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ディストラクション  壊 滅  作者: 赤と黒のピエロ
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第10章 決 着

 とうとうこの章で最終回となりました。

やはり亜兼はホームレスの技を克服することはできなかった。

それでも今奴を倒さなければ、日本が壊滅してしまったなら

二度と奴を倒す機会は失われてしまう。

果たして、亜兼にホームレスを倒せるのでしょうか?


 第10章 決  着 






 1  友からの贈り物





 翌朝、亜兼は自衛隊の関東補給所の門の前で待っていた。そこへ、大型トラックがゆっくりと入ってきた。

 続いて入ってきた車に吉岡と恵美子が乗っていた。

 吉岡はすかしてサングラスをかけて、こちらに手を振っていた。

 亜兼は笑顔で走り寄って「うれしいよ、来てくれて」

「馬鹿野郎、当たりまえだろう、兼ちゃんにプレゼント持って来たぜ」

 恵美子もうれしそうに「遠慮するんじゃーないわよ、プレゼントは何処に運べばいいの、早速取り掛かるわよ」

「ありがとう、じゃー向こうの格納庫に」

「OK」格納庫が開き始めた。中にUH‐60JAが現れた。隊員からはロクマルと呼ばれている、公式的にはブラックホークと呼ばれている多用途ヘリコプターである。

 その格納庫に大型トラックがゆっくり入って行った。

 自衛隊の技術班が荷を降ろして取り付ける準備が始まった。ヘリの右前方には赤外線暗視装置があるため、左側に取り付けることになった。

 恵美子はリスト表を片手に、荷札を見ながら威勢良く指示をしていた。

 吉岡はと言うと、責任者の技術班の班長の所に行き挨拶(あいさつ)をしていた。そこえ片岡一佐が寄って来て吉岡はやはり挨拶をした。「一佐、おはようございます、今日はよろしくお願いいたします。」

「こちらこそ、ヘリにビーム砲を付けていただけるとの事ですが、よろしくお願いいたします。師団にかわってお礼を申します。」

 亜兼は段取りが付くと、また滑走路に向かった。

 ホームレスの使った。あの瞬間移動を見切るため、練習を始めた。滑走路の(はし)に立ち、向こうの端に移動するにはどうする、その場に突っ立っているだけで、すでに一時間、瞬間移動を頭の中で念じていた。しかし何も起こらない「解らないな、一体どうすればいいんだ」走ってみた。いつもと同じスピードで変った所は無かった。

「駄目だ。」亜兼はより以上に瞬間的に移動しようと意識を強くした。でも結果は何ら変る事は無かった。

 知佐が呼びに来たのでした。遠くの方で両手を口の前でメガホンのようにして「おひるですよ」亜兼はその姿を見つけると手を振って「やっぱり、駄目か、おひるにしよう」と知佐の所に走った。意識することなく一瞬に着いていた。知佐が手をたたいて「凄い、凄い、凄い」とはしゃいでいる、「あれ、今走って来たんだよな、それとも・・・まさか、よく分かんないな」

 亜兼には理解出来きていなかった、瞬間移動をしようと思うのではなく、瞬間移動はするのである、つまりしようと思う意思そのものが出来ない原因になっている事に、亜兼と知佐は格納庫に向った。二機のUH60JAにはビーム砲がすでに装着されていた。しかし、組み立ては完全では無いようだった。

「宗ちゃん、恵美子さんそろそろお昼にしませんか」

「兼ちゃん、サンドイッチか、おにぎり作ってもらえない、これもうちょいでテストできるから」

「いいよ、頼んでくるよ」

 亜兼と知佐は食堂に向かった。

 食堂の調理のおばさんに頼み込んでみた。「おばさん、おにぎり作れる」

「あいよ、作れるよ、何個だい」と笑顔で返事をしてくれた。

「えーと、三十個、いや五十個、五十個作れる」

「あいよ、直ぐ作るから、ちょっと待っててよ」おばさんは笑顔で作り出したのでした。

「すいません」

 知佐はお(しぼ)りを用意していた。

 亜兼は、割りばしをごそっと(つか)むとトレーに乗せていた。

「兼ちゃん、出来たよ」

「わー、はやいなー、ありがとう」

 おばちゃんが「それ、そこの麦茶、冷えてるよ、持って行きな」と大きなやかんに目線を向け、あごでしゃくって見せた。

 二人はそれを持って(あわ)てて出て行った。調理のおばさんが出て行く二人を見て「仲がいいね」と微笑んでいた。

 格納庫で「はーい、おにぎり、来たよ」と叫ぶと、知佐は皆におしぼりを配ってあげた。作業をしていた技術班の人達が「おにぎりか、うまそうだな」とほうばり出した。

「俺にも、取ってくれ」

「うーん、最高にうまいよ」

 おにぎりをほうばりながら作業は続けられた。午後二時半頃、作業は終了し、いよいよテストの段階になりました。

 吉岡が「取り付けは出来たが、まだこれからが大変だよな、トランスは中に乗せてあるよね」とキャノピーの中を(のぞ)き込んだ。

 作業員が「はい、大丈夫です。」

 吉岡は気になることをたずねた。「電圧降下は大丈夫ですか」電力消費が激しいため、今までのビーム砲は直ぐにダウンしていた。

「はい、インバーターを4つかましてありますから」インバーターを入れる事で小さな電力を高出力に変換して省エネルギータイプに変えていた、これによりヘリのバッテリー負荷を(おさ)えるようにしていた。

 吉岡はビーム砲を見ながら「照準はどう」と作業員に尋ねた。

「これからです。」作業員が忙しそうに配線をしながら答えてきた。

「了解です。」と吉岡はリストの項目を確認しながらチェックして行った。

「吉岡主任、GPSのDVDはどうしますか」

「そこに置いといて、チェックが終わったら、インストールするから」

 吉岡はUH60JAの周りを見ながら「距離計と実際の距離のすり合わせはどうしようか」と作業員に聞いていた。

「それは、ヘリを外に出してから実際にやりましょう」

「OKいいよ、配線のメガはどう、ちょっと、電源入れてみて、動作を見ておきたいので」

「はい、もう配線も終わりましたので、回路チェックが済み次第起動してみますよ」

 作業員はチェックが済み、操縦席に乗り込み電源スイッチに手を掛けた。「電源投入します」

「OK」吉岡はリモコンを探した。

「リモコンは何処?」

「そこにあります。」と作業員がキャノピーの中から作業台の上を指差していた。

「あ、失礼、ありました、動作確認します。」とリモコンを操作してパラボラを動かしてみた。右、左、上、下かなりスムーズに動作していた「OKですね」

 もう一機のヘリでは、恵美子が同じ事をやっていた。

 吉岡が大声で呼んだ「恵美子主任こちらは、ほぼOKです、これから外に出しますよ」

 恵美子も「はーい、こちらもOKよ」

 格納庫の扉のスイッチを作業員が入れると、ガガガガと低い音を響かせて開き始めた。

 外の日差しが開いた扉の隙間(すきま)から差し込んできた。扉が全開になり、路面の照り返しで熱くなった空気が格納庫の中に入り込んで来た。

 UH60JAが自走して真昼の炎天下に出て行った。マーキングポイントにヘリをスタンバイさせ三百メートルの所に集合マイクがセットされていた。ビーム砲の照準を三百メートルに合わせた。

 吉岡は自信があった。「セットOK,よしテスト信号音波を発射してください」

「はい、テスト信号発射します、3、2、1発射」

 レベル計が反応しない「駄目か、何んでだ、照準が合って無いのか、おかしいな」何度かやっているうちに、しだいに合い出してきた。

「ここまでくれば、決まったも同然だな」と吉岡が作業員に言うと、作業員は首を(かし)げてどうかなと言った感じで、その後一時間程で終了したのでした。

 吉岡は腕組をして恵美子と並んで二機のUH60JAブラックホークの左先端に付いているビーム砲を眺めていた。

 吉岡は恵美子に満足そうに言った「やる事はやったよな」

 恵美子はニヤッと笑みを浮べると「馬鹿ね、これからよ」

「えー、これからって、まさかこれに乗り込もうって思っているんじゃないだろうね」

「あたりまえでしょう、これの(くせ)はあたしじゃないと操作は無理よ」

「まさか、うそだろう」吉岡は(まい)ったと言った感じで「おい、おい、俺は高所恐怖症だぜ」

「あんたは来なくていいのよ」恵美子は()っぱねるように言った。

「そういう訳にはいかないよ、俺は行く」吉岡は強がりを言った。

 その頃、会議室で作戦会議が開かれていた。

 片岡一佐が大筋を話した。「今回はUH―60JAヘリは五機により行なう、操縦士は前回の三名と山本班から二名それと副操縦士、これは志願を(つの)ってくれ、護衛は各三名、一号機は十字(くるす)一尉、君は(かみ)一尉と同期だったな、二号機は亜兼君いいね」

「はい」

「そして三号機、四号機はビーム砲が搭載されているんだったな・・・、そして五号機は通信隊に乗ってもらう、映像を司令部に送る任務だ。」

 一人の幹部が尋ねた。「ビーム砲は誰が操作しますか」

「それだよ、これから訓練するのでは無理があるし」

 片岡も困った顔をして「出来れば、科警研の、あの二人に操作してもらえると助かるがな」と、つぶやいた。

 すると別の幹部が言った。「一佐、それはまずいです。向こうは警察庁ですよ、こっちは防衛省ですし、警備行動の訓練も受けていないでしょうし、難しいと思われますが・・・」

「確かに、無理かな」片岡一佐は困っていた。

 するとドアがノックされた。ドアの近くの自衛官がドアを開けると、吉岡と恵美子が入って来て、恵美子が「私達もこの会議に参加する義務があると思いますが」

 片岡は右手に書類を持ったまま、「えー?」と驚いた様子で言葉に()まっていると、またしても恵美子が「科警研の上条所長より、出来るだけ全てに協力するように言われてきましたので」

 吉岡が小声で「意味が違うぜ、全てにとは言っていなかったぜ」ともらすと、恵美子のかかとが吉岡の靴の上に乗っかっていた。吉岡の顔がゆがんだ。

「はー」と言って片岡の顔がほころんでいった。「それは、願っても無い事、私から所長にお礼の電話を入れておこう」

 恵美子がすかさず「それは、無用です、片岡一佐も上条所長も忙しい事でしょうから、私から経過報告を入れることになっておりますから」

「とにかく有難う、では三号機は吉岡主任、四号機に古木主任という事で(よろ)しいのですか」と片岡は確認するように二人を見た。

 恵美子はやる気を抑えて「結構です。」と胸を張り言うと、亜兼にウインクを飛ばした。

 吉岡もつられて「は、はい」と言ってしまった。

「それでは、作戦決行は、明朝0700(まるななまるまる)時、滑走路に集合とする」

 片岡は後藤一尉に「できればAH‐1Sでヘリボーン攻撃ができる、攻撃隊を編成してもらいたいが、それも給油の関係があるので、時間差で変則攻撃が出来るチームを」

「解りました。早速」後藤一尉は敬礼をした。

 亜兼は終了後、直ぐに滑走路に走った。

「まだ、俺の力ではやつには歯が立たないからな」白光撃破のスピードをもっと早くしなければ、いまのままでは勝負にもならない、今度は自分の未熟さで同胞を危険にさらす訳にはいかないと、右に、左に転がっている空き缶を的に細かく打ち分ける練習を始めた。

 瞬間移動はいくら念じて行なっても駄目だった。「どうしても出来ないな」

 今日も暗くなるまでやっていた。時間が無い、納得いくまでやらなければ、そこえ知佐が師団長を連れてやって来た。

 亜兼が気が付き「知佐さん、師団長」とその場に立ち(つく)した。

 師団長が亜兼に寄って来た。

「知佐さんが君の事を心配して、私を此処へ案内してくれた。」

 亜兼は言葉無く、頭をうな垂れて立っていた。

 師団長が静かに言った。「いよいよ明日だな、心の準備は出来たのか」

「いえ」路面に視線を落し、握りしめるこぶしは(どろ)だらけだった。

 師団長はそのこぶしにちらっと目をやると「余力を残さず体をいじめ抜いて、敵に勝てるとも思えんが、昔から光る技は(しん)、気力の一致と言われている、十分力をはっき出来る体と聡明(そうめい)で強い心、相手を見抜く洞察力、勝つために全てが一致する事が最良の条件とも思えるが、決して無理をする事で()に付くものでも無いと思うが、亜兼君、今日は十分ではないのか」

「はい」亜兼は師団長の手前、はいと返事をした。

 師団長もそのことは承知していた。「君は我々の最後の切り札でもある、知佐さんに言われる前に、私達が君の事をもっとよく知っているべきでもあった。」

「いえ、自分の力不足が招いた事です、申し訳ありません」亜兼は自分の力の無さを感じていた。さっきも夢中のあまり二人の気配を感じ取れていなかった。

 師団長の言う通りかも知れないと思った。

 師団長は亜兼の背中をたたいて「とにかく明日はしっかり頼むぞ、わしが、もう二十年若ければ自分で行くがな」後ろから付いて歩きながら知佐は微笑んでいた。

 歩きながら、師団長は話しかけた。「亜兼君、わしは昔、これでも柔道をやっていてね、試合でなかなか技が決まらなかった時、師範の言われた言葉が今も心に残っているが、それは」

 亜兼は真剣に受け止めようと聞いていた。

「それは、技は掛けようと思うな、風を見ろ、吹こうと思って風は吹いていないだろう、ただ自然に吹いているだけだ、とな」

 亜兼は師団長の言葉を胸に刻んだ。

 今日も夜空に流れ星が流れた。




 


  2  出  撃





 翌朝

 0700時、全員滑走路に集合し整列をしていた、片岡一佐から言葉が伝えられた。

「いよいよ決着の朝が来た。壊滅状態の日本を救えるかどうかが掛かっている、全て君達しだいだ。ひるむな、戦っているのは君たちだけでは無い、この駐屯地全員、いや日本中の人が、君達を見守っている、勇気を持て、見守っている人達の気持を力に変えて戦ってくれ、勝利を待っている、以上だ。」

 十字一尉が隊員に顔を向けると号令を掛けた。「これより出撃する」

 全員、所定のヘリに乗り込んで行った。そしてヘリのローターが回転しだした、UH―60JAのキャノピーの防弾ガラスが朝日を反射して銀色に輝いていた。

「一号機発進します。」操縦士がコレクトピッチを引きUH-60JA一号機はゆっくりと上昇していった。「二号機発進します。」迷彩色に(いろど)られた重装備のヘリが一機、また一機と上空に上昇して行った。「五号機発進します。」全機レフトターンをすると東京方面に向って飛んでいった。「全機離陸完了、幸運を祈る」司令室より放送がながれた。

 山木師団長は自室の窓越しに小さくなっていくヘリを見送りながら「たのんだぞ、必ず決めてきてくれ、そして全員無事に帰って来る事を祈っているぞ、上も必ず連れ戻してくれ」

 一号機を先頭に、すでにヘリは真赤な海のように見える敵の上空に差し掛かっていた、全員に緊張が走った。

 いままでいつもの様うに何事も無く、ただ普通に一生懸命生きてきた人達を一人のホームレスの社会への復讐(ふくしゅう)から赤い箱の機能を起動させM618を()き放った。

 その犠牲にされてしまった多くの人々の悲しみの血の涙の海のようにも感じた。

 亜兼はあのホームレスを許すことはできなかった。上一尉の(あだ)を必ず取ってやる、と硬く決意をしていた。

 三郷(みさと)ジャンクションであろうか高速道路が見えてきた。赤い海の中から何本も高層ビルが見えてきた。屋上から(あふ)れたM618によって外壁まで真っ赤に様変わりさせて赤い海から頭を出していた。

 首都高6号が眼下に走っていた、それにそって五機のUH-60JAは飛んでいった。

 真赤な海の中に隅田川が何事も無いようにたんたんと、その青い帯びを延ばして流れていた。

 浅草も神田も日本橋も今となっては何処にあるのかまるで解らない、一号機の副操縦士が「右手、四十度、あれは東京駅の屋根瓦では」

 十字(くるす)一尉はその方向を見た。確かに東京駅の屋根である「あっ」と副操縦士が驚きの声を上げた。

 信じられない光景が目に飛び込んで来た。

 それは東京駅のその左前方でした、まるで砂漠のオアシスのように、皇居の内堀の中がポッカリと緑が生茂(おいしげ)っていた。

 その映像は司令部も見ていた。「どうした事だ。」

 五機のヘリはその不思議な光景を右手にして目標に向かって飛んでいった。

 除々に(しお)の香りがしてきて東京湾が赤い海の向こうに、朝日を受けて海面がキラキラと金銀に輝かせていた。

「そろそろ近いはずだ。」十字一尉は上一尉が今どうなっているのか心配であった。

 副操縦士が「目標は超高層の帝都ガスビルの直ぐ横でしたね・・・それにしても気持ち悪いです。」帝都ガスビルも外壁全てが真っ赤に染まっていた。

 操縦士が司令部に報告を入れた。

「目的地に到着しました。これより赤い箱の捜索を行ないます。」

「了解した。十分気おつけるように、師団長からの伝言です。」司令部から返答が来た。

 十字は二号機の亜兼に確認を入れた。

「亜兼君、赤い箱の所在は確認出きるか?」

「はい、前回の地下調整池の中からかなり東に移動しています、竹芝の方向です。」

「了解」と言うものの十字は何故そんなところに移動したのか疑問だった。

 首都高環状線を越えると竹芝が東京湾に突き出た出島のようなエリアになっていた。

 今はただ全てが真っ赤になっていた。その上空で全機空中で停止をしていた。

「亜兼君どうだ」

「はい、この下あたりです。」

「よし」十字は三号機、四号機の吉岡と恵美子に指示をした。

「この竹芝全体をビーム砲でM618を排除してもらいたいが出来るか?」

 吉岡がやっと出番が来たとばかりに「解りました。このビーム砲は従来の物と同じと思ってもらっては困ります、なりは小さいが威力は数段超えていますよ」

 恵美子がじれったそうに、「高所恐怖症のお兄さん、能書きはその辺で、行くわよ」とヘリを竹芝の南に走らせていった。

 吉岡の三号機も慌てて付いて行った。

 四号機は南端に位置を取った。そのとき三号機の補助ローターめがけて、いきなり眼下のM618から赤い腕が伸びてきた。

 三号機は左に急旋回をしてビーム砲を伸びてきた赤い腕の方向に向けた。吉岡も素早く照準を合わせ発射ボタンを押した。

 同時に四号機からもビーム砲が発射された。赤い腕はバチバチバチとスパークを繰り返しドバーと爆発して透明の液体がザーと落ちて行った。

 恵美子が満足げに「やったー」とファイトポーズを取ったのでした。

 吉岡が信じられない顔をして「エー、嘘だろう、あれは俺だよ」

 恵美子が笑みを浮かべて「高所恐怖症のくせして、おまけに心まで狭い人だったとわねー」救いがたいはね、とヘリを旋回させ西に向けた。「吉岡主任、ここから百メートル左側は私が処理しますから、その向こう全てを決めてください」

 吉岡は笑顔で「はい、はい、とうとう仕切られちゃったのかよ」いつもそうだけどさ、と三号機を旋回させ、ヘリの正面を西に向けた、四号機も同じ方向を向くと、恵美子が「高所恐怖症には負けないわよ」と挑戦的に言うとすべるように四号機が走って行った。

 吉岡も負け地と「言ったなじゃじゃ馬」と闘志を(あらわ)に四号機についていった。

 その時、M618からホバーリングをしているヘリにめがけて何本も赤い腕を突然伸ばして来たのでした。それを合図にビーム砲の攻撃が始まった。

 今までのビーム砲より(はる)かに機動が早く、ビームの切れはシャープになった。また電源ユニットのインバーターの改良で連続撃ちが可能になっていた。

 電磁パルスを打ち込みM618が青白いバリアで防御したところをサイクルアナライザーでバリアの周波数を読み取り電磁パルスを打ち込むのにわずか数秒の間に一連の動作をやってのけていた、画期的な進歩をしていた。

 何本もヘリに向かって襲い掛かって来る赤い腕を次々に吹き飛ばして、M618の赤い海をなめるように一掃して行った。

 スパークする光の帯が西から東に延びて行った。首都高の環状線側の波止場に向って、正に赤い海だった所がしだいに地面を露わにしだした。五分もしないうちに半分以上が道路や建物が現れだしてきた。貿易センタービル、公文書館、三宅村役場東京事務所、東京ベイスボールホテル、じきに出島のような竹芝から一切、赤い敵が一掃されたのでした。

 地表に黒い粒の混じった。透明の液体がただよっているだけになった。それも周りの海に一気に滝のように流れ落ちて行った。

 路上の透明の液体も次第に下水道に流れて消えて行った。

 ヘリの編隊はゆっくり降下した。路上には電柱もなく、産業貿易ビルの前広場はかなりの広さになっていた、その広場や路上に1号機と2号機のヘリが着陸していった。亜兼はゆっくりとヘリを降りると迷うこと無く公文書館に真っ直ぐに向って行った。建物の階段を上がって、玄関に向うと自動ドアが開きっぱなしになっていた。亜兼は強い意志でただ奴を倒すことのみを思って中に入って行った。

 自衛隊員も小銃を構えてヘリの周りに護衛についた。十字(くるす)一尉は亜兼の後を追った。

 亜兼は公文書館の事務所の中でホームレスを見つけた。

「やっと来たか、兄弟、遅かったな身体はもおいいのか、待ちくたびれたぞ」ホームレスは事務所の所長の椅子にふんぞりかえって座っていた。

 亜兼はカウンターの前に立ち、問いただした。

上一尉(かみいちい)をどうした。」

 ホームレスはニヒルに笑みを浮かべて「やつか、外のマストにぶら下がっていただろうヒィヒィヒィヒィ」

 十字一尉が事務所の入口に差し掛かった時だった。

 亜兼が叫んだ。「十字一尉、客船ターミナルのマストだ、上一尉を頼みます。」

 十字は「分かった。」と叫ぶと走り出し隊員に叫んだ。「上は客船ターミナルだ、オブジェのマストだ」

 ホームレスが無造作に立ち上がり「俺の獲物(えもの)だ、そうはさせるか」とゆっくり右手を亜兼に向けた、いきなり部屋の中が黄色い光で(あふ)れた。

 亜兼は床に伏せた。後ろの壁が吹き飛んだ、一瞬にホームレスが亜兼の目の前に現れてむなぐらを(つか)みあげると、右のこぶしが亜兼の顔面を(とら)えた、殴り飛ばされた亜兼はそのまま後方に(はじ)かれてホームレスのサンダーフラッシャーで吹き飛んだ壁の穴から外にほうり出された、コンクリートの階段を転げ落ち、歩道にうつ伏せた。

 その時、十字一尉が叫んだ。

「上一尉、上、上」十字が上を見つけ出したのでした。

 亜兼がその方向を見ると、すぐさま亜兼は走り出し、竹芝桟橋入口の信号の所に来た。客船ターミナルの中庭にある帆船(はんせん)のマストを()したオブジェにクサリで吊り下げられている上一尉の姿を見つけたのでした。その周りには何体も同じように人が吊るされていた。

 中には白骨化した者までもいた。

 その下には死骸が山のように散乱していた。

 亜兼は胸が詰まる思いがした。そして叫んだ。「上一尉、上一尉」しかし上一尉からは返事は無かった。亜兼の怒りがこみ上げてきた。「ホームレスの奴、許さねえ」

 ホームレスが公文書館の壊れた壁からニヤニヤ笑みを浮かべて外に出てきた。

 壁の一部を左手でささえ、太陽の光をまぶしそうに、右手で目の前を(おお)っていた。

 亜兼はホームレスの方向に振り向き、怒りの表情を()き出しで「貴様、上一尉を殺したのか」

「さあね、吊るしたときは息はあったが、もういかれているかもな、ヒィヒィヒィヒィ」と愉快そうに笑い出した。

 亜兼はさらに怒りが込み上げて来た。「貴様、ゆるさねえ」と白光撃破を構えた。

 ホームレスが瞬間移動を使って、いきなり亜兼の前に現れて、ホームレスの右足が亜兼の胸部を(とら)えた、また()とばされた、亜兼は路上を転がった。

 ホームレスはがっかりした表情で「おまえ、本当に動きが(にぶ)いぜ、それじゃーまるで勝ち目はねえぞ、諦めな」と言い終わらないうちに、亜兼の目の前に現れると、ホームレスはサンダーフラッシャーを撃ってきた。

 亜兼は逃げる間もなく瞬時にバリアが現れて、防ぐのが精一杯で、又路上にはじき飛ばされ後方に転がって行った。

 十字一尉と隊員が上一尉を見つけると、慌てて近づいて行った。

 そばまで行くと死骸の山の向こう側の客船ターミナルの建物の中から赤い化け物が次々現はれて向って来た三匹、五匹どんどん出て来る化け物に、隊員は焦って小銃の引き金を引いた。

 炸裂弾で赤い化け物が飛び散って行くが、とにかく次から次えと現われて来た。

 五号機が上一尉を発見したことを司令部に報告をした。

 もちろん生死の有無を聞かれたが「まだ、不明です、赤い化け物が現われて、近寄る事が出来ず救出に困難をしております。」

 三号機、四号機が上空に飛び上がって、その方向にビーム砲を打ち込んだ、正面の化け物が、一斉に吹き飛び、透明の液体となって飛び散って行った。

 ヘリ二機で撃ちまくるが赤い化け物がいたる所から次々に現れてきて防戦に成り出したのでした。

 吉岡が無線で恵美子に呼びかけた。「赤い化け物はおそらくノースタワーから出て来るんじゃあないのか?」

 そこは、客船ターミナルを挟んで右側に二十四階建てのノースタワーと左側に二十一階建てのサウスタワーのツインビルが建っていた。

「じゃー、破壊するだけよ」と恵美子はヘリを上昇させた。

「おー、過激な」

 ホームレスは「ヒィヒィヒィヒィ」と笑っている「無駄だ、いつまで続けられるかな」

 亜兼はホームレスに白光撃破を()とうとするが相手の動きが早すぎて、(ねら)いが定まらなかった。

 その度に接近され(なぐ)り飛ばされ、サンダーフラッシャーを打ち込まれては、はね飛ばされるか、バリアで()けるのがやっとであった。そんな場面が何度も繰り返されて、亜兼も防戦一方になっていた。

 亜兼がたまに白光撃破を打ち込むと、狙いが外れ竹芝倉庫の上部を吹き飛ばしてしまい建造物が(くず)れ落ちていった。

 その度に、ホームレスは笑いころげていた。そしてサンダーフラッシャーを打ち返して来た。

 明らかに亜兼の防御も攻撃もホームレスに比べて遅すぎた。しかも何を攻撃するのかを読まれている、亜兼はホームレスの攻撃を受けながら攻撃のパターンを読み切ろうとするが読み切れない、「何故なんだ」

 何故だ、何故俺の攻撃がすべて読まれるのか、しかも裏をかかれて攻撃をされている。

「どうしてなんだ」

 けれどホームレスの連続攻撃を受けているときに何発か亜兼の攻撃が当たることがありホームレスのひるむ場面も確実にあった。

「何故なんだ」

 構えて相手を倒してやろうと攻撃をかけるときに亜兼は(なぐ)(たお)そうと強く思って()かって行った。しかしそのような攻撃は何一つ相手にヒットしていなかった。

 だけどホームレスに連続で攻撃を受けたときはかわすのが精いっぱいで何も考えずに体に任せて攻撃を繰り出しているときに亜兼の攻撃がヒットしていることに気が付いた。

 亜兼はホームレスの攻撃を受けながら気が付いた。こいつ攻撃を意識してやっていないな、体の流れの中から攻撃が出てくる、(やつ)の攻撃が読めない、亜兼は当たりまえだと思った。奴自信が攻撃を意識していないのだ、まるで風だ。

「そうだ風だ、風は吹こうと思って吹いていない」

 亜兼は攻撃をしようと思わず体の動きに任せることにした。

 そうは言っても思うようにはいかない、ホームレスの動きが早くてつい(ねら)いを定めて攻撃をしてしまう、完全に亜兼の動きは読まれていた。

 けれどもしだいに、亜兼の目は確実にホームレスの動きに()れていった。

 その時だ、ホームレスの撃ち放ったサンダーフラッシャーの光の束が、スローに見えてきた。

 風になれ、意識をせずに身体の動きを流れに任せろ。

 それでもホームレスの動きはやはり早い、目の前に現れては亜兼は又もやおう(なぐ)り飛ばされた。亜兼の攻撃は空を切っていた。

 気がつかないうちに亜兼はホームレスのサンダーフラッシャーをかわし始めていた。

 これだ、自分を信じよう、自分の感覚を信じるんだ、次に亜兼はホームレスに向かって行った。

 ホームレスの瞬間移動に並んでいた。

 しかし亜兼にはまるで瞬間移動をしている意識は無かった。

 亜兼はホームレスの前面に出ていきなり腕を捕まえると、そのまま投げ飛ばした。と思ったが逆に投げ飛ばされていた。「しまった。」

 ホームレスは「ヒィヒィヒィ」と笑っていた。

 亜兼は空中で回転しながら白光撃破を打ち込んだ。ホームレスは(きわ)どいところでかろうじてかわした。「そうこなくっちゃー、面白くねえぜ、ヒィヒィヒィヒィ」と笑っていた。

 瞬間、逆にホームレスがサンダーフラッシャーを撃返(うちかえ)してきた。

 亜兼はその光がスローに見えていた。しかしそれはすでに残像で、ホームレスは瞬間移動を使って亜兼の目の前に現れたと同時に、サンダーフラッシャーをまた打ち込んできた。  

 亜兼は避け切れず、バリアで受け止めたが、止めきれず吹き飛ばされ、数十メートルまたもや宙に舞った、一瞬気が遠のいた。

 次の瞬間、気が付くと、亜兼はホームレスに羽交(はが)()めにされていた。亜兼は身動きがとれず、やられたと思った。そして、そのまま路上に落ちていった。

 ホームレスが、耳元でささやいた。「小僧、どうだ、俺と組まねえか、思いのままだぞ、何でも好きなことが出来るぞ、お前も望むところだろう、ヒィヒィヒィヒィ」

 亜兼は振り(ほど)こうと体をゆするが、よけい締め付けられて行った。

 ホームレスが首を締め付けている腕に亜兼は手を掛けると、歯を食いしばり「お前と組むのか」

「ああ、最強のチームに成るぞ、楽しいぞヒィヒィヒィ」ホームレスはにやついていた。

 亜兼はその腕を何度も振りほどこうとしたができない「俺の友人を殺され、お前とあの化け物の世界で、何が楽しい事があるのか、俺のやらなきゃいけない事は、あの化け物を全部倒して、お前を倒してお前が持っている赤い箱をもらうことだ」

「ホー、おれの赤いインフィニティーおか、そいつは渡せねえよな、折りあいはつきそうにねえな、じゃー、小僧、お前には死んでもらうぜヒィヒィヒィヒィ」とホームレスの締め付ける腕の力が増していった。

 亜兼の顔が(ゆが)み出した。息が苦しくなっていった。

「ヒィヒィヒィヒィ、死ね」と薄笑いを浮かべるホームレスのいやらしい声がきこえると同時に、ブスブスブスと衝撃を感じた。

 十字一尉がホームレスめがけて、小銃を打ち込んでいた、ホームレスの背中が青白く発光してバリアで防御していた、その衝撃が亜兼にも伝わってきた。

 ホームレスが「き、さ、ま、ら!」と、十字一尉に顔を向けた。その時ホームレスの腕が(ゆる)み亜兼はその腕からすり抜けた。振り向きざまに白光撃破をホームレスに浴びせかけた。

 ホームレスはバリアを張りながら瞬間移動をした。亜兼は尚も、残像に向って白光撃破を打ち続けていた。

 十字一尉はいきなり目の前に現れたホームレスに、殴り飛ばされて路上に転がった。

 十字の数メートル先の路上にホームレスが現れた、十字に対しサンダーフラッシャーを打ち込む構えをした、十字には逃げ場もなく、あのサンダーフラッシャーをまともに受けたら、もう駄目かと思った。

 その時、隊員がホームレスめがけて小銃を激射した、ホームレスが振り向きざまに、隊員めがけて、サンダーフラッシャーを放った。隊員はあわや飛びのいてかわしたが、次のサンダーフラッシャーが隊員に向って飛んできた。

 亜兼は赤い化け物に周りを囲まれていた、白光撃破で一掃すると、銃声を聞きつけて、一瞬の内に隊員の前に現れた、青白く発光した亜兼はバリアでホームレスの放ったサンダーフラッシャーを受け止めていた。そして叫んだ。

「十字一尉、上一尉を早く・・・・」

 次の瞬間、亜兼がホームレスに瞬間移動してくみつき投げ飛ばしていた。無意識に行ったことに自分が瞬間移動をやったことすら気が付いていなかった。

 ホームレスは信じられない顔をして倉庫の裏に逃げ込んだ、すぐさま亜兼は倉庫ごと白光撃破で吹き飛ばした。

 ホームレスはそこにはすでにい無かった、亜兼の頭上に回りこんでいた。

 空中からサンダーフラッシャーを撃ってきた。

 亜兼はあの夜、知佐が滑走路に来た時、真っ暗闇の中、自分の周りを三六〇度上下、全て認識していた事が今、自分の身に感じていた。

 頭上のホームレスを感じていた。そこに向かって亜兼も白光撃破を打ち込んだ。

 光の束がお互いぶつかり合い、光同士が爆発して光の波動と地響きが縦横に走って行った。

 亜兼は右手で目を覆った。そのときホームレスが亜兼に向かって瞬間移動を使って目の前に現れた。しかし亜兼にはスローに感じ、殴りかかってくるのが見えていた。

 ホームレスが右手で殴りかかって来た。それを難なくかわして、その右手を(つか)み路上に投げ飛ばした。 

 その間、吉岡達は無数に出て来る赤い化け物をビーム砲で応戦していたが、そろそろオーバーヒートしそうになっていた。

 隊員も小銃で応戦するが数が多すぎて防戦状態になっていた。

 亜兼はこの隙に上一尉の所に瞬間移動して白光撃破で赤い化け物を一掃した。

 上一尉を(しば)り付けていた、クサリに向かって、十字一尉は小銃を向け引き金を引いた。バキューン、バキューン、バキューン、何発も打ち込んで、とうとうクサリを打ち切った。

 上一尉がマストからずり落ちて来た。隊員達は受け止めて、すぐさまヘリの方へ運び出そうとしたが、ホームレスが怒りだした。「ふざけた真似しやがって、俺の獲物に手を出すんじゃーねえぜ」とサンダーフラッシャーを上一尉を運び出した隊員めがけて打ち込んで来た。亜兼は白光撃破でホームレスのサンダーフラッシャーを弾き飛ばした。

 そして亜兼はホームレスに白光撃破を続けざまに打ち込んだ、ホームレスはたまらずテレポートを使って瞬時に身を隠してしまった。。

 十字一尉達は一号機のヘリの所に戻って来た。上一尉も運ばれていた。

「どうだ、状態は」十字一尉は隊員に聞いた。

「息はしていません、脈も無さそうです。」

 十字一尉は上が死後(しご)硬直(こうちょく)をしていない事を不思議に思った。まるで寝ているようだ。

「上、上、上一尉」名を呼べば目を覚ますのではないかと思った。

「十字一尉、上一尉はもしかすると仮死状態(かしじょうたい)なのかも知れませんよ」と隊員が言った。

「なんだと、ならばすぐさま人工蘇生(じんこうそせい)を行おう」と一号機に乗っていた医療班が心肺蘇生を始めた。しかしなかなか回復の兆しはうかがい知ることは無かった。それでも心肺蘇生は続けて行なわれていた。

「とにかく上一尉は直ちに司令部へ搬送いたしましょう」と操縦士が急ぐように言った。

「分かった。じゃあ黒岩二尉頼んだぞ上を司令部へ搬送してくれ」

「了解しました。」

 十字一尉は亜兼に無線で上を司令部に搬送したことを伝えた。

 どこに行ったのかホームレスが見当たらなくなってしまった。亜兼はいやな予感がした。

「十字一尉、ホームレスがこのまま素直に見送るはずがありません、気をつけてください」亜兼は気になって周りを見渡していた。

 一号機が上昇していった。司令部も上を搬送してくると連絡を受け、至急医療班をエアーポートに待機することにした。

「どこだホームレスは」亜兼は必ず一号機の帰還(きかん)を阻止にホームレスが現れると感じていた。

「お前ら」ホームレスの声がした。

 亜兼はすぐに反応して声の方向を見た。歩道橋の上にいた。そこは上昇(じょうしょう)した一号機の真正面の位置になっていた。

 亜兼も十字一尉もかなりまずいと思った。亜兼は素早く左手をホームレスに向けた。

 上一尉を乗せ上昇していくヘリに向って、ホームレスは歩道橋の上から薄笑いを浮かべてヘリに向って右手をゆっくりと構えた。「どろぼう猫め、俺の獲物を盗みやがって、そうはさせるか」とホームレスはまるでためらいもなくいきなりサンダーフラッシャーを撃ってきた(まばゆ)い光の束が一号機に向かって走って行った。

 十字一尉はホームレスに向かって小銃を連射した。

 亜兼は白光撃破でホームレスの放ったサンダーフラッシャーを弾き飛ばした。

 十字一尉が連射したがホームレスはすでに歩道橋から消えていた。

 亜兼は慌ててホームレスの消えた行方を探した。

 見るとホームレスが一号機の側面に張り付いていた。

「しまった。」テレポーテーションを使ったのか、これでは白光撃破は使えない、上一尉の乗るヘリが落とされる、どうしたらいいんだ、亜兼に考えている余裕は無かった。

「マリア俺をあそこに運ぶ手立ては」

「やはりテレポートです。」

「ならば俺を早くテレポートしてくれ、早く」

 亜兼が言い終わらないうちに、すでにUH-60JAの側面にいた。

「うおー」亜兼は滑り落ちそうになった。見るとホームレスが目の前にいた。

「来たな、小僧、お前ここから落ちたら死ぬぞヒィヒィヒィヒィ」

 いきなりホームレスが飛びかかってきて、二人は空間に放り出された、そしてホームレスが右手をヘリに向けた、亜兼はそれを見ると無我夢中で阻止しようとしてホームレスの右手にしがみついた。「よせ、バカ、(はな)せ」振りほどこうとホームレスがもがいた、二人は回転しながら地上に落ちていった。

 ホームレスはニヒルに笑っていた。「小僧、この状況はまずいんじゃないのか、俺はいいけど」と言うと「ヒィヒィヒィヒィ」と笑いながら消えてしまった。

「またテレポートしやがった。」

 しかし亜兼の立場はまずかった地面に向かって落ちていった。

「やばい、マリアー」亜兼はそのまま地面に激突する寸前で消えてしまった。

 すでに一号機は彼方(かなた)に小さくなっていた。

「ここだ」瞬時に放った亜兼の白光撃破は、今までに無い早いスピードでホームレスを襲った。

 瞬間移動したホームレスのサンダーフラッシャーが亜兼に向かってきた、亜兼はそれを白光撃破で弾き飛ばした。

 それたホームレスの光の束が帝都ガスビルに向って飛んで行きビルの上部を吹き飛ばしてしまった。

「ドドドドン」帝都ガスビルの上部が爆発して吹き飛んだ。

 亜兼はホームレスの次の攻撃を警戒して、すぐさまホームレスに対し瞬間移動で立ち向かった、それを察知したホームレスは迎え撃つ構えを取った。

 亜兼の急襲は読まれていた。突然、ホームレスの目の前に亜兼は今にも殴りかかる態勢で現れた。ホームレスはしめたと思った。そして亜兼より早く力任せに殴りかかった。

 しかし、それは亜兼の残像であった。それはホームレスが何度も亜兼に使った技でもあった。

 亜兼が逆にその技を使って、ホームレスの上空から亜兼の両足が蹴り出された。

 ホームレスは想像外の攻撃に対処しきれず、蹴り飛ばされ、バランスを崩した、そこを亜兼は白光撃破を打ち込んだ、ホームレスは体勢を立て直す前に、まともに亜兼の白光撃破を受けてしまい、ゆりかもめの高架橋まで(はじ)き飛ばされてしまった。

 ありえない素早い攻撃に、ホームレスの驚きは驚愕(きょうがく)にも似ていた。

 そのまま、ホームレスは産業貿易ビルに激突して崩れてきた瓦礫に()もれてしまった、しかしその瓦礫の中にはもう居なかった、何処へ行ったのか姿がまるで見えなくなってしまった。

 亜兼は周りを見渡して探したが、何処にいったのか、ホームレスの気配も消えていた。

 一瞬、静寂が訪れた。隊員も小銃を構えて周りを見渡した。海から潮風が吹いてきた。

 すると、何処からか、女の子のしくしくと泣く声が聞こえてきた。

 十字一尉が無線で亜兼に伝えてきた。「亜兼君、幼女の鳴き声がする、何なのか一応捜索にむかう」

「それは(わな)ではないのですか、気を付けてください」亜兼はいやな予感を感じた。

 二人の隊員を連れて、十字一尉達は走った。

 上空ではUH-60JA三号機、四号機がビーム砲で高速道路下から沸き出て来る赤い化け物を蹴散(けち)らしていた。何しろ百数十メートルの所から赤い化け物が一斉に向かってきていた。

 十字一尉達は歩道橋の下を通り抜け、広い路上を抜けるとその先にノースタワーが見えていた。階段を上り客船ターミナルの屋上に出た。かなり広くなっていた、東側にサウスタワーがそびえていた。その客船ターミナルの屋上の少し離れたところに幼女が後ろ向きにしゃがんで泣いていた。

 十字達は幼女に近づくものの、十字一尉は迷った、罠か?

 隊員の一人が「私が行きます。」と走っていった。

 幼女は赤い服を着て、麦藁帽子(むぎわらぼうし)をかぶって、うつむいて泣いていた。

 隊員が声をかけた「泣かなくても、もう大丈夫だよ、さあー、おいで」と隊員が幼女を抱きかかえようとすると、幼女が隊員の方を向き直った。しかしその顔は、目はむき出ていて、唇は無く歯ぐきに歯がむき出しになっていた。なんとも顔は皮をはがしたように、真っ赤な血管があらわになっていた。

 隊員は仰天して後ろにのけぞりかえった。十字達が駆け寄り、その様子を見ると、あまりの不気味さに目を細めて顔を(そむ)けたい思いがした。いくら化け物でも子供に銃は向けることは出来なかった。

 その幼女の後ろのいたる所の花壇の裏側から赤い化け物がうじゃうじゃ現れだした。十字一尉はそれを見て「やはり罠か!」隊員二人が小銃を構えた。

 赤い化け物がどんどん増えてきて手に負える状態ではなくなった「撤収(てっしゅう)、撤収だ!」

 十字達が戻ろうとすると、その向かい側の歩道橋の上に、ホームレスが立っていた。「返す訳にはいかねえだろう」と十字達の足元にサンダーフラッシャーを打ち込んできた。完全に十字達は袋のねずみになってしまった。







  3  死  闘






 亜兼は高速道路下から湧き出てくる赤い化け物を白光撃破で一掃していた。

 亜兼のイヤーホーンに十字(くるす)の声が流れてきた。「亜兼君、(わな)にはまった、赤い化け物に囲まれてしまった。ホームレスが現れた。」

 亜兼は危機感を覚えた。「十字一尉、!」と言うと、何か爆発音が十字のマイクを通して聞こえて来た。亜兼はその方向に振り向くとすぐさま走った。

 十字達はすでに赤い化け物に囲まれていて、身動きができない状態に追い詰められていた。

 今にも赤い化け物が飛び掛ろうと、その(すき)(ねら)っていた。

 二人の隊員が「餌食(えじき)になってたまるか」と向ってくる、赤い化け物めがけて小銃を構えて炸裂弾を連射した、近場にいた赤い化け物が次々にばらばらに吹き飛んで行った。

 しかしいくら炸裂弾で吹き飛ばしても、次から次へと現れてきて十字達は追い詰められる一方だった。

 三人は背中合わせに、小銃を構えてはいたが、もう駄目だと思った。冷や汗がにじんできた。

 ホームレスは鼻を鳴らして「フン、いたぶるのも()きたな、一撃で決めてやるか」と、右手を前に出して、サンダーフラッシャーを打ち出す構えをした。

 二人の隊員が十字の前に出ると、隊員の肩を借りて、十字は9ミリ拳銃をその肩に乗せホームレスに照準をあわせた。

 ホームレスの右手からサンダーフラッシャーがあわや打ち込まれる寸前に、十字の拳銃が先に火を()いた。「バキーン」弾丸が銃身から発射された。

 その、瞬間、十字達の周りにひしめく赤い化け物たちが一瞬の内に火花を散らし、ばらばらに吹き飛んだ、十字も隊員も驚いて回りを見渡すと、化け物が全て吹き飛んで空中に舞っていた。

 歩道橋の上のホームレスは焦って「馬鹿な・・・」と一瞬、この出来事が信じられなかった。

 ホームレスは何が起きたのか周りを見回した。

「ここだー」と亜兼はホームレスの右側にそびえ建つサウスタワーの屋上からホームレスめがけて白光撃破を打ち込んだ、だが技はまだまだホームレスの方が上であった。

 宙に舞い上がり一回転すると、その体勢からホームレスは亜兼にサンダーフラッシャーを打ち込んだ。

 ホームレスのサンダーフラッシャーはサウスタワーの上部めがけてまっしぐらに進んだ、サンダーフラッシャーはビルの上部を爆破して亜兼もろ共崩れ落ちていった。

「うわー」

 亜兼は青白く光って崩れ落ちるビルと共に落ちていった。マリアの声がした。「このままではあなたは地面に激突します。2秒後に落下速度150キロメートルに到達、、重力抑制制御システムを起動します。15パーセントまで減速22キロメートルで落下、ホームレスも重力抑制制御システムを起動をしたもよう、こちらに向かってきます。対処してください」

 亜兼は頷くと「分かった。」とホームレスに向かった。

 ホームレスは落下してくる亜兼を見逃さなかった、バランスを崩して落ちてくる亜兼へ、重力抑制制御システムを起動させ上空へ瞬間移動をして確実にしとめるため、接射でサンダーフラッシャーを亜兼めがけて打ち込んだ、すでに亜兼は残像だった。逆に亜兼がホームレスの目の前に現れて白光撃破を打ち込んだ、ホームレスは慌ててサンダーフラッシャーを打ち返して来た。さすがに早い、光どうしが空中で炸裂する中、青白く光る物体が二つ路上に落ちていった。

「急げ」十字達はUH-60JA二号機に向って走った。

 路上に降りる寸前、亜兼はホームレスに殴り飛ばされて、路上を転がっていった。

 ホームレスはユリカモメの高架橋の下に立ち上がり逃げ惑う十字達を横目で視覚に捕らえると、薄笑いを浮かべて眺めていた。

 赤い化け物がうじゃうじゃ(せま)って行き、十字一尉達は必死に逃げながら叫んだ「全員ヘリへ戻り離陸しろ、亜兼君」

 亜兼は路上に立ち上がると「俺はいいです。」

 ホームレスはニヤニヤしながら「馬鹿なやつらだ、逃がすものか」と右手をゆっくりと体の前で構えた。

 ホームレスをにらめ付ける亜兼に向かって、「ヤファー」と叫びサンダーフラッシャーを撃ってきた。

 亜兼は身体を少しひねると難なくそれをかわした。すると後ろで離陸を始めた二号機、三号機の回転翼が撃ち抜かれてしまった。

 亜兼は振りかえり「しまった。狙いはヘリだったのか!」

 二号機と吉岡の乗る三号機のヘリはそのまま煙を上げて不時着をしてしまった。炎上する事も無く搭乗員は何とか無事のようだった。

 亜兼はほっとした。

 ホームレスはニヤニヤしながら「てめーらは化け物の(えさ)だ、そこで待っていろ」と二号機、三号機のヘリに向かって叫んでいた。

 四号機の恵美子は高速道路の下から湧き出てくる赤い化け物に向ってビーム砲を浴びせ掛けていた。

 いくら化け物を一掃しても次から次えと現れてきて切りが無かった。四号機のビーム砲はフル稼働で撃ちまくっていた。

 すると赤いランプが点滅しだした、そしてブザーが鳴り出してしまった。

「しまった、使いすぎたようね、オーバーヒートしちゃったは。」

 直ぐにリミッターが働きレバーを引いてもビーム砲が作動しなくなってしまった。

「暫くは無理のようね、別の武器は何があるの」

 操縦士が「対戦車ミサイル、二十ミリ砲ポッドそれとロケット弾ポッドを搭載しています」恵美子は指示をした。「右手四十度の所、高速道路の橋脚を吹き飛ばして、上部の高速道路を落せませんか、M618がこちら側に流れ込んでくるのを防ぎたいの」

「えー」あまりの大胆差に想像も付かない事を恵美子が言い出したのでした、操縦士は驚いていた、直ぐに理解して「解りました。やってみましょう」と、高速道路の橋脚に向かってすべるように四号機を飛ばして行った。

 ポッドからロケット弾が発射された、「プシュー」橋脚に命中してすさまじい爆発が起こり、上部の高速道路がぐらぐらゆれた。

 他の脚も吹き飛ばすと、五号機も上昇してきた。「我々も協力します。」と橋脚をロケット弾で吹き飛ばし始めた。

 ホームレスが怒りだした。「貴様等、勝手な事をしやがって、お前等を先に落してやるぜ、()トンボめ」

 ホームレスが四号機にサンダーフラッシャーを撃ってきた。恵美子の乗るヘリは急上昇をして旋回してうまく攻撃を交わした。それでも五号機は最後の橋脚を吹き飛ばしていた。ものすごい爆発と共に最後の橋脚が吹き飛んだ。

「やったー」

 高速道路が百数十メートルに渡って音を立てて横倒しに落ちて行った。これで、浜松町の方向から押し寄せてくるM618を防ぐ防波堤が出来た。

 虎視眈々(こしたんたん)とこちらに攻撃を掛けようとしていたおびただしい数の赤い化け物の頭上にドサーと高速道路が落ちて行った。蜘蛛(くも)の子を散らすように一斉に赤い化け物が逃げ惑う中に五号機が対戦車ミサイルを次々に打ち込んで行った。ホームレスは完全に5号機に狙いを定めていた。十字はその様子を墜落した二号機の中から見ていた。

 無線で五号機に呼びかけた。「退避しろ、五号機()ぐ逃げろ」と叫んでいたが、応答が無かった。墜落のショックで二号機の無線機がトラブッたらしい、亜兼も五号機がホームレスに撃ち落されると感じた。無我夢中で何とかしなければと瞬間移動を使って、竹芝ふ頭公園の歩道橋の上に移動した。前方にモノレールの高架橋の上に立ちはだかっているホームレスが五号機に向けて右手を構えていた。

「ここまでやればもう十分だろう、(うら)みは(すで)に晴らしたはずだ。もうやめろー」と亜兼は大声で叫んだ。

 ホームレスが亜兼の方を向いた。「ふざけろ、日本は俺がいただくんだよ、まだまだこれからだ。鉄パイプで小僧達に殴り殺された仲間の恐ろしさ、(くや)しさを俺に晴らしてくれと言っている、そんな(みにく)い事が何度も小僧達に繰り返されたか、貴様には分るまい、許せるか、仲間の為にも俺にはこの国をいただくんだよ、権利があるんだ、仲間の(うら)みを晴らす義務が俺にはあるんだ、お前に邪魔されるすじあいじゃねえぜ、さっさと消えろ小僧」とホームレスはすごい形相で怒鳴(どな)りまくった、すると旋回してきた四号機の恵美子が亜兼の後ろからイヤホーンに「亜兼さんどいて、私がけりを付けるは」と声がした。

 見ると四号機のポッドからロケット砲が発射されていた。

 ホームレスがニヤニヤしながら「てめえからやられに来やがったぜヒィヒィヒィヒィ」と四号機に向かってサンダーフラッシャーを撃ってきた。四号機の打ち出したロケット砲はホームレスのサンダーフラッシャーによって難なく爆発した。亜兼は恵美子の身が危ないと思った。恵美子の乗る四号機にまたもやホームレスの放ったサンダーフラッシャーの光の束が向って来た。目の前が光で(あふ)れた。恵美子の目が見開いて「わー」と悲鳴を上げた。この光の中に解けていくのかしらと恐怖と言うより、瞬間、恵美子は死を覚悟した。

 ホームレスが放ったサンダーフラッシャーが四号機を襲う瞬間、恵美子の乗ったヘリのキャノピーの前に青白く発光した、亜兼が突然現われた。「イージスディフェンスシステムを起動します。」とマリアが言うと恵美子の乗るヘリの前に光子スクリーンが張られた。ホームレスのサンダーフラッシャーを際どいところで遮断した。「亜兼さん」恵美子は驚いて、思わず叫んでいた。四号機のヘリは反転してその場を退避していった。

 もはや、マリアのインヒィニティー221Eの重力抑制制御システムの起動により亜兼に空中も地上も無かった。ホームレスのサンダーフラッシャーを光子スクリーンで遮断をすると、そのまま亜兼の体は青白く光って、ホームレスに向かって落ちていった。そしてホームレスに体当たりをして行った。跳びけりを浴びせかけたがホームレスは瞬間移動を使って逃げたかに見えた。

 亜兼は地上に着地していた。ホームレスを探すが見当たらな、気配を殺している「どこだ」

「マリア、ホームレスの位置は分からないか」

 マリアが答えてきた。「イージスディフェンスシステムで見つけることができます。あなたの志向にバックアップシステムを連動します。各機能があなたの志向に応じて起動がかかるようにセットアップしました。

「ありがとう」亜兼はホームレスを探した。イージスディフェンスシステムは全方位の探知ができるようだ。

 亜兼はホームレスを見つけた。なにやら光学迷彩機能を使って体を周りの景色に同化させて体を隠しているつもりのようであった、しかも変な格好をしているようだ。

 亜兼がよく見ると、ホームレスが右手を前に構えていた。

 亜兼がはっと気が付いて「やめろー」と叫んだ瞬間、すでにホームレスはサンダーフラッシャーの発光を放っていた。

「しまった。」 亜兼は何もできなかった。ホームレスを見つけてホームレスがサンダーフラッシャーを打ち込むまで1秒と無かった。五号機が爆破されてしまった。炎上して落下して行った。地上に激突しながら回転翼が地上を叩きつけながら外れて吹き飛んで行った。ヘリも真っ赤な炎を上げて爆発をしてバラバラに吹き飛んだ。

 十字一尉はその状況を見ていて、慌てて二号機を飛び出し、大声をあげてバラバラに吹き飛んだヘリに向かって走って行った。そして隊員の名前を叫んでいた。

 他の隊員数人が十字を追いかけて行き引き止めた。

「十字一尉これ以上は危険です。」十字は(ひざ)から崩れ落ちて救えなかった自分の責任を感じた。

 十字一尉は同時に怒りが込上げてきた。「許せん」隊員の腕を払いのけホームレスの正面に走りよりにらみつけた。ホームレスが瞬間移動して十字の目の前に現れた。一瞬に十字はホルスターの拳銃を引き抜くと、ありったけの弾をホームレスに撃ち込んだ、その形相はすさまじかった。ホームレスはバリアで防いではいたが十字の執念に押されてたじろいでしまった。ついにその執念にホームレスは路上に倒されてしまった。

 十字の後ろで銃声がした。十字達が振り向いて見ると、赤い化け物がどんどんヘリの周りに押し寄せて来ていた。ビーム砲がオーバーヒートで使い物にならなくなった四号機は二十ミリ砲で応戦をするが、次々に現れる赤い化け物の数には焼石に水であった。ホームレスは路上に倒れたまま「ヒィヒィヒィヒィ」と大笑いをしていた。

 不時着した二号機、三号機に、(せま)り来る赤い化け物を亜兼はヘリの前に立ちはだかって白光撃破を打ち込んだ。一発で数百体の赤い化け物が吹き飛んで宙に舞った。

 四号機の武器も全て打ち尽くしてしまい、すでに各ポッドは空になっていた。

 ホームレスは路上にゆっくりと立ち上がった、その顔は虫唾(むしず)が走るような怒りの顔をしていた。「遊びは()めだ、そろそろ決着を付けるか」

 左の手の平を上空に(かか)げ、なにやら呪文らしき言葉を口にすると、赤い箱がホームレスの手の平に現れたのでした。発光撃破で赤い化け物を一掃している亜兼に後ろからホームレスが狙いを定め右手をかざした、その前方の空間が(ゆが)みだし空気が(うず)を巻きだした。

 風が起こり砂塵が巻き上がった、まるで異次元空間に入り込んだように方向や上下感覚さえ麻痺(まひ)して行き、そして黄色い光の粒が現れ、スパークを始めた。除々にその光の粒が大きくなり光の束となり出した。

 亜兼は背後のホームレスの攻撃を感じ取っていた。

「来るぞ」しかし動く事はできなかった。もしこの場を移動したならば奴のサンダーフラッシャーはヘリに向けられるだろう、それはだめだ、受けるしかない、ホームレスが悲鳴と共にサンダーフラッシャーを打ち込んできた。「ヒヤー」

 黄色い光の束が亜兼に向って走って来た。亜兼はホームレスに向き直り両腕を前面でクロスに構え光子スクリーンを張りサンダーフラッシャーを真っ向から受け止めた、青白い光に(つつ)まれ亜兼は必死になって光子スクリーンで防いでいたが相当の衝撃を感じていた、ホームレスは徐々に気を強めていきより激しく亜兼に襲い掛かってきた、亜兼は歯を食いしばりなおもホームレスのサンダーフラッシャーを防いでいた、しかしとうとう光子スクリーンにひびが走り一瞬にバラバラに吹き飛んだ。

 ホームレスは笑い出した。「ヒィヒィヒィヒィヒィヒィ、お前も粉々になれ、ヒィヒィヒィヒィ」

 亜兼は最大にバリアを上げ必死にホームレスのサンダーフラッシャーを耐えていたが、すでに限界に来ていた。

「うわー」亜兼は大声を上げた。

 そのときマリアの声がした。

「これ以上は危険です、直ちにこの場をテレポートで移動します。」

「だめだ俺はこの場を動くことはできない」亜兼はなんとしてもここを動くことはできないと思った。

 マリアはバックアップシステムからメディカル検査数値を音声表示した。「心拍数二百、心筋梗塞(しんきんこうそく)のおそれあり、血圧上限数値二百三十、下限数値下百六十、脳内出血の危険あり、活性酸素の血中濃度異常な上昇により細胞内の染色体の破壊が始まっています。これによりバリアセキュリティーの機能低下がおき始めました。残り二十秒でバリアセキュリティーの破壊が起こります。」

 バリアのひずみからサンダーフラッシャーの放射性エネルギーが浸透(しんとう)してきていた。

「身体の細胞自体が死滅をはじめています。これ以上ここにとどまることは危険です。あと十秒で細胞すべてが消滅します。修復は不可能になります。」

 マリアは亜兼の対衝撃吸収装置もダメージを受け始めていることを認識した。

「ただちにここから脱出します。」マリアが亜兼に言うと亜兼はかたくなに「だめだここに(とど)まる」と言い張るが次第に意識が薄れて行った。そんな中マリアの声がしだいにとうのいていった。「メディカル再生システム起動、ハーベーセルの増殖能力を三千倍にアップ修復不可能な細胞はハーベーセルと交換、その他の損傷部も修復開始・・・・」

 マリアは亜兼が完全に意識が事切れる前にバックアップシステムからテレポーテーションを選択した。

 ホームレスの放つ黄色の光の帯が炸裂しながら全ての存在を消し去って、亜兼に襲い掛かって来た。

「うわー」

 亜兼もそのエネルギーの爆発に飲み込まれて光の中に姿を消してしまった。

 吉岡が必死になって叫んだ。「うそだっ、兼ちゃんが消えた、兼ちゃん兼ちゃん」

 恵美子も「亜兼さん、亜兼さん」声の限りに叫んでいた。

 十字一尉が路上に立ち尽くして「亜兼君、亜兼君」と叫び姿を探した。しかし亜兼の姿は何処にも見当たらなかった。周りを見ると赤い化け物が続々と集まりだしてきていた。

「くそ、全員四号機に乗り込め」と十字は隊員達に退避を指示し急いで四号機に走った。

 四号機はその場に着陸した。

 小銃で赤い化け物に炸裂弾を打ち込みながら隊員が四号機に乗り込んで行った。

 四号機が離陸しようとした時だった。「フエ」と鼻で笑って、ホームレスが両手を前に突き出し、奇妙な格好で構えた瞬間、(まばゆ)い光が視界に(あふ)れ、その中から光の一撃が四号機のローターを吹き飛ばした。ブレードがバラバラに回転しながら飛んで行った。「離陸はさせねえ、お前ら逃がすか、大事な奴らの餌だからな、ゆっくりいたぶってから殺してやるぜ、楽しませてくれよ」

「爆発するぞー」と十字一尉が叫ぶと直ぐに黒煙がもうもうと湧きあがった。

 全員がヘリから飛び出ると路上に倒れこんだ、同時に四号機は爆発して吹き飛んでしまった。赤い化け物がどんどん()き出るように現れてきて二号機、三号機のヘリに向かって次々に集まりだした。

 ホームレスが「さー(えさ)だ、あとはお前達にまかせるぞ」とニヤニヤと笑っていた。

 四号機のヘリから脱出した恵美子達に向かって、赤い化け物達が群がるように集まって来た。

 ホームレスは「ヒィヒィヒィヒィ」と腹を(かか)えて笑っていた。

 隊員が小銃を撃ちまくるが、しかし地面から湧き出るように現れてくる赤い化け物に対応しきれなくなった。「もうだめだ」と隊員が弱音を()くと、恵美子が怒鳴った。「まだよ、二号機、三号機のヘリに乗り込んで扉の鍵を掛けて」

「よし」隊員が頷いてヘリに向かって走った。

 言われた通り二号機のヘリに飛び乗ると扉をロックした。

 赤い化け物が、間一髪ヘリに飛びついてきた。ヘリの上によじ登り(たた)き出した。

 ヘリの周りが赤い化け物だらけになった。吉岡も恵美子も全員閉じ込められ身動きができなくなってしまった。バキバキバキ鈍い金属音が響きだした。隊員が周りを気にしながら、機内を(なが)め回した。外装の鉄板をはがされる音がより大きく響き出した。上部からいきなり、日差しが()れてきた。

 隊員が興奮して「化け物が入ってくるぞ」と小銃を天井に向けてバリバリバリと乱射した。天井にプツプツプツと穴が開き、光が線となって漏れてきた。

 十字一尉が「辞めろ」と怒鳴った。()がされた外装の穴から赤い化け物の腕が伸びてきてあちこちをまさぐりだした。十字は払いのけながら短剣でその腕を切り落とした。それが床の上で暴れていたがそのうち変形しだした、見ていると、顔の形に変っていき、こっちをにらんで笑い出した。

 十字はいきなりそれを踏みつぶした。

 穴が少しづつ広がって行った。十字は、このままでは全員引き()り出されて奴らの餌食(えじき)になりかねないと思った、何か手を打たなければ、「どうする」ヘリの周りを見渡した。

 ホームレスは路上に寝転んで「ヒィヒィヒィヒィ」と笑いながら眺めていた。

「間抜けなやつらだヒィヒィヒィ」

 路上にホームレスは腕を枕に寝転がって楽しそうに笑っていると、そのときだったバリバリバリ機関砲の音が聞こえてきた。

 ホームレスが見あげると「何だこれは」

 UH-60JAより小型のヘリが何十機も赤い化け物めがけて三連装ガントリング砲を打ち込んでいった。

 バルカン砲も炸裂した。化け物が跡形もなく飛び散って行った。

 十字一尉がキャノピーから上空を見上げると、ヘリの編隊が見えた「後藤一尉だ、後藤一尉のAH‐1S攻撃ヘリ部隊だ、来てくれたぞ」

「助かったぞ」

 ヘリボーン攻撃だ、急降下をしてきて地上すれすれの所でバルカン砲を打ち込んだ、ヘリボーン攻撃の跡が帯のように赤い化け物が飛び散っていった。

 ホームレスがその方向へ走っていき攻撃ヘリに向かってサンダーフラッシャーを打ち込んだ、二機、三機と爆発してヘリが落されてしまった。

「ヒィヒィヒィ」ホームレスは薄笑いを浮かべて「落ちろ、落ちろ蚊トンボめ、愉快だ、ヒィヒィヒィ」とヘリを撃破して行った。「面白い、実に面白いヒィヒィヒィ」

 十字一尉が無線で「逃げろ、引き返せ」と叫んでいた。

 何処からか、ホームレスに向かって「止めろ」と叫ぶ声が聞こえてきた。

 全員が「誰だ」と視線を向けると、ゆりかもめの高架橋の上に亜兼が立っていた。

 吉岡が笑顔で「兼ちゃん、生きていたのか」と叫んだ。

 恵美子も笑顔で「助かったのね、亜兼さん生きていたのね」

 十字一尉も「亜兼君、無事だったか」とほっとした。

 産業貿易会館の入口の前に着陸している吉岡の乗った三号機の前方にホームレスが立っていた。吉岡はそれを確認すると操縦士に「エンジンは始動できますか」と尋ねた。

 操縦士はどういうことなのかと思った。「エンジンの始動だけでしたらなんとか動くかも知れませんが」

「それで結構です、お願いします。」

「解りました、始動します。」始動ボタンを押し、セルが回転して、鈍い音を立ててエンジンが起動した。「損傷を受けたのはローターだけのようです、この状態でビーム砲を使うのですか」と操縦士が聞いてきた。

 吉岡は頷いた。「ああ、さっきは兼ちゃんがあいつにやられたかと思った。今度は俺が兼ねちゃんを守らなければ、このビーム砲が奴に利くかどうかは分からないが、やるだけやるさ」

「分かりました。そのときは合図をしてください、アクセルを全開に負荷します。」操縦士も操縦かんを握り締めた。

「頼みます。」吉岡は唇をかみ締めた。

 そして吉岡はビーム砲のスイッチをONにしてみた。起動するようだ。静かに砲身をホームレスに向けた。

 ホームレスが亜兼の方を見るなりニヤニヤして「死にぞこないが、戻ってきたか、嬉しいね、また楽しめそうだな、ヒィヒィヒィヒィお前の技は俺には通じねえぜ、今度こそおまえ、殺してやるぜヒィヒィヒィヒィ」

 亜兼も確かに技では奴の方が上を行っていると感じていた。しかも光子スクリーンは破壊されている、こうなったらこん身の力を込めてやるしかないと思った。

 そのときマリアの声がした。「現在身体(からだ)の損傷によるダメージは85パーセント回復しています、保護プログラムのバリアはまだ完全ではありません、対衝撃吸収装置も残り20パーセントを回復させる必要があります。しばらく時間が必要です。」

「分かっているよ、マリアでも俺はやるよ」亜兼はこぶしを握り締めた。

「あのホームレスの技にこの状態では勝てる確立は極めて低いのは分かっているよ、それでも今奴を止めなくては手遅れになってしまう」

 けれどホームレスにまともに戦う状況ではないことをマリアは亜兼に認識させたかった。

「それは分かっている、マリア、だけどこの機会を逃したら奴を倒す機会はもう無くなる、奴がレッドジャムで日本の国を支配してしまったなら、その防御の奥に入り込まれたら倒す機会は二度と無い、何としても今倒さなければ、自分がどうなろうとも必ず赤い箱は破壊する、日本の国を壊滅させるわけにはいかないからな」亜兼の意思は硬かった。

「分かりました、ではバックアップシステムは補助パワーを全快で投入します、ただし使えるのは1回きりです、いいですね、必ず私はあなたを守ります。」

「マリア、ありがとう」






  4  決 着





 空にはもの凄い勢いで雲が流れていた。風が吹き荒れ始めた。

 ホームレスが構えた。

 亜兼は大きく一呼吸すると左手をホームレスにかざした。そのときホームレスの罵声(ばせい)が飛んだ。「死ね、小僧ー」その言葉を合図に、ホームレスのサンダーフラッシャーと同時に亜兼の白光撃破が二人の身体(からだ)から一瞬に発射された。ホームレスのサンダーフラッシャーは早い。

「しまった。」亜兼の初動は一瞬遅れた。亜兼は既に身体の限界を超えていた。

 ホームレスはもらったと思った。お互いのサンダーフラッシャーと白光撃破が激突してあたり一面まばゆい光で 目がくらんだ、「ワーッ。(まぶ)しい」ヘリに乗っている全員が目を(おお)い顔を(そむ)けた。

 亜兼の白光撃破が押し(まく)られていた。

 ホームレスのサンダーフラッシャーが亜兼に襲いかかっていった。

 亜兼はその光の中をバリアで必死でこらえていた。しかしすでに限界を超えた身体(からだ)は震えだしていた。(くちびる)()みしめて必死に(こら)えてはいたが心の(すみ)で「やはり無理なのか」そう思った時、亜兼は何故か色々な事が思い出されて脳裏を()けめぐった。

 キャップに怒られた事、励まされた事、吉岡や恵美子との楽しい日々、知佐との出会い、上一尉の亜兼への思いやり、思い出が一巡(いちじゅん)すると、心にマリアの声が聞こえて来た。「バリアは完全に修復しました。対衝撃吸収装置も完璧です、保護プログラムがあなたをサポートします。あなたの体の損傷した部分も完全に回復しました。あとはあなた自身の虚無(きょむ)の限界を超えることだけです。インフィニティー221Eのパワーは無限です、信じなさい」

「パワーは無限」その言葉が亜兼の頭の中を何度も何度も()り返された。ホームレスが(みにく)い顔に笑みを浮かべて「これで最後だ、死ね小僧、フェフェフェ」とより以上の気を込めて数倍のサンダーフラッシャーを撃って来た。

 亜兼はハッとして気が付いた。目を(つむ)って口の中で呪文のように何かを(とな)えだした。そして目を見開き言葉を発した。「俺は負けない、皆の真心を感じる、片岡一佐、師団長、俺は皆を守りきる」

 すでにホームレスの放つ数倍強力なサンダーフラッシャーが向かってきていた。

 亜兼の身体全体(からだぜんたい)が一瞬まばゆい光に包まれた、そこから()り出される白光撃破はなんら変化は無いように思えた。

 ホームレスは薄笑いを浮かべた。「お前の技はそんなものか、もらったぜ、小僧、死ね」

 けれど亜兼の白光撃破は全てを突き破って進んで行く鋭さが加わっていた。

 (きび)しい顔をした亜兼の瞳の奥に、初めて、M618から未確認生物の赤い化け物が現れたとき、芝公園前で亜兼の(のぞ)く望遠鏡の中に赤い化け物に捕まった自衛隊員の恐怖に青ざめて(くちびる)が振るえる顔が恐怖に(ゆが)んで行く悲しい表情が浮かんできた。

 恵比寿でM618の赤い山がそびえ立つ中から出てきた。赤い化け物に捕まって、その壁に引きずり込まれようとした時の新聞記者の恐怖に(おのの)いたその顔が浮かんで来た。

 目黒で、NTTの基地局の電波塔で、亜兼が赤い化け物に襲われ、あわや()み殺されそうになった時、源さんがカメラのフラッシュを()いてくれた、お陰で亜兼は命拾いをした。 しかし源さんはそのために赤い化け物に襲われて命をおとした。

 色々な事が脳裏を駆け(めぐ)った。

 栃木市や古川市で見た。街全てがM618に飲み込まれ真っ赤な海に(おお)われていた情景を、何千、何万の人が(とおと)い命をM618に(うば)はれた。その悲しみが、亜兼の心の怒りとなり、許せなかった。その怒りが亜兼の心の中で爆発した。尊い人の心をもてあそぶ、こんな非道は許さない、必ず奴を倒す。その怒りが亜兼の中の言い知れぬ力を湧き出させた、そしてついに限界を超えた。

 数倍ドデカイホームレスのサンダーフラッシャーを、(するど)い亜兼の怒りの白光撃破がホームレスのサンダーフラッシャーを突き抜けて進んで行った。

 しかし今の亜兼の白光撃破はそこまでだった。ドデカイホームレスのサンダーフラッシャーを圧倒するほどのものではなかった。このまま持久戦になったらやはり亜兼の体は持たないかもしれない、それは亜兼自身が感じていた。またか、自分の力の無さから上一尉を犠牲にしてしまったが次は絶対にあってはならない、亜兼は心の底から自分の情けなさを(くや)しく感じた。しかし逆に心の底から絶対に負けてたまるかという強い意志が沸き上がってきたのでした、そしてより強い気を込めて亜兼は叫んだ。「うわー」

 その時だった、吉岡が叫んだ。「今だ打ち込むぞ」

 操縦士も叫んだ。「了解ー」そして操縦士はアクセルを全快に負荷した。

 (たの)む、()ちあがってくれと吉岡が念じるように叫んだ。「ビーム砲起動ー」

 ビーム砲の起動スイッチが押された。ビーム砲がキューンと言う甲高(かんだか)い音を(ひび)かせて瞬時に()ちあがった。

 吉岡は興奮してどの手順でビーム砲を起動させたのか認識していなかった。ただ一心不乱で「行け行け行けー」と叫びながら無我夢中で発射ボタンを力任せに押しまくった。

 ホームレスの青白い光りを発したバリアのスペクトル数値をリアルタイムサイクルアナライザーが読み取った。そして電磁パルスビーム砲が青白い光とともに高出力マイクロ波がホームレスに向って一機に走っていった。

「バカなっ、何が起きたんだ。」ホームレスは青ざめて目の瞳孔(どうこう)が広がった。ホームレスのサンダーフラッシャーと亜兼の放ったより強い気を込めた白光撃破が激突して巨大な光の爆発が起きた。

 目の前が光で真っ白になり目がくらみ一瞬、何がどうなってしまったのか、ただ光があふれて音が消え時間さえも止まってしまったかのようになった。無の空間に落ち込んだ感覚になった。そして徐々に全てを飲み込むような暴風の吹き荒れる現実の世界に引き戻された。

「ウワァー」と叫ぶ不気味な声が一瞬あたりに響いた。

 ホームレスのバリアは吉岡の放ったビーム砲で打ち消されてしまった。

 ホームレスはまともに亜兼の白光撃破を受けてしまった。

 白い光の中で一瞬にホームレスの皮膚も髪の毛も蒸発し肉は焼けただれ()げ付いた、身体の前に突き出していた腕も吹き飛ばされた。左手で顔を覆うが・・・「ぐわー」身体ごと何処かに吹き飛ばされた。

 激突した白光撃破の(まばゆ)い光のため、ヘリに乗っていた全員は目が(くら)み一瞬視力を失っていた。

 全員興奮をしたように大きく呼吸をしていた、視力が徐々に回復して周りの景色が見え出した。辺りは静けさが戻り、吉岡も恵美子も十字もUH-60JAのキャノピーから外を(なが)めて周りを見回した。するとホームレスが路上に(ころ)がっていた。

「うえヒィエー、ゴホ、ゴホ、ゴホ」ホームレスが不気味なうめき声を上げて、その姿は皮膚はなく焦げた肉からあちこち骨が飛び出していた右腕と左の腕は肉が吹き飛び骨が露わになり手の指が殆んど吹き飛んでしまっていた。左足の骨は飛び出して折れて()()がっていた、肋骨(ろっこつ)もあらはになりほとんど折れていた、顔は左手で防いだためか(かろ)うじて目鼻口は残っていた。苦しそうに()き込んで、それは無残な姿をしていた。

 落下した高速道路の側壁に、ホームレスは(たた)き付けられたのだろう。

 その時、ホームレスの持っていた、赤い箱が路上に転がり落ち、赤い化け物がホームレスの周りに集まりだしていた。

 赤い箱には真ん中に大きな穴があいてしまっていた。機能は停止してしまったようであった。だがしばらくすると徐々にその穴は再生してふさがりかけていた。

 まるで赤い化け物と同じような姿になってしまったホームレスの顔が苦痛で(ゆが)んでいた。そして赤い化け物に向って叫んでいた。「敵はあっちだ、ゴホンゴホン、早く攻めて行け、何やっている、馬鹿ども」

 ホームレスは赤い箱が路上に落ちているのを見つけた、そしてその箱に自分の体の再生を念じた。「おかしい何故再生しないんだ」よく見ると赤い箱に大きな穴があき再生中で全ての機能が停止していた。しかし赤い箱が再生していることに気がつくと、ホームレスは不気味な表情で笑い出した。「もう少しだ、早く再生するんだ、そしたら俺の体も元に戻るぞヒィヒィヒィヒィ」と笑った。赤い化け物に向かって「馬鹿野郎、その赤い箱を取れ、早くしろ、これで俺は再生できる、ヒィヒィヒィ、早くしろ」と怒鳴(どな)っていた。

 しかし赤い化け物達はホームレスを(なが)めて動こうとはしなかった。

「俺の言う事が聞けねえのか」とホームレスが怒鳴ると、赤い化け物の顔が徐々に凶暴な表情に変わって行った。そして赤い化け物がいきなりホームレスに襲い掛かって行った。

 赤い箱が機能を停止してしまったため、赤い化け物はコントロールできなくなり暴走がはじまってしまったのでした。そしてそれがホームレスに向かっていったのでした。

「ヒヤーヒヤー」と言う悲鳴(ひめい)が聞こえて来た。

「バリバリバリ「」と()(くだ)かれる音がして悲鳴も消えていった。次に赤い化け物は、次にヘリに向かって集まりだしていった。

 赤い化け物どもが動きまわる隙間(すきま)から、(かたち)すらとどめていない無残なホームレスの姿が見え隠れしていた。

 路上に落ちていた赤い箱の破損した部分の修復が完了したようだ。

 けれどホームレスはすでに再生することもなく事切れていた。そのまま赤い化け物は暴走して二号機、三号機に群がり統制もなく凶暴になっていた。。

 亜兼は前に静かに進み路上に落ちていた赤い箱を拾い上げると(なが)めていた。

「これが全ての原因なのか・・・」

 こんなものに多くの人の命が(うば)われ、日本が壊滅まで追い込まれるなんて、もっと他に役立てる方法は無かったのか。亜兼は(くちびる)をかみ()めて悲しみに包まれた。静かに、白い箱をポシェットから取り出した。

「これで、俺もただの人間に戻るのか、やっと、全てに終止符を打つことが出来る」

 亜兼は、ため息を付くとほっとする思いがした。

 赤い化け物が(わめ)きながら亜兼の周りにぞろぞろと集まりだしてきた。

 吉岡や恵美子の乗るUH-60JAも赤い化け物にすでに埋もれていた。吉岡も恵美子もはらはらして叫んだ「「亜兼さん!危ないは」

「兼ちゃん、やられるぞ」

 上空に、AH‐1S攻撃ヘリがホバーリングをしていた。

 近藤一尉が上空から下を見ると、赤い化け物で竹芝全体が真赤に埋め尽くされていた。

 亜兼はマリアに話りかけた。「マリア、これでいいのか、君も消えてなくなるんだろう」

「私は大丈夫です。レッドインフィニティー221Eを消滅させるために私はこれまで存在していたのですから、それは父の意思でもあります。それにこれで地球が助かれば私はまた生まれてくる可能性がありますから」

「分かった、でもマリアありがとう日本を救ってくれて心からお礼をいいます。」

「私もよ、それより早く赤い箱を・・・」

 亜兼は赤い化け物に囲まれる中で、赤い箱と白い箱を合わせた。

 すると二つの反物質どうしの箱は、白い光を発しながらお互いの力が打ち消しあい、分解して消えていった。

 亜兼はマリアに別れを告げた。マリアの笑顔が浮かんできた。

 すると、亜兼を中心に、そこから除々に赤い化け物が透明の液体に変って行き、変化がしだいに広がって行った。

 亜兼の中から何かが抜けて行くのを感じた。

 上空からAH‐1S攻撃ヘリがその映像を司令部に送ってきた。

 真赤な大地の一点がオアシスのように透明の液体に変化をして、そこを中心に除々に周りに広がって行き、そのスピードが次第に速くなって行った。

 その状況を司令部でも確認をしていた。真っ赤な海が一点を中心に透明の液体に変化して行き、その輪が広がって行く情景を、司令部の全員が不思議な思いで見ていた。あれだけ苦しめられたのが嘘のように、日本が壊滅寸前だった事が夢だった様にも思えた。

 赤い海が、どんどん透明の液体に変化をしていく輪は、止まる処を知らず広がって行った。AH‐1S攻撃ヘリが次々に竹芝の路上に着陸を始めた。大地を踏みしめた隊員が万歳をしたり、笑い合い、喜び合うと隊員が互いにまた、万歳を繰り返していた。

 後藤一尉はヘリから降りて来ると、十字一尉と顔を合わせて握手をして笑顔で肩を(たた)きあった。

 吉岡と恵美子は亜兼の側に来て「兼ちゃん、終ったのかな」

「あー、もう大丈夫だ。」亜兼は二人に笑顔を見せた。

 後藤一尉は司令部に報告を入れた。「全て終りました。全員収容して戻ります。」

「了解、ご苦労さまでした、気おつけて帰還するように、ちょっと待って下さい」

 師団長が直々(じきじき)にマイクにでた。

「ご苦労だった。十字一尉と亜兼君に伝えてくれるか、上一尉が意識を吹き返したと」

「師団長、本当ですか、よかった、本当によかった。」後藤一尉は笑顔が込み上げてきた。

 後藤一尉はヘリの搭載スピーカーと各機のラインをONNにして全機に呼びかけた。「上一尉が生き返ったぞ」

 十字一尉も亜兼も耳を疑った。

「えー」十字一尉も亜兼も信じられなかった。

 後藤一尉が興奮して叫んでいた。「上が息を吹き返したんだよ、生き返ったんだよ」

 皆、笑顔で「やったー」とまた万歳が始まった。

 亜兼はただ嬉しくて涙が目に(あふ)れて来た。

 吉岡が亜兼の肩を(たた)き「良かったな」と何度も頷いていた。

 亜兼も(くちびる)をかみ()めて無言で頷いた。

 恵美子が「良かったはね、さあー、帰りましょう」

 全員がヘリに乗り込んで、次々にヘリが離陸をして行った。

 亜兼は操縦士にたずねた。「この無線機で司令部と交信できますか」

「もちろんです。」操縦士はどう言うことなのかと思った。

 そして「亜兼さん、どなたかとお話しいたしますか・・・」と、聞いてきた。

 亜兼は言いにくそうに「はい」と言うと

「どなたを出しますか」と操縦士がまた尋ねた。

「片岡一佐を」

「解りました。」操縦士は片岡一佐を呼び出した。

 スピーカーから返事が来た。

「片岡だ皆よくやってくれた、ありがとう」

「亜兼です。」

「おー、ご苦労様でした、モニターで映像は見ていたぞ、君は大丈夫か」

「私は大丈夫です、上一尉の様態はどうですか」

「うん、今は寝ているが命には別状は無いとの事だ。」

「安心しました。それと、お願いがあります。」

「何かな」片岡一佐は首をかしげた。

「あのー」亜兼ははにかんで言いずらそうにしていると、片岡が「どうした。」と聞き返した。

 亜兼は意を決して叫んだ。「知佐さんとデートをさせてください」

「何だと、そんな事、君、本人に直接言ってくれたまえ、ここに知佐はいるぞ」片岡一佐は呆れた。

 笑顔で知佐がマイクに出た。「知佐です、ご苦労さまでした。ご無事で安心をいたしました。」

 亜兼は弾む声で「あ、あの知佐さん、私とドライブに行きませんか」

「はい、うれしいです、楽しみにいたしています。」と笑顔で答えたのでした。

 片岡は鼻で笑っていた。「まったく、近頃の若い奴らは、自衛隊の専用回線だぞ、それを使ってデートか、ハハハハ」と大笑いをした。

 知佐は顔が赤くなった。

「やったー」亜兼は身を乗り出して、操縦士に頼み込んだ。「ちょっと、寄り道してもらえませんか」

 操縦士は気持ちよく受けてくれた。「解りました、でどちらへ」

「このまま、南に真っ直ぐ首都高の芝公園入口までお願いします。」

「了解しました。」亜兼を乗せた一機だけ左へ旋回して東京タワーの方向へ向かって飛んで行ったのでした。

 見えてきた。首都高速道路の路上の黄色い車が「あそこに降ろしてもらえますか」

「解りました。」

 亜兼は吉岡と恵美子を見ると頷いて「ありがとう、恵美子さん、宗ちゃん、二人のおかげだよ、俺が勝つことができたのは、本当に感謝しているよ、また科警研にいくからさ、じゃあー」

 吉岡も恵美子も亜兼が自衛隊のヘリをタクシー代わりに使っているようで(あき)れた。

 そして吉岡も呆れて「あー」としか言えなかった。

 高速道路上にヘリが着陸すると、亜兼は飛び降りて、主人を待っていた黄色いビートルに生きて戻ってきた感慨(かんがい)をかみ()めて乗り込んだ。キーを差込みセルを回した。

 するとエンジンは快調に回りだした。

 亜兼は窓を開けて大声で叫んだ。「車で家に帰ります、有難う」と叫ぶとヘリの操縦士に向かって左手のこぶしの親指を窓の外に突き立てた。するとヘリの操縦士も左手の親指を突き出した、ヘリは赤いライトを点滅させて上空に離陸していった。

 吉岡と恵美子は顔を見合わせるとやはり呆れて大笑いをした。

「わおー」首都高速道路を黄色いビートルが全快でダッシュした。サイドミラーに赤いランプを点滅させて飛び立つヘリの姿が映っていた。

「これで、知佐さんとドライブができるぞ、やったー」    


 終わり



とても長いお話しでしたが、それでも最後までお付き合いいただき、訪問してくださった多くの方々に心より感謝をいたしております。

 このようなサイトに自分の作品を投稿することは初めてのことでしたので、まるで自信もなく、当初は数人ぐらいの人しか自分のサイトに立ち寄ってはいただけないと思っていました、それも最初のうちだけかもと色々と考えてしまい、やはり投稿はやめようかとかなり迷いましたが、でも今は投稿してよかったと思っています。私にとっては考えてもみなかった程の沢山の方々の訪問に驚いています。私は普通のサラリーマンで小説家ではありませんので、小説を書く上でのルールがまるで理解していませんでしたので、おそらく読みぐるしい点や理解しにくい点も多々あった事かと思はれますが、その点につきましては詫びいたします。

とにかく最後に、心より有難うございました。

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