第5話 恐怖のクッキング 前編
「みんなお早う!今日もとってもいい天気ね」
めずらしく早起きをしたアイナは、森の中を歩いていました。朝の森はとても心地良いものでした。鳥たちが歌を歌い、風がお早うと言ってアイナの頬を撫でます。アイナは森の動物や妖精たちに元気に挨拶をしながら歩いていました。しかし、今日は朝の散歩に来たわけではありません。ようやく本来の目的を思い出したように何かを探し始めました。
「えーと・・・どれが食べられるのかしら。このきれいなキノコ、とてもおいしそうね。いいわ。これとこれと・・・この赤いキノコもおいしいかもしれないわね」
アイナは森の中で食べられそうな野菜を探しているのでした。しかし、アイナにはどれが食べられるのかわかりません。あまりものを深く考えないアイナは、なんとなくおいしそうなキノコを適当に採って家に戻りました。
家に戻ったアイナは、さっそく料理に取り掛かりました。しかし、どう料理すればいいのかわからなかったので、採ってきたキノコを適当な大きさに切ると、それをナベに入れてキノコスープを作ることにしました。
「さあ、もうすぐ完成よ。思ったよりも簡単だったわ」
ちょうどそこへフェリシアとリックスの2人がやって来ました。部屋へ入ると同時に、フェリシアが鼻をつまんで言いました。
「何よ、このものすごい臭いは・・・一瞬、間違えてグリムおばあさんの家に来たのかと思ったわよ。あんた何してるの?朝ごはんの時間に遅れないでっていつも言ってるでしょ。早く行きましょ。お母さんたちが待ってるわ」
「あら、そんなにすごい臭いかしら・・・薬の臭いに慣れてるからよくわからないわ。朝ごはんの時間に遅れたのはごめんなさい。今おいしいキノコのスープを作ってるのよ。だってほら、いつも作ってもらってばかりでは申し訳ないでしょ?だから私も何か作って持っていこうと思ったのよ。もうすぐできるはずだからちょっと待っててちょうだい」
「こういうのをありがた迷惑っていうんだよね」
リックスがつぶやきました。
フェリシアは恐る恐るナベの中をのぞきました。
「もしかしてキノコスープってこれのこと?」
「ええ、そうよ。おいしそうでしょ?」
「冗談じゃないわよ!あんた私たちを殺す気?これ全部毒キノコよ」
「あら、そうだったの?とてもきれいなキノコだったからおいしいのかと思ったのよ。残念だわ」
「アイナはよけいなことはしなくてもいいのよ。お母さんは料理を作るのが好きだから気にしなくても大丈夫よ。さあ、行きましょ」
そう言ってフェリシアは外に出ようとしたのですが、部屋の周りを見渡して驚きました。
「この変な臭いに気をとられて気づかなかったけど・・・何よこの部屋・・・服は脱ぎっぱなし、文字を練習した紙は床に散らかり放題。ちょっと!テーブルに泥だらけの靴下なんか置かないでよ。汚いわね。あんたよくこれで独り暮らしするなんて言えたわね」
「おれがアイナの立場でも独り暮らしをしたいと思うね。怒りんぼの誰かさんといっしょに暮らすくらいなら、独りでのんびり暮らしたほうがいいからね」
フェリシアはジロリとリックスをにらむと、また話を続けました。
「いい?あんまりひどいと私たちといっしょに暮らしてもらうわよ。それがいやならちゃんとしてちょうだい」
「もちろんわかってるわ。朝ごはんを食べたらちゃんときれいにするわ。心配しなくてもだいじょうぶよ。さあ、行きましょ。アニーおばさんが待ってるんでしょ?」
ようやくアイナたちはフェリシアの家に向かいました。
「ねぇ、アニーおばさん。私にも作れる簡単な料理を教えてくれないかしら。私も何か1つくらい料理を作れるようになりたいの」
朝ごはんを食べた後アイナが言いました。
「ええ、いいわよ。じゃあ、今日のお昼ごはんをいっしょに作りましょう」
「ありがとう。アニーおばさん」
「じゃあ、それまでは勉強よ」
アイナとフェリシアはさっそく勉強を始めました。リックスはまた今日もケンカになるのではないかと少しワクワクしていましたが、まったくその気配はありません。どうやら仲良く勉強しているようです。
勉強が終わると、アイナは台所に行ってアニーの料理を手伝いました。アニーはわかりやすく丁寧に料理を教えました。
「どう?私が作った干し肉とキノコのスープよ。おいしいでしょ?」
「まるでアイナが自分独りで作ったみたいな言い方をするのね。アイナはほんのちょっと手伝っただけじゃない」
フェリシアが言いました。
「あら、じゃあいいわ。今度は私独りで作るから。ねぇ、アニーおばさん、今日の夜ごはんは私独りに作らせてちょうだい」
「ええ、いいわよ」
「何だよ。また夜も同じものを食べるのか・・・もしアイナの料理が食べられなかったらどうするの?アイナの家で見たキノコスープは強烈だったからなぁ」
リックスが不満そうに言いました。
「せっかくアイナがやる気になってるのよ。少しくらい我慢してちょうだい」
アニーが言いました。
「ちぇっ!しょうがないなぁ」
お昼ごはんを食べた後、フェリシアとリックスは外に遊びに行きました。アニーとビリーは、のんびりと青い色をしたコーヒーに似た味の飲み物を飲みながらソファで昼寝をしています。
「ちょっと早いけど、そろそろ始めたほうがよさそうね。さあ、がんばるわよ!」
アイナは、はりきって料理を始めました。アニーに教えてもらったことを思い出しながら、一生懸命がんばっています。
「さあ、あとはこのまま煮込めば完成だわ」
アニーが作れば30分もかからない簡単な料理でしたが、アイナは野菜を切るだけで1時間もかかりました。あんなに早くに料理を開始したのに、もうそろそろ夕方になろうかという時間でした。
「ねぇお姉ちゃん、アイナの料理だいじょうぶかな」
「だいじょうぶなわけないわよ。覚悟したほうがいいわね」
フェリシアとリックスがそんな話をしながら家に帰ってきました。ドアを開けて部屋に入ると同時に、焦げ臭い臭いが漂ってきました。フェリシアが急いで台所に向かうと、ナベから黒い煙がモクモクと出ています。
「ちょっとアイナ!何やってるのよ!」
フェリシアは慌ててバケツの水をかけて火を消しました。
「あら、フェリシア。どうかしたの?」
「どうかしたのじゃないでしょう!もう少しで火事になるところだったのよ!」
「ああ、そうだったわ!すっかり忘れてた!」
アイナは朝早くに起きたので、スープが出来るのを待っている間に居眠りをしてしまったのでした。