壱【辻斬りの話】
最近都では、辻斬りが出た。
なんでも、その剣さばきはとても美しいとか、決して女は狙わず、男しか切らない。そんな辻斬りに憧れを抱く女性も少なくない。
「でも、春はどう思う?同じ武士として」
「どうもこうも、私にはどうする事も、でも、一回だけでもいいので姿を見てみたいです。」
私、氷雨は休み処で働いている。そして幼馴染の春は武士に、同じ環境で育っても、人間上手い上手くないははっきりする。
「春は、辻斬り退治とかしないのか?」
「しませんよ、私みたいな下級武士は、町のいざこざを任されるばかりで、きちんとした仕事など任されませんからね」
情けない、と笑う春は、噂の辻斬りより美しいと思う。色素の薄い茶色の髪に男のくせに白い肌、大きな瞳は頼りなく兎のようだ。
「でも春は、その気になればとても強いじゃないか…」
「えぇ、その気になれば、です。またあの様な事、自身の手でやるなんて、私の様な臆病者には到底無理な話。」
そんな事はない、そういっても春のことだ、全否定するに決まっている。
「さて、私はそろそろ仕事に戻ります。同僚に見つかってしまってはいけませんからね」
そう言って悪戯っ子の様に笑う春に、柄にもなく格好いいと思う。
「お勤めご苦労様、春」
「氷雨の方こそ」
手を振って春は仕事に戻る。
いつもの日常、いつもの春、でも、
辻斬りの話をした時、春は動揺していた。
人に分からない程度の動揺、でも十八年間ずっと一緒にいた私にはわかる。
十八歳で武士になった、神童でも、出世するほどの尽力もない、
なんて言われてるけど、春は本気を出していないだけ、出世に興味が無い様に思う。
(私には、話してくれたっていいだろう?)
少し、ほんっとに少しだけ、落ち込んでしまう。




