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肉団子

ーーーーーー




「た、助けてぇぇぇッ!!助けて欲しいんだがぁぁぁ!?」


『グルルルルルッッ!!』


 私達が悲鳴のもとに辿り着くと、そこでは奇妙な光景が広がっていた。


 まぁ、辺りに散らばる死体は護衛なのだろうが、そこは普通なのでどうでも良い。


 気になるのは、グリフォンが右前足で転がしている球体の事だ。

 淡く光る半透明の球体で、中に見た事が無い魔物が転がっている。


 醜く太った鱗の有る魔物で、見るからに高価そうな服を着込んでいる。極太のウィンナーみたいな指には大粒の宝石があしらわれた指輪をしており、更に尻尾の先にも特大の宝石があしらわれたリングをしていた。


 ……あれ?ひょっとしてアイツ蜥蜴人(リザードマン)じゃないのか?太り過ぎて別の魔物に見えるが、特徴自体はかなり近いし。……間違い無い。蜥蜴人リザードマンだ。蜥蜴人リザードマンって太るとあんなにもキモい魔物になるんだな。


 私が奇妙な魔物の正体に感心していると、ベルが小声で話し掛けて来た。


「トカゲさん……。あの見た事無い魔物が“段腹肉お化け”だよ……!」


「……やはりそうか。中々的確な表現だが、あれは蜥蜴人(リザードマン)だぞ?」


「「うそぉ!?」」


 レナとベルが顔を見合わせて驚愕している。


 気持ちは分かる。私も正体に気付いた時は関心すらしたからな。


「!?お、お前達冒険者なんだが!?戻って来たんだが!!さっき逃げ出した事は不問にしてやるから、さっさと助けるんだが!?」


 私達が話をしていると、私達の存在に気付いたのか段腹肉お化けこと、肥満の蜥蜴人リザードマンが必死になって助けを求めて来た。


 ムカつく口調で今一分かり辛いが、どうやらここで死んでいない他の護衛達には逃げられたようだ。


 今はまだ無事だが、あの光の球体がスキルにせよ魔法にせよ効果時間に限界はあるだろうし、あのままではいずれ奴はグリフォンに殺される事になる。必死になるのも当然だろう。


 とは言え──


「断る」


「んなッッ!?僕はお前達の雇い主なんだが!?護衛の依頼を受けた癖に義務を放棄するんだが!?」


 そう言って喚く肥満の蜥蜴人リザードマン。しかし見当違いも良いところだ。


「……自分が雇った護衛の顔くらい確認しておけ。私達は確かに冒険者だし、依頼を受けて此処に来たが依頼主はお前ではなくこの少女だ。お前がグリフォンの雛を盗んだせいで、この少女の兄は獣車ごと攫われたんだ。……商隊キャラバンが危険になる事を知った上でそんな真似をしたんだろう?自分のケツは自分で拭け」


「なっ!?見捨てると言うんだが!?この僕を!?」


「そうだ」


「……ッ!!」


 見る間に肥満の蜥蜴人リザードマンの顔が赤くなっていく。

 何処のどちら様かは知らないが、見た目通りの金持ちだとしても関係ない。


 そもそも金目当てで受けた依頼でもないからな。


 私は奴を放置し、様子を伺っていたグリフォンに向かって話しかけた。


「……さて、聞いていた通りだ。私はそこの肉団子に用は無い。殺したければ好きにしろ。だがベルの兄は返せ。それで私達は引く」


「……普通に話しかけてるけどグリフォンって言葉通じるの?」


「通じる。喋れなくても相応の知能がある魔物なら言葉自体は理解できる筈だ。でなければここまで待っていない。そうだろう?」


『グルル……』


 私の言葉に唸り声で反応するグリフォン。


 やはり言葉は理解している様だが、しかし私に対する警戒は怠らず、そして道を譲る気配も無い。

 まぁ、私の話を信じる根拠も無いし、雛が居るであろうこの先に通すのは抵抗があるのだろう。


 ……しかし面倒だな。力押しでも構わないが、それだとベルとその兄を巻き込む可能性もあるし……。


 私がそんな事を考えていると、肥満の蜥蜴人リザードマンが再び声を上げた。


「な、な、な、何僕を放置して話をしているんだが!?言うに事欠いて“僕を見捨てる”だって!?僕を誰だと思っているんだが!?」


「「「肉団子」」」


「違う!!口を揃えて馬鹿にするんじゃないんだが!!僕はナーロ・ウッシュ!!かの()()()()()()()()バーロ・ウッシュの息子なんだが!?」


「!?」


 ──なんだ……と?


 ()()()()()()()()()……()()()()……!?


 肉団子ことナーロの言葉に思わず固まる私。


「トカゲさん。ど、どうしたの……?」


 事情を知らないベルは怪訝な顔で私に声をかけるが、それに答える余裕は無い。私にはナーロに確認すべき事があるのだ。


「……その話、本当か?」


「ははぁん。ようやく僕の凄さが分かったんだが?なんなら下僕にしてやるんだが?」


 めっちゃムカつく。


「……ライラと言う蜥蜴人リザードマンを知っているか?」


「ライラちゃん?勿論だが!!僕の未来のお嫁さんなんだが?昨日も僕の所に“会いたい”だなんて“念送紙”をくれたんだが?だから僕は急いで来たんだが!!なんだが?お前まさかライラちゃんのファンなのだが?デュフフ!!残念だったんだが?ライラちゃんの卵を温めるのは僕なんだが!!」


 そう言って気色悪い笑顔を浮かべるナーロ。


 “念送紙”とは、“念話”のスキル持ちに伝えたい情報を伝え、相手方の“念話”の持ち主に紙に書き起こして貰う事でやり取りをする通信手段だ。


 そうする事でかなり早く情報のやり取りが可能となるのだが、その利便性から利用者も多く、料金も高い。


 ライラも確かに念送紙で連絡すると言っていたが……。


「……その話が本当だとして、バトゥミからフィウーメまで来るのが早すぎじゃないか?普通は半月はかかるだろう」


「何を言ってるんだが。僕は仕事の関係で“グインベリ”に住んでいるんだが?」


「……そうか」


 “グインベリ”はフィウーメの隣の都市だ。フィウーメで処理しきれない荷物を受け入れる為に開発された都市で、ライラも副都市長の息子は現在そこに住んでいると言っていた。


 ……つまり、残念ながらコイツはライラが言っていた評議員の息子その人でまず間違いない。


 そしてそうなると──


「……予定変更だ。おいグリフォン。そいつを離せ」


『!?』


 グリフォンが驚いた顔で此方を見る。


 無理もない。我ながら見事な手のひら返しだからな。


 状況を掴めないレナが私に小声で話し掛けて来た。


「……どういう事よ?あんな奴見捨てれば良いじゃない」


「私としてもそうしたい所だが、そうはいかない。フィウーメで黒豹とやり合うにはアイツの権威が必要だ。生け捕りにして“支配ドミネイト”を撃ち込まないと、立ち回りがかなり不利になる。……後で詳しく説明するが、奴はそれだけ重要だ」


 レナは一瞬驚いた顔をするが、直ぐに頷いた。


「……分かったわ。で、私はどうしたら良い?」


「ベルを守るのと、可能ならベルの兄を探して欲しい。それと今は姿を見せていないもう一匹のグリフォンの対処も頼む。……可能なら殺さずに。ナーロの方は私がどうにかする」


「了解。貴方の好みに合わせてあげる」


 レナはそう言うと、ベルを連れて後ろに下がる。


 ……さて。

 

「……話は聞いていたな?私達はそいつに死なれる訳にはいかない。子供は返すし、絶対にこれ以降手出しさせないと約束する。だからそいつを渡せ」


「な、何を勝手な事言ってるんだが!?あのグリフォンの雛は僕のものなんだが!!ライラちゃんに見せた後、剥製にして僕の部屋に飾る──」


『グロロァァァッッ!!』


「ひぃぃぃッッ!?は、早く助けるんだがッッ!!」


 ナーロがブチ切れたグリフォンに球体ごとめちゃくちゃに転がされている。

 

 阿呆が……私のやる気まで削ぐとは……。


「……おい。怒るのは最もだし、それを転がしたままでも良いから聞け」


「よ、良くない……おげぇぇぇ!?」


『グロロァァァァァァッッ!!』


「私はお前達に同情している。正直言って、一緒になってその球を転がしてやりたいくらいだ。しかし、今の私達にはどうしてもそいつが要る。そいつを殺されるくらいなら、お前を殺すくらいには。だから頼む。ここは引いてくれ」


『グロロルァァァッッ!!』


 グリフォンはそう鳴いて私を威嚇する。我が子を攫ったナーロの事を譲るつもりは無いのだろう。


 しかし、私としても絶対に引く事は出来ない。


 ……仕方ない、か……。


 私はグリフォンに向き直り、そして──


『……グルルルルッ……』


『!?』


 ()()()()を聞いたグリフォンが、ナーロを掴んで飛び退いた。


 この威嚇は、私の本来の姿の時の威嚇音を再現して出したもので、見ての通り獣型ビーストタイプの魔物にはかなり効果がある。


 まぁ、中にはハッタリだと判断して襲ってくる奴も居るが、大半は本物だと思って逃げ出す。なんせ、()()だからな。


「……流石はグリフォンだな。一鳴きで理解出来たか」


『グロロ……』


 グリフォンの声に先程までの勢いが無い。

 明らかに怯えた様子で私を見ている。


「……彼我の戦力差が理解出来たなら、先程の言葉の意味も変わるだろう。……もう一度言う。()()()()()()()そいつを渡せ」


『……』


 グリフォンは私の言葉を聞くと、何かを考える様にナーロを見る。


 そして──


『グロロァァァッッ!!』


「!?」


 グリフォンの咆哮と共に雷光の息吹(ブレス)が放たれる。


 予備動作で予期していた私は即座に躱すが、雷光は先程まで私が居た地面を焦がし、背後の木々をなぎ倒した。


 私はレナに向かって声をかける。


「……行け」


「ええ」


 レナとベルはそのまま駆け出していくが、グリフォンはそれを追わない。


 彼女達を行かせる事よりも、私を止める事を優先したのだろう。


『グロロァァァッッ!!』


 グリフォンは翼を大きく開き、再び私を威嚇する。

 しかし先程までの怯えはそこには無い。それは、自らを奮い立たせる覚悟の咆哮に見えた。


「……“家族を守る為に命を懸ける”、か。……はぁ……。難易度が上がるな。()()()()()()()。グリフォン」




ーーーーーー

 

 レ、レビューが減ってる……。


 ブクマ消えるのや荒らしは慣れてるけど、これはかなり凹みますね……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 応援します!
[良い点] レビュー減ったのを気にされてる作者さんのためにレビューしてる人がいてちょっと感動しました。 それだけこの作品は愛されてるんですね。 [一言] オタクの気持ち悪いところ詰め込んだみたいなキャ…
[一言] とても面白い小説なので、レビューで一喜一憂 されなくても•••と思うのは読書視点過ぎますかね。
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