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悪評は瞬く間に村全体に広がり、自身のみならずひなまでその煽り
を受け、2人は徐々に孤立し、好調だったお店にも多大な影響を与え
始めた。
元々ひなと村人達との交流の場として始めたお店だったがここ最近
客足が極端に遠のき、村人達との交流に嫌気が差し始めた僕はお店を
他人に譲りそのロイヤリティーで生活する計画を立てた。
相変わらず人気のテリヤキソースやスープの素となる調味料は
こちらが握ってるので競合の心配はなく、嫌われ者の僕さえいな
ければ再び客足が戻ると感じた僕はひなを連れビジネスパートナー
探しに出かけた。
いつもと変わらず賑わう市場だが僕達は以前のようには楽しめ
なかった。
ひなは出会った頃に戻ったかのように辺りを警戒し、僕は常に
不機嫌だった。
理屈が通じない、融通が利かない、要領が悪い、そんなレベルの
低いこの地の村人達に対しうんざりしイラついていたからだ。
そんなストレスの溜まった状態の僕の前に突然3人の男達が
現れ一気に囲まれてしまった。
「おい! おまえ、最近調子こいてるらしいやんけ!」
聞き覚えのある声……そう以前この辺りでからまれたゲンタ達だった。
ゲンタはいきなり僕の胸ぐらを掴み思いっきり顔を近づけ脅すかの
ように言い放った。
「レアストーン分けてくれよ、なっ!」
ひなの手前以前のような姿を見せたくない僕は思い切って拒否
するとゲンタは物凄い勢いで僕をお店の看板に押し付けた。
ところが体格のわりに非力に感じた僕は村人達に対するストレスも
あってか力任せにゲンタを押し返すとなんとゲンタは3メートルほど
先に勢い良く吹っ飛んでしまった。
〈ズド――――ン!!〉
一瞬周りが静まりかえった……。
何が起ったのか理解出来ない村人達、同じく信じられない光景を
目の当たりにした僕は助けようと突き飛ばしたゲンタに近づこうと
すると2人の子分らしき男たちが僕の両腕を掴んだ。
「ゲンタになんてことすんだ!」と激しく罵る彼らを僕は思いっきり
振り払うと再び驚きの光景が……!
なんと2人の男たちはまるでゲンタを中心にそれぞれⅤ字に交差
するように砂煙を上げ吹っ飛んでしまった。
恐れをなしたゲンタ達は腰を摩りながらすごすご逃げゆく様子に
初めは静かだった村人達から少しづつ拍手が沸き起こり、その
ウェーブは徐々に全体を巻き込み気づけば僕は一瞬にして村の
ヒーローとなってしまった。
ところが今までの学生時代とは真逆のかつて経験した事のない
なんとも言えない優越感、その爽快感に翻弄された僕は折角の
悪評を挽回するチャンスを生かすことなく間違った方向へと
突き進んでしまった。




