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愛してると言って  作者: 彩月蓮
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家族愛ってなんだ?

チュンチュン、チュンチュン

雀のさえずりが聞こえてくる。

鮮やかな黄緑色のカーテンの隙間から陽が差している。

6時半にセットしたスマホの目覚ましはまだ鳴らないが目覚めのいい朝だったので薄い羽毛布団をどけ、ベッドから降りて窓の外をのぞいた。

桜の花がまだ6分残って風に揺れていた。

俺はとりあえずスマホをジャージのポケットに入れて洗面所に向かった。

「おひいひゃんほはほう!」

妹の加奈が先に歯磨を磨いていた。

兄の分析からすると「お兄ちゃんおはよう!」と言っているのだろう。

「おはよう、泡が垂れるぞ!」

と言うと加奈は慌てて洗面台に泡を吐き出した。

お年頃の女の子の朝の洗面所占有時間は長いので先に水を飲みに台所に向かった。

「あら、今日は早いのね?」

台所には母さん味噌汁と、だし巻き卵、アジの開きを焼いていた。

「おはよう、今日から高校生だからね。」

そう、俺は今日から高校生なのだ。

台所のキッチンカウンターの向こうから新聞越しに視線をジリジリ感じる。

俺の宿敵、オヤジ様である。

家の中でいつもどんと構えて偉そうにしてい威圧感を与えてくる嫌なやつだ。

奴とは楽しかった思い出なんかない。

だが、母さんはいつもオヤジ様の事をたてる。

オヤジ様は俺にだけでなく、母さんにも加奈にも愛情のこもった声を掛けてくれたことはない。

だから俺はオヤジ様が嫌いなんだ。

ただでさえ雰囲気が悪いのに無視したらもっと雰囲気が悪くなるから仕方なく挨拶してやるか…。

「おっ、おはよう…。」

「元気が無いぞ!もっとはっきり、おはようございます!だろ?」

「おはようございます!」

あぁ〜〜うっざ!

せっかく清々しい朝を迎えられたと思ったのにこれじゃ台無しだぜ!

オヤジ様の笑顔なんて記憶に殆どない。

オヤジ様は仕事に行っても真っ直ぐ帰ってくる。

残業でも無い限り帰りが遅くなることはない。

だから俺としてはこいつにはなるべく残業してもらいたいところだ。

冷蔵庫を開けて2リットル入りのミネラルウォーターを取り出してコップにトプトプと注ぐ。

ピーッ、ピーッ、ピーッ…。

冷蔵庫の扉が開けっぱなしのアラームが鳴ると

「ちゃんと閉めないか!」とオヤジ様からまたウザイ一言を頂いた。

「はいはい、すみませんでした〜〜!」

と言うと、「ハイは1回!すみませんでした〜〜って伸ばさない!はぁ〜全く…親の顔が見てみたいよ。」

と言ってきたので心の中で「自分の事だろうが!」と呟く。

はぁ〜こんな家、早く出て行きたいわぁ〜〜!

加奈が洗面所から部屋に入っていくのを見て、歯磨きと顔を洗ってリビングに行くと既にカウンター前のテーブルには母さんが作った朝食がランチョンマットの上に並べられていた。

だし巻き卵の出汁、炊きたてのコシヒカリ、香ばしく焼けたアジの開きの匂いが食欲をそそる。

既に皆んな席に着いていたので急いで自分の椅子に手をかけ、席に着くとオヤジ様が「いただきます!」と言うとそれに続いて俺達も「いただきます。」と言う。

何気ない毎朝の光景である。

オヤジ様は朝食中は必ずニュースを視る。

高校生の俺にはニュースなんてつまらないのでどうでもいいものだ。

とっとと食べ終わって自分の部屋に戻りたい。

そんな事を思いながら急いで食べていると、「もっとゆっくりと、しっかり噛んで味わいなさい!この料理には、お母さんの愛情と農家や漁師さんの苦労、アジやヒヨコになる前の卵の状態で命を奪った食材達の命を頂戴しているんだからな!」

とまた説教が始まった。

あぁ〜〜ウザイ、ウザイ、ウザイ…

「…ザイ…ウザイ…ウザイ!」

「お前今なんて言った?」

オヤジに聞かれてハッと我に戻った。

知らないうちに心の声が出てしまったが、もう我慢も限界だった。

「毎日毎日、偉そうに説教たれて、そんなに偉いのか!美味しく食べたくてもあんたがいるせいで、いつまた説教くらうかソワソワしながら食べるよりチャチャッと食べちまっ出て自分の部屋に戻った方がよっぽど時間が有効に使えるぜ!」

「お兄ちゃん、言い過ぎ!」

「そうよ、今のはスー君が悪いわ!」

加奈も母さんもオヤジの肩を持つのかよ!?

俺は一瞬にして絶望した。

何だよ…何なんだよ!

朝食を半分も食べずに俺はカタッと席を立ち、自分の部屋に入り、真新しい制服に着替えてカバンを持って家を飛び出した。

電車に乗ってもまだイライラはおさまらずにいた。

学校に着くと沢山の一年生がいて、三年生が一生懸命案内や迷ってる一年生に声をかけていた。

とりあえず自分のクラスは何処か、玄関のガラス扉に貼られたクラス分けの表の中から自分の名前を指でなぞりながら探した。

そこにカチューシャをつけたボブカットの先輩がやってきた。

「君の名は?」と聞かれたので、

「江東、江東朱雀です。」と答えると、

「江東、江東…おっ、有った、1年E組らしいよ。」

と明るく教えてくれた。

「江東君、体育館の場所は分かる?」

と聞かれたので

「えぇ…っと…。」と校内マップを指でなぞりながら探した。

「素直じゃないな〜〜分からないなら分からないって言えばいいじゃん!」

と言うと、俺の手を掴んでグイグイ引っ張って体育館に連れてこられた。

「あっ、ありがとう御座いました。」とお礼を言う間も無く、先輩は去って行った。

入学式が始まった。

予定では母さんもオヤジ様も来る予定だったが、保護者席をチラチラ見たが居なかった。

今朝言い過ぎてしまった事を少し後悔した。

帰ったら謝ろう…。

本気でそう思ったんだ。

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