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ループラインの軌跡  作者: リノ バークレー
16/72

3-1(16)

「あれ? ちょっと雪が強くなったかな」

 

 小雪が少し激しさを増す中、館内スピーカーから大きな 

呼び出し音が響き渡った。


『高山さん、高山さん、至急浴室2番までお願いします』


 呼び出しが終わると同時に前から入浴介助らしき女性スタッフが

高山さんを捜しているのかブツブツ独り言を漏らしながら早足で

私の横を通り過ぎた。


「あいたたっ……」


 突然ひざの関節付近に強烈な痛みが走った。

 ここ最近、腕に続き足の具合も悪くなり、少しの移動も大変な私

だが冬になるとつい施設西側にあるロビーに向かい足を

止めてしまう。

 長椅子に腰掛け前面ガラス張りの風景から見える小雪を目に

すると若き日のあの頃を思い出す。

 今思えばあの時確実に私の運命の針が動きだし、どちら側に

振れるのかまさに人生最大の分かれ道だった。  

 なのに当の本人はまだ事態を把握しきれず、安易にしかも感情的 

に選択してしまってる所が愚かだがそれも若さというものなのか。  

 私は2つの人生を生きた。

 1つは私が望んで飛び込んだ人生、そしてもう1つは知らぬ間に

過ぎ去った人生。

 今あるのは後者の方、そう無意識の方だ。

 この施設にお世話になって早や1年が過ぎ、今年で75歳になる

が私に面会者が1人も来ないのは多分未婚なんだろう。

 当然家族がないわけで子供や孫が会いに来ないのもうなずける。

 たまに後悔してるのかと自身に問いかけることがある。

 すると自身の回答はいつもこうだ。

 後悔はしていない、望んでこちらの人生を選んだのだと。


「あの~ これ宜しければどうぞ」

「私にですか?」 

「ええ、お口に合いますかどうか」

「どうもすみません。お気づかい頂きまして」

 同じ施設に入居されてる方の息子さんのお嫁さんから最中を

頂いた。

 よく見るとお孫さんも来ていて本当に楽しそうだ。

 このまま見届けると自ら下した決断が揺らぎそうな私は

小雪舞う景色に目を向け再びあの日を懐かしむことにした。


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