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誓い

 リョージたち一行は、街の近くまで戻ってきた。


「じゃあ、俺たちはここで」


「え?」


 急にガッシュたちがそんなことを言うものだから、


 リョージは驚く。


「もう街はすぐそこなのに…」


「ああ、俺の拠点は王都だからな。


 それに、クロルももうここに用事はないだろ」


「あ…そうだね…」


 クロル君の表情から、俺は思い出す。


 そうだ、クロル君はパーティの人たちに裏切られちゃったんだ。


 今更顔を合わせても辛いだけだよな。


「先輩、僕先輩に何てお礼を言ったらいいのか。

 ありがとうございました」


 そう言って頭を下げるクロル君に俺は慌てる。


「な、そんな俺は何も…」


「いえ、僕先輩がいなかったらどうなっていたことか」


 そう言ってまた頭を下げる。しかも、今度はガッシュさんも一緒だ。


「ファ…ファイさん…」


 困ってファイさんの方を見ると、ファイさんは苦笑する。


 俺は、クロル君に向き直って言う。


「クロル君。いい仲間がいてよかったね。


 きっとクロル君なら立派な冒険者になれるよ」


「先輩…」


「…俺、あんまりパーティとか組んだことなかったけど、クロル君と組んだことで吹っ切れたんだ」


「え?」


「だから、こっちこそお礼言わなきゃ。ありがとう」


 きっと、クロル君には何のことか分かってないだろうけどいいんだ。


 俺の気持ちだけでも伝われば。


 クロル君は、俺の態度に何かを察したのか、


 ふわりと笑った。


「……先輩が王都に来たら、一緒にクエストやりましょう?


 ね、ガッシュ」


「ああ…。あんたらといたら、俺も強くなれる気がするしな」


 ガッシュさんは、ファイさんの方を見て言った。


 そうだ。


 考えてみれば、これってパーティ組んで冒険したのと同じだよな。


 案外これも楽しかった。


 クロル君とガッシュさんだったからなのかもしれないけどな。


「ガッシュさん、ありがとうございます」


「…ガッシュでいい」


「あ…はい…」


 ぶっきらぼうな感じもするけど、ガッシュはいい奴みたいだな。


「じゃあ、俺のこともリョージって…」


「リョージさん、早く街に入らないと。門が閉まってしまいますよ」


「あ…そうですね」


 ファイさんの言葉に、俺は二人を引き留めてしまっていたことに気づいた。


「じゃあ、お二人とも元気で」


「はい…リョージ先輩たちも…お幸せに」


「え?」


「先輩、僕、先輩に言ってなかったことがっ」


「クロル君…?」


 クロル君がそう言うが、俺たちの前で門が閉まろうとしているのが見えた。


「あ…」


「…フフ、やっぱりいいです」


「え、でも…」


 大事なことだったら悪いと思って聞いたのだけど、


 クロル君は首を横に振る。


 そして、いたずらっぽく笑って言った。


「先輩が気づくまでこのままでいいです」


「え?」


「リョージさん、お早くっ」


 ファイさんが呼んでいる。


 クロル君がいいって言うならいいんだろう。


「また会ったときに教えてなー!」


「はい、またお会いしましょうっ」


 こうして、俺は冒険者になって初めてできた後輩クロル君と別れたのだった。



******


 門が閉まったあとのフィールドでは…


「…いいのか? リョージはたぶん…」


「フフ、いいの。僕は、やっぱり先輩の前では僕でいたいっていうか、

 

 その方がしっくりくるっていうか…」


「ハァ、お前ちょっと面白がってないか」


「フフ、分かる?」


 ガッシュは、クロルを見て思う。


 最初は放っておけないと思った。


 そして、クロルが抱えていた秘密を聞いて、何となくその理由も分かった。


 だが、最初に抱いていた印象が間違いであったことにも薄々気づいていた。


 クロルは、弱いのではなく強いのだ。


「あのさ、僕が僕でなくなれるのは、


 ガッシュのおかげなんだよ?」


「なに?」


「僕が僕でいなくちゃいけなかったのは、そうでないとやっていけなかったから。


 自分を守るためにはその方がいいと思ってたから。


 …でも、今はガッシュがいるからいいの」


 そう言って自分を頼ってくれるクロル。


 自分は、やっぱりクロルなしではいられないと思う。


「…いいんだな、俺で」


「もっちろん!」


 こう見ると、普通の年頃なのだなと思う。


 本人はそういうのに疎そうだが、王都にはもっと華やかなものもある。


 そう言ったものをプレゼントするのも、これからの楽しみだなと思う。


「……お前、覚悟しとけよ」


「え? 何?」


 これからは、絶対に一人にしない。


 こいつを守るために強くなる。


 ガッシュは、一人荒野に誓いを立てたのだった。

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