【悲報!】トカゲはロリコンストーカーだった!
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さて、状況を整理して考えよう。
先ず差し当たって当面の最重要課題である食料に関してだが、未だに対処療法しか無い状況だ。
剣角鹿の一件では、コボルド達にフィウーメへの被害報告を多めにさせて、かなりの量の農作物を我々の村へと横流しした。
これにより当面の農作物関係は改善した訳だが、しかしそれでも肉類等は不足した状態であり、対応に苦慮している。
無論、ジャスティスを始めとした戦闘能力の高い魔物達で狩りを行なってはいるのだが、我々の縄張りにはそこまで巨大な獲物が発生する事はあまり無く、確保が難しい。
剣角鹿の肉を持ち帰る事が出来れば良かったのだが、前述の通り農作物への被害を過剰に報告させている為、相応の証拠が必要となってしまい、大半の死体はギルドに売却している。
売り払った金で保存の効く肉類を買ったのだが、必要量に対しては焼け石に水と言った所だ。
対応として考えられるのは、先ず“不動のグラクモア”率いる蜥蜴人達の縄張りを奪う事だろうか。
我々の縄張りは、黒竜の森でも外周部にあり、その更に内周側にグラクモアの縄張りが在る。
そして黒竜の森は中心部に近ければ近いほど巨大で強力な魔物が発生するのだが、そういった魔物が外周部に出る事は稀で、我々がかち合う事は先ず無い。
しかし仮にグラクモアの縄張りを奪う事が出来れば、そういった魔物を他に先んじて狩る事も出来るし、ダンジョンの恩恵を受ける事も出来る。
無論、それを実行するとなるとグラクモアとの戦争となるが、黒南風との一戦直後と違い今は一部の戦士達を除いてオーク達も従順であり、大きな混乱は起きないと思う。
……まぁ、悪い手では無い。客観的に見ても、主観的に見ても、グラクモアと一戦構えるのは悪くないと言える。
本来なら。
そう、確かに我々の群れ単体で考えれば悪くない手だが、しかしグラクモアを降したとしてもかなりの痛手を負うのは間違いない。
そして、その状況下で他の“二つ名持ちユニーク”達が我々を見逃すとは思えない。
寧ろ弱っているからこそ確実に殺しにかかる筈だ。
私ならそうする。誰だってそうする。
そしてそれ以上に問題なのは、あの糞女……もとい、“禍蜘蛛のタチバナカエデ”の存在だ。
今はまだ“賢猿のスグリーヴァ”の配下として大人しくしているが、アレはそこで満足する様なタマじゃない。
どこかのタイミングで確実に動く筈だ。
しかも、神様直々に“備えて抗うんやで”と御告げをくれる程の敵。
その事を考えると、やはりグラクモアと敵対するのは絶対に避けるべきであり、寧ろ友好関係を築いた方が良いかも知れない。
しかしそうなると再び食料問題が持ち上がる。
グラクモアと和平を結び、融通して貰うのも手ではあるが、しかしそれだと対等な立場に立つ事は出来ない。
こちらから食料の代わりに差出せるものが有れば良いかも知れないが、グラクモア達が望む様な物は我々には用意出来ないだろう。
「……はぁ……」
私はため息を一つ吐く。
中々上手くは行かないものだ。転生してからというもの、次から次へと問題が湧き出て来る。
“神々のオモチャ箱”という性質上仕方ないのかも知れないが、波乱万丈な人生でも、もう少し安定した時間が欲しいものだ。
「……グチグチ考えても仕方ないか……」
もとより先程まで考えていた事は分かりきっていた事なのだ。
私は気持ちを切り替える為に、とある建物へと視線を移す。
そこにあるのは、フィウーメを区切る巨大な壁の一部をそのまま使用し、屋敷とした巨大な建物。
形式上、家屋として扱われているが、見る者に与える印象は正に“城”そのもの。
“五壁都市フィウーメ都市長”、並びに“フィウーメ・バトゥミ自由都市国家連邦連邦議長”の重責に有る、連邦最高権力者。
“ドン・アバゴーラ”
──その人の邸宅である。
共和制であるフィウーメに於いて、建国から300年以上権力を維持し続ける老獪であり、“魔王”を擁さないフィウーメ・バトゥミ自由都市国家連邦を、他国からの侵略から守り続けている卓越した政治家。
そして、私がフィウーメへと来た最大の目的でもある人物だ。
そう、モーガンへの支払いも、群れの食料問題も、凡そ全ての問題を解決し得る存在。
私は自警団長から彼の話を聞き、その時から心に決めていた。
──彼に“支配”をブチ込むと。
ぶっちゃけ、冒険者として活動しているのもその為だ。
私は端から冒険者としての稼ぎなど当てにしていない。全ては顔と人脈を広げ、名を売り、彼に近付くため。
そして多少強引でも彼に支配をブチ込んでやれば、私に降りかかった面倒事の大半はそれで解決するのだ。
無論、グラクモアに支配をブチ込む事も考えたが、しかし奴と敵対せずに接近する方法は限られているし、そんな状況で“二つ名持ちユニーク”であるグラクモアに支配をブチ込むのは不可能に近い。
それに対してフィウーメはかなり容易く侵入出来るし、冒険者として名を上げればドン・アバゴーラと接近出来る機会もある。
──そう、歯に絹着せぬ言い方で言えば、私達がこのフィウーメへと来た理由は、紛れも無い“侵略戦争”なのだ。
「フフフ……」
思わず笑いが込み上げて来る。
悪くない。実に悪くない。
人間だった頃よりも、遥かに高みを目指せるのだ。
無論、妹達との生活こそが私にとっての至高の幸せではあるが、しかし彼女達と真に結ばれる為には更なる進化が必要であり、その為には足掛かりが必要となる。
そして森を統べ、フィウーメを支配すれば、大陸全土を見渡す事も可能だろう。
その時の事を想像すると、自分の口角が上がっていくのが分かった。
……悪くない。実に悪くない。
「おっと……」
いかんいかん。こんな所でつっ立ってニヤついてるとヤバい奴だと思われる。
私はそう考え、その場を後にしようと身を翻したが──
「……ん?」
その時私の横を通り過ぎる魔物が居た。
背の高さは150㎝程だろうか、頭に大きな帽子を被り、これまた大きな袖のある特徴的な服を着た猫人族だ。
他のファンタジーだと猫耳の美少女だったりするのだろうが、しかしこの“チェスボード”の猫人族は、二足歩行した巨大な猫だと考えてくれれば良い。
普段なら気にする事も無くスルーしていたと思うのだが、彼女が通り過ぎる際に漂って来た匂いに、何か違和感を感じた。
まるで、二種類の魔物が交互に服を着た様な、そんな匂い。
そして、その片方の匂いに何故か覚えがあった。
ずっと昔に嗅いだ事がある様な……。
私は思わず彼女の背中に視線を送ってしまう。
しかし彼女はそれに気付かず、そして何故かそのまま人通りの少ない路地裏の方へと歩いていく。
……流石に夜の繁華街の路地裏に、女性が一人で入るのは不味いだろう。
私は彼女を呼び止める為、後を追った。
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