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Bloody Cross  作者: 望月 千尋
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3話 ルシウス・アーガイル

〜バルハーデン王都 南区〜


  名前の通り王都の南に位置する南区で昨夜、一件の吸血鬼被害があった。

 被害者は一組の夫婦だった。家の中は荒らされており、被害者は2名とも死亡が確認されていた。

 衛兵によって調べられているその家の前を通るたびに通行人は口々につぶやく。


「最近本当に多いわね」


「やだ、うちの近所だわ」


「あそこには12歳ごろの息子さんがいたはずだよな。うちもそのくらいの息子がいるんだ。悪いがうちじゃなくて良かった」


 誰もが自らの身を案じ、その場に呆然と立ち尽くす少年に興味を示すことは無い。ましてやその少年がこの家で唯一生き延びた、被害者の息子だと知るはずもなかった。


 スウェン・ロッソは昨晩の悲劇を脳内再生しながら自分の家だった場所を眺めていた。

 昨晩のことははっきりと、鮮明に覚えている。


----------------------


 父さん、母さんと3人で晩ご飯を食べるいつもとなんら変わらない日常を送っていたはずだった。

 玄関の鐘が鳴る。


『こんな時間に来客かしら』


 そう言って母さんがを戸を開けた先には1人の女が立っていた。


『どちら様ですか?』


 その母さんの問い掛けに答える代わりに女はニヤリと笑った。

 人間のものとは思えない犬歯が剥き出しになる。

 その瞬間父さんが僕を抱えて裏口に向かい、僕を外へ放り投げた。


『スウェン!逃げろ!』


 そう叫んで父さんはまた家に戻って行った。

 僕はそのまま急いで近くの衛兵駐屯地に向かい、衛兵たちと返って来たときにはもうそこには吸血鬼の姿はなく、僕の家だった場所はただの悲劇の舞台へと変わっていた。


---------------------


 行き交う人々の声はもはやスウェンの耳には届いていなかった。


「おい、そこのガキ」


ーなんとしてでも仇を取るんだ


「聞こえねーのか?そこに突っ立ってるお前がスウェン・ロッソってガキかって聞いてんだよ」


 苛だちが滲んだ声が響く。

 スウェンはハッと我に返り、振り向くと若い男がその鋭い瞳でスウェンを見下ろしていた。男は言葉にし難い何かを纏っているいるように感じた。


「ぼ、僕がスウェンですけど」


 答えると男は顔色ひとつ変えずそうかと呟いた。


「あなたは、誰ですか?」


 男はやはり顔色ひとつ変えなかった。


「俺は」


 男の首元で十字架のペンダントがキラリと光る。


「ルシウス・アーガイルだ」


----------------------


 スウェンはルシウスに連れられ、近くの食事処へと場所を移した。

 お昼時は少し過ぎていたが、遅めの昼食をとる客で店内は少し混んでいた。角の方に空いている席を見つけ、二人はその席へと腰を下ろした。

 席に着くなりスウェンはルシウスに質問をする。このルシウスという人に対して、分からないことが多過ぎる。


「えっと、ルシウスさん。僕になんの用ですか?そもそも、いったいあなたは何者なんですか?」


 おすおずと尋ねるスウェンには目もくれず、ルシウスはただメニューを見据えたまま言葉を発しない。

 ルシウスがそっとメニューから顔を上げ、スウェンの方を向いた。


「ベーコン定食を一つ」


 質問に答えて貰えると思ったが、違った。

 ルシウスが見ていたのはスウェンではなく、その後ろにいた店員だったようだ。


「何も頼まねえのか?」


 質問に質問で返された上に、思っていたものと遥かに掛け離れた質問だったため、少し面食らってしまう。


「というか、そもそもお金がありませんし…」


 ルシウスは返事が気に食わなかったのか小さく舌打ちをした。


「ガキのくせに金なんて気にしてんじゃねーよ。それに金なら俺が持ってる」


「いやいや、そんな!さっき会ったばかりの人に払ってもらうなんて」


 初対面の人に奢ってもらうだなんてとんでもない。そう思って断ろうとした時、スウェンの腹の虫が音を立てた。

 鏡を見なくても自分の顔が赤くなっているのが分かった。


「だから言っただろ」


 ルシウスはそう一言呟くとさっきと同じ店員を見つけ「同じやつ、もう一個追加で」と頼んだ。


 運ばれたベーコン定食を食べ終え、一息ついたところでルシウスが口を開いた。


「それじゃあ、お前の質問に答えてやるよ」


 ルシウスはスウェンの目をしっかりと捉えてそう言った。今度は店員に話しかけているわけではないらしい。


「まず俺が何者かからだ。名前はもういいだろうから省くが、まず俺は吸血鬼に恨みがある。ちょうど今のお前くらいの時に最後の家族を吸血鬼に狩られた。もう四年も前の話だ」


 そこまで聞いてスウェンはルシウスが纏うものが何か分かった。

 家族を失い、一人になってしまった哀しみと、吸血鬼に対する憎しみ。

それでもルシウスの話し方は淡々としていた。


「そういう境遇があって、俺は吸血鬼を狩り続ける、一匹でも多く。そこで、お前に何の用があるかだ。次に狩る獲物はお前の家族を襲ったやつだ。その為にはお前の協力が必要なんだよ」


 この人はいったいこんな子どもに何を求めているのだろうか。


「確かに僕もアイツを殺してやりたい気持ちは当然あります。アイツが憎い。でも、僕に何ができるんですか?」


 ルシウスはやはり顔色を変えることなく「まあ聞け」とスウェンを制した。


「獲物を狩るにあたって最も必要な準備のうち一つが今の俺には出来ない。だが、お前にならする事が出来る。いや、お前にしか出来ない。それは…」


 スウェンはゴクリと唾を飲み込んだ。


「餌だ」


 その言葉にスウェンは思わず固まってしまた。だが、ルシウスは構う様子もない。


「お前には獲物を釣り出す餌になってもらう」


 そう言ってルシウスは不敵な笑みを浮かべた。



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