姉も同じ様に受付嬢から有名冒険者の妻となり、現在は左団扇ひだりうちわの生活を送っている。(※左団扇……身内がお金持ちで楽チン)


 自分もそうなれれば楽だし、適当に仕事をこなしておこう。


 そう思っていたラズベリルだったが、ライラと一緒に仕事をして行く内にその考えは変わって行く事になる。


 当時からライラは仕事熱心だった。

 どんな仕事でも真面目に取り組み、そして依頼主や冒険者達への気配りを怠らなかった。

 面倒な事務仕事も率先してやり、多少でも手が空けば他の職員の仕事も手伝っていた。

 

 蜥蜴人リザードマンの美醜の基準は分からないが、周囲の反応からライラが相当な美人である事は分かっていた。

 そんなライラが必死になって働く理由が分からなかったラズベリルは、本人に直接尋ねたのだ。


 “何故そんなに真面目に働くの?貴女の容姿なら、適当にしてても引く手数多でしょうに”と。


 その時の事は、今でも良く思い出す。


「だって適当に生きてる女ってブスしかいないんだもの。私は良い女になって、良い男と結婚するの。見た目も中身も妥協せずにね。貴女もそのままだと旦那の悪口を延々と言ってる様な無様なブスになるわよ?」


 ──衝撃的だった。


 ラズベリルは完全にライラに見下されていたのだ。


 表面的には仲が良いと思っていたライラの言葉に、ラズベリルは激しく腹を立てて詰め寄った。


 しかしライラはそれを相手にせず仕事に戻り、更に詰め寄ろうとしたラズベリルは他の職員達に止められた。


 そしてそこでようやく気付いたのだ。


 誰一人、ラズベリルの味方に立ってくれていない事に。


 今なら理由は分かる。


 ラズベリルが“適当”に流していた仕事のシワ寄せは、全てライラや他の職員達に回されていた。そしてラズベリルにとってそんな周りの連中は結婚相手にはなり得ず、雑に扱っても良いと思っていたのだ。


 当然そんな糞女の味方になる様な物好きは居ない。


 しかし当時のラズベリルはそれがライラの仕込みだと思い、更に腹を立てた。


 そしてその時からラズベリルはライラに対抗心を燃やし、真剣に仕事をし始めたのだ。アイツに出来る様な事なら、自分にだって出来ると。


 結局、その考えは一ヶ月程で改められた。


 仕事をすればする程、ライラの凄さが身にしみてしまったのだから。


 ──そうして一年程が過ぎた今、ライラとラズベリルは親友と言えるくらいの仲になっていた。


 自分の振る舞いを反省したラズベリルは、これまでの事を職員に謝罪し、自分で言うのもなんだが相当“出来る女”になった。


 しかし、それでもライラには全く及ばない。


 こんな非常時でも自然とみんながライラの下に集まり、彼女を頼る。

 その気持ちも良く分かる。ライラと一緒に居ると、背筋がしゃんとしてしまう。


 本当に、凄い女性ひとなのだ。


「何をボサッとしてるのよラズベリル!!」


「!?」


 ライラの言葉に我に返るラズベリル。


 確かに物思いにふけている場合では無い。まだまだ仕事は山積みで──


「キャァァァッッ!!」


「「!?」」


 突如響く悲鳴。


 ラズベリルがその声に振り向くと、そこには見た事の無い魔物が血塗れの鉄槌を持って立っていた。


 全身がトゲの生えた鱗で覆われた、丸みを帯びたシルエットの巨漢。

 しかしその丸みは贅肉にそれでは無く、圧倒的な筋肉の暴力を感じさせた。


 その魔物はライラに視線を向けると、徐に口を開く。


「……見つけた……()()()()()()()()()()()……!」


「なっ!?バルドゥーク!?」


 その声を聞いた冒険者の一人が、そう言って声を上げた。


 その言葉でラズベリルも魔物の正体に気付く。

 見た目は禍禍しさを増しているが、確かにその容姿にはバルドゥークの面影があった。


「……なんの用ですかバルドゥークさん。今は非常事態です。協力してくださるなら助かりますが?」


 そう言ってバルドゥークを真っ直ぐに見るライラ。


 バルドゥークはくつくつと笑いながら答える。


「ククク……相変わらず……良い度胸だ……そんな訳無いくらい……分かるだろう?」


「ならさっさと帰って頂けますか?見ての通り立て込んでまして」


「良いぜ?……お前を……拾ったらな……!」


「「!?」」


 バルドゥークはそう言うとライラに向かって歩き出す。


 先程声を出した冒険者がバルドゥークの前に立ってそれを止めようとした。


「止めろバルドゥーク!今はそんな事をしている場合じゃ──」


「……うせろッッ!!」




 ──ボキィッッ!!──




「「「!?」」」


 冒険者の首があり得ない角度に曲がる。


 バルドゥークの振るった拳が、彼の命を奪ったのだ。


「み、皆さん落ち着いて──」


「う、うわぁぁぁぁッッッッ!!」


 ライラの呼び掛け虚しくパニックを起こし、逃げ惑う住民達。


 仲間を殺された冒険者達は激昂し、バルドゥークへと襲いかかる。


「死ねバルドゥークッッ!!」


「テメェの死体の上で糞してやるぜッッ!!」


 そう言って振り下ろされた二人の剣。


 ──ガィンッッ!!──


 しかしバルドゥークは、それを両腕の鱗で受け止めた。


「「なっ!?」」


「……テメェら程度じゃ……俺の鱗も切れやしねぇんだよッッ!!」


「「ぐぎゃあっ!?」」


 振るわれた鉄槌に上半身を砕かれる二人の冒険者。


 バルドゥークは血の付いた鉄槌を払うと、不気味に笑う。


「ヒャハハハハ!!……良い……!!今までより、ずっと良い!!これで……ザグレフの野郎にも……デカい面はさせねぇ……!!ヒャハハハハハハ!!」


 その不気味さに思わず息を飲むラズベリル。


 冒険者達は周囲を取り囲み、バルドゥークへと武器を構える。


「バルドゥーク……。これは笑い話じゃねぇぞ。こんな分かりやすい規約違反起こして無事にフィウーメから出られると思ってねぇだろうな?」


「あぁ……?テメェらこそ頭大丈夫か?……フィウーメが……()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「……ッ!!」


 冒険者達が再びバルドゥークに向かって行こうとしたその時、ラズベリルの横を一人の人影が横切った。


「……ライラッッ!!」


 そう、ライラだ。


 ライラはそのままバルドゥークの前に立つと、奴に話しかけた。


「……そこまでにして下さい。バルドゥークさん。貴方の望みは私でしょう?大人しく従いますから、これ以上誰かを手に掛けないで」


「ライラ!!貴女何を言ってるの!?」


「だって仕方ないじゃない。これ以上無駄に死人を出したく無いもの。ラズベリル。後を頼んだわよ。今の貴女なら任せられるから」


「ライラ……!!」


 二人のやり取りを見ていたバルドゥークは下衆な笑みを浮かべて続けた。


「ククク……良い女ぶりだが……勝手に決められんのは気に入らねぇ……。俺は……コイツらを皆殺しにしてから強引に連れてっても……問題は無いんだぜ……?」


「……ッ!!」


 そう言って周囲の冒険者達を挑発するバルドゥークだが、ライラは怯まない。


「だったら私はその間に全力で逃げさせて貰うわ。たまたま私が誘導をしてたから見付けられただけで、本来ならこの混乱極まるフィウーメで私だけを見付けるなんてそう簡単な話じゃないわよ?それに、私は生まれも育ちもフィウーメよ。裏道だって知ってる。貴方が通れない様な幅の道もね。そんな私と鬼ごっこする様な時間があるの?」


「……」


 バルドゥークはライラを暫く睨み、そして鉄槌の構えを解いて肩に担いだ。


「ククク……本当に大したタマだ……。バラすのが勿体ないくらいにな……」


「だったら大切にしてくれても良いのよ?」


「ククク……嫌だね。そんな女をバラすのが……一番(そそ)るんだからな……」


 バルドゥークさんそう言うとライラに近づいて肩に担ぐ。


 そしてラズベリルに向かってこう言った。


「……今からきっかり一時間後に……コレをバラす。場所は……第八ブロックの給水場だ……。それまでに()()()()()を探して来るんだな……ククク」


「ラズベリル。……私なら大丈夫だから。きっと、トカゲさんが助けてくれる。……でも、出来るなら早目に助けに来てって伝えて?」



 そう言い残すと、ライラを担いだバルドゥークは悠然と去って行った。


 しかし、ラズベリルは見逃さなかった。親友の身体が、僅かに震えていた事を──





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