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ループラインの軌跡  作者: リノ バークレー
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37/72

7-2(37)

 夕方、営業部に立ち寄った際、見知らぬ男性から声を掛けられた。


「宮下くん、ちょっと、ちょっと」 

「あっ、はい、何でしょうか?」

 ネックストラップには〔企画/開発部・商品開発課長・森本〕の文字が。

「あの~ 私に何か?」

「もうすぐだね」

「えっ? もうすぐって……あの~ 何の事でしょうか?」

「あれれ、柴田部長から聞いてないの?」

「柴田部長から……ですか?」

「そう、移動の件」

「移動? 移動って誰がですか?」

「誰ってキミが企画/開発部に」「柴田くんの方からキミに 

伝えといてって言ったんだけどね」

「それっていつの話ですか?」

「確か半月ほど前だったかな」

「え~っ! 聞いてないです。今初めて聞きました」

「まっいいや、とにかくそういう事だからさ、期待してるよ!」

「あ、ありがとうございます!」

「月末には正式な辞令が出るからそれまで他言しゃだめだよ」

「ハ、ハイッ!」

「それと宮下くん今晩空いてる?」

「はい、特に何も」

「じゃ~ 食事でもいっしょにどう? ちょっと話したい事もあるし」

「ぜひお願いします!」

「じゃ~ 5時半に下のロビーという事で」 

「分かりました、よろしくお願いします」


 大変な事になった!

 なんと企画/開発部へ移動なんて信じられない事態が起きた。

 僕は喜びに震える気持ちを抑える為とりあえずトイレに向かい

洗面台で鏡に移る自身の顔をしばらく見つめた後、まるで顔面 

にぶつけるかのように1回、2回、3回と真水を浴びせた。

 少し落ち着きを取り戻した僕は地下の資料部に向かう途中

なぜ柴田部長が僕に伝えてくれなかったのか気になりだした。


「ただいま戻りました」

「おっ! おかえり、すいぶん遅かったな」

「すいません、ちょっと色々ありまして……」

 机に戻った僕は企画書を揃えるフリをしチラッと部長に目を

やると以前のようにまた目が合ってしまった。

「どうかした?」

「あっ! あの~ 部長何か忘れてる事ありません?」

「忘れてる事? 特にないけど……今朝燃えないゴミ出したし」

「いやそういう事じゃなくって、何か僕に隠してるっていうか……」

「隠してる事?」

「あっ! 冷蔵庫の奥にビール隠してるのバレちゃった?」

「いやいやそういう事でもなくて」

「もしかして本棚の奥にある焼酎見つかっちゃった?」

「はぁ~」(どんだけ酒好きやねん)

「じゃ― 何のこと言ってんの?」

「来月から私が企画/開発部に移動するって件ですよ」

「あっ! その話ね、そうそう近々言おうと思ってたのよ」

「どうしてそんな大切な事黙ってたんですか?」

「いや黙ってたって、そんなんじゃないよ。ほら普通は業務の

引継ぎなど諸々あるんで早めに本人に伝える必要があるけど

資料部の場合そんなのないじゃない、だから急がなくても

いいかな~って思って、ハハッ!」


「……悪かったよ、そんな顔すんなよ」

「だってず~っと2人っきりで過ごして来たのに水臭いじゃない

ですか」

「そうだよな、ホント申し訳ない。宮下くんにとってチャンスだし

とても喜ばしく思える反面ちょっと寂しくなるっていうかまた1人に

戻っちゃうな~なんてねっ!」

「部長……」 

「でも良かったな、この資料部から別の部署への配属はキミが

初めてじゃないかな」

「そうなんですか」

「あぁ、私の知るかぎりね。だから頑張らなきゃなっ!」

「ハイ! ありがとうございます」

「もうすぐキミがいなくなるのか……、寂しくなるな」

(ちょっ、部長、また顔が、顔が近い)

「来月向こうに行ってもさぁ~ たまに地下2階に顔出してよね! 

キミの大好きなコーヒー入れて待ってるから」

(もう部長~ 顔近いって!)

「あ――っ、もうこんな時間! 部長すみません、これから 

約束あるんでお先に失礼します!」

 僕は部長から逃れるかのように大急ぎで資料部を出た。


(参ったな~ 森本課長待っててくれてるかな~)

 僕は必死で階段を駆け上がり森本課長が待つ1階

ロビーへと向かった。


「あっ! 森本課長―、すみませ~ん」

「お~ 宮下くん」

「はぁ、はぁ、はぁ、遅くなっちゃって申し訳ないです」

「いや私も今来たところだよ。じゃ行こうか」

「はい! よろしくお願いします」


 森本課長とタクシーで向かった先は隠れ家的雰囲気のある

ちょっと高級そうな小料理屋さんだった。

 中に入ると1本の木材で作られたであろう立派な白木のカウンター

が目をひく本格的なたたずまいの内装に緊張しつつも僕は課長に

促されカウンターの1番奥に2人並んで座る事となった。

 私達はまずビールで乾杯した後、課長はメニューを見ず直接

カウンター内の板長さんに「お任せで頼むよ」とだけ伝えコップ内の

ビールを一気に飲み干した。

 僕が課長にビールを注ぐと「キミこういうの苦手だろ、大丈夫

それぞれ手酌にしょう! お互いこれが最後な」と笑顔で僕に

注いでくれた。

「すいません、気を使って頂いて。それとちょっと言いにくいん

ですが今日そんなに持ち合わせがないんで足らない場合少し

貸して頂けませんか?」と板長さんに聞こえないよう小声で

伝えると部長は自身の胸をポン叩き僕に耳打ちしてきた。

「大丈夫! 私に任せなさい。今日車売ってきたから」

「えっ……ホントですか?」

「冗談だよ冗談。キミ面白いね! 今日はご馳走するから

何でも好きなの頼みなさい」

「は、はい、ありがとうございます」

 ふと周りを見ると2人の会話が聞こえてたようで板長さんや 

お運びさんに笑みがこぼれた。

 それは馬鹿にされたようなものではなくなんとも優しく温かい

笑みで、僕の緊張をゆっくりと和らげてくれるものだった。


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