ZZZ
「ん……」
夢を見ていた気がする。
俺は、強烈な空腹感で目が覚めた。
俺は、ベッドから降りると部屋の外に出る。
ここは、ギルドの中だろうか。
通路を通って歩いていると、書類仕事をしていたのだろう、
ファイさんと目が合った。
「あ、りょーじさん、おはようございます」
「ファイさん、おはようございます。
あの…俺、どうしてここに?」
「覚えていないのですか?
洞窟に行かれたあと、帰ってきてそのまま…」
「あ」
俺はようやく思い出した。
そうだ、俺足の治療をしてもらってる間に寝ちゃったんだよな。
ここで、空気を読まない俺の腹が鳴る。
「うっ、すみません…」
「いえいえ、少し食べられますか?
すぐに用意しますね」
そう言って、ファイさんは給湯室の方へと走って行ってしまった。
******
「脚の方はいかがですか?」
「はい、平気そうです」
「それはよかった」
さっき歩いた時、足のことを忘れていたくらいだ。
ちっとも痛くない。
「すごいですファイさん。一晩であれが治っちゃうなんて」
ヒールみたいな魔法だろうか。
前世のゲームとかにある感じの。
俺はあんまり詳しくないけど、そういうのもあるのかもしれない。
そう思って聞いたのだが、
ファイさんは何とも言えない顔をしている。
あれ。
俺また何か変な事言ったかな。
「ファイさん…?」
「リョージさん、一晩じゃありません」
「え?」
それじゃあ、魔法かけたらすぐに治っちゃうとか?
そうだよな、魔法だもん。
そう思ってひとり納得していると、ファイさんは少し言いにくそうにこう言った。
「…5日です」
「はい?」
「リョージさんは、あれから5日間眠っておられました」
「え? ええ~?!」
俺は、ファイさんの言葉に驚く。
だって、5日だよ、5日。
俺、いつも寝起きはいい方で、
寝過ごしても次の日朝10時までには起きちゃうくらいなのに。
「じょ、冗談…では、ないみたいですね」
「ええ」
ファイさんの言葉に、俺はがっくりと項垂れる。
「すみません、俺、こんなこと初めてで…」
「そうですか。いえ、お気になさらなくていいんですよ。
珍しくもないですから」
「え? そんなによくあることなんですか?」
だったら、安心だ。
前世の価値観だったらちょっとびっくりだけど、
こっちだと普通だったのかもしれない。
そう思って安心していたんだけど。
ファイさんは、また言いにくそうに口を開いた。
「あー、いえ、やっぱりよくある、というわけではないかもしれません」
「えー…」
やっぱり、俺がおかしいのか。
また俺が落ち込みかけていると、ファイさんは慌てた様子で言う。
「あ、あの、そうなることは別によくある、ということで…」
「え?」
「つまり、そうなる人は少ないですが、そうなること自体は珍しくないのです」
「…?」
ファイさん、すみません。
理解力無くて。
そう心の中で謝っていた俺だけど、
そんな俺にもめげずにファイさんは説明を続けてくれる。
「リョージさんの体力と魔力が一時的に大きく消費されたのです。
それで、回復するために眠りに入ったということです。
普通の人は、そもそもそんな力を持っていないので、
疲れてもすぐに戻ります。でも、器が大きいリョージさんの場合、その反動も大きいということです。
器が満たされるまでは時間がかかります」
ファイさんの言い方だと、何だか俺褒められているみたいだ。
たぶん、魔力的なものを溜めるのに時間がかかるということだろう。
クロル君を助けるために一晩中走っていたし、
無理やりポーションとか飲んでその場をやり過ごしていたし。
あのゲームとかでよくある回復薬系のものは、
やっぱりこの世界でもあるんだけどね。
あれ、飲んだら回復はするんだけど、
だからと言って、それだけでずっと動けるわけじゃないんだ。
だって、傷ついてもポーション飲んでればOKなんて、おかしいだろ?
あれは、本当に緊急時用に飲むやつ。
俺もあんまり使ったことなかったんだけど、
その反動が一気に来たということなのだろう。
「眠りの長さは、そのものの持つ器の大きさに左右されます。
ですから、眠りが長いリョージさんはもっと誇っても…」
「ファイさん、俺ポーションには頼らないようにします」
うん、前世でもエナジードリンクの中毒とか問題になってたし、
常用するのは良くないだろう。
あれは、やっぱりやばいとき。
強い魔物と出会っちゃったーとか、
ここ一番で使うべきだよな。
まあ、普段からそんなギリギリの勝負はしてないから
心配は無いかな。
「…まあ、そうですね、リョージさんはそれでいいですね」
なぜか嬉しそうなファイさんに首を傾げながらも、
俺は美味しいファイさんの料理をいただいたのだった。
******
リョージは知らない。
実は、もっと長い眠りに入る必要があったことを。
それを、ファイの力で5日で済んだことなんて、
リョージは知ることはないのであった。




