第2話 最後の1日 前編
「アイナ起きて。もう朝よ。いつまで寝てるのよ。今日は村に行く約束でしょ。早く準備してちょうだい」
ルーシーは、アイナがいつまで待ってもやって来ないので家まで迎えに来たのでした。
アイナはまだ半分寝ぼけた顔で着替えと朝食を済ませると、虹のトンネルを通ってフェアリーアイランドへ行きました。
トンネルを出るとそこには綺麗な花畑があり、その花畑を森とは反対側に進むと、小さな小川があり、小さな橋がかかっています。その橋を渡ると、そこに小さな村がありました。村の入り口には何やらたくさんの村人の姿が見えます。
その村人たちを見てアイナは驚きました。あきらかに大人だと思われるヒゲを生やした人が、隣にいるフェリシアより少し背が高いくらいの身長しかないからです。どう見ても140cmくらいにしか見えません。さらに良く見ると、村人はみんなとんがり帽子をかぶっていました。それは、村人たちは背が低いことを気にしているので、少しでも背を高く見せるためにかぶっているのでした。
アイナが村の入り口の前まで来ると、村人がいっせいに拍手をして、温かく迎えてくれました。
「何だか有名人になったみたい」
アイナは照れくさそうに笑いました。
「みんなそれだけあなたが来ることを楽しみにしていたのよ。ほら、あそこにいるのが長老さんよ。長老さんはもう140歳を超えてるけどとても元気なおじいさんなの。村を代表して挨拶をしたいんですって」
ルーシーが言いました。どうやら中小人の人たちは人間よりも長生きをするようです。
「やぁ、良く来てくれたね。わしがこの村の長老、ブルーノ・ファングじゃ。我々はおまえさんを歓迎するよ」
「ありがとう、長老さん。私はアイナ・クラークよ。こんなに歓迎されてとっても嬉しいわ」
「ちょっと!ずいぶん来るのが遅かったじゃない。どうせ寝坊でもしてたんでしょ。まぁいいわ。紹介するわね。私のお父さんとお母さんよ」
「やぁ、初めまして。僕がフェリシアとリックスの父親のビリー・オズワイドだよ。」
「私は母親のアニーよ。昨日は子供たちがお世話になったみたいね」
「ちょっと、おかあさん!お世話したのは私たちのほうよ」
「そうだよ。すごく大変だったんだからな」
フェリシアとリックスが不満そうに言いました。
「そんなことはどっちでもいいじゃない。さぁ、アイナ。私たちの家に来てちょうだい。あなたを招待したいの」
「ええ、喜んで行くわ」
アイナは、いろんな人たちと挨拶を交わした後、フェリシアたちといっしょに家に向かいました。
家では、おいしい昼食をごちそうになり、楽しい時間を過ごしました。楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気づいたらもう夕方になっていました。アイナは、また明日遊びに行くと約束をして帰って行きました。
「アニーおばさん、こんにちは」
次の日アイナは、約束どおりフェリシアの家に遊びに行きました。また今日も寝坊してしまい、お昼を過ぎていたので、フェリシアに怒られるのかと思いましたが、そこにフェリシアはいませんでした。
「ねぇ、アニーおばさん。フェリシアは?」
「フェリシアは2階で寝てるのよ。気分が悪いんですって」
「まぁ、それは心配ね。ちょっと様子を見て来てもいいかしら」
「もちろんいいけど・・・誰も私の部屋に入らないでって言って部屋に入れてくれないのよ」
「どうしたのかしら・・・昨日まではあんなに元気だったのに・・・」
アイナは、心配してフェリシアの部屋に向かいました。部屋をノックして声をかけると、フェリシアが叫びました。
「私のことはほっといて!1人にしてちょうだい!」
それ以上、何を言ってもフェリシアは答えませんでした。
「どうだった?」
下の部屋で新聞を読んでいたビリーが心配そうに言いました。
「よくわからないけど、一人にしてくれって・・・それしか言わないの。どうしたのかしら。何かの病気かもしれないわね。ちょっとグリムおばあちゃんの家に行って薬をもらって来るわ」
アイナはそう言って走って出て行きました。
グリムの家に行くとアイナは、すぐにフェリシアのことを話しました。
「アイナって本当にドジねぇ。病気って言ってもいろいろあるのよ。どんな病気なのかわからないと薬は作れないのよ」
グリムといっしょにいたルーシーが笑いながら言いました。
「じゃあ、いろんな薬をいっぱいちょうだい。たくさん飲ませればどれかの薬が効いて病気が治るかもしれないわ」
「バカなこと言わないでよ。そんなに薬を飲んだら、よけい病気になるわよ」
「ルーシーの言う通りだよ。それに私はフェリシアは病気ではないと思うよ。何か別の理由があるんじゃないかね」
「別の理由?」
「ああ見えてあの子はけっこう繊細なところがあるからね。多分あんたと別れるのがつらいんじゃないかね」
アイナは、こうしてフェリシアたちに会えるのも今日が最後ということをすっかり忘れていました。この夢のように楽しい毎日が永遠に続くと思っていたからです。そして、それと同時にあることを真剣に考えていました。
「じゃあ、フェリシアはそれが悲しくて部屋に閉じこもっているっていうの?そんなの変よ。今日で最後だからこそたくさん思い出をつくって後悔しないようにするべきなのに。いいわ。私がフェリシアを説得するわ」
「またルーシーの悪い病気が出たね。あんたのほうこそ薬を飲んだらどうだい。そのおせっかいが直る薬を作ってあげるよ。それに今はあまり刺激しないほうがいいと思うね。今何か言うのは逆効果だよ」
「もう!おばあちゃんの意地悪。私は真面目に話してるのよ。それにのんびりしている時間なんてないんだからね。女王様の話だと虹のトンネルは今日の夕方には消えてしまうのよ。アイナだってフェリシアに会えないままのお別れなんていやでしょ?そんなことをしたらお互い、一生後悔することになると思うの。ねぇ、アイナ聞いてるの?」
「え?ええ、聞いてるわよ。ルーシーの言う通りよ」
この時グリムは、アイナが何かを言いたそうにしているのを感じました。そして、アイナが何を考えているのかもわかっているようでしたが、これは自分たちで解決しなければいけないことなので何も言いませんでした。
結局アイナたちは、フェリシアのことをどう説得するのかについて何も解決方法が見つからないままフェリシアの家に急ぎました。もうすぐお別れの時間が近づいていたからです。アイナはフェリシアの家に向かって歩いている間、めずらしく一言もしゃべりませんでした。あることでずっと悩んでいたからです。でもそれをルーシーに話すことは出来ませんでした。
ルーシーも何も言いませんでした。無言のままフェリシアの家に向かって飛んでいます。
家に入ると同時にルーシーは、真っ先にフェリシアの部屋に向かいました。そして、ドアの前で大声で叫びました。
「フェリシア!いいかげん出て来なさいよ。いつまでそうしてるつもり?アイナはもうすぐ帰っちゃうのよ。本当にこれでいいの?このままじゃ一生後悔するわよ!」
「私のことはほっといてって言ってるでしょ!?」
フェリシアが叫びました。
「ねぇ、フェリシア。話があるの。聞いてちょうだい」
今度はアイナが話しかけました。
「聞きたくない。何も聞きたくない!こんな悲しい思いをするなら最初から会わなきゃ良かった!」
「もう!フェリシアなんて知らない!勝手にすればいいわ。アイナ行きましょ。もうすぐ時間よ」
二人は仕方なく下の部屋に下りていきました。二人の顔を見てアニーが言いました。
「困った子ね。でもしょうがないわ。さぁ、アイナ。ここに座ってちょうだい。最後のお別れ会をしましょ。」
テーブルにはおいしそうなごちそうがたくさん並んでいましたが、みんなほとんどごちそうを食べませんでした。みんな悲しくてごちそうどころではなかったのです。
「もう会えないと思うとやっぱり寂しいや。お姉ちゃんの気持ちもちょっとわかる気がするよ。まだ紹介したい面白い場所がたくさんあったのにな」
さすがの食いしん坊のリックスも、この日ばかりはほとんど食べていませんでした。
「そんなこと言っても仕方ないでしょ。最初から3日間だけってことはわかってたことじゃない。その話はやめましょ。よけいに辛くなるだけだわ」
その後は、誰もしゃべりませんでした。無言のまま時間だけが過ぎていき、とうとうお別れの時間になりました。