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ループラインの軌跡  作者: リノ バークレー
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14-4(69)

 その後も列車はさしてトラブルもなく順調に運行され、さすがに最終日

とあって車内は平日のお昼ぐらいの込み具合だが一つ決定的に違うのは

乗客達の表情が皆一応に明るく、目がキラキラしているのが印象的だ。

 それはきっと私にも言えることで不本意に失った月日が思いもよらぬ形

で返還され、結果若さを取り戻し、自身希望する町や村で人生を

やり直せるのだから当然といえば当然なのかもしれない。

 各乗客が望む駅に停車するたび皆さん笑顔で近くにいる乗客同士

ハイタッチし降りて行くのを見るとこちらまで嬉しくなってしまう。

 そんな賑わいを見せる車内が19番駅を出発する頃には私とモエさん

2人だけとなり少々しんみりとした状況下とうとう列車は18番駅に

到着した。


「着きましたね」

「うん! 着いちゃったみたいね」

「それじゃ~ ソラさん、元気でねっ! あ―っ! それと今度は絶対

離しちゃだめよっ!」と意味深なセリフを口にした。

「えっ? あっ、はい……モエさんもお元気で」と少し気にはなったが

浮き足立つモエさんに真意を聞けず彼女と最後の握手を交わした。

 私は子供のように笑顔で手を振りながら階段を駆け上がる彼女の姿を

自身に重ねるかのような気持ちで見送った。

 30分後再び列車が動き始め、まるで保育園で最後までママを待つ

園児のように少しの不安と胸いっぱいのワクワク感で満たされる中、

列車は徐々にスピードを下げ遂に待ちに待った7番駅に到着した。

 ゆっくり開く扉をあたかも引き裂くかのように飛び出した私はその後

一気に階段を駆け上がり、勢いそのまま改札を通り抜け出口方面へと

向かった。

 

 はぁ、はぁ、はぁ……あっ! あれだ!


 ところが出口に近づくとそこにはとうてい信じ難い光景が広がっていた。

 なんと出口には厚さ2センチ程の板数十枚でしっかり覆われ、外に

出る事も覗く事も不可能な状態となっていた。

「えっ……、これってどういうこと?」

 焦りに焦った私は大急ぎで改札近くに戻り路線図を確認すると

1番から7番までの駅が閉鎖を意味する水色表示に変わっていた。


「えぇっ――!」


 私は一瞬で血の気が引くのを感じた。

 唖然と路線図を見つめる中、以前モエおばあちゃんが私に話して

くれたことを思い出した。

 確かモエさんの話によると住人が精神的に未熟な場合、生活環境

や社会生活が立ち行かないことがあり、特に一桁の村が閉鎖に

追い込まれるケースが多いって言ってたような……。

「閉鎖? まさか……まさか……村がなくなっちゃったってこと?」 

 私はとにかく閉鎖に関する詳しい情報が知りたくて何度も何度も

駅舎のドアを叩き大声で叫んだ。


「すみませ――ん! 誰かいませんか――!」

〈ドン!〉〈ドン!〉〈ドン!〉

「すみませ――――ん!」

 

 何の反応もない駅舎を諦め再び改札を通り抜け階段を下り、

各車両を覗き込み車掌さん、運転士さんを必死に捜したが結局

誰一人見つけることが出来なかった。

 思いもよらぬ事態より半ば放心状態となった私は知らぬ間に

頑丈な板で塞がれた出口の前に呆然と立ち尽くしていた。

 認めたくはないこの悪夢のような現実をまだ受け入れきれず、

無意識に両手で板をつかみ、まるで懇願するかのように出口

に向かって語りかけていた。


「どうして……」

「みんな死んじゃったの?」

「どうして……」

「そんなぁ」

「最後のチャンスだったのに……」


 次第に迫りくる最終列車の発車時刻に私はとうとう現実を受け入れ

なければならない状況に追い込まれた。

 それでもあまりの悲しさ、悔しさからまるで駄々っ子のように

その場から離れられず冷静さを失っていた私だったが急に何かに

なだめられるかのように落ち着きを取り戻し始めた。

 待てよ……、確か初めてココに来た時私が28歳の夏ということは

たとえ今現在村が閉鎖状態であっても1年と半年後には村が

何らかの理由で必ず復活するはずだ。

 村が存在するってことはみんな無事……そう、生きてるんだ!

 ただ残念ながら今回私個人の願いは叶わなかった。

 でもそのことで先ほどまでの絶望感や悔しさから一転、嬉しく

幸せな気分で胸がいっぱいになり結果私は現実を受け入れ、再び

最終列車に乗り込む決心がついた。

 これはもしかするとあえて村の仲間がそう仕向けてくれたのかも

しれない。

 私はリュックからひなからプレゼントされた花の首飾りを慎重に

取り出しそっと床に置いた。

 すると枯れ果て原形を留めていなかった首飾りから美しい花が

まるでスローモーションのように次々咲き始め見事に復活した後、

みるみる花が1つ消え、2つ消え、そして枠組みだけとなり最後は

全て消えてなくなってしまった。

 そっか―、この首飾りはひなと初めて会って以降に作られた物

だから今はまだ存在しないんだ。

 でも綺麗だったな~ ひな、ありがとなっ!

 私は板で塞がれた出口に向かって大きく手を振り、出来る限りの

笑顔で最終列車に乗り込んだ。


 ありがとう、うさぎクラブのみんな。

 ありがとう、ショ―ちゃん。

 ありがとう、ひな。

 さよなら。 


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