始まりと、終わりと、出会い
「最強」。それは皆が一度は手に入れたいと思ったことがあるであろう人の夢の中の夢。俺TUEEEE小説とか最強の主人公は皆にモテ、常に悪者に勝つことが出来る。特に厳しい努力も無しにそこまで強くなるのは変だ。
あるマンガでワ〇パ〇マンという主人公最強を超えた作品がある。
そんな作品の最強を越してしまった俺の最強は、もう、間違っていると思う。
俺の名前は西城恭也(十六)。略すと、西恭でサイキョウ。実にくだらない名前だ。
俺には家族がいない。殺された。
俺が赤ん坊の時に父と母は死んだ。だから顔も写真でしか見たことがない。
殺した犯人はもう分かっている。
犯人は──
────俺だ。
父と母の遺体は残っておらず、血塗れの部屋に赤ん坊一人。当時は結構騒がれるくらいの大事件だった。
俺が犯人だってどうして知っているかというと、生まれた時からの記憶が全て残っているから。
一度見たもの聞いたもの、耳に入ったものは全て記憶する。もはや異能。
この異能はどうしてなのか解剖しようとした科学者が数え切れないほど出てきた。
すべて断ったが無理やり連れていかれたことが三回あった。が、全て俺にメスが入らず折れてしまい、科学者の心も折れて全て破棄になった。
そんな俺は今、大草原にいる。
目の前には犬の耳を頭部に乗せている女二人。執事の格好をしたなかなかのイケメンが一人。
「えっと、ここ何処なの?」
「ジャパ〇パーク」
バシッ。
俺の質問に茶髪の犬耳を乗せた女性がそう言った。が、執事の格好の男に突っ込まれる。
強くねえか?
「で?何処なのここは?」
「申し訳ない。彼女アレでして。ゴホンッ。失礼。ここは地球です。といっても、人間は入る事の出来ない次元が歪んだ空間の中にある世界で──」
「短めでお願いします」
俺の質問に答えた執事は答えようとしてくれたが長くなりそうなので止めた。
「なるべく短く、簡単に言ってくれ」
「異世界だよっ!」
「そうなりますね」
「そうなるわよね」
俺の質問に銀髪の犬耳を乗っけている少女が言うと、執事と茶色の犬耳がそう言った。
「異世界なんて物理学上存在しない!」
「あるんだからしょうがないじゃない」
「そうですね」
「そうだよね」
俺が大きめの声を出すと茶色の犬耳が理不尽なことを言い、それに執事と銀色の犬耳も頷いた。
何なんだよ。何でこうなったぁぁああああ!!
四月の初め、俺は晩飯を作るのが面倒だったのでカップ麺を買いにコンビニに行ったのだが、あら不思議財布がないではありませんか。
幸い、財布はコンビニのすぐ近くに落ちていた。
しかし、俺が財布を取ろうとしたその時、犬が横から推定時速120キロ並のスピードで俺の財布を取り走り去っていた。
まあ俺の運動神経は人間を通り越しているので楽勝に犬に追いついたのだが、なかなか速い犬で俺が走り出した時にはもう五キロ程度差があった。
しかし〇・一六秒で追いついた俺は取り戻そうと犬を掴んだ。
そしたら明るく眩しい光が俺たち(俺と犬)を覆い目を開けるとそこは大草原だった。
すると犬はいなくなり、代わりに茶髪で頭に犬耳を付けたやばい女がいて、その数秒後に執事と銀髪の犬耳を付けたやばい女が現れた。
「──という訳だ」
「何のことでしょうか?」
「あっいや、何でもない。こっちの話だ」
おっと、つい回想に入ってしまった。執事はツッコミ役確定か…。
「あのさ、一つ、一つだけでいいから教えてくれ」
そう言うと、三人ともあっさり聞く耳を向けてくれた。
「はあ。何のために俺をここへ連れてきたんだ?」
「貴方はこっちに居るべきなのです」
「あんたはこっちにいるべきなのよ」
「君はここにいなきゃいけないんだよ」
俺の質問に三人が同時に答えた。
俺は聖徳太子か。まあ、聞き取れたんだがな。
「どういう事なんだ!なんで俺が?」
「先程も言いましたが、ここへ人間は来れません」
「は?…てことはお前ら…」
執事と茶色の犬耳と銀色の犬耳から強い風が出てきて俺の目を閉じさせられた。
「っ!?」
目を開けると、そこには俺の財布を奪った、茶色い柴犬と銀色の毛並みで青い瞳の狼、そして…羊。
頭の悪くない俺は、何となく分かってきた。ここへは動物種の人間?もしくは人間以外の者が入れる。そして俺の目の前にいるのは、犬と狼と羊。つまりさっきの茶色の犬耳と銀色の犬耳と執事だろう。羊の執事って…。
「?」
ちょっと待てよ?じゃあ俺は人間じゃないのか?
「じゃ、じゃあ俺って…」
「んーとね。君は鬼さんだよ」
異様に明るい狼は俺を鬼といった。
おいおい俺は意外と優しいほうだと思うんだけど…。
「わからないの?普通の人間がそんなにパラメータ高いわけないじゃない」
「気づいてたっちゃきづいてたけど」
犬が言う通り、俺は異能過ぎるパラメータを生まれながらに持っている。例えば、握力、腕力、脚力、体力、頭脳、記憶力や怪力ETCを持っている。
「でもなんで鬼?どこが鬼?」
「…これを見ればすぐに分かります」
俺の質問に執事はそう言い、鏡に俺の顔を移すように見せてきた。
────── 。数秒の沈黙。
「んだこれぇはぁぁあああ!」
「角だよっ」
「角です」
「角よ」
三人同時に言う。
そう、鏡には俺の額に一本角が生えているではありませんか。
「あれぇぇえええ!?」
こんなのあったっけぇええ???
「驚いた?こっちの世界に来ると皆本当の姿になっちゃうんだよ」
「でもお前らさっき人の姿だったじゃないか」
「えっとね、さっきの人の姿の方がホントの姿なんだよ」
「じゃあ、なんで今その姿になれてる?」
「こつを掴めば簡単だよ」
「俺の今の状態は鬼なの?人なの?」
「んー。」
狼は少し首を斜め下に向けて考える素振りを見せた。
数秒後、狼は顔を上げ、
「出来損ないの鬼かな」
彼女は狼なのに輝くほどの笑みを浮かべた。
「出来損ない…」
「貴方が本当の姿をする時はなかなか無いでしょう」
少し落ち込んだ俺を慰めてくれたのは羊である。
「それは…つまりどういう事だ?」
「貴方が本気を出せば誰にも止められないということです」
俺の本気…。
今まで本気で怒った事、切れた事など全くない俺。ていうか、相手が居なかったんだが。
「ていう事はここでも俺は──」
「異能者になるわね」
異能者なのか?と言おうとした時に犬が言った。
少し落ち込んだ。ここなら俺も普通になれる。そう思った。だけど俺は異能者、鬼。異常なステータスを持っている。本気を出したら誰にも止められない。…。
「貴方をここへ連れてきてもらったのには貴方をこの世界に軟禁するためでもあるのです」
「…軟禁?」
「まあ、本州位の広さはありますし、街や娯楽施設などほぼ地上と変わらないので不自由なく暮らせると思いますが」
そう羊は言っているが、つまり俺は今後一切地上に帰ることができないということか。
別に心残りとか全然ないけど、
「もう永遠に帰れないのか?俺は」
「あんたが力を制御できるようになれば行き来は可能になるでしょうね」
「制御…」
「そう。まずは紙コップを握ることぐらい出来ないといけないわよね」
「っ!コップくらい握れる!」
「そうかしら?この世界では今、あんたは鬼化している。だから制御出来ないとおもうわよ?」
犬と喋っていると羊が、
「あっ。私紙コップ持ってますよ?良かったらこれ」
羊は執事に戻り紙コップに水を注いで俺に渡した。
「なんで持ってんだよ」
「こんなこともあろうかと」
「通用するか──ッ!?」
俺が紙コップを持った瞬間、紙コップが勢い良く潰れた。
「ほら、言ったじゃない」
「こんなじゃ生活できないですね。どうしたものでしょうか」
執事が言っていることは正しい。犬はウザイ。
しばらく考えていると執事が、
「私達の家に来られますか?歓迎しますが。家ならあなたのような人でも普通に生活できると思いますが」
「いいのか?…私たち?」
「もちろんいいですよ。歓迎いたします。私達は三人で暮らしているのです」
「な、何よ!なんか文句あんの?」
「いや別に」
少し犬と狼の方を向いただけなんだが。
「私は筆路秀輝。そしてこちらが──」
「大可美月だよっ」
「そんで私が乾…」
「い、乾?」
「カレ…」
「?」
声が小さ過ぎて聞き取れなかった。さっきとは全然勢いが違うな…。
「か、可憐っ!ふんっ!笑えば? 別にいいし!」
「何なんだよいきなり。怖ぇよ」
「だって可憐って名前私に全然合わないし…」
「そんなことねえよ。俺の名前に比べたら…」
そう。俺の名前は西城恭也略してサイキョウ。これがコンプレックスだったりする。
しかし、皆は狼だから大可美月だったり、羊だから筆路秀だとか、犬だから乾だっりするのになぜ俺だけ「鬼」の要素が全くない西の城の恭也でサイキョウ、全く「鬼」の要素がないんだ?…まあ、どうでもいいか。
「あのさ、どこに家あんの?」
ここは大草原であって、周りには草と黄色い花みたいなのしかない。
「家は三、四十キロ程度北に言ったところに半径5キロメートルの敷地内に八百畳位のお屋敷があります」
「遠いし!広いし!デカいし!」
ちょっと自慢入ってねーか?
「まあ、お金の方は結構ありますから」
うぜえ。この執事うぜえ。
どうやってお金稼いでいるんだろうか。
「まあいいや。どうやって行くの?」
「歩いてもしくは走ってですかね」
「…マジ?」
「マジです」
三、四十キロも走るの?
「では、競走しましょう」
「は?」
道わかんねえし!
「じゃあうちが合図するねー。位置について、よーい」
いや待てって!てか、自分のことうちって言うんだな狼。
狼の位置についての合図とともに強い光を出し人の姿になる犬と狼。
「どんっ!」
一気に走り出す犬と狼と羊。
俺は少し遅れたが余裕で追いついた。
それにしてもこいつら速いな。俺が5割くらい出すのは久しぶりだよ。
無言で走り続けた。
「もうそろそろです」
「あぁ。あれか」
目の前には巨大な屋敷がある。
いつの間に敷地内に入っていたんだろうか。
「この辺からは歩いていきましょう」
「おう。──」
違和感。すごい違和感を感じる。さっきまで元気のよかった乾や大可も喋らない。それが原因か?
「どうぞ上がってください」
そう言い筆路は扉を開けた。
「お邪魔します」
呟いて入ると
バタンっ!
いきなり扉が行き良いよく閉まった。廊下らしきところも真っ暗で先が見えない。
「おーい!どうなってんだぁ!」
叫びながらつうを進む。ゆっくり。恐る恐る。
「──っ!?」
急に煙たくなったと思うと、まっすぐ立てないくらいに目が揺らぐ。
睡眠薬か。
意識が朦朧とする中足音。
コツコツコツコツ。
「悪く思うな」小さくそう聞こえた。
「だ…れ…」
ゴッ!!
廊下に鳴り響く強い打撃の音。
────────。
「──……とにいいの…」
──何か聞こえる。女声。聞き覚えのある声。
乾だ。
「本当によろしいのですね?先生」
──せん、せい…?
「早くしろ。こいつが起きる前に」
筆路の声。
何か…される…。
「やりますよ…」
大可の声。
プスッ
針が俺の腕に刺さる。まだ意識はある。
薬が体内に入ってくる。
「上手くいきますかね」
「必ずいくさ。こいつの力は異常だ。俺たちの夢も叶えられるかもしれんぞ」
「何年かかるでしょう」
「意外と早く済むかもしれん。こいつの体力ならクローンだって」
乾と筆路の会話が聞き取れなくなった。
クローン…。一体、何の事なん…だ……。
また意識が崩れていく。
────。
「ん…」
あれ…一体俺は…。
戻ってくる意識が俺を俺と認識した。瞼の外が明るい。昼間なのだろうか。
ゆっくりまぶたを開ける。
「…っ!?」
俺の目の前には、今まで大草原であった場所が、灰色に。いや、灰になっている光景が飛び込んできた。
「やっと目が覚めましたか」
聞き覚えのある声。
「出来れば起きて欲しくありませんでしたけど、おはようございます。私は大可美那泉。大可美月の妹でございます」
俺の知っている大可美月とは程遠く、礼儀正しく、かつ冷静な女の子、いや女性と言った方がいいだろう。
てか今、起きて欲しくないとか言った?
「えっと、たしか俺は屋敷で殴られて…」
「待ってください。全てお話しますので、奴らをどうにかしましょう」
「奴ら…?」
周りを見渡す。
ついさっきまで大草原であって、今は灰の世界となっている。
「ッ!?」
そこには二百人位の人々と、人間とは言い難い杖や変わった剣を持った異人、以上に背が高い巨人や、ケンタウロスなど、人とは程遠いものまでいる軍勢、約六百人が戦をしている。
「戦争…になってるのか?」
「まあ、そんな感じです。はい、これを持ってください」
そう言って大可美那泉が俺に渡したのは、黒く、重く、俺の足から腰までの長さ。そして刺がある。
「か…金棒?」
「はい。金棒です。それであの戦を止めてください。私も助けますから」
「いやいやいや!いろいろツッコみたいんだが!?」
「はいはい。よくお似合いですよ」
なんかうざいな…。
「時間がありません。急いでくださ」
「そんな事言われても俺は──ふぇ?」
突然、美那泉が俺の腕を掴む。
結構強いな…。
「行きますよ!」
「えっ?ちょ、まっ…」
美那泉は俺を戦場へと投げ飛ばした。
ドスン!
地面に強く頭を打つ。
それにしても凄い腕力だな。
「なっなんだぁ!お前はァ!」
「奴らの仲間かぁ!」
戦場の戦士たちの矛先が俺に向く。
「えっ、いや違う」
そんな俺の言葉を無視して両戦士が俺にかかってくる。
「え、えーと。こうかな?」
俺のパワーで殴ったら確実に相手は死んでしまう。そう判断した俺は金棒を地面に叩き付けることにした。
激しい音と共に、地面が半径十メートルほどの半球状にへこむ。
俺こんなに強かったっけ?
その反動で半分近くの戦士たちが足場を失い、崩れ落ちていく。
戦場の戦士全員の手が止まり、ざわつき始める。
「な、なんなんだよこいつ…」
「あ…ありえねぇよ」
「勝てっこないよ」
やがて主将らしき者が
「引けェ!」
片方の戦士たちは引き下がって行った。
「臆するな!かかれぇ!!」
一斉に弓を放つ。雨のように降る槍、さすがの俺にも何十本のやりが刺さる。かなり血が出ている。
「私に任せてください」
「え…」
大可美那泉が弓士に向かって走っていった。太刀を握り華麗に舞う。
次々と兵士たちが倒れていく。血が桜のようだった。
しかし彼女は、楽しそうでも悲しそうでも、罪深くも思っていない。彼女は、無心で人を切っている。
「止めた方がいいのかな」
無表情で人を切り倒していく美那泉が見ていられなく、そろそやめておけと止めに入りたいのだが、体が自由に効かない。
華麗に舞う美那泉の敵も残り僅か、もう止めても遅いと思い、見ているだけになっている俺の腹に突起が見える。明らかに太い刃物だ。野太刀かな。
痛みが走る。が致命的までは行かない。しかし、俺は意識が遠のく。
「あ、あれ…目が霞んで…」
────。
「ん…」
俺は、たしか戦場に居て、刃物が腹に刺さって意識を失った…のか。
しかし腹部を触っても何処にも傷すら痛みもない状態だ。何があったのか。
「やっと目覚めましたか。ずっと寝てれば良かったのに」
「…今酷いこと言ったよね」
「約束…」
「へ?」
「戦が終わったらあなたの状況などその他もろもろ話すと言いました」
「あぁ。それね」
体を起こす。そこにはさっき美那泉が殺った戦士達が転がっているのではなく、奴らの血だけが残っている。
「えっと死体は?」
「吹き飛びました。あと蒸発もしました」
「え?あんたがしたのか?」
「いいえ、あなたですよ」
「俺が?」
やばい。全く記憶にない。
「そういえば、傷も癒えてるな。治療してくれたのか?」
体のあちこちを触りながら俺は言った。
「いいえ。なにも。自己回復でしょうね」
「自己…回復?ちょっと待て。俺の自己回復能力高すぎないか?俺が知ってる俺でもあの傷は一日はかかるぞ」
「鬼化してましたから」
太刀に付いた血を拭き取りながら美那泉は俺の質問に答えた。
「鬼化…」
「はい。それはもう、人を殺すのが楽しいご様子でしたよ。」
少し空を見ながら思い出すように語った。
「鬼化すると能力があがると聞いたが…あれ?」
この話、俺は誰から聞いたんだ?
「…あなたは、世界を一つ破壊しました」
美那泉は俺が言葉を発しないことを確認したかのように話を切り出す。
「世界と言ってもこことは時空の違う歪んだ場所。いわばパラレルワールドと言った所でしょうか」
「世界を…破壊?」
「そうです。私の姉、大可美月と乾可憐は、筆路秀輝さんの下で鬼、つまりあなたの研究をしていました。」
「なんか思い出してきた気がする。たしかクローンがなんとかって」
「はい。彼らはあなたには存在価値があると判断していて、クローンを解剖しようと考えていたのです」
「それはつまり…俺には危害を加えるつもりは無かったと?」
「そうです。しかしあなたに鎮静剤を打った瞬間にあなたは暴走しました。ほんの数秒です。数秒で時空を超えたこっちにまで影響が来たってわけです。」
「…」
ついていけない。
俺は鬼であって普段は人。鬼化すると能力が異常に上昇し、制御出来なくなる。意識も飛ぶ。そして世界を、乾たちと出会った異時空間を破壊した。そして目の前の戦士達を一瞬で吹き飛ばして蒸発させた。
つまりは、俺は危険な存在ってことか…。
「つか、大可美那泉。お前は狼なのか?」
「フェンリルですが」
……。
神獣かよぉ!
短編小説でいこうと思ってたけど、多分相当長くなりそうなので、連載に持ち込みました。
今後ともよろしくお願いします。