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ディストラクション  壊 滅  作者: 赤と黒のピエロ
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第2章 「科学警察研究所」

 赤い液体は科学警察研究所によって生物であることが判明した。しかしとてつもない増殖能力によって浜松町の街が飲み込まれてしまった。

 政府はこの生物を飲み込まれてしまった街から排除するために自衛隊に出動要請を出した、その殲滅作戦の追行のために配備を急がせていた。


 第2章「科学警察研究所」



 1 原因究明



 亜兼と吉岡を乗せた車は柏インターを降りて、国道16号に入っていった。数分で科学警察研究所に到着しました。

 車を駐車場に入れると、亜兼は直ぐに会社に戻るつもりでいた。

「宗ちゃん、じゃー、またいつかな」

 吉岡も笑顔で「ありがとう、久しぶりに楽しかったよ」

「嘘つけ、そうとう恐がっていたよな、ビルを飛び越えるとき顔が引きつっていたぞ」亜兼はひにくった。

「そんなことは無いよ」二人は大笑いをした。

 そこへ、古木補佐が車に近寄って来て、窓越しに「ご苦労さん」と声を掛けた。

 吉岡は慌てて車外に出ると、亜兼も車を降りて、古木補佐に挨拶(あいさつ)をした。

 頭を下げて「初めまして、亜兼と言います。」と自己紹介をすると、吉岡が付け加えた「私の小中学校の同級生で今は東京青北新聞の報道記者をやっています。」と告げた。

 古木補佐は新聞記者と聞いて敬遠しようと思った、しかし事実確認のほうを優先させることにした。

「ほー、新聞社に報道部がか珍しいな、映像メディアが頭なのかな、私は副所長補佐の古木と言う、亜兼くんと言ったかな、吉岡を送ってくれてありがとう、それで申し訳ないが少し話を聞かせてもらいたいがいいかな」

 亜兼は怪訝(けげん)そうに返事をした。

「はい」

 吉岡は亜兼を気づかって「しかし、ずぶ濡れのままですから」と口をはさむと、古木補佐は間髪(かんぱつ)を入れず吉岡を見るなり「シャワーに案内してやりなさい、吉岡、服も用意してやりなさい」と言うと、古木は亜兼に念を押すように目を見た。そして建物の中に戻って行ってしまった。

 亜兼も早く会社に戻りたいと思っていたため、ちょっと困った表情をした。

 吉岡は亜兼の気持ちを察して「兼ちゃん、忙しいところ悪いな」と気遣(きづか)った。

 ともかく亜兼も早く済ませて社に戻ろうと思った。しかし亜兼にとって、古木補佐との出会いがその後の亜兼の展開を大きく左右するとは、今は知る(よし)も無かった。

「じゃー、行こう、案内するよ」吉岡に案内されるままに亜兼は後について建物に入っていった。

 自動ドアが開き風除室(ふうじょしつ)を通り抜けてロビーに入ると、左側に受け付けがありました。

 吉岡は係員と何かを話して、カードを受け取って戻って来た。

「兼ちゃん、これ首から下げておいて、ビジター用のパスカードだよ」

 亜兼はカードに付いているストラップを首から下げると吉岡に案内されて三階へエレベーターで上がっていった。

 所長室のテレビではライブでひっきりなしに、浜松町周辺を映し出していた。

 赤い液体の広がって行くニュースで持ちきりになっていた。

 科警研の上条真太郎(かみじょうしんたろう)所長は、副所長や古木補佐に、赤い液体に関するデータを集めるよう指示をあたえていた。

 古木補佐は所長室のドアをノックして入っていった。浜松町から吉岡が例の赤い液体のサンプルを持ち帰った事を伝えると、所長は(うなず)いてほっとした様子でした。

「吉岡君、よくやりましたね、これで、あれの進行を阻止する手掛かりがつかめるかもしれませんね、至急分析に回すよう指示を頼みます。」

「はい、すでに生物第四研究室の古賀主任に頼みました。」と古木補佐はそのように指示をしたことを所長に伝えると、所長はテレビに映っている赤い液体を指差して「あれは生物なのですか?」とどういうことなのかと思った。

 古木補佐は吉岡の判断を信じて生物第四研究室の古賀主任に分析をたのんだのでした。

「所長、おそらくそのようです。」

「解りました。」所長はテレビのチャンネルをいくつか替えてみたが、他のチャンネルもやはり同じ内容のニュースを実況で浜松町の状況を映し出していた。

 スカイテレビのチャンネルにしたときでした、鮮明ではなかったが信じられない映像が映し出されていた。

 女子アナがその映像の説明をしていた。

「この映像はスカイテレビの報道記者が撮影をしたものです、第一京浜の地下に作られておりました地下調整池の現在の状況の映像です。今浜松町を飲み込みました赤い液体がその地下の調整池をあふれんばかりに存在していた事を示す証拠の写真です。この液体は増殖をしているとの事です。今はこの調整池も飽和状態になっていると思われるそうです。今後どのような状況になるのか想像も付きません」

 古木補佐も上条所長もその映像を見ていて言葉を失った。

 こんなところにこれほど大量に存在していたとは、あの液体は一体何なのですか、上条所長も驚いていた。

「ここまで大量に存在するとは驚きですね、これ以上の増殖はとめなくてはなりません、一つの街が飲み込まれるだけではすまなくなるかも知れませんよ、一体どんな生物なのか、何処から流れ込んだのか解明を急ぐ必要がありますね、古木君」

 古木補佐も神妙な表情でうなずいていた。

「はい」

 夕方七時のニュースでニュースキャスターによると「午後六時半の時点で赤い液体は、第一京浜と三田線のほぼ中間地点まで広がって来ています。」と伝えていた。 

 警視庁も総出で、赤い液体の広がった周辺を遠巻きにして、監視をしている状況でした。

 またあるキャスターが紹介した内容のなかに、ささやかな住民の抵抗と題して、ほうきで掃いて、チリトリですくってドブに捨てている姿や、シャベルですくっては桶に入れている映像も紹介していました。しかし上条所長はどうなのかな、危険ではないのかと思っていた。                     

 吉岡は亜兼を三階のシャワー室に案内すると、着替えを用意してやった。

「兼ちゃん忙しいところ悪いな、じゃあこれ、所の作業着だけどこれ着て、汚れた衣服はすぐにクリーニングしてもらうから」

「ありがとう」亜兼は返事をした。

 吉岡自身も早々と着替えを済ませると、古木補佐の自室に向かった。

「コンコン」ドアをノックした。

 古木補佐の声がした。「吉岡か、入ってくれ」

 髪の毛もまだ乾いていないままの吉岡は古木補佐に今日一日の出来事を事細(ことこま)かに報告をした。

 古木は吉岡に亜兼君を生物第四研究室のミーティングコーナーに案内して来るように伝えた。 

 亜兼はすでにシャワーも浴び、衣類の着替えも済ませた、吉岡に案内されて生物第四研究室につれて来られた。

「忙しいところ申し訳ない、じゃあ、さっそく始めよう、いいかな亜兼君」と古木補佐は亜兼をミーティングコーナーに招いて、早く済ませてあげようと思った。


「はい」亜兼は返事をすると椅子に着いた。

 古木補佐は吉岡主任から聞いた今日一日の内容をかいつまんで話すと、亜兼に質問をした。「亜兼君、赤い液体について君の感じたことを話してもらえるかな」

 亜兼は今日の出来事を回想するように思い返していた。確かに吉岡の経過の内容についてはそのとうりだと思った。

「はい、今日の流れとしては、その通りだと思います。ただ、あれだけの量のあの液体がどこからなぜ出現したのかまるで理解できません、あの気持ち悪い真っ赤な情景は地獄絵図のようでした。」古木は頷いた、赤い不気味な情景をテレビの映像で見たとき、やはり古木も同じように感じたことを思い出した。

 赤い液体が浜松町で広がっていく状況はとてつもない速さであった。マンホールが次々に赤い液体を吹きあげて、調整池を満々と()たしていた赤い液体を目にしたときの驚愕(きょうがく)が今一度亜兼の脳裏に思い起こされた。

「古木補佐、とにかくあんな驚異的な増殖能力を持つ生物がいったいこの世の中に存在するのですか?」

 古木補佐は首を横に振った。「あんな生物は私も聞いたことがないな、なんだかの生物の突然変異なのか、今まで確認できなかった新種の生物なのかまるで分からないな、古賀主任の分析をまつしかないだろう」

 しかし亜兼は調整池を数時間で満杯にするほどの増殖能力のある生物が浜松町以外に現れていないのか気になった、そして古木補佐に尋ねた。

「古木補佐、(うかが)いたいのですが」

「なんだね」

「はい、あの生物ですが浜松町以外に発生したという報告はないのですか」

「うーん、そうだな、いまのところまだ報告は受けていないようだ」古木補佐は頷いた。

 そして古木補佐は亜兼の考えを察するように答えた。「確かに、これだけの増殖能力があるのだから別の場所で発生していたのなら今頃ニュースになっていることだろう、けれど現状何も出現の確認がないところを見ると、他からの出現は考えにくいようだな、もしマンホールの中をどこからか流れてきたのであるのならその上流かまたはそのマンホールに沿って赤い液体が発生していてもいいはずだが、警視庁もマンホールを上流まで調査したようだがあの液体の痕跡(こんせき)は確認できなかったようだ、どういう訳か突然浜松町だけに現れているのも不可解な話しだ、徹底して出所は追及する必要があるだろう」

 亜兼もうなずくが何故浜松町だけにあの赤い液体が出現したのか考えていた。

 なぜだろう、なぜ浜松町だけに、そこだけに起きた何か特別な出来事と言うことだろうか?

 何が考えられるのか亜兼は浜松町付近で起きたことを思い(かい)していた。

 特には思いつかなかった。

 まあ、しいて大きい出来事と言えば浜松町ではないが、その上部の首都高速道路でトラックの爆発が起きている、浜松町に現れた赤い液体と関係はあるのかどうなのだろうと考えてみた、浜松町でも東京消防庁の重機が爆発をしている、浜崎橋ジャンクションで起きたトラックの爆発時の状況と浜松町での消防庁の重機の爆発の状況を考えてみた、そして亜兼は両方の事故の調書を思い介してみた。

 消防署員が刑事に話していた調書内容と 警視庁が発表したトラック事故の調書内容を思い出した。似ていると言えば、二つの事故で爆発が起こる前に確か耳障りの悪い音が鳴り出して車体が小刻みに震えだしたとかそして眩い光が発光して爆発していることが共通しているけどこれって偶然なのか、こういうことは爆発時にはよくあることなのか、珍しい事ではないとしたらこの二つの事故は関係ないということになるけどどうなのだろうと亜兼は首をかしげた。      

 そして亜兼は古木補佐に尋ねた。

「古木補佐、赤い液体を東京消防庁が処理に来たときのことですが、赤い液体を署員がかき集めてバキュームカーで吸い込んでいるときのことです。バキュームカーが突然爆発を起こしました。」

「うん、そのことは聞いている、東京消防庁もその時は騒然となったようだ、原因はまだ分からないようだ。」と古木補佐は頷いた。

 亜兼は話を続けた。「私が気になりましたのはその爆発の仕方です、消防庁の重機が突然耐え難い高音を響かせたのです、そして小刻みに振るえ出しました、かと思うといきなり重機が(まばゆ)いばかりの白い光に包まれましたそしてそのまま爆発を起こしたのです。」

 古木補佐は情景を思い起こすように頷いた。「そのようだな」と言うとそのことがこの青年はどう気になったのかと思った。

 亜兼は続けた。「前日に上部の高速道路上で事故がありましたが、その事故で輸送トラックが突然原因不明の爆発を起こしていますね」

 古木補佐はまた頷いて「浜崎橋JKの事故だね、うちの所員も行っていたが」

「そうですか、そのトラックの爆発の原因はいまだに不明なのですか」亜兼は古木補佐を見た。

 古木補佐は少し首をかしげると「確かに、我々も分析を依頼されているが、依然として分析は進んでいない、原因は不明のようだ」

 亜兼は疑問点を話した。「ただ、輸送トラックの運転手の調書を読みました、それによりますと、爆発の直前にトラックが耐え難いほどの高音が鳴り響いてきて、小刻みに震え出し直ぐに眩いばかりの白い光にトラックが包まれたとありました、そして直後に爆発を起こしたと」

 古木補佐は亜兼の言葉を()いていて、消防庁の重機と輸送トラックの両者の爆発に共通の状況があり、亜兼君はなんだかのつながりを感じたということなのだろうと思った。

「その現象から二つの爆発事故の原因が同じではないのかと君は思うのかね」と古木補佐は亜兼を見た。

「直感です。ビルの屋上から見ていたとき第一京浜で車が何台も赤い液体に突っ込んで行き爆発したときも、またビルが爆発した時も同じように白い光に包まれる現象が起きていました。私は爆発の状況について詳しくはありません、教えてください、このような現象はよくあることなのでしょうか?」亜兼は逆に古木補佐に質問をした。

「そうだね、ガソリン燃料による内燃機関の事故の場合だと構造が複雑なため故障の場所によっては高音は出るだろう、また小刻みな振動も起こることは珍しくはないだろう、しかし白い光に車体が包まれるというのはどのような現象なのか判断しにくいな、ガソリンが爆発してもその光は白では無くオレンジ色か赤っぽいはずだ、白い光がどのような現象で発光したのか、爆発したトラックと消防庁の重機を詳しく調べてみないと分からないな、しかし亜兼君の言うように赤い液体が関係している爆発の白光現象は赤い液体の何かが関係している確率が高いのかもしれない、吉岡はどう思う」と古木は吉岡を見た。

「はい、浜崎橋ジャンクション上でのトラックの爆発事故の状況が同じだったのかどうなのかは分かりませんが、私も第一京浜で赤い液体に突っ込んで行った車が爆発した状況やビルの爆発も思い返すと消防庁の重機の爆発に状況が似ていたように思います。確かに白い発光現象が起きていました。」

 古木補佐は「そうか」と言うと頷いた。

「私は浜崎橋ジャンクションの事故現場をこの目で見ました。輸送トラックが粉々に吹き飛んでいて、まるで東京消防庁の重機の爆発の状況と似ていると思いました。これらの爆発はやはり何か同じような条件が原因のように感じます。」亜兼は再び感じたことを古木補佐に話した。

 古木補佐は亜兼の話を聞き終わると「同じ原因か」と言うと難しい顔をしていた。

「だが亜兼君、赤い液体の現れたのは浜松町駅周辺だが、トラックの爆発はその上部の高速道路上だね、それだとそこから浜松町の赤い液体が現れたところまでの間にも赤い液体の痕跡(こんせき)が残りそうな気もするがどうだろう、実際にはそのあたりはクリーンすぎる気もするが、しかも赤い液体の発生はトラックの事故よりまる一日たってのことだが、あの増殖能力を考えるとトラックの爆発事故から浜松町での発生までに時間がかかりすぎる気もするがそのあたりはどうだろう、警視庁の発表を見るかぎりではトラックの爆発は人為的というよりも、偶発的にガソリンの揮発したガスが貨物室に充満して何だかの発火による事故の見方に固まりつつあるようだが、とにかくトラックと消防庁の重機の爆発はまだ原因不明のため共通の原因の有無を決めつけるのも無理があると思うが、ただトラックの爆発のときに白い光に車体が包まれたという現象は気になるね、君もその点が引っかかるのかね」古木は亜兼を見た。

「はい、でもはっきりしたことは分かりません、ただ直感だけです、トラックの爆発も赤い液体の発生もかかわりがあるのではないのかと感じるだけです。」と亜兼は首を横に振った。

 やはり感だけでは何の説得力もないと亜兼は感じた、それじゃあ原因は何なんだ。あそこまで粉々にトラックを大爆発させるものと言えばどう考えてもそうとう強力な爆弾をイメージしてしまう、しかしそんなものを安易に運んでいたとは考えられない、そういえば積荷は土木器具と小包数個のはずだったよな、土木器具は関係ないだろう小包も片手で持てる程度のものだと運転手は言っていたようだが、警視庁は小包の内容はつかんでいるのかな、いったい何だったんだろう、一連の事故と関係はないのだろうか?と亜兼は小包の中身が何だったのか気になりだした。

「古木補佐、事故を起こしたトラックの積荷は何だったのか警視庁では確認はしているのでしょうか」と亜兼は尋ねた。

「もちろん、積み荷についても検証はしていたようだ、それは爆発との関連からで爆発物ではないのかと調べが進められていたようだが、しかし爆発現場の残留物から爆発物質が検出されなかったため、特定の爆発物では無いと判断したようだ、しかも15センチ足らずの大きさの小包ではあそこまでの爆発は無理だろうと判断したのか特に爆発物とは関係無いものと考えられたのだろう、小包についてはそれ以上調査は打ち切りとなったらしい」

 亜兼は分からなくなった、小包は関係ないのだろうか?

 古木は思った、確かに捜査員は長年の経験と感に依るところも多い、どのくらいの規模の爆発だったらどのくらいの爆発物が必要なのかを経験で割り出すだろう、あれだけの規模の爆発を起こすのに小包の大きさでは無理だと判断したのだろう、古木もそのような判断を尊重するところはあった。おそらく警視庁の誰もがトラックの小さな小包と膨大に吹き出した浜松町の赤い液体とを結びつけて考えるほど創造性豊かな捜査員も一人もいないのだろうと思った。 しかし亜兼の直感を否定するつもりもなかった。直感は往々にして原因究明には欠かせないものだと古木も感じていたからだ、たとえ素人でも、子供であっても何故そう感じたのか、そこを大切に思っていた。

「ところで古木補佐、浜松町の地下に何か科学物質のパイプラインは存在していませんでしたか?」吉岡は古木補佐に聞いてみた。

「いや、そのようなものは存在していない、インフラに関するものだけのようだ」古木は首を横に振った。

 逆に古木補佐は吉岡に確認をした。「吉岡は現場で見ていてその赤い液体の発生をどう感じた。」

 吉岡は少し考えると「当初は何かのパイプラインが破れたものだと思っていました。でもそうでは無いとなるとやはりマンホールの上流から流れてきたのではないのかとも考えましたがそれは警視庁が調べたのでしたよね、うー、でしたら浜松町だけにしか発生していないと言うことになるとどういうことなのか分かりません」

  吉岡がまた思いついたように話し出した。「ビルの屋上で赤い液体がまさか生物だと分かったときでした、その赤い液体が分裂を始めたのです、時間を計ると二十七分程でした、まるで大腸菌の分裂のスピードに似ています、かなり早いです。驚きでした、こいつは生物なのかと、この生物が本当にそれだけの能力があるのでしたら半日程で調整池を埋め尽くすのも納得ができますが、本当だったのかいまだに信じられません」

 亜兼はその話しを聞いていてただ単に牛乳瓶(ぎゅうにゅうびん)一本分だったらどうなっちぁうのかなと興味本位に思った。そして吉岡に聞いてみた。「宗ちゃんちょっと聞いてもいいかな」

「えー、何なの」吉岡は何だろうと思った。

「その未確認の生物だけどさ、もしだよ牛乳瓶一本分の量からスタートして半日でどのくらいの量になるのかな?」亜兼はどうなるのだろうと思った。

「牛乳瓶一本分の量か、二五〇ミリリットルとして」吉岡はハンディータイプの計算機を持ち出すと計算を始めた。「えーと倍で六万二千五〇〇か、三回の分裂で三千九百〇六万二千五〇〇ミリリットルか、三回倍にしただけですでに二五〇ミリリットルの一五万六千二百五〇倍になっちゃったのかよ、うわ、数値が大きすぎてこの計算機ではもう計算できなくなっちゃったよ」吉岡はだめだと言わんばかりの顔をしていた。

 すると古木補佐がため息をついて「おそらく調整池ほどの量になるのに半日もあれば達するかも知れないな」と首を横に振った。

 吉岡はそれを聞いて亜兼を(かん)ぐった。「それってつまり小包ほどの大きさがあればあの赤い液体の状況は十分に納得のいくものだということになるけど、兼ちゃんもそう思ったんだろう」と亜兼が爆発したトラックの積荷に赤い液体の発生源が小包ではないのかと亜兼が思っているのではないのかと吉岡は感じた。

「はー」亜兼は何言ってんだと首をかしげた。ただ牛乳瓶一本分の量でどうなるか興味があっただけだったのに、けれどもそう言われてみると、小包の大きさで浜松町の赤い液体の状況になる可能性があるのか、これはどうなんだと疑問が()いてきたを、一体小包の中身は何なんだろうと、ふと思った。

 でも小包の他に積荷で疑わしいものは無かったかと思った。

 そしてどうなのだろうと小包から目を離して別の物を探すように頭の中で調書を読み返していたけれど小包以外の内容で不明なものは思い当たらなかった。

「宗ちゃん、その小包の中身を調べることはできないかな」

「まさか兼ちゃん、その爆発したトラックの積荷に赤い液体が入っていたと思っていないよね、だいいちどうやって、冷凍状態で増殖を抑えていたとか、トラックの爆発が消防庁の重機の爆発と同じだとするとトラックの貨物室は赤い液体が発生していたと考えるべきになるが、爆発後の残留物質に赤い液体の痕跡(こんせき)は確認されていなかったし、それっておかしくないか」と吉岡は矛盾をまくしたてた。

「宗ちゃん、お前考えすぎだよ、俺はただ小包の中身が気になっただけだぞ」

 亜兼は吉岡の飛躍した考えにあっけにとられた。しかしなんだかんだ言っても宗ちゃんも小包は気になっているのかと思った。それを聞いていた古木補佐も呆れていた。確かに警察も当初は積み荷もトラックの爆発の原因に考慮に入れて調べていたようだからしかし、まさか小さな小包によって街が一日で赤い液体に飲み込まれるとは普通そこまで柔軟な考えを持てる捜査員もいないだろう、古木自身もそこまで柔軟ではない、また立場上因果関係の検証もなしに口にはできないと飛躍した考えは控えた。

 亜兼は赤い液体に得体の分からない能力のようなものを感じていた。赤い液体を一日中観察したうえで、またビジネスホテルの下で追い詰められたとき明らかに自分たちを認識していると感じた、奴らに何だかの意思のようなものがあるのではないのか、また一連の車や重機の爆発も赤い液体の何かの作用で起きたのだろうと、調整池にあれだけ大量に存在する意味は何なのか疑問は尽きなかった。

 やはり亜兼は気になった、ジャンクション上で爆発したトラックと消防庁の重機の爆発の状況が似ていることだった、何故似ているのだろう、原因の共通点は何だろう、と共通点を考えていた、そしてもう一つ気になることはやはり中身が何だったのか分からない小包だ、今は粉々に吹き飛んで行方は分からない、もしかすると爆発で赤い液体の現れたあたりまで飛ばされたのか、ありえないことではないと感じた。その小包の中身が何なのか確かめられればたとえ関係が無いのであったとしても一つ疑問が解消される、次を考えればいいことだ、そして気になりだすと積荷の小包が何であったのか、とにかく知りたかった。

 亜兼は古木補佐に小包のことを調べてもらえないかと思った。しかし一方的に情報をもらうのも亜兼にはフェアではないと感じた。けれど自分の持っているものと言えば、この事件に関する資料ぐらいだった、これを交換に提供するかと思った。それに亜兼の資料が科警研で検証をしてもらい赤い液体の何かを解明できるのならそのことのほうが意味があると思った。

「古木補佐、赤い液体が湧き出し始めてから調整池に至るまで写真を撮ってありす、科警研で分析をしてもらえますか」

 亜兼の申し出に古木は驚いた、記者にとってそれらの画像はかけがいのないもののはず。

「え、でもいいのか、スクープになるようなものもあるのではないのか」しかし実際は古木補佐も見たいと思った。

「いいんです、赤い液体の分析の手掛かりになるのでしたらそのことのほうが重要です。」亜兼はカメラからメモリカードを取り出すと「プリントアウトできますよね」と尋ねた。

「もちろん」古木補佐は笑った、そしてそれを受け取ると所員を呼び「至急頼む」と言って手渡した。

 そして亜兼は何か言いたそうに古木の顔を見た。

 古木も亜兼の顔を見た。「うむ」古木は亜兼の考えを察した、やはり彼はトラックの積み荷にこだわっているようだな。

「何かね?」古木補佐は亜兼に尋ねた。

「実は・・・・」と言うものの、古木補佐は関係ないと思っている積荷の小包について調べてくれとは亜兼には言い出しにくかった、そして言いあぐねていた。

 古木は「ふー」とため息をつくと亜兼を見た。

「分かった、積荷を調べればいいのか」

「えー、」亜兼は驚いた。「なぜ分かったんですか?」

 古木は「ははは」と笑うと「君を見ていると誰だって分かるぞ、顔がそう言っている」

 亜兼は頭をかいて「そうですか」と恐縮した。







  2 未確認生物



 

 古木補佐は亜兼のために小包の内容を調べることにした。

「じゃあやってみるか、どうせ警視庁もそのあたりのことはすでにつかんでいるだろうから、はたしてどこまで調べているのか同僚に聞いてあげよう、その間、質問はちょっと中断しよう、亜兼君、コーヒーでも飲んで、休んでいてくれないか」

「はい、ありがとうございます。できましたら、パソコンを借してもらえませんか、仕事をしたいので」

「そうか」と古木補佐は、ちょっと離れている所で、所員と打ち合わせをしている吉岡に向かって叫んだ。

「吉岡、亜兼君におまえのパソコン貸してやってくれ」

「はい」吉岡がすぐにパソコンを持ってやって来た。

「じゃ、頼むよ」と言うと、古木補佐はその場を離れた。

 吉岡が亜兼にパソコンを渡すと「どうするの?」と聞いた。

「仕事だよ、これラン使えるの?」

「ああ、無線だから何処でも」

「ありがとう」亜兼はバッグからUSBメモリーをとりだすとパソコンに差し込んでワードを開き、キーを叩きだした。

 生物第四研究室では、古賀主任を中心に吉岡の持ち帰った赤い液体のサンプルの分析が進められていた。吉岡が隣で観察しながら「生物は俺の専門じゃないからな、古賀主任にお任せだな」と告げた。

 顕微鏡を覗き込みながら「なるほど」と古賀は頷いて、吉岡が言っていた通りだと思った。

「確かに、生物ですね、それも単細胞生物の集合体では無く、何かそれぞれに働きがありそうですね、多細胞のもののような気がするな」

「多細胞ですか、それだけ赤いということは酸素を取り込んでいますよね、でしたら動物のものと言うことのようですかね、でもこの細胞を培養したらどうなるんだろう?」と言いながらも吉岡はにらんだとおりだと言わんばかりに、腕組をした。

 古賀はため息をついた、そして顕微鏡を覗き込んだ。

「この光学顕微鏡では200ナノメートルまでしか見ることができませんので細かいところは無理ですね、おお、分裂が始まったようです、うむ、ずいぶん分裂の度合いが早いですね、一つの細胞の分裂の始まりから完了まで五秒たらず、これはかなりの生命力だな、細胞内の小器官のたんぱく質の働きを調べる必要がありますね、それには超解像度顕微鏡のPALM顕微鏡で調べてみましょう、140ナノメートルまでなら見ることができますから何とかDNAを見ることができるでしょう、もちろん蛍光色素で発光させなければなりませんが」と古賀主任は準備を始めた。そしてPALM顕微鏡にセットをしなおした。

 顕微鏡のピントを合わせていった

 しかしこの顕微鏡は蛍光色素で光る部分をサーチしながら画像を組み立てていく構造のため画面が組み上がるまで時間がかかるのでした、古賀はじれったかった。

 古賀はモニターを見ながら説明を始めた。「これが四種類の塩基とデオキシリボース、リン酸の化合物だよ、よく見えるね鎖状(くさりじょう)の構成物になっている、これが染色体だね、2本のDNA分子間で相補的(そうほてき)塩基対(えんきつい)を形成して二重らせん構造を確かに作っているね、つまり、その相補的構造が自己の複製を作っているんだが、まあ、ここまでは普通に知られている生物の細胞分裂なんだよな、ここまではうちの機材でも十分確認できるよ、けれど問題はこの未確認生物の分裂が何故異常に早いのかだ、PALM顕微鏡でもそこのところまでは確認することは難しいですね、四塩基(よんえんき)各々(おのおの)の分子構成に何か黒い粒のような物が付いていますがこれは何だろう?

 おそらくですが細胞のゲノムが自然なのか人工的になのか元のものからかなり変異が起きていると思はれますね。

 それに自己の複製のスピードが何故なのかとても早い原因ですが、見たところこの黒っぽい粒のような物質の存在のほかにはなんら変わったところはあるようには思いませんが、塩基配列の中にあるこの黒い粒にどうも答えがあるように思えるな、染色体をもっと拡大して調べたいが、しかしそこまでは拡大することはこのPALM顕微鏡でも無理のようですね、限界です、そこを分析するには、もっと性能の高い電子顕微鏡でないとだめですね、かといって電子顕微鏡では光源が強すぎますから、細胞を壊してしまうことになってしまうでしょう、つまりこれ以上そこを見ることはできませんね」古賀は椅子の背もたれに体を(あず)けると、ため息を付いて腕組みをした。

 吉岡もがっかりした。そして同じようにその黒い粒については気になった。

「古賀主任、その黒い粒ですが何だと思いますか?」

「そうだね自然にこうなったとしたら突然変異でしょう、そうでないとすると人為的に編集されたことになるけど、そうなるとこの細胞のどこまでが人工的なのか、染色体を拡大してDNAを見る必要がありますね」古賀は難しい顔をした。

 吉岡は驚いた。「そんな、人工的なんて、そんなことあるんですか」

「確かに今のゲノム技術ではそんな異物のようなものを細胞内に埋め込むことは無理でしょう、とにかくうちの機材ではここまでです。」と古賀は首を横に振った。

 直ぐに戻って来た古木補佐はそれを聞いた。「そうか、何とか確認する方法はないのか・・・適した機材を探してみよう」と言ってくれた。

 古賀主任が顕微鏡から目を外し、吉岡と古木補佐の方に顔を向けた。

「この、サンプルですが動物の物と言ってもかなり哺乳類に類似しているようです、ゲノムの解析をする必要性がありますね」古賀主任はまた、深刻な顔をして大きくため息をつくとゆっくり言った。

「しかも、人間の細胞によく似ているようです。」

「えー、なんだと」古木補佐と吉岡は思考が停止するほど驚いた。

「どういうことだ。」古木補佐が詰問するように(せま)った。

 古賀主任は考え込んで、両手を顔に持っていき、何度か顔を(こす)ると思慮深(しりょぶか)い顔で「細胞内の構造、またDNAの核の中の染色体の種類や数、それに、染色体の塩基配列また構造が人間の物と極めて似ていると思われます、ゲノム解析を行う必要性があります。それに、塩基配列の中にある黒い粒ですが、どのような働きをしているのか?通常、あらゆる細胞内にはこのような黒い粒の存在は確認された例について、聞いたことがありません、これが異物のような物質であるのなら、細胞内のオートファジー効果によってオートファゴソームの幕状の袋に包まれて分解されるはずです、そうでないのであるのならこの細胞は人間のものに似てはいますが、まるで別物と言うことになりますね」

「別物、それは、どんなものなんだ」と、また古木補佐が尋ねた。

 古賀主任はまた首を横に振って「分かりません、うちの機材ではそこまでは確認できません」と言って古木補佐を見据(みす)えた。

 古木はため息をつくと考え込んでしまい「分った、やはり速急に何とかしよう、田所教授に解析を依頼したいがまだこいつの脅威がはっきりしない以上は教授に迷惑はかけられない、ある程度解明できるまではうちでやるぞ」と言った。

 その時、工専大の江川教授から何か装置が届いたと所員が古木補佐の所へ指示を求めて来た。古木補佐は納品書を見ると「真空(しんくう)無重力(むじゅうりょく)粉砕(ふんさい)装置(そうち)か、吉岡の科学第四研究室に運んで、使えるようにしておいてもらおうか」と指示をした。

 所員は「解りました。」とその装置を運んでいった。

 入れ替わりに、別の所員が古木補佐に亜兼のメモリーカードのプリントアウトが出来上がったことを伝えてきた。

「ちょっと、持ってきてくれるかな」と所員に言って、古木補佐は周りを見回して亜兼を探した。パソコンに向かってしきりにキーを叩いている亜兼を見つけると「亜兼君、どうかな」と合流できるか(うなが)した。

「はい、すぐ終わります。」カチャ、カチャ、カチャ、亜兼は最後のキーを叩き終えた。文章を読み返して「これで、良いか」と、頷いた。

 所員が持って来た亜兼の写真を、古木補佐は確認していた。「なるほど」

 古木補佐は気を取り直して古賀主任達を見て頷くと「とにかく分析の継続をしてくれ」と言うと、吉岡と共にミーティングコーナーに戻っていった。

 そこえ、亜兼も加わってきた。「お待たせしました。」

「あーいや、もう用事は済んだのかな、じゃー、はじめようか」とミーティングコーナーのテーブルに着くと、古木補佐はテーブルの上に持っていた書類を置いた。

「写真が出来上がったので、まずチェックしていいかな」と古木補佐はテーブルの上の写真の中から一枚を探し出した。「これかな」と亜兼に差し出した。

 それを見ると亜兼は頷いた。「そうです、この写真が最初に撮ったものです、時間を見てください朝七時十七分となっています。宗ちゃんと調整池で飽和状態の赤い液体を見る約九時間前です。」

 古木補佐はその写真を手にとって見ていた。「なるほど、約二十回前後の分裂をする前の状態ということだな、おそらくこのときはまだ調整池にはたどり着いていないということだろう、次の写真はこれかな、赤い液体が地上にあふれ出している、おそらくマンホールの中でこの液体が飽和状態となり、地上にあふれ出たと言うことなのだろう」

 亜兼は自分の考えを話した。「写真の時間を追って見ていきますと噴出(ふきだ)している位置が移動しているように思いませんか、初めはこの写真のこのあたりにあったものが、時間を追って写真を見てください、調整池に向かって噴出しているところが一直線に移動しています。赤い液体を噴出す量も新しく開いた陥没した穴ほど激しく噴出しています、これって赤い液体を噴出している何かがあるような気がしませんか、それがやがて調整池にたどり着いたと」

 古木補佐は亜兼の説明を聞きながら時間を追って写真を見ていった。確かに新しく開いた穴ほど噴出し方が激しい、だが亜兼の言う噴出している元があると言うのはどうなのかと思った。「なるほど、この写真を見る限りでは陥没の状況と時間から、おそらく昼ごろには赤い液体は調整池に流れ込んで行ったと考えられるな、となるとこいつら五~六時間で調整池を満杯にしたことになるな、どうなんだそんな短時間で調整池を満杯にできるのか、やはり大腸菌と同じような分裂能力があるとするならありうるのかもしれないと言うことか、それはまずいな東京全土がこの赤い液体に覆われてしまう可能性もあると考えられるな、だが大腸菌と同じと考えるのならどこかで分裂は止まるはずだろう、何故なら壊れる細胞も大量に出るはずだ、どうなのだろう、ところで亜兼君、君の話を聞いているとあの液体を噴出しているその元が何かあるように話しているが、そう考える(ふし)が何かあるのかね」

「いえ、実際のところはよく分かりません、ただそういうものが存在したほうが噴出しているところが移動しているように感じたので理解しやすいと思えたからです。私はトラックの爆発事故の記事をリポートするために爆発で吹き飛んだ残骸の位置も調べました、浜崎橋ジャンクションの下の赤い液体が現れた位置のあたりも残骸が吹き飛んだ範囲のようです、昨日の午後、あのあたりには赤い液体の痕跡は何もありませんでしたが、しかしトラックから吹き飛んだ積荷の一部もあのあたりに落下していた物を警視庁でも回収していました。まだ他にもトラックの積荷が飛び散ったとも考えられます。それがもしかしたらということも考えられます。古木補佐、運送会社のトラックの積荷の方はいかがですか」

 亜兼は気になっている積荷のことを解決して早くスッキリしたいと思って古木補佐に尋ねた。

「ちょっとまって亜兼君」そこまで積荷が気になるのかと古木補佐は思った。

 古木補佐はテーブルの上の書類の中から一枚の資料を取り出した。

「そうそう、これだ、まああまり大した内容でもなかったな」

 亜兼は渡された資料に目を通すと、運送予定が書いてあった。六月十七日月曜日午前七時、東京フェリー東ターミナル発、搬送品土木用掘削機材5台、小包十個、小包の重量が記載されていた、ほとんどが300グラム前後でした、土木用掘削機材って何かを掘り返すためなのか、この機材は今回の事件とは関係はないだろう、小包も300グラムの軽さでは爆発物とは思えない、警察が爆発物から排除したのもうなずける、けれど一体中身はなんなんだ赤い液体と関係はないのか、亜兼はどうなのだろうと思った。 それで何処に持っていくつもりだったのだ、亜兼は搬送先の欄を見た、15400・・世田谷区・・・マハーベーダンタ救世会世田谷支部研修道場と書いてある項目に目が止まった。ここに搬送するつもりだったのか、しかし新興宗教で掘削機を何に使うのだろう、とにかくトラックは東京フェリー東ターミナルからレインボーブリッジを通り、浜崎橋ジャンクションに入って来た、そして爆発した、積み荷は掘削機と小包みだけなにか、解らないな、やはり中身の分からない小包みは何を搬送していたのかはっきりさせなければ、気になって次を追う気にはなれない気がした。

 古木補佐は亜兼を見るとどうなのだろう何か分かったのかと思った。「どう、何か解ったかね?」と尋ねた。

 亜兼は資料を見ながら「はい、気になるものがはっきりしてきました。しかし古木補佐、よくこんな運送予定表、見つかりましたね」

「まあ、警視庁もある程度は積荷についても当然調べているはずだからね、同僚に頼んで出してもらった。それで気になるものとは」

「はい、積荷は土木機材と小包が数個でした。土木機材は関係が無いでしょうし、小包も爆発とは関係ないのかもしれませんが、中身が何であったのかはやはり気になります。その送り先は世田谷区の新興宗教の道場でありますした、この新興宗教に聞いて積荷が何であったのか確かめることはむりでしょうか」当然亜兼はこの新興宗教が(あや)しいと思った。

「どうだろう」古木補佐は難しいと思った。トラックの爆発事故は新興宗教ではなくむしろ運送会社の車の整備の問題だろうから、新興宗教はむしろ被害者になるだろう、赤い液体についても新興宗教とのつながりの証拠はなにも無いのにむやみに任意と言う訳にも行かないだろう、当然、新興宗教でも(かか)わりはないと言って来るに違いないだろう。

「まあ、新興宗教のような組織にあの生物を扱えるとは思えない、また、おそらく新興宗教も赤い液体とは関係ないと言ってくるだろう」

 亜兼はその小包の送り主の欄を見た。室瀬(むろせ)正一(しょういち)住所が北海道恵庭市(えにわし)・・・・少し考え込むと、おそらくこれも偽名なのだろうと感じた。この人物から追うのは時間の無駄だと思った。

「でしたら古木補佐、この時間に東京フェリー東ターミナルに入った貨客船が何処から来たのか追えませんか、出来ましたら、その先も」古木補佐は亜兼の顔を見た、その顔が本気のように思えた、古木補佐は亜兼がどこまでやる気なのかむしろ興味を持った。そして亜兼が望むものは一通り手配してやろうと考えた。

「たぶん出来るだろう。ちょっと待っててくれ」古木補佐はその場を離れた。

 吉岡が(そば)で見ていて「何を追っかけているの?」と尋ねてきた。

「あー、ちょっとね」亜兼は、トラックの爆発、赤い液体の出現、消防庁の重機の爆発、いろいろな現象を思うとき、これらの原因を考える中でやはりどうしても小包みの中身が何だったのか、頭の中に引っかかっていた。亜兼の上司の青木キャップの口癖に、たとえ小さなことであっても気になったらとことん追え、その言葉を亜兼は今までも忠実に守って行動してきた。

 吉岡は資料の一部を手にとって見ながら「赤いやつが現れた原因がなんだったのか、見つかりそうなの?」と亜兼に聞いた。だが吉岡にはどう考えても小包を赤い液体の発生と結びつけるのは無理があるだろうと感じていた。

「果たしてどうだろうな、何が出てくるのか?」むろん亜兼にも分からなかった。それでもはっきりさせなければ納得がいかないと思っていた。

 亜兼はカチャカチャとまた、パソコンのキーボードを叩きはじめていた、浜松町で起きている奇怪な出来事の記事を青木キャップに送る準備をした。

「このパソコンでメールを送らせてもらうよ」と亜兼は吉岡に言うと、吉岡は「ああ」と頷いた。

 亜兼は青木キャップにスマートホンで連絡を入れた。

 青木キャップは電子タバコを吹かしながら、デスクで原稿をチェックしていた。

 青木キャップのスマートフォンの着メロが鳴り出した。

 原稿チェックの手を休めずに、スマートフォンを受信した。「おう亜兼か、ご苦労さん、今何処(いまどこ)だ?」と持っている原稿にそのまま目を通していた。

「はい、科警研です。」

「なに、科警研だと、冗談を言うなよ、何故そんなところにいるんだ、それより記事はどうした、まともな記事なんだろうな、早く送れよ」

 亜兼も記事が遅くなってしまったと思っていた、早くこの記事を送らなくてはと急いだ。「だいじょうぶです、とにかく、記事と写真をキャップのパソコンに送ります。」そして電話は切れた。亜兼はパソコンのエンターキーを押した。

 青木キャップのパソコンの受信トレイに亜兼から記事が送られてきた。

「お、来たな、どうだ記事のほうは」目を通してみるとキャップの顔色が変わっていった。「何、赤い液体が生物だと?それに分裂して増殖をしているだと」そしてメールアドレスを見た、すると「科学警察だと。それであいつ、このネタを(つか)むためにそんな所にいたのか、だけどそんなコネあいつにあったかな」と次に送られてきた写真を見るなり、その悲惨さに見入ってしまった。

「この赤いやつ、いったいどんな生物なんだ?」と青木キャップはモニターを覗き込み考え込んでしまった。

 とりあえず、亜兼の記事については安心した、イブニングニュースに使えるかと思った、青木キャップはうなずいた。


 亜兼は吉岡に色々質問をしていた。

「宗ちゃん、もしだよ、浜崎橋JKで爆発したトラックにつまれていた小包の中にだよ何かの変異細胞が輸送されていたとしてだよ、爆発のショックで光とか激しい音とかアルファー波やベーター波とかに反応して細胞が変なものに変化したとか、そういうのないかな」

 吉岡は頭をかきながら「そういった条件で突然変異ということだろう、それはないと思うよ」

「あーそう。何故」亜兼はたまにはそういう変化があってもいいんじゃないのかと思った。

「要するに、通常の細胞はああいったむき出しの状態で自然界に存在することじたいありえないからな、あの細胞自体が何だかの形で保護されているようだけど、それを一瞬の突然変異で何かの細胞が大量に増殖するあの赤い液体になることをやってのけるとしたら、人間が突然に馬や豚に変わるようなものだからな、超魔術の世界ではあるのだろうけど、生物学上ではありえないだろうな」

「なるほど、じゃー、あれはやっぱり未知の生物と言うことになるのかな、おまけに超細胞分裂かよ、これは不気味な話だぜ」と亜兼は顔を横に振った。

 吉岡はまだ検証も足りない段階で未知の生物とは決まった分けでもないだろう、そこまで不気味に思う必要も無いだろうと思った。

 しばらくして、古木補佐が戻って来た。「お待たせ、警視庁が手間取らせるから、とりあえず調べてもらった。」古木補佐は資料を広げながら説明をしだした。

「やはり、新興宗教の団体がかかわっていたようだな、その新興宗教の北海道の恵庭支部に室瀬なる人物が存在していたようだ運送会社の控えに記入されていた人物だろう、小包は北海道の苫小牧(とまこまい)からフェリーに積み込まれている、領収書の(ひか)えがフェリー会社に残っていた。また、そこまで運んだのも丸亞運輸になっているぞ」

 亜兼は運送会社と新興宗教の関係に疑問を感じた。

「その丸亞運輸は、新興宗教との関係はどうなんでしょうね?」

 古木補佐は続けた。「どうかな、だが丸亞運輸は事故の当事者の会社だからな、警視庁でも調べているだろう、ともかく、その先も調べてあるぞ。支笏湖(しこつこ)の向かいの山の中から何かを運んだらしいな」別の資料を見て「新興宗教のほうで調べたら、その山の中で遺跡の調査とかで、札幌警察署に発掘調査の届け出が半年前から出ているようだ。申請はマハーベーダンタ救世会となっている、住所はやはり世田谷区のようだ」

 亜兼はかなり興味を示した。「マハーベーダンタ救世会と言う新興宗教が遺跡か何かの発掘ですか、その場所はもっと詳しく解りますか?」

「ああ、届出書の写しも送ってもらったからな」

 すぐさま亜兼は身を乗り出して古木補佐に尋ねた。「その住所を教えてください」

 古木は亜兼を見た。「これだが、それでどうするの、まさか行くのか」と半分冗談で聞

 いた。

 亜兼はメモ帳を取りだして住所を写し出した。そして「はい」と迷いも無く即答した。

「ほー、吉岡に聞かせてあげたいね」古木補佐は亜兼の迷いの無い返答に感心した。

 吉岡が隣で「聞こえていますよ」と苦笑いをした。

「お、そこにいたのか」と古木補佐も笑った。

 亜兼はその書類を手に取ってメモした住所を確認した。「ありがとう御座います。」と古木に返した。古木補佐はもう一度確認するように聞いてみた。「本当に、行くのか?」

「はい」やはり迷いの無い同じ返事であった。

「それでいつ行くつもりなんだ?」古木補佐は、支笏湖の山の中に何か事件の手掛かりが有りそうだと感じるだけで亜兼がここまでよく行動が取れるものだと関心をした。そしてどうなのだろうと古木は思った、もしかしてこの青年の行動が何か手掛かりの発見につながらないとも限らないと、これまでも何かを感じるということが捜査の上で決め手になることを古木は何件もの事件の解明を経験してきたからだ。けれど古木も吉岡と同じように小包と赤い液体の関係は薄いのだろうと思っていた。

 それでも亜兼の熱意にはできるだけ協力をしてあげようと思った。何故か古木は答えを求めるよりも若者が突き進む先に何が見えるのか、また彼が何を感じるのか、そのことに興味を抱いたからで、突き進む若者は大いに後押しをしてみたいと感じた。

「はい、明日にでも」亜兼は即答した。

 古木補佐としては小包と赤い液体の関係は薄いことは伝えておく必要は感じていた。

「ただし亜兼君、小包と赤い液体の発生との関係は薄いと思うよ」

 亜兼は頷いた。「はい、いいんです、納得ができれば、自分の感が外れたということです。記事を書くにもすっきりして次を追うことができます。ですから」

 古木補佐はなるほどと納得したがそれにしても新興宗教のほうについては多少気になるものを感じていた、今回の事件とかかわりはないかもしれないが何かが出てくる可能性は感じられた。

「それなら支笏湖の駐在員に連絡をしておいてあげるから尋ねてごらん、忙しくなければ協力してくれるだろう」古木自身も遺跡と新興宗教の関係は何が出るのか確かめたいと感じた亜兼君一人に任せる訳にもいかないだろうと思った。

 亜兼は心強く思った。「ありがとう御座います。」

「代わりに、何か出たら教えてもらいたいな」古木補佐は笑顔を見せた。

「はい、解りました。」

 古木補佐からの質問が一段落すると、亜兼は着替えをすませると会社に戻って行った。

 古木補佐は確かに彼の推測はとっぴおしもないが行動の決断はまんざらでもないと思って、色々と手を打ってあげた。







 3   M618




 亜兼は社に戻って、青木キャップを口説いていた。

「今回の事件は、どうしても、そこに原因の意図口があると思います。」亜兼は力を込めてキャップを口説いた。

「しかし、おまえな、北海道までの経費は出ないぞ、許可はできんな」

 亜兼は直感で、必ず北海道の支笏湖の山の中の遺跡に浜松町で起きている手掛かりがあると確信していた。「自腹で行きます。とことんまで追え、はキャップの言葉でしょう」

「おまえ、都合のいい時だけ俺の言葉を使うな」

「そんな事はありません、私は全てキャップの言葉を胸に行動しています。」

「本当かよ、おまえ・・・、むうー、わかった、まあいいだろう、気をつけて行けよ」青木キャップはこいつ本気のようだと感じた。とにかくこの事件を追わせてみる事にした。

「はい、ありがとう御座います。」やったー。と亜兼は満面の笑顔を浮かべていた。


 その日のニュースで、結局赤い液体は浜松町の駅前や第一京浜を完全に埋め尽くして三田線まで広がって行き、暗くなると何故か赤い液体の活動が止まった事を伝えていた。

 しかし、軽率に近づいて何をしたのか感電したような症状で病院に運ばれた人が何人も出た、また、ビルに取り残されて逃げ遅れた人達の数がテレビで流されていた。その日一日で八十人以上の人が何だかの被害にあったことが伝えられていた、この液体による人間への影響などもまだ何も分かっていないことから警察も近づくこともできず、対処のしようも無かった。

 まだ詳しくは解明されていないため警視庁ではまだ公式にこの赤い液体が生物であることは発表されていなかった。

 浜松町の駅周辺から三田線にかけてまるで赤いじゅうたんを敷き詰めたように(おお)われていた。

 警視庁としても、被害者の数の多さに驚き、慌てて未確認物質の危険性を公表して、赤い液体による被害地域より半径五百メートルに避難勧告が出されました。

 この大量の謎の赤い液体をどう処理していいものか警察も手立てが見つからなかった。

 また、この液体の拡大のあまりの早さに手の施しようもなくわずか一日にもかかわらずここまで広がったことに、次の一日で何処まで広がるのか想像もつかなかった、手遅れになる前に警視庁は早々と決断をしたのでした。それは、警視庁にこの液体の拡大阻止の手段が見つからないことや、犠牲者をもうこれ以上出すわけには行かないことなどから警察庁に上申をしたのでした、つまり東京都知事に検討をしてもらうことでした。。

 それは東京都知事が自衛隊に災害派遣の出動要請を防衛大臣に提出するという事でした。

災害派遣とは(自衛隊法第83条)「都道府県知事、その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請する事ができる」とある。

 自衛隊出動に当たって、栗田防衛大臣から、自衛隊出動の趣旨の説明がテレビのニュース番組で流れていた。

 要するに国民の生命と財産が危機的状況に(おちい)った今、自衛隊が出動せずしてこれらを守りきることはできない、と言ったところでありました。

 その日の内に首相官邸に厚生労働大臣、防衛大臣、それに海外、また地方に飛んでいる閣僚以外は出席した。その他、官房長官、それと与党の幹事長等が召集されて、今後の対策を検討していた。

 泉田首相は栗田防衛大臣の顔を見るなり「戦後すでに九十七年にもなるが、一度も本土侵略の歴史の無い我が国の内閣でまさか未確認物質とは言え唯一侵略を許した総理にしないでほしいな、あと三年で百年と区切りが良い、何としても短期間で形を付けてくれ、頼むぞ、自衛隊も憲法改正により正式に国防軍となり、この市ヶ谷も前総理により新たに建て替えられたばかりだ、国の発展を(はば)むものは至急排除してくれ頼んだぞ。」

 自衛隊は改憲により憲法上承認され国防軍となりましたが近隣諸国への配慮から軍隊とは呼ばず自衛隊の呼び名をこの時期はまだ使っていた。

 防衛大臣も身を乗り出して、「任せて下さい、一日で処理してみせます。」と言い切ったのでした。

 さらに泉田首相は頷いて、厚生労働大臣の方に顔を向けた。

「ところで、坂田厚労大臣、あの未確認物質の分析の方はどうですか?」

「はい、今しがた報告を受けましたが、その分析によりますと、えーと、そのー、動物系の細胞によく似ていると報告をうけました、が」と厚労大臣は報告書に目を通していった。

「あの赤い液体が何かの細胞の集まりだと聞いているがその動物系とは、どういうことなのですか、アメーバーのようなものではないのですか?」泉田首相には想像もつかなかった。

 坂田厚労大臣は老眼鏡をかけると報告書類を小声で読み出した。そして首相に語りかけた。「まだ、完全に解明されたわけではないようですね、その理由はちょっと複雑でありまして、DNAの塩基配列は確かに動物と非常に酷似しているようです。」坂田厚労大臣はその報告書に目を通していくうちに顔色が変って行った。こんな内容をこの場で発表していいのか、周りを見ると、このメンバーではマスコミに流出しかねない、それは危険すぎる、額に汗がにじんできた。

「えーと、細胞内の四塩基の中に黒い粒のようなものがありまして、これがかなりの疑問点でありますね、拡大していきますと、この四種類の塩基各々(おのおの)の中にも存在しているようでして、この細胞を動物のものに似てはいますが、そう結論付けていいものか、分析を急いでおります。そこが分析できればあの生物が何であるのか明らかになると思われます。」

 泉田首相が尋ねた。「それはゲノム編集されたということか?」

 坂田厚労大臣は首をかしげるだけで「うー」と言うだけで答えられなかった。

 すると今度は栗田防衛大臣が厚労大臣に尋ねた。

「日本はそのゲノム編集技術は世界でも進んでいるほうなのですか」と言うと厚労大臣は首を横に振り「必ずしも進んでいるとは言えません」

 そこにいる閣僚達は考え込んで少し間があくとまた栗田防衛大臣が尋ねた。

「ではどこの国がその分野で先進国になるのですか?」

 すると坂田厚労大臣は少し考えて「そうですね、中国でしょう、中国の国家科学院などが世界の最先端にいると思われますね」と言うと、首相が「何」と言ったきり全員なにやら考え込んでしまった。

 坂田厚労大臣はまずいことを言ってしまったのかと思った。自分の言動で、皆はあの赤い生物が中国によるテロ行為ではないのかと考えているのではないのかと思ったからでした。

 慌てて「いやいやあの赤い液体がゲノム編集により作り出されたものと決まった訳ではありません」と額の汗をぬぐった。

 首相は厚労大臣が何を焦っているのか分からなかった。「それでその生物が動物に近いと言うのはどういうことなんだ大臣、何故そんな物が増殖して浜松町を飲み込まなければならないんだ・・・、それで、いつごろ詳しい結果が出そうですか?」首相はその生物の正体が何であるのか早く知りたかったのでした。

「それが、その・・・」分析は進められているものの、坂田厚労大臣はデーターを見て、そのまま発表していいものかまだ迷っていた。もし、この内容が報道機関に流れたら、それは大変なことになるだろうと想像も付かなかった。

「解った。じゃーあ、名前について検討をしよう」泉田首相が事を急ぐように言った。

 坂田厚労大臣は、資料に目を通しながら、もじもじして、あくまでデータに基づく説明だけなら問題はないのではと説明を始めた。「そのー、分析上のデーターなのですが、この未確認生物は、えーと」

 首相は頷いて、聞いていた。

 坂田厚労大臣は迷いながらもおどおどして大臣として何かを話さなければまずいだろうと思いつつ、つい分析データーのまま話を続けてしまった。

「今、申し上げたとおり動物の細胞に酷似(こくじ)していると言いましたが、その細胞の核とミトコンドリアを分析いたしました結果、核の中に二十四種類の染色体が存在しまして、その染色体は二十二対の常染色体と二本の(エックス)性染色体、つまり四十六本の染色体が存在していました、塩基配列は三十億個と・・・・」

 すると突然、首相が驚いた様子で厚労大臣の話を(さえぎ)り「どういうことだ、私にもそれくらいの知識はあるぞ、それは人間そのものじゃあないのか? どうなっているんだ」と興奮ぎみに信じられない顔をして首相が立ち上がった。

 厚労大臣は(あわ)てて続けた。「は、はい、明らかに人間を含め、高等生物の、ものであるようです。」

 首相が興奮ぎみに「何を言っているんだ、その分析だと、人間そのものじゃないのか?厚労大臣」

 驚いた各閣僚の目が坂田厚労大臣に注がれた。

 坂田厚労大臣の額にまたもや汗がにじんで来た。「えーと、そのー、まさにそのようでございます。」

 閣僚から怒号にも似た声が()れた。

「何故そんな細胞が()き出しの状態で培養液の中ではなく外界で増え続ける事ができるんだ」と官房長官が質問した。坂田厚労大臣が慌てて、まだ報告内容があります、と続けた。

「通常の塩基配列ではなく、四種類の塩基の他に、先ほども言いましたように、黒い粒の物質が存在して、染色体の中に(つら)なっています。塩基の一種だと考えるのが妥当(だとう)だと思われますが、そのせいか?細胞がある種の皮膜(ひまく)(おお)われているようでして。まるで細胞一つ一つが培養液の中にあるかのようでございます。」と話すと、全員腕組をして、(しばら)くの間、沈黙(ちんもく)が続いた。

 しばらくすると、首相が「ところでこの生物の名前はどうなっているんですか、坂田大臣?」

「はい、それがでして、インフルエンザのウィールスのように鑑別の系譜が確立されているものでしたら種別で分類もできるのですが、なにせ、この生物に関しましてはまだ謎が多すぎまして、ミッシングリンクの生物なのか、新種に当たるのか理解できていないためにですね、名前はまだ・・・」

 そうは言うものの、坂田厚労大臣はおどおどしながら、首相の目を気にして、発言をした。「しかしながら記号で表すとしましたら、人類に類似しているのであると言うことでしたら、Mということになると思いますが」

 また、沈黙の時間が流れて行った。首相が思いつめた表情で言葉を発した。

「仕方ない、どっちにしても名前は必要だ。分類がMなら、それでいこう、その生物が現れた日付が六月一八日だから、M618としよう」と首相は神妙な雰囲気の中、決定したのでした。

 その場に居合わせた閣僚も、全員頷いた。

 坂田厚労大臣は首相の顔色をうかがって「解りました。」と答えた。

 また、首相は官房長官に顔を寄せて何かをうながした。「官房長官、この生物の分析内容は暫くの間、報道機関には伏せておくようだろう、国民の不必要な動揺は避けなければならんからな、それと、防衛省内で早急にM618の殲滅(せんめつ)作戦を立てるよう、作戦検討部会を開いて検討させるようにしてくれたまえ、その生物を速やかに、処理できる方策を」

「解りました。」官房長官も、重い表情で答えた。

 即急に厚生労働省の生物研究室でM618の分析がさらに急がれた。時間の無さからか全てを解明することは難しかったようでした。

 翌日の朝のニュースでM618の名前が発表され、その脅威について改めて解説されていた。

 亜兼はその日の朝、北海道の支笏湖に向かって出発しました。羽田空港から飛行機で新千歳空港に向かって飛び立ったのでした。

 この日も、日が昇ると同時に、新しく名前の付けられたM618の赤い生物が猛威(をうい)をふるって増殖を繰り返してその深さを増していった。朝七時のテレビのニュースでも、その模様がライブで中継され、映像が各家庭のテレビで映し出されていた。

 南は港区、芝周辺、が飲み込まれ、田町の駅五百メートル付近にまで迫っていました。西は芝公園にさしかかっており、北は浜松町と新橋の境あたりまで飲み込まれていたのでした。

 すでに今日も、早くも被害者が出初めていた。

 M618は尚も勢力を広げていた、十センチ程であたりを飲み込んでいき半日ほどで、すでに深さは一メートルを超える程にまで()していた。

 ぶつぶつという音も、かなり大きく聞こえて来ていた。赤い海がグワッと動いた時、木造の家屋がバキバキと一気に粉々に吹き飛び、小さなビルは白い煙を上げてバリバリ崩れ落ちていったのでした。

 その頃、市ヶ谷の防衛省に対策室が設置され、朝霞(あさか)東部方面(とうぶほうめん)総監部(そうかんぶ)の指令によりまして、練馬の第一師団(しだん)を中心とする、M618に対する拡大阻止及び殲滅(せんめつ)作戦のための、防衛線の検討が行われていた。

 そして第一|師団が、現地、浜松町に向かって(すで)に出動を始めていました。





 4 監視カメラ




 科学警察研究所の上条所長は、朝のニュースであの未確認生物の赤い液体に政府として名前をつけたことを知りました。「M618ですか、どういう意味なのでしょうね」そしてそのM618が広がる様子をニュースの映像で見ていた。

 東京タワーが今日か明日にも飲み込まれてしまうのではないのかと感じた。そして古木補佐を呼んで打ち合わせをしていた。「古木君、東京タワーは明日にもM618に飲み込まれる気配だが、警視庁から依頼されていた、ソーラーセンサー付きの無線誘導カメラを、至急東京タワーに設置する必要がありそうだが」

「はい、ずいぶんM618の展開が早いですね、解りました。」古木補佐はすぐに準備を始めた。吉岡のいる、科学第四研究室に向かった。

 科学第四研究室の後藤室長を呼んだ。

「後藤室長、申し訳ないがまた吉岡を貸してくれないか」

 温和な後藤室長は笑顔で「いいですよ、いつものことですから、使ってください」

「申し訳ない」古木は吉岡を探した。

「吉岡、吉岡はいるか」

「はい、何ですか」吉岡が奥から出てきた。

「おう、吉岡、至急東京タワーに例のものを設置しに行ってもらいたい」

「解りました。」

 吉岡もカメラの設置については、説明を受けていたため直ちに行動に移しました。

 古木補佐は警視庁の方面本部を通して赤羽警察署管内の東京タワーにソーラーセンサー付き無線誘導カメラの設置に付いて、赤羽署の協力を求めた。本庁の仕事となれば断る理由もなく、所轄の警ら課から、担当を付けてもらえる事になりました。

 速急に取り付けを急ぐこととなり、方面本部より、霞ヶ関の本部屋上のヘリポートを使用する許可が出たのでした。科警研の準備は既にできており、古木補佐は吉岡に説明済みであった。

 この監視カメラについては警視庁の未確認生物拡大阻止対策本部よりの依頼によりまして、M618の拡大の状況を監視するために東京タワーに設置することになったものでした。

「吉岡、本部のヘリポート使用の許可が下りた。赤羽署から警ら課の係長が迎えに来る手はずになっている、案内してもらえ」

「解りました。」

「じゃー、気をつけて、頼んだぞ」古木は吉岡の目を見た。 

「行ってきます。」吉岡は笑顔を見せた。

 科警研の屋上から、吉岡と二人の(とび)職人を乗せて、ヘリコプターは飛び立って行った。

 自衛隊は既に浜松町の現場に到着して、配置に着く準備を始めていた。

 環状三号線の赤羽橋付近では、特に芝公園や日比谷通りにかけて自衛隊のジープが頻繁(ひんぱん)に行き来をはじめていた。 

 芝公園の東京タワーのそばには陸上自衛隊の指揮通信車両が止まっていた。

 東部方面隊 第一師団の司令部は本来練馬区に所在する練馬駐屯地であります、しかし今回の作戦本部は港区区長との連携もあり首相の意向から内閣府からの要望で市ヶ谷の防衛省内に置かれることになりました。その作戦本部内の迅速性が優先されて師団司令部も仮に省内に移される事となりました。

 そして実質、市ヶ谷に置かれた作戦本部から作戦指令は出されることとなりました。

 赤羽橋から御成門(おなりもん)方向に掛けて、第一次防衛線が引かれ、自衛隊の配備が始まった。


 まもなく、霞ヶ関の警察庁本部庁舎の屋上にあるヘリポートに吉岡達は到着するところでありました。

 警視庁、赤羽警察署、警ら課、係長の今野が(すで)に迎えに出向いていました。

 吉岡がヘリから降りると、笑顔で寄ってくる四十代前後の警視庁の制服を着た男性が帽子を押えながら言葉をかけて来ました。「ご苦労様です。科警研の吉岡主任ですね」


 吉岡も笑顔で「迎えに来ていただきましてありがとう御座います、科警研の吉岡です、お世話になります。」

「私は、赤羽署の今野と言います、では早速(さっそく)行きましょうか」

「はい」吉岡も早く済ませたいと思っていた。

 一行は警視庁を出て、パトカーで東京タワーに向かった。東京タワーに近づくにつれて、道すがら迷彩服(めいさいふく)に装備品を装着した。自衛隊の隊員だらけになっていった。

 此処の辺り一帯、半径1キロメートルの範囲の住民はすでに退去命令が出されていて、一般人はほとんど移転していました。

 数台の偵察警戒車両を目にすると、さすがに、かなり物々しい感じを受けました。

 徐々に、天空に突き刺さるようにそびえ立つ東京タワーに到着しました。

 さすがに東京タワーを真下から見上げると、四隅の湾曲した力強い支柱に支えられ、まさに天空に伸びていく姿は、ただ馬鹿でかい感じがしていた。

 今野係長は、警備にあたっている自衛隊の責任者となにやら話し会っていた。

 吉岡は周りの状況を確認していた。自衛隊の隊員の配置が急いで行われている様子で慌ただしく移動する隊列の姿が今にも戦闘が始まりそうでずいぶんと物々しい感じが威圧的に肌に感じられた。

 今野係長が戻ってきた。

「すいません、陸自の通信隊も何かやっているようでして、やっと上に上がる許可が()りました。」

「ありがとう御座います。」吉岡は頭をさげた。

「じゃあ、行きましょう」今野係長が案内をするように先にエレベーターの入り口に向かった。

 やっと、吉岡達も東京タワーに昇る事となりました。中央にあるエレベーターに機材を運び込もうとしたら、やはり、陸自の隊員もエレベーターに乗り込んできて(あわ)ただしく何かの作業を東京タワーの上層階で行っているようでした。吉岡達も後に続き機材を運び込んだ。

 吉岡達は二百五十メートルの高さにある特別展望台を目指して昇って行った。エレベーターが動き出した、窓ガラスの外の地上の建物や車が小さくなって行き、しだいに遠くの景色が目に飛び込んできました。

 東京湾、浜離宮、晴海、お台場また都内の高層ビル群、高速道路と、視界が広がっていった。その景色の中の一部に、生理的に受け入れがたい不気味な赤い液体に(おお)われた部分が景色を(むしば)むように広がっていた。

 眼下(がんか)のM618に飲み込まれた赤い部分だ。不気味さが異様に際立っていた。数日で東京の一部がここまで飲み込まれてしまったかと思うと、今後何処まで広がって行くのか、未来への不安感さえ起こさせる光景でもありました。

 駅前のビル群の間を碁盤の目のように走る道路が、真っ赤に染め抜かれていて、そのビルがまるで墓場に立つ墓石を創造させていた。ビルの屋上も真っ赤に染まっていた、屋上のM618が(あふ)れてこぼれ落ちて外壁を伝わって下に流れ落ちていた。正にビル全体が真っ赤に染まっていた。吉岡は寒気を感じて眺めていた。その光景は他の三人も同じように不気味に感じていた。

 途中、地上百五十メートルにある大展望台でエレベーターを乗り換えるとき、自衛隊員が色々機材を広げて組み立てていた、その脇を通り抜け、今度は地上二百五十メートルにある特別展望台へ向かうエレベーターに乗り替えた。

 今野係長がその不気味なM618の様子を眺めながら「吉岡主任、あの赤い液体は生物だとか言われていますが、一体何ですかね?」

 吉岡は右手で(あご)をさすって今野係長なら同業だしいいかなと思った。「分析がまだ完全ではありませんが、哺乳類の細胞によく似ているそうですよ」と言うと今野係長は「えー」と叫んだ。二人の鳶職人も驚いていた。

 今野係長はすかさず聞き返しました。「それはどういう事ですか、人間も含めてと言うことですか?」

 吉岡もそこまでは言わなかった。「まだ分析を行っている最中なので。すべてが解った訳ではありません」

 そうこうしている()に、特別展望台にエレベーターは到着した。扉が開いて、特別展望台の内部が目に飛び込んできました。

 そこはまるで、宇宙船の内部を思わせるような内装をしていた。

「やー、すごいですね、この内装は、カガミの部屋ですね」と吉岡は感心した。

 早速、機材を梱包から出して、カメラを取り付ける準備を始めた。

「じゃー。四隅の支柱に取り付けていくことにしましょう」と言うと、吉岡は鳶職人に指示をした。鳶職人は手際よく、機材を組み立てていった。

 非常扉を開けると、ちゅうちょもせず、安全帯を手頃な鉄骨に引っ掛けると、ひょいひょいひょいと、身軽に機材を持って鉄骨の上を渡っていった。それを見ていた今野係長が「大したものですね。二百五十メートルの高さで恐くないのですかね?」

「そうですね、アメリカでは鳶職のことをスパイダーマンと呼ばれているそうですよね」とは言うものの、責任上、高所恐怖症の吉岡の内心はどきどきしていた。

 そんな思いをよそに、今野は笑顔で「格好いいですね」と悠長(ゆうちょう)に言っていた。

 思わず、吉岡は「気をつけてください」と叫んだ。

 鳶職人が手でOKサインをしてきた。取り付けは、ワンタッチで鉄骨のウエッブプレートにボルトを締め付けて落下防止のワイヤーを巻き付けるだけという、割と簡単に取り付けることが出来るものでした。

 そして1台目がセット出来ました。

 鳶職人がこちらを向いて叫んでいた。

「一台目、了解です。」吉岡はその様子を確認すると、パソコンを開いて映像テストの準備を始めた。

 今野係長が感心した表情で、「パソコンで、見ることが出来るのですか」と質問してきた。

「はい」吉岡は準備を進めながら答えていた。

「カメラの電源はどうなっているんですか?」

「ソーラーパネルですから、太陽光です。壊れなければ永久に使えます。」

 パソコンを起動した。

 また今野係長が感心して「綺麗に映りますね」と覗き込「はい。カメラはデジタルの一千七〇〇万画素ですから、倍率は工学十倍、デジタルズーム十倍で百倍までズームができます。」

「距離は、どのくらい電波は飛ぶのですか?」今野は覗き込みながら、色々質問してきたのでした。

「おそらく見通し線が良ければ十キロ程度でしょう」

「その程度で大丈夫なのですか」今野はその距離で利用できるのかどうなのだろうと思った。

「そうですね、警視庁かまたはケーブルテレビの会社で受信された電波を増幅して、インターネットで配信される手はずになっています。」

「と言うことは一般の家庭でもインターネットで、見る事が出来るのですか?」今野は信じられなかった今までにそういうことはありえなかった。ただ赤い液体の広がりがあまりに早いため行政も対応が難しため地域ごとに対応ができるようにしたのだろう、今野は感心した。

「はい、民放、報道局、各市町村また各家庭でも活用できます、広く情報を開示して、避難などに役立てるためだと思います。しかし、ズームと、カメラアングルは警視庁の情報通信局からの信号で操作されます。」

 そうこうしているうちに鳶職人が戻ってきた。

「取り付け、終リました。」

「ご苦労様でした。」

 吉岡はカメラを順にモニターでチェックしていった。「画像はOKですね。発電もOK,ズームも良しと。アングル調整もOKです。」

 そして「今野係長、信号を受信ができるか、警視庁に確認をしてもらえますか」と吉岡は今野係長に依頼した。

「解りました。」と頷いて、今野は携帯電話で警視庁に連絡を入れた。

 吉岡も科警研の古木補佐に完了の報告をした。

「ご苦労様、警視庁の確認が済んだら、こちらもブロードバンドでモニターをチェックするぞ、それまで待機していてくれ」古木補佐は警視庁からの連絡を待ことにした。

 警視庁の情報通信局は、東京タワーのソーラーセンサー付き無線誘導カメラから送られてきた周波数を(とら)えると、モニターに映像を映し出していた。

 各ケーブルテレビ局でもこの信号をキャッチしていたが、これらの局は東京タワーを介して配信されていたため、M618に東京タワーが飲み込まれてしまうと使い物にならなくなってしまう、そこで、警察庁は、総務省の情報通信政策局を通して、NTTの基地局を使用する許可を得た。

 NTTの基地局で電波を受信したらNTTのインターネットサーバーによって、ブロードバンドで、一般家庭にも配信されるように、切り替え作業が行はれた。

 科警研では、所員がパソコンに向かって、いつ映像が立ち上がるかと待っていた。

 古木補佐は、生物第四研究室でM618のサンプルの分析を指揮して古賀主任にあるテーマを与えた、それはM618に突っ込んで行った車が青白い光を放って車の車体を蒸発させた、その青白い光が一体どのような意味があるのかでした。

 ニュースのライブ映像を見てみると、この青白く光る現象をどこかの大学の教授が、あれは防御と攻撃を兼ねていると解説をしていたが実際はどうなものなのかそれを確めるためであり、もし事実だとするならばどのような現象で起こるのかでした。

 所員が慌てて第四研究室に入ってきた。

「古木補佐、映像が入りました。」

「おう、そうか、今行く、吉岡と通信を(つな)げておいてもらおうか」と歩きながら所員に指示をした。

「はい」

 古木補佐はパソコンがセットされている部屋に入ると、モニターの映像を確認した。

 所員からわたされたスマートホンを手にして。

「吉岡、聞こえるか、今映像を見ている、よく映っているぞ、一般家庭と同じでこちらでは操作はできないので吉岡の方でやってくれ」と言うと古木補佐は1チャンネルから順に見ていった。

「ピントも明るさもOKだな、ズームもよしか、これなら警視庁に渡せるだろう」古木はうなずいた。

 古木補佐がスマートホンを手に「吉岡、全てOKのようだ、ご苦労さん、協力してくれた赤羽署の係長にお礼を言っておいてくれ、すぐ戻って来いよ」

「解りました。」吉岡はスマートホーンのスイッチを切った。

 吉岡は今野係長にお礼を言った。「無事成功しました、有難う御座いました。」と頭を下げた。

 今野は恐縮(きょうしゅく)して頭をかいた。「とんでもないです。何もしていませんよ」

 吉岡は二人の鳶職に「ご苦労様」と声を掛け、速やかに撤収(てっしゅう)を促した。

 吉岡達はヘリコプターで科警研に戻ってきた。

 監視カメラの映像をモニタールームで古木補佐は見ていた、M618に侵略された町の一部を、赤い海に浮かぶビルの窓からズームが部屋の中を映し出していた。

 カメラの倍率がアップされていった。ビルの中の床が真っ赤になっている、何処(どこ)の階も屋上も全て同じように真っ赤になっていた。また真っ赤な液体が、屋上より(あふ)れだし外壁を伝わって下に落ちて行き、ビル全体を真っ赤に染め抜いていた。

 古木補佐はぞっとした。古賀主任の分析によるとこれらは生物だというがいまだかつて歴史を見てもこのような状況を聞いたことなど無い、一体これらは自然界に存在する生物なのだろうか、わずか数日でここまで増殖をしてしまう細胞がこの世に存在するのか、あの赤い色の色素はどう見ても鉄イオンを含む赤血球のように見えるが違うのか、しかもこの活発な動きはおそらくヘモグロビンの作用だろうと思うが、だとすると何だかの形で酸素を補給しているはずになるが、どうやって、分からないな、またヘモグロビン数値を上げるためにはやはり鉄イオンを補給する必要があるはずだ、しかしこのヘモグロビンの作用は脊椎動物に限る作用のはず、一体この生物の正体は何なんだ、やつらは何処から現れたんだ、古木には理解できないことだらけだった。早くこれらの謎を解明しなくては、やつらがどこまで広がっていくのかも分からない。

 モニタールームに吉岡が現われた。「古木補佐、今帰りました。」

 古木は呼ばれて振り返ると、吉岡が戻って来ていたことに気が付いた。

「おう、吉岡か、ご苦労様でした。」

「どうかされましたか」吉岡は古木に近づいて行った。

 早くM618の増殖を止める方法を解明しなくてはやつらどこまで広がって行くのか見当もつかないと古木補佐は思っていた。「吉岡、早くやつの弱点を探し出さないと・・・・」

 古木補佐はモニターを見ながら、それ以上、しゃべらなかった。

「はい」吉岡は(くちびる)()みしめ解明の難しさを感じていた、二人はモニターに映し出されている、変わり果てた街の映像を見ていた。









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