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私はとにかく幸せだった。
ひながこんな私に対し全幅の信頼を寄せてくれ、しかも私を必要と
してくれている。
そしてなにより嬉しいのはひなの無邪気で素敵な笑顔を見ない日
はないということだ。
当時私はこれまで体験した事のない充実感に満たされていた。
人から頼りにされる、必要とされる事がこんなに嬉しいものなのかと。
私はふと自身の幼少時代の記憶を遡り始めた。
かつての私はひなと同じで日々繰り返される執拗ないじめにいつも
怯えていた。
そんな中、同じクラスのリーダー的存在だったヒロシくんが私を庇
ってくれたり、時にはいじめを止める様注意してくれたことがあった。
私は当時の事を今でも鮮明に覚えているし本当に嬉しかった。
ひながいる村ではちょうどショ―ちゃんが当時のヒロシくんと酷似
しているように思う。
そんなショ―ちゃんがこんな私なんかに相談を持ちかけ、しかも一目
置いてくれるものだから私はつい彼に1つ嘘を付いてしまった。
それは私が有能な人間だという嘘だ。
私は幼少の頃から中学、高校そして社会人になっても尚、時には
見下され、まして他人から相談された事なんて一度もない人間だ。
そんな私に突如訪れた立場の逆転は始めこそ戸惑い、困惑したが
次第にそれは当然のごとく受け入れ、結果とてもイヤな人間に
なってしまった。




