第4話 文字の勉強をしよう 後編
「美人で優しいフェリシアへ。あなたが私のために一生懸命教えてくれているのに真面目に勉強しないでごめんなさい。今度からは真面目に勉強するのでもう一度教えてください。アイナより」
「何よそれ・・・ちょっとわざとらしいにもほどがあるわよ。体中がかゆくなっちゃうわ」
ルーシーが体をさわりながら言いました。
「あら、そうかしら?私はとってもいいと思うけど・・・」
「まあ、うぬぼれの強いあの子にはちょうどいいかもしれないね。さあ、私が書いた文章を今度はあんたが書き写してごらん。やっぱり手紙は自分の字で書かないと意味はないからね」
「ええ、そうね。心を込めて書くわ」
アイナはグリムの書いた文章を見ながら、真剣に書き写しました。そして、何回も失敗を繰り返しながら何とか完成させました。
「さあ、出来たわ。今度こそどうかしら」
「ああ、よく書けてるよ。どうやらだいじょうぶのようだね。さあ、早くフェリシアに渡しておいで」
「ありがとう、おばあちゃん。」
アイナはそう言って出て行きました。
「それにしても・・・あのもの覚えの悪さは普通じゃないわね。ただ書き写すだけなのに何回も失敗するんですもの。あれじゃあ、フェリシアがイライラするのも無理はないわね。私だってイライラしちゃうわよ。あの調子だと仲直りしてもすぐにまたケンカになるんじゃないかしら」
「相変わらず心配性だね、ルーシーは。私たちにしてあげられることはここまでだよ。あとはあの2人の問題なのさ」
そう言ってグリムはアイナが失敗した紙を整理しました。そして、あることに気づいてとても驚きました。それは、フェリシアに持っていったはずの手紙がここにあったからです。
「ルーシー、あの子は手紙を持っていかなかったのかい?」
「いいえ、ちゃんと持っていったはずよ。どうかしたの?」
「フェリシアに持っていったはずの手紙がここにあるのさ。どうやらあの子は失敗したほうの手紙を持っていったようだね。あんなに一生懸命がんばってようやく上手くできたというのに・・・やれやれ、あの子にも困ったものだよ」
「あの子らしいわね。私が届けてあげるわ」
「やめときな。言っただろ?ここから先はあの子たちの問題なのさ。それにさすがのあんたでも間に合わないよ。上手くいくことを祈るしかないね」
「ほんとにもう!心配ばっかりかけるんだから・・・」
その頃アイナは、手に持っている手紙が失敗したものとは気づきもせず、ドキドキしながらフェリシアの家に向かって歩いていました。
家の前に来ると、手紙をポストに入れて逃げるように走って家に帰りました。家の中でその光景をみていたアニーが、不思議そうな顔でポストの中の手紙を取り出して家の中に入ると、それをフェリシアに渡しました。
「この手紙・・・本当にアイナが書いたのかしら。だってあの子、自分の名前しか書けなかったのに・・・」
フェリシアは不思議に思いながらも手紙を読んでみました。手紙にはこう書かれていました。
『魔人で野菜のフェリシアへ。あなたが一生懸命襲ってくれたのに真面目に勉強しなくてごめんなさい。こんどは真面目に勉強するのでまた襲ってください。アイナより』
「何よこれ・・・間違いだらけじゃない。やっぱり私がちゃんと教えてあげないといけないようね」
「それはいいことだと思うよ。でも・・・その怒りっぽい性格を直さないとまたケンカになるんじゃないかな」
「できることならそうしてもらいたいね。でも性格なんて簡単には直らないと思うよ。お姉ちゃんの場合は病気みたいなものだからさ」
「お父さんやリックスに言われなくたってそんなことくらいわかってるわよ。私だって反省してるんですからね。同じ失敗は繰り返さないつもりよ。じゃあ、ちょっとアイナの家に行ってくるわ」
アイナの家の前まで来るとフェリシアは、大きく深呼吸をしてドアをノックしました。
しばらくして、アイナが少し恥ずかしそうにして出てきました。
「フェリシア・・・さっきはごめんなさい。手紙は読んでくれた?」
「ええ、読んだわよ。間違いだらけだったわ。もう一度私と勉強しましょ。私って思ったことを何でもしゃべっちゃうのよね。それでいつもああ、言わなければよかったって後悔しちゃうの。でもこれからはなるべく怒らないようないい先生になるつもりよ。またいっしょにがんばりましょ」
「ありがとう。私もがんばるわ。そして怒られないようないい生徒になるわ」
「そう言ってくれて私も嬉しいわ。でもね、怒らないからといって甘やかすわけではないのよ。厳しくするから覚悟しなさいよ」
「望むところだわ」
そう言ってアイナは笑いました。