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腹パン。

ーーーーーー




「……さてと」


 私はそう言うと少女に向かって振り向く。


 彼女は私の様子を見て一度ビクリと体を震わせたが、やがて覚悟を決めたのか腰に付けたナイフを手に取った。


「……そう警戒するな。私は味方だ。お前に危害を加えるつもりは──」


「近付くなッッ!!」


 ピシャリと私の言葉が遮られる。


 少女の目は殺意満々。まぁ、彼女の側から見れば私もオルドーフもどちらも同じ襲撃者にしか見えないし、この反応も当たり前だとは思う。

 とは言え、デメリットを押して助けに入った少女に疎まれるというのは中々微妙な気持ちだ。

 私は彼女を宥める様に再度口を開いた。


「……近付いてないだろう。振り返っただけだ。それにさっきまでのやりとりも見てただろう?私はお前を守ったつもりだが」


「“嫁に生肝を食わせる為に”でしょう?生肝なら、死なれたら困るものね?」


 ……取り付く島も無い。いや、ある意味自業自得なのだが……。


 ──しかし困った。彼女の言い分は間違いなく正しい。

 この状況下で私を味方だと思う様な馬鹿はそうは居ない。居たとしたら携帯小説のヒロイン並みの知能だ。


 とは言え、それでも彼女を放置する訳にはいかない。

 ここは“魔大陸メガラニカインゴグニカ”。人の住まう土地では無い。このまま放置していれば、()()嬲り殺し。悪くて食通のオーガに創作料理にされてしまう。

 しかし、だからと言って説得出来るだけの材料は無い。彼女からすれば、私は後者に近い存在でしかないのだから。

 

 私は思わず大きなため息を吐いた。


「……はぁ。趣味じゃ無いんだが……」


「何が趣味じゃ無いのかしら?私みたいな小娘じゃあ生肝も──おぶっ!?」


 くの字になって地面へと倒れる少女。()()()彼女の胴体にめり込んだからだ。


「……()()()。クズじゃない女に手を上げるのは趣味じゃ無いんだ」


 私は意識を無くした少女にそう告げると、取り敢えず彼女を異次元胃袋に押し込んだ。



ーーーーーー



「……何があった?」


「いやぁ、階段で転んじまってよ!そのまま転げ落ちた所を馬車に轢かれて──」


「何があったんだ、アッシュ」


「…………」


 私の問い掛けに言葉を詰まらせるアッシュ。


 あの後、私は少女を異次元胃袋に収めたまま定宿としている“金の稲穂亭”へと帰って来ていた。

 初めの頃はモーガンの家に世話になっていたのだが、冒険者としての稼ぎが安定してからは彼に勧められたこの金の稲穂亭に住まいを移したのだ。

 この宿はモーガンが進めるだけあり、中々美味い飯と酒を出すのだが、入り口を開けた途端に目に入って来たのは、見慣れた光景では無く、ギルド横のバーで働くオーガ……レイゼンに抱えられたボロボロのアッシュと、受付嬢の二人(ライラとラズベリル)


 アッシュは身体の負傷はともかく、顔面は明らかに何度も殴られており、誰かとやり合ったのは明白だった。

 当然ながら何事かと問いただしている訳だが、アッシュはこうして分かりやすい嘘を並べて言葉を濁している。


 私がジッとアッシュを見つめていると、その様子を黙って見ていたライラがため息を吐いて口を開いた。


「……すいません、アッシュ君には助けて頂きました」


「ライラッッ!?」


「最初から無理だって言ったでしょ?トカゲさんがそんな三文芝居に騙される訳無いじゃない。それは弟子であるアッシュ君が一番分かっているでしょう?」


「……ッ!」


 ライラの言葉に顔を顰めるアッシュ。


 全くもってその通りだ。私がそんな下らない嘘に誤魔化される訳が無い。しかしアッシュはそれでも口を開こうとしなかった。


「……お前の口から話すつもりは無いのか?」


「……」


「……そうか」


 ……まぁ、アッシュも男だ。意地の一つでもあるのだろう。


 私はアッシュの様子に、彼から聞くことを諦めてライラへと向き直った。


「ライラさん。すいませんが、こうなった経緯を聞かせて頂けますか?アッシュは軽く見えても十二分に頼れる男です。そんなコイツがこんな風になるなんて、余程の事ですから……」




ーーーーーー





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