ロビンウッド
渚は旧友のエライザに電話をしている。
「まさか、エライザがあの自転車屋で働いてたなんてびっくりしたよ」
「まあな。じいさんがロビンウッドが解散したぐらいに雇ってくれてさ。今はカタギでやってる」
「堅気なんて十年前じゃ考えられないわ」
「それはお前もだろ、シオン。あの鬼のようなメイクは忘れられねぇぜ」
おかしくて互いに笑った。
そう、ロビンウッドはかつてその名を聴くだけで震えあがるくらい恐れられていた街一番の暴走族であった。
喧嘩で目を焼かれ片目を失ったリーダーのエライザは仲間を大勢引きつれ闊歩していた。
高校時代のある日改造バイクを走らせ高速道路を暴走しているロビンウッドはいつものように警察に追われていた。
「そこの改造バイクとまりなさい」
パトカーから怒鳴りつけられ
「止まれって言われて止まるかよ!」
仲間がふざけてパトカーを煽った。
小柄な体に白い特攻服を身に纏った渚もといシオンは女暴走族のグループから仲間外れにされたばかりで腹いせに改造バイクで高速を暴走していた。
「畜生!だから女って嫌なんだよ」
すると反対車線で遠くから数台のバイクがやってきた。
「なんだよ・・こんなかっこいいバイク、見たことない」
目を輝かせたシオンはすぐさま逆走し、勢いで反対車線に飛び移り彼等を追った。
「おまえらどこの族だ!?」
自慢の改造バイクに追いついた彼女に驚き、後方からやって来るパトカーを確認してから応えた。
「それどころじゃねぇ!今サツから逃げてるんだ」
シオンはパトカーの方を見て舌打ちした。
「こいつらいつも追っかけてるな・・丁度イライラしてたとこなんだ。これでもくらえ!」
鬼の形相でパトカーに向かってボールを投げつけた。
するとボールが破裂し液体が飛び出してきた。
「何だ?これは」
焦ったが既に遅く、液体は油状のもので警察を乗せたパトカーは危険を察知し急停止した。
遠ざかるパトカーを眺めロビンウッド全員が歓喜した。
「ありがとよ、今回は本気で危ないところだったぜ」
エライザは巨大な手でシオンの手を握った。
「まぁな、あんたたちの走りを見てたらすっかり憧れちまった。仲間に入れてくれ」
シオンの男勝りな性格をエライザは大層気に入り、すぐにロビンウッドの一員になった。
押し入れからアルバムを見つけ、渚はロビンウッドの集合写真を取り出した。
「そんなときもあったね。みんな元気かな?」
電話口でエライザは大笑いした。
「まるでババアみたいなこと言ってるな」
「それじゃあアンタはジジイじゃん」
「それが言えるのもシオンぐらいだな。お前はどうなんだよ、今日電話してきたのも何か理由があったからだろ?」
「・・見抜いてたのね」
渚は今までのことを話した。
エライザは驚いた表情で応えた。
「そうか、あの商店街で大暴れしてた奴らって昔言ってた敦の親父の仲間か。シオンもよく今まで我慢したな」
彼の一言に失涙した。
「だめだ、ホント臆病になったな・・あたし」
「守りたいものができたからだろ。これはダメなことじゃない。だけど敦にとってそれって済まされることだろうか・・蹴りをつけなきゃいけないときが来たんじゃねぇのか?」
「蹴り・・ね」
「あいつ、大きくなってたぜ。女の子を必死に守ろうとしてた姿は立派な男だったな・・だからよ」
するとエライザのもとに二人の男が焦った顔をしてやって来た。
「どうしたの?急に話をとめて」
「なんでもない。急用が入ったから切るぞ」
「うん、じゃあまた会おう」
「ホントにすまない。またな」
渚は電話を切り、笑いながら涙を流した。
「立派な男か・・敦ったらいつの間に大きくなったのだろう」
今まで彼女は敦が成長してゆく姿を嬉しそうに見守っていた反面、いつかこの場所を突き止められて影島が彼を殺しに来るのではないかと怯えていた。
「いいかげん強くならなきゃ・・」
しかし、エライザの一言で彼の成長を確信した渚は改めてある決心をした。