あの人は
本気で考え込んでいるファイを見かねて、
サイモンが声をかける。
「おともだちに会いに行ったんじゃねえか?」
「ともだち…?」
ファイは、リョージに関する交友関係の記憶を探る。
リョージは、ここに来てから一人でいることを好んでいた。
だから、特に親しいと言える人物はいなかったはずだ。
だとすると、ここに来る前に親しかった人間だろうか。
ファイは、ここに来る以前のリョージを知らない。
だから、そういう人物がいてもおかしくはないと思う。
だが、本当にそうだろうか。
何かが引っかかる。
ファイが考えていると、
そのとき、ロビンと呼ばれた少年が声を上げた。
「あ…あの、クエストで行方不明になったやつを、
探しに行ったんだ…と思います…」
途中で、サイモンに睨まれて
少年は言葉を濁す。
「行方不明…」
ファイは、思い出す。
そういえば、彼らのクエストで一人生死不明で行方不明になったものがいたはずだ。
まだ新人の冒険者で、確か名前は…
「クロル…ちっ、そういうことかっ!」
ファイは、踵を返して走り出した。
ようやく話が繋がったのだ。
クロルという少年は、リョージが初めてパーティを組んだ冒険者である。
計算高いし、リョージは利用されているだけだったのだが、
結局リョージは気付かずに最後まで面倒を見ていた。
やっとリョージの前から姿を消したために、
記憶から消えていたのだ。
普段ならファイが思い出すこともなかっただろう。
だが、リョージと自分の間に入って来たハエだということで、
ファイの記憶のほんの片隅に残っていたのである。
「リョージさん…あなたはっ」
ファイは、焦燥感にかられていた。
それは、リョージがクロルという人間のために
危険を犯そうとしていることに対する嫉妬も無くはなかったが、
それよりも、簡単に自分を犠牲にしようとする
危うさに対する危惧から発生した感情であった。
「…どうにかしなければ…」
ファイは、リョージを救うべく夜の街を駆けて行ったのであった。
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いきなり自分の前に現れた人が、嵐のように去って行った。
彼は、どうやらあのもぐりの冒険者の知り合いらしい。
あの人ならば、助けてくれるかもしれない。
ロビンは、リョージとクロルを思って祈った。
ファイは、リョージのことしか頭にないのだけれど、
それはロビンの知るところでは無かった。