トカゲのプランとブチ切れジャスティス
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顎髭のオークは眼前の敵に目をやる。
体躯は2メートルを超えない程。
その全身を純白の体毛で覆い、真紅の目と二本の角。そして四本の尾を持っている。
一見すると強そうには見えないのだが、奴から感じるプレッシャーは、圧倒的な強者のそれだった。
“白銀のジャスティス”
トカゲの腹心であり、ステラを一対一で打ち破る程の魔物だ。
この遭遇は不意を突かれた形だが、都合良くも有る。
ここなら戦闘になっても民を巻き込む事が無く、そして拓けた立地の為軍隊としての利を活かせるからだ。
だが疑問も有る。
“何故ここが分かったのか?”だ。
謀反がバレるのは当然だと思うが、場所と時間の特定が早すぎる。
──と、そう思った顎髭のオークだったが、答えは彼が思うよりずっと早く分かった。
「じゃ、ジャスティス様ぁ〜ッ!!来て下さったのですね!?いやぁ、電光石火とは正にこの事!さぁ、どうぞこの反逆者供に正義の鉄槌を!!」
そう言って一匹のオークがジャスティスの方に駆けて行ったのだ。
そのオークに顎髭のオークは覚えが有った。彼にすり寄っていたあの調子の良いオークだ。
どうやら最初から奴は内通者だったらしい。別にバレても構わないと思い行動していたが、あそこまで綺麗に手の平を返されると思わず目頭を押さえたくなる。
ジャスティスも同じ様な気持ちなのか、ため息を吐いて応えた。
「……はぁ。まぁ、一応御苦労だった。お前はどっかにすっこんでろ」
「分かりました!!御武運をお祈りしています!!」
調子の良いオークはそう言って脱兎の如く消えて行った。
「……調子狂うな……。まぁいいや、仕事仕事」
ジャスティスはそう言うと再び顎髭のオーク達と向き合う。
「……テメェら。念の為に聞いとくが、これはなんのつもりだ?」
白々しい。
顎髭のオークはそう思う。ジャスティスの口振りから察するに、奴も最初から話を聞いていた筈だ。
とは言え、相手が敵の首魁である以上、宣言も必要だろう。
「……我等は黒南風の戦士。貴殿ら黒鉄の──」
「ああ!ストップストップ!分かった!分かった!正式な宣言なら最後まで言うな!一応こうして姿を出した以上は体面があるからな。それ聞いちまうと引っ込めなくなっちまう。トカゲの奴からテメェらに伝言があるから、それを聞いてから判断してくれ」
「……伝言だと?」
「ああ。じゃあ行くぜ?」
そう言うとジャスティスは姿勢を正して続けた。
「“こうしてこの伝言を聞いている以上、お前達は行動を起こしているのだろう。もし仮にそれが謀反なのだとしたら、私は一切の慈悲を掛けるつもりは無い。だが、まだ取り返しのつく段階なら心して聞け。……お前達の行動は訓練だった。そうだな?”」
「……!?」
顎髭のオークは驚く。それはステラが彼に言った事と同じだったからだ。
だが、恐らくこれは偶然。
仮にステラに同じ事を言う様に指示していたとすれば、それは余りにも侮辱的であり、ステラがそれを平然と言う訳が無い。
そしてトカゲがステラの発言を予想していたとしたら、説得するのに内容を被せるのは悪手だと判断出来る筈。
つまり、最初からトカゲとステラは戦士達に対して同じ様に対処しようと考えていたのだ。
ジャスティスは続ける。
「“私はお前達の働きを高く買っている。職務に忠実で、民からの信頼も厚い。私が築く王国にはお前達の様な人材が必要なのだ。そして、お前達の姫であるステラにとってもな。お前達が反逆者として死ねば、ステラの心は深く傷つく事になる。ステラはオークを救う為に自らの心を殺し、私に従っているのだ。そのステラを見捨て自らの気持ちを優先するのか?”」
「……ッ!」
それは顎髭のオークも何度も考えた事だった。
ステラは自分の憎しみを抑え、オーク達の為にトカゲに仕えている。
そしてそれは彼女にとっても耐え難い事なのは分かりきっていた。それを鑑みず自らの矜持を優先する事に、顎髭のオークも何も思わなかった訳では無い。
しかし──
「……それを貴様が口にするのかッッ!!」
顎髭のオークはそう言って激昂した。
ステラに無理をさせているのも、そして“黒南風のマダム・アペティ”を殺したのも、他でもないトカゲだ。
それを棚に上げてよくもぬけぬけと。
顎髭のオークはそう思ったのだ。
しかしそれを聞いたジャスティスは軽く頭を掻くと、顎髭のオークに向かって言った。
「……いや、心情的には怒るのは分からなくもねぇけどよ。そもそもお前等がノートの村を侵略しようとしたのが事の発端だからな?トカゲをフォローするつもりはねぇけど、論理的に言やただの逆ギレだろそれ」
「ハハハッ!確かに!」
「黙れッッ!!」
顎髭のオークは怒り、そしてスカーは笑った。
ジャスティスはそんなスカーの方を向くと、今度は彼に向かって話しかける。
「……それでお前は?トカゲを裏切るつもりか?」
「御冗談を。そんなつもりはありませんよ。私は姫様をお守りする為に此処に来たのですから。会話をお聞きになっていたのなら分かっているでしょう?閣下達と姫様が戦われれば、結果はどうあれ姫様の御心は更に傷付いて──」
「会話で分かったのは、“お前がコイツらと共に行動していない”って事だけだ。お前は早い内からトカゲに従い、オーク達を纏めて来た。だが、それと同時に意図的に戦士達との対立も煽って来た節がある。他の選択肢は一切考慮せずな。遅かれ早かれかも知れねぇが、その結果がこれだ。そしてテメェはそれがトカゲの不利益に繋がる事は理解していた。それがどういう意味か分からないとでも思っているのか?」
「……ッ!!」
ジャスティスの言葉にスカーは目を見開く。
「ハッ!テメェも俺様の事を舐め腐ってた訳か。……この件は本当に腹が立つ事ばっかりだ。……もう一度だけ聞いてやる。テメェはトカゲを裏切るつもりか?」
「……申し訳御座いませんでした。その様なつもりは御座いません。……この件につきましてはどのような処罰もお受けします」
「……テメェもすっこんでろ。どうするかはトカゲが帰って来てから決める」
「……はっ」
「……」
スカーは頷くと、ステラを連れて下がる。
顎髭のオークは今のやり取りを見て警戒心を高めた。
馬鹿では無い。馬鹿では無いのだ。“白銀のジャスティス”は。
トカゲの影に隠れて分からなかったが、間違い無くキレ者だ。
そう感じた顎髭のオークは自然と手斧の柄に手が伸びる。
しかしジャスティスはそんな顎髭のオークの様子に気付かない様に続けた。
「続き行くぞ?“それでも尚敵対すると言うのなら、先程も言ったが一切の慈悲を掛けるつもりは無い。お前達は何一つ望む結果を得られないだろう”。……以上だ。個人的なアドバイスだが、言われた通りにすっこめ」
「ジャスティス殿──」
「黙れ青瓢箪。テメェの話は現状聞く価値がねぇ。復讐心に駆られて勝手したにも関わらず殺さねぇでやってんだ。……それとも死にてぇのか?」
「……ッ!」
ジャスティスはそう言ってスカーの言葉を遮り、顎髭のオークに視線を戻す。
「……テメェらじゃトカゲの策には敵わねぇよ。ステラも言い掛けていたが、このままだとお前達は死ぬ。それも碌でもねぇ死に方でな。俺様としてはそれは見たかねぇ。だから言われた通りにしろ」
「……」
顎髭のオークは考える。
目の前の白銀からは悪意は感じない。
それどころか同情すら感じる。恐らく本心からの善意で言っているのだろう。相当な策。それも悲惨な結果が伴うものだとは容易に想像出来た。
しかし、だからと言って止まる訳が無い。
それで止まるくらいなら、ステラの説得に応じていた。
顎髭のオークは手斧を構え、ゆっくりと口を開いた。
「……我等は黒南風の戦士。貴殿ら黒鉄の一団に決戦を挑む。貴殿らは我等が主君の仇にて」
それはオークの正式な戦線布告だった。
作法は知らないであろうが、その意図を汲みとったジャスティスは深いため息を吐く。
そしてこう言った。
「……断る」
──ガサッ!──
「!?」
その言葉と同時に、ジャスティスの背後から六匹の魔物が現れる。
体躯はジャスティスとほぼ同じ程度のフェレット型の人獣で、相応に強そうだ。
とは言え、遅れを取る程とは思えない。
顎髭のオークは即座に手斧を振りかぶる。
不意打ちの様だが口上は告げている。向こうは断ったつもりの様だが、それなら強引に受けさせるまで。
顎髭のオークはスキルを発動させようとする。しかし、それよりも早くジャスティスの口が動いた。
「“全員武器を放棄せよ”」
「!?」
ジャスティスの言葉が聞こえた途端、顎髭のオークは武器を手放した。
直ぐさま拾いあげようとした顎髭のオークだったが、その直後──
「ぐッ!?」
激しい頭痛に襲われ、思わず蹲ってしまう。
周囲を見ると、彼と同じ様に頭を抑え蹲るオークが複数体居た。
その何もが屈強なオークで、部隊長格の個体ばかりだった。
間違い無い。これは──
「──“支配”だ”」
「!?」
顎髭のオークの思考を先読みした様に、ジャスティスがそう言った。
その口振りは何処か芝居がかっていて、そしてあの男を連想させた。
ジャスティスは続ける。
「“お前達も知っての通り、支配は極めて強力なユニークスキルだ。だが、発動条件もそれに比例する。折に触れ、私はお前達に対して発動条件を満たそうとしていたが、お前達は尽くそれを躱した。そうだな?”」
──そうだ。
長年仕えたからこそ、その発動条件も知っている。そして配下達にも発動条件を満たさせない様に徹底させていた。
だからこそ支配を受けていない自信がある。
それなのに何故──
「……“嘘だ。私はお前達に本気で支配を施そうとはしていなかった。私のユニークスキル“継承”は“奪う”のではなく“引き継ぐ”スキル。その効果は、スキルだけでは無く効果範囲にも及ぶ。つまりお前達には最初から支配が掛けられていたのだ。……黒南風の施した“支配”がな”」
「……ッ!?」
その言葉で顎髭のオークは漸く気が付いた。
ステラが何故あれ程取り乱したのかを。
ステラはああする事で、支配を誘発させた。
そして自分達に支配の効果が及んでいる事を身を以て伝えようとしていたのだ。
──しかし、気付けなかった。
「“だがそれを知らないお前達は上手く支配を躱せたと誤認した事だろう。私の思惑通りにな。……さて、種明かしは済んだ。後は処刑を済ませよう。お前達……いや、貴様等には互いに殺し合って貰う”」
「なっ!?」
「“私は貴様等に伝えた筈だ。貴様等の望みは何一つ叶わないと。貴様等の望むものは恐らく三つ。黒南風の戦士としての戦い、勝利し、そして誇り高く死ぬ事だ。だが私はその何れも貴様等には与えない。先程“お前達の行動は訓練だった”と伝えたな?それは普遍的な事実だ。貴様等は夜間訓練の最中、禍蜘蛛に襲われ全滅した事になっている。私は貴様等が“反逆した事実”すら残すつもりは無い。何故貴様等がここまで動けたと思う?予めそう通達していた為だ”」
「……ッ!!」
その言葉に顎髭のオークは顔を歪める。
完全に、完全に嵌められていたのだ。それも最初から。
黒南風の戦士達が反逆を企て、そして黒鉄達に倒されたと知ればオーク達には強い動揺が走る。
しかし禍蜘蛛に殺されたと伝えられれば、逆に結束と黒鉄達への依存度が高まるだろう。
黒鉄がステラと同じ対処を選んでいたのはそれが理由だったのだ。
同じ方法。
しかし、その想いは真逆の所に在った。
「貴様……貴様等ッッ!!命を賭した我等の覚悟を踏み躙ると言うのかッ!?我等から“死”すらも奪うと言うのかッッ!!」
そう言って吠えた顎髭のオーク。だが、ジャスティスは冷めた目でトカゲの言葉を伝えた。
「“黙れ侵略者が。数百の戦士を従え、か弱いゴブリン達を蹂躙しようとした貴様等がどの口で語る。我慢しているのが貴様等だけだとでも思っているのか?ゴブリン達は貴様等以上の屈辱に耐えている。友を、親を、兄弟達を殺したお前達オークと共存しようと必死で耐えているのだ。それをお前達は利己的な理由でぐちゃぐちゃにしようとしている。ステラもそうだったが、貴様等は余りにも視野が狭い。黒南風が私に群れを託したのが良く分かる。お前達だけではそう遠くない内に滅んでいただろう”」
「……ッ!」
「……“さて、ジャスティスに頼んだ伝言はこれまでだ。後は最後の一匹になるまで殺し合え。そして最後の一匹は自決しろ”」
そう言ったジャスティスの右手が淡く光り出した。
「……クソ……クソォォォッ!!」
顎髭のオークは吠えた。
自分の中で凄まじい衝動が巻き起こっているのが分かる。
共に決起した戦士達を、“殺さなければならない”と思っているのだ。
必死にその衝動に抗うが、そうすれば今度は堪え難い苦痛が襲いかかる。
「ぐぅッ……!!」
今はまだ耐えられる。しかし、この状態がいつまで続くか分からない。
時間が経つ程に苦痛は強くなり、そして終わりは見えない。
痛い。痛い。痛い。
殺したい。殺したい。殺したい。
痛い。痛い。痛い。
これならいっそ、この衝動に従えば──
「──とまぁ、ここまでがトカゲのプランだ。……全く苛つくぜ。まぁ、言われた仕事はこなしただろう。“忠節大義であった”」
「!?」
不意に苦痛と衝動から解放される顎髭のオーク。
慌てて周囲を見渡すが、どうやら戦士達はギリギリの所で踏み留まる事が出来た様だ。
そして、我に帰ると同時に理解した。
「……支配の……一斉解除……!?」
そう、ジャスティスが放ったのは支配の効果を打ち消す呪文だった。
こうして痛みと衝動が消えた以上、解除された事は疑う余地が無い。
しかし意図が分からない。
あのまま行けば、間違い無く戦士同士で殺し合いが始まっていた。
多少の取り零しは出るかも知れないが、それも含めて対策していたであろう事は容易に分かる。
それなのに何故支配を解除した?
困惑する顎髭のオークだったが、更に混乱する事態が起きる。
「気高き雷獣よ!!
偉大なる汝の咆哮を我が身に宿せ!!
大地を穿ちし雷槌の力ッッッ!!
“万雷千槌ッッッ!!”」
「!?」
詠唱と共に雷がジャスティスに伸び、眩いばかりの雷光がジャスティスを包む。
そして──
「“赫帝雷光鞭ッッ!!”」
──ゴォォォッッ!!──
「!!」
力ある言葉と共に、ジャスティスから放たれる巨大な雷撃の鞭。
それはまるで大蛇の様に大地をのたうち、次々と木を、岩を、地面を抉り取って行く。
その光景に顎髭のオークは思わず息を飲む。
これ程の規模を持つ技は今までで二つしか見た事が無い。
一つは息子の“煌黒禍津日”。
そしてもう一つは“焔舞”コイシュハイトの“蝶絶絶対無敵爆撃脚”だ。
しかしその二つは“二つ名持ちユニーク”と言う黒竜の森でも指折りの実力者の秘技。
一介の副官格に過ぎないジャスティスが、まさかこれ程の術を使えるとは思わなかった。
だが──
「……何故だ……?」
ジャスティスの放った雷撃は何故かオーク達を一切飲み込まない。
これだけの技を持つなら、支配を解除した理由も分かる。
小細工抜きでも戦士達を殺し尽くす事が出来るなら、支配に頼る必要も無いからだ。
しかし周囲を破壊するだけで一体のオークすら巻き込まないこれは、ただいたずらに魔力を消費しているだけにしか見えない。
そして──
「はぁ……はぁ……」
案の定、術の維持限界に来たジャスティスは、術を解いて肩で息をし始めた。
そこで顎髭のオークは察した。
「……術の制御にしくじったのか……」
そう、確かにこれ程の技を放ったジャスティスの潜在能力は驚嘆に値するものだ。
しかし奴はそれに慢心して、術の制御にしくじったのだ。
支配など無くとも戦士達を倒し切れる。そう思い術を放ったが、制御し切れず、結果的に魔力だけを失ってしまった。
なんとも間抜けな結果だが、しかし好都合。
この好機を逃すつもりは無い。
そう思い、ジャスティスに向き直った顎髭のオークだったが──
──ドスッ!──
「ぐッ……!!」
「……なッ!?」
思わず声を上げる顎髭のオーク。
ジャスティスが落ちていたステラの槍を掴み、自らの脇腹に刺したのだ。
「〜〜ッ!!クソ痛えッッ!!……だが、まぁこんなもんか?」
意味が分からず混乱する顎髭のオーク。
ジャスティスは苦痛に耐えながら口角を上げてこう言った。
「……俺様の名はジャスティス。ジャスティス・ビーバー。俺様と、コイツら六匹はてめぇら黒南風の戦士達に命を賭けた決闘を挑む。……受けるつもりはあるか?」
「……ふざけるなッッ!!」
その言葉に我に帰り、激昂する顎髭のオーク。
戦士達の覚悟を踏み躙り、そしてその死すらも自分達の為に利用しようとしたのは他ならぬ黒鉄達の一団だ。それを今更決闘だなどと余りにも馬鹿にしている。
それに──
「貴様は既に満身創痍ではないか!術の制御にしくじり、脇腹に槍を刺し、まともに戦える状態では無いッ!!そんな状態で高々六匹の獣を従えた貴様が我等と決闘だと!?舐めるのも大概にしろッッ!!」
「……舐めてんのはテメェらだろうがァァァァァッッッッ!!」
「!?」
凄まじい気魄で放たれたジャスティスの咆哮。
顎髭のオークはその気魄に押され、僅かに怯む。
ジャスティスはそのまま凄まじい怒りで言葉を紡いだ。
「マジで……マジで糞腹が立ってんだよッッ!!テメェら黒南風の戦士にも!!トカゲの馬鹿野朗にもなッッ!!どいつもこいつも俺様の事を舐め腐りやがってッッ!!テメェらがこうして決起した理由!!俺様が分かってねぇとでも思ってんのかッッ!!」
「理由……だと!?」
「そうだッッ!!“誇り”だの“矜持”だの臭せぇ言葉並べてるが、テメェらは結局、自分は負けて無いって思ってんだろうがッッ!!留守を任され、自分達が居ない間に黒南風が倒された!!“もしあの場に自分が居れば、こんな事にはならなかった”。そう思ってるから納得出来ねぇんだろうがッッ!!」
「……ッ!!」
──その通りだった。
女子供を守る為とは言え、あの時息子は主力と言える自分達を置いて行ってしまったのだ。
あの時付いて行けば、決して。決して黒鉄などに負ける事は無かった。
「……ッそれの何処がおかしいッッ!!我等さえあの場に居れば、アペティが遅れを取る事などあり得なかった!!僅かばかり運に恵まれただけの貴様等が支配者を気取るなッッ!!」
「それが舐めてるッつってんだろうがァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
これまでで最大の咆哮。
ジャスティスは更に続けた。
「あの時!!黒南風とトカゲが確率分離結界に入ったあの時!!殿を任されていたのはこの俺様だッッッッ!!テメェらが居れば黒南風が勝ってただぁ?そんな訳ねぇだろ!!テメェらの前にはこの俺様が居たんだからなッッ!!」
「ッ!?」
その言葉に、ステラから聞いていた戦況を思い出す。
ステラは確か、白銀の脇腹に槍を突き立て、魔力の大半を失わせたと言っていた。
「貴様……まさか……!?」
「ハッ!漸く気付いたのかボケナスが!ここに居る連中もそうだ!!あの時の面子をそのまま連れて来てんだよッッ!!ゴブリン共は居ねぇが、まぁハンデぐらい付けてやる!!……で?どうすんだ?逃げんのか黒南風の戦士ッッ!!」
「……ッ!!」
顎髭のオークは考える。
決闘とは、少なくとも対等に近い条件で行われるべき事だ。
しかし白銀達は寡兵で、そして首魁である白銀に至っては満身創痍だ。
少なくとも対等とは程遠い。決闘の作法としては間違っているだろう。
だが、それでも──
「……閣下!」
だが、それでも──
「閣下!!」
だが、それでも。
「……後悔するなよッッ!!若僧がッッ!!」
湧き上がる衝動を、戦士達は抑えられなかった。
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