第5話 恐怖のクッキング 後編
「一体どうしたの?」
アニーが心配そうにやって来ました。アニーも今まで昼寝をしていましたが、フェリシアの大声でようやく目を覚ましたのでした。
「もう!お母さんも少しはアイナのことを見ていてくれないとダメじゃない。もう少しで大変なことになるところだったのよ」
フェリシアが焦げたナベを指差しながら言いました。
「あらまあ、これは大変ね。だいじょうぶ?ケガはなかった?」
「ええ、私はだいじょうぶよ。アニーおばさん・・・でも、せっかく作ったスープが・・・」
「そんなに落ち込まないで。誰にでも失敗はあるわよ。またチャレンジすればいいじゃない」
結局その日の夜ごはんはアニーが作りました。フェリシアとリックスの2人は、アニーの作ったおいしい料理を食べながら、アイナが失敗してくれてよかったと心の中で考えていました。それは、アイナの料理を食べなくて済むからです。
「アニーおばさん、少し材料を分けてもらえないかしら。家に帰ってもう一度作ってみたいの」
「ええ、もちろんいいわよ。必要なだけもっていくといいわ」
「ありがとうアニーおばさん。さようなら」
食事が終わると、アイナはたくさんの野菜などを持って自分の家に帰りました。
家に帰ると、さっそく練習を始めました。しかし、何回作ってもアニーのような味にはなりませんでした。
「同じ材料を使っているはずなのにどうしてかしら・・・不思議だわ。やっぱり私には無理なのかしら・・・」
しかしアイナはあきらめませんでした。どうしてもフェリシアたちをあっと言わせたかったからです。その後も何回も失敗を繰り返しましたが、それでも一生懸命がんばりました。
「出来たわ!これならきっとおいしいって言ってくれると思うわ!」
気づいたらもうすっかり夜が明けていました。アイナは徹夜をしたにもかかわらず、今は興奮しているため、まったく眠たくありませんでした。
アイナは、まだ少し早い時間でしたが、早くみんなに食べて欲しくてしょうがないといった感じで、今作ったばかりのスープの入ったナベを抱えてフェリシアの家に出かけました。
「まあ、アイナじゃない。お早う。今日はずいぶん早いのね」
アニーがそう言ってアイナを部屋に入れました。
「アニーおばさん、見て。これ、私が作ったのよ。今日の朝ごはんはこれをみんなに食べて欲しいんだけど、いいかしら」
「まあ、すごいじゃない。がんばったのね。もちろんいいわよ」
「ありがとう。アニーおばさん」
アイナは笑顔で準備を始めました。ちょうど朝ごはんの準備が出来た頃、ようやくフェリシアたちが起きてきました。
「あら、アイナじゃない。めずらしく今日は早いのね。どうしたのよ。ニコニコしちゃって・・気持ち悪いわね」
フェリシアが不思議そうに言いました。
「とにかく座ってちょうだいよ。さあ、朝ごはんを食べましょ」
アイナにそう言われてフェリシアたちは、わけが分からないまま席に着きました。
「ねえ、そろそろ説明してくれてもいいんじゃない?アイナはさっきから何をそんなに嬉しそうにしてるの?何かいいことでもあったの?」
「今日のこの朝ごはん、私が独りで作ったのよ」
それを聞いてフェリシアとリックスは驚きました。
「さあ、みんな食べてちようだい。昨日は失敗したけど今度は自身があるのよ」
フェリシアたちは覚悟を決めて恐る恐る一口食べてみました。
「おいしいわ。とても上手に出来ているわよ」
アニーが言いました。
「うん。おいしいと思うよ」
ビリーも言いました。
「まずくはないと思うよ」
リックスが言いました。
「確かにまずくはないわね。アイナにしては良く出来たと思うわ。でも、お母さんの味にはまだまだ敵わないけどね」
フェリシアが言いました。
「もうフェリシアったら・・・正直においしいって言えばいいのに。素直じゃないのねでも、アニーおばさんとビリーおばさんがおいしいって言ってくれてよかったわ。何だか安心したら眠たくなっちゃったわ。私は家に帰って寝ることにするわね。昨日の夜は寝てないのよ」
「アイナったら何を言ってるのよ。朝ごはんの後は勉強の時間でしょ?」
「1日くらい休んでもいいんじゃないの?」
「そりゃあ、アイナが料理をがんばったことはよくわかるわよ。でもこういうことは毎日やったほうがいいの!わかった?」
「あーん!フェリシアの意地悪!」
「うそ泣きしたってだめよ!さあ、行くわよ」
そう言ってフェリシアはアイナの腕を無理やり掴んで2階に連れて行きました。
「あーあ、かわいそうに・・」
リックスがつぶやきました。
アイナは、勉強が終わるとそのままフェリシアのベッドでぐっすりと眠ってしまいました。
「よっぽど疲れてたのね。今日のアイナはよくがんばったと思うわよ。料理もおいしかったわ」
フェリシアはそう言って微笑むと、静かに下の部屋に下りていきました。