4-7(23)
早いもので上京してから自身初めて夏を体験する事となった。
無意識の中、高速で過ぎ去った月日を加えると3回目の夏
となるが、それほど気にならないのは毎日が充実しているから
なのかもしれない。
今日からまた新しい知育玩具の企画書を作成すべくひたすら
アイデアを練る毎日。
前回、前々回は不採用という残念な結果に終わったが決して
諦めないのは島田課長からのあの一言があったからだ。
そう、僕は期待されてるという事。
その言葉を信じて今回取り組んでるのはパズルだ。
なんとかパズルの視覚的要素と数的計算要素を合体させたい
がこれが中々難しく、ふと時計を見ると既にお昼を過ぎていた。
以前とは違い時間の経過が恐ろしく早く感じるのは仕事に対して
常に集中いるからだろう。
「部長、お昼行ってきま―す!」
「どうぞ……」
(あれ? なんかいつもと違うような……まっ、いっか!)
社員食堂で1人食事を取りながら再び企画について思案して
いると先日仕事を頼まれた社員さんを発見した。
「横田さ―ん!」
「えっ? あ~ 宮下くんか」
「先日お渡しした資料少しはお役に立ちました?」
「資料?」
「あっ! あれね~ 良かったよ。うん! 助かったよ」
「良かった―、またいつでも言ってくださいね!」
「またよろしくな。ごめん! オレちょっと急いでるから」と
逃げるように立ち去る姿に多少違和感を感じたが、お役に
立てた事が嬉しく鼻歌まじりに部署に戻るとそこは僕のウキウキ
気分とは間逆のなんとも重い空気が充満していた。
「宮下君ちょっと……」と部長に神妙な顔つきで呼ばれた。
「はい、なんでしょうか?」
「キミ最近御用聞きみたいな事やってるみだいだね」
「ハイ! 結構好評みたいで、ふふっ」
「何やってんの?」
「えっ? 雑用から資料収集など色々と……」
「オレ、そんな事やれって言った?」
「いえ……」(まさか、怒ってるの?)
「困るんだよね~ はっきり言って」と次第に苛立つ部長に
対し真意を理解出来ない僕は部長に聞き返した。
「何が困るんですか?」
すると突然部長はペンを床に投げつけ語気を荒げた。
「企画室をはじめ各部署からクレーム入ってんだよ!」
「えっ? そうなんですか?」
「そうなんだよ。いい加減にしろよ、まったく」と部長は
少しづつ冷静さを取り戻した。
「キミ資料部の意味まだ分かってないの?」
何も答える事が出来ない僕に説き伏せるように部長は続けた。
「部署に俺たち2人しかいなくて何にも仕事がないってことは
会社にとって必要がないってことなんだよ。それは学校で
問題児が先生に授業邪魔するぐらいなら寝ててくれって事と
同じなんだよ」
「だから俺たちは最低限みんなに迷惑掛けちゃいけないんだ。
分かるだろ」と僕の肩に手を置いた。
でもまだ納得出来ない僕は今の正直な気持ちを伝えた。
「実は半年ほど前に島田課長からアドバイス頂いたんです。
で、僕でもお役に立てるかもって気持ちがつい……」と声を
詰まらせると部長は呆れ顔でそっと呟いた。
「島田課長はキミに何も期待していないと思うよ。事実、
島田課長からも今回の件で連絡があったし、そもそもキミの
資料部移動に関しても島田課長の強い意向が働いたって
聞いてるよ」
「えっ……」
「もういいから業務戻りなさい」
失意の中、僕は企画書をそっと机にしまい込み、通常業務に
戻ったが、溢れる涙で資料の文字を認識することすら出来ない状態
のままただひたすら終業時間まで耐え続けた。




